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日米新通商協議、「戦略的曖昧さ」はトランプに通用するか
https://diamond.jp/articles/-/179039
2018.9.6 軽部謙介の米国ウオッチ 軽部謙介:時事通信解説委員 ダイヤモンド・オンライン
米通商代表部(USTR)の建物は小さい。
ワシントンを南北に貫く17番通りをはさみ、ホワイトハウスの実働部隊が入居する巨大な「オールド・エグゼクティブ・オフィス・ビル(OEOB)」の真ん前に立つので、校舎のようなたたずまいがひときわ目立つ。
しかし、その建物は南北戦争当時、北軍の司令部に使われた由緒あるもの。当時はリンカーン大統領が頻繁に訪ねてきたという逸話も残る。
2階にある小さな会議室は、この建物で唯一、各国との交渉に使われる部屋だ。大きなテーブルが置かれ十数人も入れば満員になるこの会議室で、茂木敏充経済再生担当相とライトハイザーUSTR代表が向かい合ったのは8月9日。
日米の閣僚級による新通商協議(FFR)の第1回会合だった。
日米交渉の歴史刻む
会議室で始まったFFR
この部屋には日米経済交渉の歴史が詰まっている。
特に1980 年代から90年代にかけて摩擦が激しかったころ、クレイトン・ヤイター、カーラ・ヒルズ、ミッキー・カンターら歴代のUSTR代表は、日本から訪れた閣僚たちをここで迎えた。そして、日本市場の開放を、時には猫なで声で、時には激しい口調で迫った。
会議室はUSTR代表の執務室とドア1つでつながっている。交渉が難航すると、日本の閣僚はよくこの執務室で「一対一」の会談を強いられた。
「日本では経産省や外務省など官僚の力が強い。大臣たちにはゆがめられた情報が吹き込まれている。米国の主張を分からせるには一対一が効果的だという思いがあった」
当時、日本側と対峙したUSTRの元担当はこう回顧する。ライトハイザー代表も前例に倣ったのか、茂木担当相を執務室に案内し、サシの会談を行っている。
だが茂木・ライトハイザー会談で、何か結論めいたものが出たわけではない。
「今回はお互いが基本的な考え方を主張しただけ。今後のことは9月の第2回会談で」と外務省の関係者は話す。当初の予定を延長し2日間にわたった会談だったが先行きは見えないままだ。
自動車制裁関税の回避求めた日本
「それはトランプ大統領が決める」
日米の新通商協議は「FFR」と呼ばれている。「自由(free)」「公正(fair)」「相互的(reciprocal)」の頭文字をとっており、4月の日米首脳会談で設置が決まった。 ただここで何を話し合うのかは明確ではない。第一回会合もそれを象徴するような展開だった。
出発前、日本政府代表団は今回の訪米を「米・EUのようなものにする出発点」と位置付けていた。
2週間前の7月25日、トランプ大統領と欧州委員会のユンケル委員長による首脳会談で、(1)自動車以外の工業品への関税撤廃などで協議を開始(2)米国産液化天然ガス(LNG)の輸入拡大(3)協議中の自動車・同部品への追加関税の回避――などが合意された。
日本政府代表団はこれをモデルにし、交渉での最優先の狙いを「自動車への制裁関税課税の回避」に設定していた。
トランプ大統領は「自動車の対米輸出が安全保障を脅かしていないか」という調査を商務省に命じている。9月初めには結論が発表されるとみられているが、自動車輸出が「安全保障上の脅威だ」となれば、制裁関税を課すことが可能になる。その税率は20%とも25%ともいわれており、世界的に大きな経済的影響が出ると懸念されている。
大和総研の試算によると、日本経済に対しても最大で4兆円程度のマイナスのインパクトが生じる可能性がある。
今回の協議で、日本側は自動車の制裁関税から日本を除外するように要請した。だが米側は「それは大統領が決めることだ」と、曖昧な姿勢に終始したという。
おそらくこれは、「今後日米がどのような交渉を進めるかにかかっているぞ」というシグナルなのだろう。
つまり米欧首脳会談で、EUが米国産LNGの輸入拡大を約束したように、トランプ大統領が何か獲得できる「取引」でなければ、自動車での制裁関税回避は確約できないということだ。
米国は2国間交渉を重視するトランプ大統領の下、政権発足直後に環太平洋連携協定(TPP)から離脱。日本側に自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉開始を求めてきている。一方日本政府はあくまでもTPPを重視。米国離脱後に残った11 ヵ国とTPP11を結成しながらも、トランプ政権に復帰を呼び掛けている。
かつての日米摩擦の時代は、日本の輸出攻勢にさらされた米企業や業界団体が議会にロビー活動をかけ、議会に保護主義圧力が強まる中で、米政府が問題解決の対日交渉を担うパターンだった。
だが現政権では、通商政策はすべてトランプ大統領次第といってもいい。
「米国第一」を掲げるトランプ大統領が、大統領選に勝利する力になった工業地帯の白人労働者らの利害を意識しながら、時に、中国や北朝鮮との安全保障問題と貿易を「取引」するようなやり方で通商政策も主導してきた。
