長期金利弾力化は緩和弱める、ゼロ%が有名無実化:片岡日銀委員 日高正裕、竹生悠子 2018年9月6日 11:03 JST 更新日時 2018年9月6日 15:47 JST 2%物価目標の達成が後退、望ましいのは緩和の強化 フォワードガイダンスは現状追認以上の効果があるのか判然としないThe Bank of Japan (BOJ) headquarters stands in Tokyo, Japan. Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg 日本銀行の目指す2%物価目標の達成見通しが後ずれする中、片岡剛士審議委員は6日、7月の金融政策決定会合で導入した長期金利の弾力化ではなく、金利をさらに低下させる追加緩和が必要との見解を明らかにした。横浜市内での講演と会見で述べた。 片岡委員は、長短金利操作は上昇圧力がかかる局面で長期金利をゼロ%にとどめることで緩和効果が強まるというのが利点の一つとした上で、弾力化は緩和効果を弱め「誘導目標を不明確にする」と指摘。ゼロ%程度の操作目標が「徐々に有名無実化しうる」と懸念を示した。 物価上昇率や予想インフレ率が十分に引き上がっていない中で長期金利上昇を許容した場合には、「物価目標の達成が後退することになりかねない」と分析している。物価低迷やリスクを考慮すると、望ましいのは追加緩和など「金融緩和自体を強化すること」と述べた。金融市場では緩和の副作用は顕在化していないという。 日銀は7月の金融政策決定会合で、緩和策の持続性を高めるため、ゼロ%の長期金利の変動幅を上下0.2%程度に拡大。「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」とのフォワードガイダンス(指針)も導入した。片岡委員は原田泰審議委員とともにいずれも反対票を投じた。 片岡氏はフォワードガイダンスを、政策委員の物価見通しや2%目標に距離がある状況からの「合理的帰結」と言える内容とし「現状追認以上の効果があるのか判然としない」と批判した。 日本経済を巡るリスクとしては、貿易摩擦の深刻化を挙げた。企業や投資家の心理悪化を通じて設備投資の停滞や株安につながれば、「世界経済への影響は無視できないものとなる」とし、「これまで以上に海外経済の動向には注意が必要な情勢だ」と話した。 北海道で6日午前3時すぎに発生した地震により、道内全域で停電が発生するなど企業活動に影響が広がっていることについては、「日銀としては情報収集に努め、経済への影響を注視していきたい」と述べた。 (会見での発言を追加します.)
[FT]金融危機に学ばぬ当局 2018/9/6 2:00日本経済新聞 電子版 Financial Times ジョン・メイナード・ケインズは1942年、こう書いている。「私は再び財務省に戻ってきた……だが、一つ大きく違うことがある。18年にほとんどの人の頭にあったのは、14年(の第1次大戦開戦)以前の世界に戻りたいということだけだった。だが今、39年について、そう(第2次大戦勃発前に戻りたい)と感じる人はまずいない。今の戦争が終わった後、どんな世界を目指すのか、以前の世界に戻りたいと考えるのかどうかで大きく変わってくる」――。 James Ferguson/Financial Times 彼が指摘した通り、戦前とは異なる世界を目指したことは、確かに世界を大きく変えた。大恐慌と第2次大戦を経験した人たちは、大きな変化を求めていた。そして、それを手に入れた。フランスではその時期を「栄光の30年」と呼んでいる。 70年代のスタグフレーションは大変な反動を引き起こした。その結果、80年代に入ると政府や市場の役割、マクロ経済政策の目標、中央銀行の使命についての考え方は大きく変化する。この時も、根本的変革を起こすことが再び目標となった。 では、2008年の金融危機後は何が起きたのか。政治家と政策当局は、我々を過去へ連れ戻そうとしたのか、それとも過去とは異なる未来に導こうとしたのか。答えははっきりしている。前者だ。 公平を期して言えば、よりよい過去に戻そうとは努力した。1918年がまさにそうだった。悲惨な戦争がようやく終わったばかりだったから、平和について「集団安全保障」や「国際連盟」など、新しい考えが提案された。だが経済に関する限り、政策当局は第1次大戦前に戻そうと、特に金本位制への回帰を望んだ。つまり18年に彼らが求めたのは、国際関係に関してよりよい過去に戻ることだった。一方、2008年の危機後に政策当局が望んだのは、金融規制に関してよりよい過去に戻ることだった。どちらのケースでも、それ以外のことは以前のままである。 危機直後の政策当局の主たる目的は救済となる。金融システムを安定させ、需要を回復させることだ。これを達成できたのは、政府のバランスシートに目をつぶって破綻した金融システムの立て直しを最優先し、金利を引き下げ、裁量的財政拡大は抑えつつ当面の財政赤字の急増を容認し、新たに複雑な金融規制を導入したからだ。これで1930年代のような経済の破綻は免れ、景気回復を(弱々しいながらも)実現できた。 注目すべきは、これらの措置が危機前の政策的コンセンサスにいかに忠実かという点だ。中央銀行はその使命の通り最後の貸し手として機能し、マクロ経済の安定化でも中心的役割を果たしたが、これも危機前のコンセンサス通りである。中央銀行が使う主な手段も、相変わらず金利だった。今回は短期金利がゼロに達したため、長期金利も操作対象になった。危機の最悪期を脱すると財政政策は緊縮に転じた。いくらか借入比率が下がり、流動性に関する基準が強化され、規制が厳格化されはしたが、金融システムはほぼもとのままだ。民間部門の債務縮小は小幅にとどまった。 金融危機は自由市場の悲惨な失敗であり、しかも多くの国で格差が拡大した時期に続いて起きた。