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スルガ銀行だけではない!地方金融機関に潜む3つのリスク
https://diamond.jp/articles/-/179553
2018.9.12 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
不正融資問題で揺れるスルガ銀行 Photo:DOL
組織も個人も、もちろん経営者も悪い!
「スルガ」と言うと、浪曲「森の石松」の有名な出だし「旅行けば 駿河の国に 茶の香り」が思い浮かぶのだが、“金融の国”の住人にはスルガ銀行のバランスシートから立ち上る「焦げ付きの異臭」が強く感じられるようになった。そして、この杜撰な不動産向けローンから立ち上る“スルガ臭”は、どうやらスルガ銀行だけのものではなさそうだ。
スルガ銀行の不適切な融資について調べてきた第三者委員会が9月7日、報告書を発表した。大方の予想通り、不正は広範に行われていた。もちろん経営陣にも責任があるし、個々の行員にも責任があると読める報告だ。
経営者の責任は逃れようがない。不正の背景には、経営陣が業績に対する過大なプレッシャーを行員に掛けていたことがあろう。仮に、彼らが行員の不正の実態を知らなかったと言い張るなら、それは経営者としての責任を全く果たしていなかったということだ。
もちろん、不正に関わった行員も、書類の偽造を見過ごして(あるいは指導までして)、自分の人事評価のために銀行のお金を融資することに手を染めたのだから、許されるべきではない。背任・詐欺・私文書偽造といった性格の不正なのであり、彼らは、今後、銀行業に関わってはいけない罪を犯した人たちだ。
不正にかかわった経営者と行員のいずれについても、今回のケースがおうように許されるのなら、われわれは今後わが国の銀行を信じることができなくなる。
かつて、バランスシートの損失を隠す「飛ばし」を行った山一證券に対する金融当局の処分は「自主廃業」だったが、さて、預金者と株主を大規模に裏切る違法行為を組織的に働いたスルガ銀行にはどのような処置を取るのだろうか。
一方、今回のスルガ銀行の問題では、行員による内部告発が少ないのが少々残念だった。無理な営業目標を押しつけられて不正に関わったことが、銀行員として無念でないはずがない。今の雇用情勢なら転職は容易だ。行員からの問題指摘はもっとあってもよかったのではないか。
さて、ある不動産業界に詳しい評論家によると、スルガ銀行は「案件に対するローンがなかなか下りないときの駆け込み寺」的な存在だったというが、スルガ銀行以外にも、信用リスクの大きな不動産にローンをつけてくれる金融機関はあるという。
今回明らかになったスルガ銀行の不正は、規模とレベルが特殊だったのかもしれないが、“スルガ銀行的”なビジネスは、他の金融機関でも行われていたと推測できる。
バランスシートにスルガ銀行的なリスクを抱えている金融機関は、少なからずあるだろう。そして、そのうちのいくつかは、これまでの過程でスルガ銀行ほど儲けてこなかっただろう。スルガ銀行追随組のリスク吸収能力は、大きくないはずだ。
地銀ビジネスモデルの行き詰まり
スルガ銀行のような地方金融機関について、ビジネスモデルの行き詰まりが、近年よく指摘されるところだ。
しかし、少し前を振り返るなら、スルガ銀行は行き詰まり的な地方金融機関のビジネス環境にあって、優れた経営戦略によって高収益を挙げているとして監督官庁から賞賛される模範的な存在だった。
ここに至って金融庁を「見る目がない」となじるのは簡単だが、もともと官庁にビジネスの良しあしを見極める能力など期待すべくもない。現時点で彼らを笑う権利があるのは、スルガ銀行の株式を以前から空売りしていたファンドくらいのものだろう。
さて、銀行の「本業」として意識されることの多い法人向けの融資は、「貸しても大丈夫な先の資金需要」が細って、量も利益も縮小気味のビジネスだ。
貸し出しに回せない資金については、有価証券運用に回して利益を稼ぐのが少し前までの多くの預金金融機関の“逃げ道”だったが、日銀の低金利政策による長期金利の低下によって、この収益獲得チャネルが細った。
その結果、現在の地方金融機関(地銀や信金・信組など)は、(1)貸家向けを中心とする不動産向けローン、(2)カードローンによる個人向けの貸し付け、(3)主に私募投信による含み損の計上を避けつつのリスク資産運用、といったいずれも極めて筋の悪い収益の数字作りに走っていて、その歪みの一端がいち早く世間に露見してしまったのが今回のスルガ銀行事件だった。
行き詰まりは「日銀の政策のせい」ではない!