しかも自由貿易や「公正」などといった理念やこれまでの政策の継続性よりも、その時々の状況の下で、現実的な成果を得ることが優先されてきた。
USTR自身もこうした大統領の言動に振り回され、きちんとした通商戦略を構築しきれないでいるのが実情だ。
かつてと違う対日姿勢
通商政策の重点は中国に
日本に対する米国の姿勢もかつてとは違う。
FFR協議を終え、日本側のある交渉者はこういう表現で日米の現在位置を語った。
「昔、USTRのあの部屋で語られたのは、日本の市場は閉鎖的だ、米国の製品をもっと買え、構造的に米国製品が排除されているなどなど、日本市場への参入に関する事柄が多かった。しかし、今の米国は違う。彼らは言葉では市場開放的なことを言うが、もうその点を重視はしていない」
外務省の幹部もこう話す。「トランプ政権にとって、日本市場は視野に入っていない。むしろ彼らが欲しているのは、現実に米国の雇用を増やす米国内への投資だ」
日本側はその分析に基づき、世耕弘成経産相が7月下旬から8月初旬にかけて米中西部を回り、日本の投資がいかに米国で雇用を生み出しているかなどを強調した。特に米自動車産業の「聖地」であるミシガン州デトロイトでは、「市長、商工会議所会頭など地域の地元有力者と面談し、投資を通じた日本企業による米国経済への貢献などについて意見交換を行いました」(経産省のホームページ)という。
日米摩擦が激しいころ、日本の閣僚がデトロイトを訪問するなどということは想像もできなかった。敵の本丸に切り込むイメージで受け取られ、米国に余計な刺激を与える恐れがあったためだ。
今回大きな騒ぎにならず世耕経産相がデトロイトを訪問できたのも、日米経済関係の大きな変化の結果かもしれない。 だがこの変化は、日本政府が対応できる余地を少なくしている面もある。
米国の要求が輸出増のための市場開放や規制緩和が中心だった過去の日米交渉では、米国の要求に日本が譲歩し、業界などを説得して輸出自主規制などの「落としどころ」を作ってきた。
だが企業がグローバルな経済活動を展開する今では、企業の対米投資を増加させるといっても、政府のやれることには限界がある。
もう1つの変化は、米国の通商政策の焦点が中国に移っているということだ。
経産省の関係者は「トランプ大統領は中国に対し、貿易黒字を半分にしろと言っている。これはクリントン政権時代に『日本の黒字を対GDP(国内総生産)比で2%以下にせよ』と迫ってきた数値目標要求と全く変わりがない。しかし、日本の黒字については、中国と同じように大統領の選挙運動期間中から批判してきたのに、半減せよなどと言っていない。そこにはメッセージの違いがある」と話す。
USTR2階で日米の閣僚が激しくやりあっていた時代の最終局面で、米国内には「ジャパン・ファティーグ(日本疲れ)」の雰囲気が広がり、最終的には「ジャパン・パッシング(日本回避論)」につながった。日本に対してはその流れが今に至っている状況だ。
その一方で、現在、政治的にも軍事的にも中国の台頭を抑制しようとする米国は、対中交渉に「疲れ」を感じるわけにもいかないし、ましてや「回避」するわけにもいかない。
中国との激しい摩擦は長期戦の様相の一方で、日米新通商協議の焦点が見えにくいのは、 こうした米国の軸足の変化が影を落としている。
「戦略的曖昧さは強み」と
日本政府当局者は言うが
一方で日本政府当局者の一人は「曖昧さ」がFFRの強みになると指摘する。
今の日米経済関係はTPPとFTAの関係を整理しないと前に進めない状況だが、「米国から見ればFTA交渉をやっているように見えて、日本から見ればTPPにつながる話し合いをしているような場としてのFFR」-
こんな、「謎解き」のような、外見的に漠然とした話し合いができないか模索しているのだとこの当局者は言う。
「非常に分かりにくいが、トランプ政権の顔を立てつつ、米国のTPP復帰にも結び付けられるという一石二鳥が狙える。話し合いを始める前提として欧州のように『協議の間は自動車に追加関税を課さない』という言質もとれれば、当面の日本の優先課題はクリアできる」
だが思惑通りにいくのかどうか。
「戦術的曖昧さ」を伴ったFFRとはいえ、FTAを志向するにしても、あるいは米国のTPP復帰を画策するのにしても、どこかの段階で「何を、どのように、いつまでに協議するのか」という議題は設定しないといけない。
9月に入れば第2回会合の日程設定を含めて日米間での水面下の話し合いが加速していくはずだ。
ただ、日本政府高官が「それでもスタートにすぎない」というように、9月以降のFFRは、11月の米中間選挙、来夏の日本の参議院選挙など、政治日程もにらみながら具体的な中身についての検討を進めるとみられる。
特に農業という政治的に微妙な分野を抱える日本にとっては「TPP以上の譲歩はしない」という一線を守れるのかが大きな焦点になる。
時代の変化を意識しながら、曖昧さの残るFFRで日本政府当局者たちが米国との話し合いのテーブルにつくのはやむを得ないことだが、「曖昧モード」がずっと続いていくとも思えない。
(時事通信解説委員 軽部謙介)
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