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企業の「内部留保」史上最高の500兆円突破で起きること くすぶる「やっぱり課税すべき」の声
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57392
2018.09.06 磯山 友幸 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
GDP並みに貯めこんでいる
企業がせっせと貯め込んだ「内部留保」の金額が、またしても過去最高を更新した。
財務省が9月3日に発表した2017年度の法人企業統計によると、企業(金融・保険業を除く全産業)の「利益剰余金」、いわゆる「内部留保」が446兆4844億円と前年度比9.9%増え、過去最高となった。増加は6年連続だが、9.9%増という伸び率はこの6年で最も高い。
「内部留保」は企業が事業から得た利益のうち、配当や設備投資に回さずに手元に残している「貯蓄」のこと。金融・保険業を加えたベースでは前年度比10.2%増の507兆4454億円と、初めて500兆円を突破した。
500兆円といえば、日本のGDP(国内総生産)の1年分に匹敵する額。かねてから巨額の利益を貯め込んでいるとして、企業の内部留保は問題視されてきたが、一段と批判の声が高まるのは必至だ。
2017年度の内部留保(利益剰余金)が大きく増えた原因は、企業業績が好調で利益が大きく増えたこと。全体(金融・保険業を除く)の当期純利益は61兆4707億円と前年度に比べて24%も増えた。
企業も、利益配分などに力を入れているものの、利益の伸びの方が大きく、「貯蓄」が溜まってしまったというわけだ。
社員に還元できているのか
安倍晋三首相は第2次安倍内閣以降、「経済好循環」を訴え、アベノミクスによる円安効果などで利益が大幅に増えた企業に、賃上げなどを求めてきた。
法人企業統計を見ると、人件費は206兆4805億円で、前年度比2.3%増えた。2015年度以降、1.2%増→1.8%増→2.3%増と、増加率も増している。
確かに、人件費は着実に増えているのだが、企業が生み出した付加価値のうちどれぐらい人件費に回しているかを示す「労働分配率」は66.2%で、2011年度の72.6%からほぼ一貫して低下し続けている。なかなか、企業収益が社員に十分還元されて来なかったわけだ。
これに繰り返し噛みついてきたのが、麻生太郎・副総理兼財務相である。経済界の求めに応じて法人税率の引き下げを決めた後にも、「法人税率を引き下げるのはいいが、内部留保に回ってしまっては意味がない」と苦言を呈していた。
実際、今回の法人企業統計では、企業が納めた税金である「租税公課」は10兆1690億円と7.7%も減少する一方で、内部留保は9.9%も増えたのである。
統計が発表された翌9月4日、閣議後の記者会見で質問が出ると、麻生氏は、「給料が伸びたといっても(前年比で)2桁に達していない。労働分配率も下がっている」と不満を述べた。「そんなに貯めて何に使うのか」、「企業収益が上がっていることは間違いなく良いことだが、設備投資や賃金が上がらないと消費につながらない」と批判したと報じられた。
このままだと政府に手を突っ込まれる
増え続ける内部留保に経済界も気をもんでいる。麻生氏が苦言を呈していることもあるが、内部留保に課税するという案がくすぶっているからだ。
2017年秋、小池百合子東京都知事が率いる「希望の党」(当時)が掲げた「ユリノミクス」にこんな一文があった。
「消費増税の代替財源として、(中略)大企業の内部留保への課税を検討する」
企業の内部留保を召し上げて財源にするという「奇策」を打ち出したのだ。さすがの麻生氏もこの時は「内部留保は税金を払った後のお金で、(さらに税を課すと)二重課税になる」と批判したが、同時に、「(企業は)金利のつかない金を貯めて何をするのか。給与や設備投資に回したらどうか」と付け加えることを忘れなかった。
そんな麻生氏の堪忍袋の緒が切れるのではないか、と経済界は恐れているのだ。というのも財務省内にはかねてから、内部留保に課税すべきだ、という声があるのだ。時限を設定したうえで一定以上の内部留保に課税する方針を打ち出せば、企業は設備投資や配当に資金を使うのではないか、という声もある。
自民党内閣が内部留保課税を打ち出せば、希望の党の流れをくむ国民民主党や、共産党や立憲民主党なども賛成に回る可能性が高い。
安倍首相が「3%の賃上げ」という数字を示して春闘での賃上げを経営者に求めたのは今年春。その結果が法人企業統計に反映されるのは来年9月に発表される2018年度分からだ。
来年の統計で人件費が3%を大きく超える率で増えない一方で、またしても内部留保が大きく増えれば、麻生・財務省が動き出す可能性が出て来るのではないか、と経営者が内心恐れているわけだ。
もうひとつ企業が恐れているのが「市場」である。2017年度の配当は23兆3182億円と前年度に比べて16%増えたものの、当期純利益に占める配当の割合(配当性向)は2015年度の53.1%、前年度の40.4%からさらに低下して37.9%になった。利益を十分に株主還元していないという批判が、機関投資家などから強まる可能性が高いのだ。
機関投資家は配当が十分でない企業や利益水準が低い企業の株主総会で、会社提案に反対票を投じるケースが増えている。このところ、日経平均株価は上値が重い展開が続いているが、背景には企業の株主還元が十分でないため、という批判もある。
果たして、企業の行動は大きく変わるのか。日本経済の行方にも大きく影響するだけに注目される。
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