地方金融機関のビジネスの行き詰まりについて、地方の人口減少などに加えて、「日銀の金融緩和政策の副作用のせいだ」という議論があるが、これは正しくない。
これまで、長期金利に連動するプライシングを行ってきた各種のローンの金利が(例えば住宅ローン金利が)、日銀の政策による長期金利の低下によって低下したので儲からなくなったというのは、この間の現象の叙述として一定のリアリティがある。
しかし、金融機関の債務者の評価に基づく資金供給や、情報提供・経営相談などのサービスに真に経済的な付加価値があるなら、長期金利がゼロでも「短期金利」プラス「スプレッド」の形でも貸し出しは可能なはずだ。
そもそも、金融機関自身のサービスに、顧客から見て付加価値がないことが問題なのだ。日銀の政策のせいではない。多くの金融機関が現状のサービスを提供する限り、世間から見て既に不必要になりつつある中で、とりわけ地方金融機関のビジネスモデルの行き詰まりは覆いがたい。
地方金融機関のビジネスが先細りになることは、前々から行政にも見えていたことではないかと思われるのだが、1990年代から2000年代にかけて不良債権問題に絡めて大手銀行を再編したところで、間をおかずに必要だったはずの地方金融機関の再編をさぼってきたことのツケが遠からず問題になりそうだ。
資産運用に別のリスク
スルガ銀行が手掛けたような主に貸家向けのローンの残高は、既にバブル期を超えている。これが遠からず不良債権化する事態は、金融業界も行政もある程度覚悟しているだろう。
地方金融機関について、筆者が貸家向けのローン以上に心配しているのは、主に私募投信による資産運用での過大なリスクだ。
『日本経済新聞』(9月6日付朝刊)によると、今年2月時点で金融機関が保有する投信残高は約20兆円あり、このうち10.5兆円を地銀が保有し、メガバンクの5.3兆円を大きく上回るという。2014年末と比較して、メガバンクは6割増しである一方で、地銀は投信保有残高を2.2倍に拡大した。
私募投信の形で運用すると中身が隠れる。為替リスクに加えて信用リスクがある外国債券もそうとは分かりにくいし、海外のREIT(不動産投信)などに投資してもリスクが見えにくい。
加えて私募投信の場合、期中の価格変動で含み損が発生しても決算時の損益に計上する必要がない一方で、分配金や儲かった場合の売却の利益は本業の利益の一部に計上できる。
この構造は、1990年代に多くの金融機関が実質的な決算操作に使った「仕組み債」と似ている。1990年代につぶれた生損保の中には、証券会社から見て仕組み債ビジネスの“超上客”が含まれていたが、当時の彼らと似たリスクと含み損を、地方の金融機関が抱えている可能性が小さくない。
法人向けの証券ビジネスのセオリーからいって、収益の上がらなくなった金融機関は素晴らしい潜在顧客だ。一方で資金を持ちつつ、毎期毎期の決算を作りたいと思って苦しんでいるのだから、そもそも無理な運用に走るし、損が出た場合にこれを隠そうとするので、次のビジネスの客になる。
また、悪知恵を伝えたくはないのだが、私募投信の中に時価評価のごまかしが利く仕組み商品などを仕込むことで、損失が出た場合の計上を先送りしながら、当面分配金だけを取るような「決算対策商品」を組成することは十分可能なはずだ。
私募投信による運用を中心とした地方金融機関の運用リスクについては、行政も既に警戒しているところだろうが、表面の基準価額ベースの含み損だけを見るのではなく、ファンドの中身の時価評価が正確であるかどうか、加えて運用全体のリスクをどのように把握しているのかについて、徹底的に調べるべきだろう。
異なる種類の大きなリスク抱える金融機関も
率直に言って、複数の私募投信のポートフォリオが持つリスクの大きさと性質とを正確に把握する能力が、地方の金融機関にあるとは思えない。
「スルガ臭」の元である不動産向けローンの焦げ付きは、徐々に焼け広がるような形で問題が大きくなるのだろう。一方、私募投信などにパッキングされた資産運用のリスクは、「突然」現れる性質のものだろう。自然災害に喩えると山火事よりも噴火だが、より人工的な災害なので「爆発」に例える方がいいかもしれない。
スルガ銀行は特殊なケースなのだと思いたいところだが、スルガ銀行と似たリスクを持つ金融機関もあれば、今回のスルガ銀行問題とは異なる種類の大きなリスクを抱え込んでいる金融機関がありそうだ。預金者のレベルで考えても、そろそろ警戒感を持つ方がいい金融機関があるのではないか。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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