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リーマンショックから10年、なぜ対岸の火事だった日本株が暴落したのか
https://diamond.jp/articles/-/179753
2018.9.14 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
リーマンショックから10年が経過した。そこで今回は、リーマンショックの歴史に学ぶこととする。といっても全部を網羅するわけにはいかないので、筆者の気になるポイントを選んで考えてみたい。
サブプライムローン焦げ付きの影響が
連鎖的に波及して起きた金融危機
Photo by David Shankbone
リーマンショックの結果、日本の株価も暴落した。「米国の低所得者層が住宅ローンを踏み倒したからといって、日本の株が下がるはずがない」と考えていた人も多かっただろうが、なぜ暴落してしまったのだろうか。その経緯を説明しよう。
リーマンショックの遠因は、「サブプライムローンの焦げ付き」だ。米国の住宅バブルの際に米国の銀行が、信用力の低い借り手に高い手数料で貸し出していたのがサブプライムローンであり、それが住宅バブル崩壊によって焦げ付き、銀行が大きな損を抱えたのだ。そして、「証券化」という取引によって、銀行の住宅ローン債権を事実上保有していたのがリーマン・ブラザーズをはじめとする投資銀行などだった。
リーマン・ブラザーズが倒産すると、「次はどこだ」と金融機関同士に疑心暗鬼が生じ、資金が大規模に回収された。そこで、資金を回収されて資金不足になった金融機関は、顧客への貸し出しを回収せざるを得なくなった。これが、いわゆる「貸しはがし」や「貸し渋り」だ。それにより中小企業が倒産するなど、景気が悪化した。
他行から資金を回収した金融機関は、手元に潤沢な資金があったにもかかわらず、貸し出しを積極化せずに現金を積み上げた。「取り付け騒ぎ」に備えていたわけだ。
こうした資金の問題は、中央銀行の潤沢な資金供給によってほどなく緩和されたが、次は自己資本比率規制による貸し渋りが生じてしまう。かなり大胆かつ大ざっぱに言えば、銀行は「自己資本の12.5倍(銀行によっては25倍)までしか融資をしてはならない」という規制を受けている。そこで、サブプライムローンが焦げ付いたり景気悪化で不良債権が増えたりして銀行の自己資本が減ると、貸すことができる金額が減るので、融資を絞らざるを得なくなったのだ。
最後は、政府が金融機関に公的資金を注入して(金融機関の増資を政府が引き受けて)事態を収拾したのだが、その間に米国および世界の経済に大きな爪痕が生じたのである。
震源地が米国だったからこそ
世界に広がった
リーマンショックの影響が米国内にとどまらなかったのは、米国が世界最大の輸入国で、米国の通貨が基軸通貨だったからだ。
世界最大の輸入国である米国の景気が悪化して輸入が減ると、世界中の輸出国に影響が及ぶ。さらに、米国の通貨、つまりドルが基軸通貨として世界中で使われているため、米国の金融機関が貸し渋りをして世の中に出回るドルが減少してしまったことにより、世界中で金回りが悪くなってしまったのだ。
ドルを借りて自国通貨に替えて使っていた途上国の企業や政府の中には、返済要請に応えるためにドルを買うことで、ドル高になり、次の返済が苦しくなるといった事態に陥ったところもある。
もう1つ、米国が不況になって利下げをすると、外国為替市場でドルが安くなった。これは、他国の輸出企業にとって米国の需要減少と合わせてダブルパンチとなった。日本の輸出企業の株が暴落した一因は、ここにあった。
こうした事態は、米国が“震源地”だったからこそ生じたといえる。現在の世界経済のリスクを考える際、欧州や中国で金融危機が発生すると予想している人たちもいるが、仮にそうなったとしても問題は主に地域内にとどまり、他地域への影響はリーマンショックよりもはるかに小さいと考えていいだろう。
日本の株価が下がった理由は
円が安全通貨として高くなったことも
日本の輸出企業が痛手を被った理由はそれだけではない。米国人が不況で節約に走り、「性能はいいが高い日本製品」から「性能は今ひとつだが安い途上国製品」に需要がシフトしてしまったことだ。
また、米国でローンを提供していた会社が、資金繰りの悪化から断るようになってしまったことで、潜在的な顧客が自動車購入資金や設備投資資金を借り入れることが難しくなり、日本製の自動車や設備機械などに対する需要も落ち込んだ。
さらにいえば、円が「安全通貨」として買われて高くなったことも、日本の輸出企業にとっては痛かった。円が安全通貨と呼ばれたのは、欧米の金融機関がサブプライムローンで大きな損失を被っている中、日本は無縁だったこと、そして日本の対外純資産が巨額の黒字だったことが関係している。この点については、拙稿「北ミサイル発射後の円高は『円は安全資産』が理由ではない」をご参照いただきたい。
こうして日本の輸出企業の利益が減り、株価が下がってしまったのだが、借金で日本株を買っていた投資家が、金融機関から「貸し渋り」をされたために泣く泣く日本株を売って借金を返済したこともそれに輪を掛けた形だ。
このように、後から状況を冷静に分析すれば、なぜ「米国の貧乏人が住宅ローンを踏み倒したら日本株が下がったのか」が理解できるが、複雑な経路で飛び火をしていくことを予測するのは容易ではなかっただろう。
実体経済の動きは、徐々に燃え広がる火事のようなものだから比較的予測しやすいが、金融危機の場合は飛び火したり、地下のガス管を伝わって思わぬ所から出火したりするので、予測が難しいのだ。
米金融マンたちの報酬制度も
バブルを膨張させた要因に
米国では、金融のプロたちの報酬が、稼いだ金額によって決まる場合が多い。これは、優秀なプロを雇っている金融機関にとって、社員の働く意欲を高めるためだ。しかし、リーマンショックによって、そうした制度には問題があることが明らかになったと筆者は考えている。
リーマンショック以前の住宅バブル当時、証券化というビジネスによって、多くの金融機関が巨額の利益を稼いでいた。取引内容は複雑なので詳しい説明は省略するが、ここでは「貧しい人に高い金利で住宅ローンを貸すことで、大儲けするか大損するかの博打」を行なっていたと考えていただこう。住宅価格が「上がれば大儲け」、「下がれば大損」という博打だ。
個人の金ならば、そんな危険な博打は打たないかもしれないが、金融のプロたちは、会社の金だったために積極的にやってしまった。大儲けすれば巨額の報酬が受け取れる一方で、大損してもクビになるだけだからだ。
彼らは、日本人サラリーマンと異なり、クビになることを恐れない。そもそも終身雇用ではないので、クビになるのは珍しくないという文化の違いもあって、「しばらく仕事を探せば、見つかるだろう」と気楽に考えてしまうのだ。
そんな金融のプロたちが、一斉に博打に走ったため、バブルは限界まで膨張し、その分だけバブル崩壊の衝撃が大きくなったというわけだ。
だが、金融機関やその社員たちだけが悪いわけではない。
例えば、金融機関の株主。彼らは、大儲けさえしてくれれば金融機関が博打を打とうがかまわない。たとえ金融機関が博打に負けて大損をしても、「株主有限責任の原則」によって、株券が紙くずになるだけで、株主はそれ以上の損失は負わない。その損は、一義的に預金者の損になるが、「預金保険制度」があるので預金保険機構がほとんどの損を負担することになる。
終身雇用の日本型システムの方が
バブルは生じにくい可能性
つまり、金融機関とその社員、そして株主は、いずれも「住宅価格の上昇が続けば自分たちの大儲け、終われば預金保険機構の損」という博打をやっているわけで、株主は止めるのではなく、逆に応援していたのだ。それがバブルを大きくしてしまった遠因だといえる。
このように考えていくと、終身雇用が中心で社員がクビになることを極度に恐れて博打を嫌い、株主は持ち合い株なので売る気がない日本型システムの方が、バブルは生じにくいようにも思われる。
とはいえ、現に日本でもバブルは発生していて、「銀行がリスクを取り過ぎたことが原因」だと言われている。それをどう説明するのか。筆者としては「終身雇用であるがゆえにチーム意識が強く、相手チームに融資残高で負けたくないといった無用の競争が行われたのだ」といった説を推したいと考えている。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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