にもかかわらず1970年代とは異なり、政策当局は政府と市場の相対的な役割を真剣に問い直そうとはしなかった。彼らの古い常識では「構造改革」とはいまだに減税と労働市場の規制緩和を意味し、格差への懸念は表明しても、対策はほとんど講じていない。政策当局は、増え続ける債務に需要が依存していることの危険性にまだ気づいていない。独占や、一方の利益が他方の損失になるだけで市民の福祉拡大につながらないゼロサムの経済活動がはびこっている。今なお続く金融部門の膨大な取引がどれほど価値を生み出しているのかと疑問視する向きもほぼない。前回以上に大規模な金融危機が発生するリスクがあることを認識している人もほとんどいない。 危機以後、いや危機前から多くの市民が困窮し、様々な問題に直面していることはさておくにしても、政策当局がこのように無為無策では、ポピュリストが幅をきかすのも無理はない。政治は真空状態を嫌う。トランプ米大統領やイタリアのサルビーニ副首相らが口にするような危険で国を分断するような主張がすぐ真空を埋めてしまう。多くの人の不満のはけ口となるような政策を訴えれば、それなりに支持は得られる。 こうした状況を前にしても、金融危機前の常識を疑う向きがないことには驚く。70年代のケインズ政策は大失敗に終わったが、危機前に主流だった政策が招いた低成長とマクロ経済の不安定さに比べると、後者の問題の方が大きいのに危機前の定説をまだ信じているとはどういうことだろう。さらに衝撃的なのは、次の大規模な危機はおろか、次の大きな景気後退をうまく乗り切れるとの自信さえほとんどないのに、危機前の定説をまだ信じている点だ。 この危機感のなさは何か。よいアイデアがないことが一因かもしれない。経済学者ニコラス・グルーエン氏は最近の論文の中でまさにそう主張している。だが、実行できる手はある。例えば、住宅購入はローンを組むのではなくエクイティ・ファイナンスでまかなう(編集注、英国で導入されている手法で、リスク分散のために金融機関にも住宅の一部を保有してもらい、購入者は金融機関に支払いを続けることで所有権を手に入れる)。債務の金利負担を税控除から外す。企業経営陣の成功報酬にメスを入れる。銀行の自己資本比率の要件をもっと引き上げても成長に打撃にはならないなど、提案は様々ある。中には、なぜ中央銀行に口座を持てるのは銀行だけなのか、市民全員が持てばよいとか、一般の銀行には保有する預金額を上回る融資をさせてはならないといった意見もある。 金融以外の分野の課題もある。知財権保護は行き過ぎの面があるようだ。また、なぜ土地課税重視に切り替えないのか、なぜキャピタルゲイン課税を機能しないまま放置しているのか、独禁法をなぜ再度、強化しないのか、といった見方もある。 こうした問題をすべて網羅するようなイデオロギーは、今はまだ登場していないかもしれない。それはそれでよいかもしれない。だが、できることはある。政府が無策である理由として考えられるのは、既得権益者の強い影響力だ。現在の一部の企業が高い利益率を誇る経済を、それが自由市場経済だと主張する向きもあるが、結局のところ、政治的影響力を握る情報に通じたインサイダーが巨利を得る仕組みになっている。 だが政治の中枢にいる人たちの危機感のなさは、市民の間に過激な怒りを招く。市場経済と自由な民主主義を信奉する人々がもっとよい政策を打ち出さなければ、扇動政治家らが選挙で勝利を収めるだろう。 2008年の危機の前より少しましな社会にすれば、事態は改善すると考えていたら大間違いだ。人々が求めているのは、過去よりましな世界ではなく、よりよい未来だ。(5日付) このページを閉じる 本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。 NIKKEI Nikkei Inc. No reproduction without permission.
米経済にスタグフレーションのリスク、確率25%−ルーミスのファス氏 Finbarr Flynn 2018年9月6日 15:47 JST 貿易制限が米経済の足かせになるとともにインフレ圧力も高める スタグフレーションのわな、米金融当局にも鮮明になりつつある トランプ米政権が関税や経済制裁を拡大することによって米経済がスタグフレーションに陥る確率は4分の1。ルーミス・セイレスのダン・ファス副会長がこのような見方を示した。 ファス氏(84)は今週、東京でブルームバーグテレビジョンのインタビューに応じ、「貿易制限が増え続ければ明らかに、米経済はスタグフレーションの環境に入る」と語った。「米金融当局に対する圧力は利上げを迫るもので、当局の最大の懸念は地政学的リスクだ」と分析した。 米経済が高インフレと景気停滞に見舞われていた1970年代に債券運用に携わった同氏は、「金融当局のレーダーにスタグフレーションのわなは大きく映りつつあるだろう」と述べた。貿易制限は米経済の足かせになると同時にインフレ圧力を高めると同氏は説明。スタグフレーションになると考えているわけではないが、リスクは「非常に深刻だ」と付け加えた。 原題:Loomis’ Fuss Sees Risk of U.S. Stagflation Amid Trade Fights (1)(抜粋)
最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
米利上げ、あと2回で米株は弱気相場入りも―スティーフル Cormac Mullen 2018年9月6日 16:08 JST 米連邦準備制度があと2回利上げをすれば米国株は弱気相場入りする可能性があると、スティーフル・ニコラウスが指摘した。 米当局が年内にあと2回利上げをすると、いわゆる中立金利に基づいた指標が弱気相場入りを引き起こすラインを超える。ストラテジストのバリー・バニスター氏が5日の顧客向けリポートに記述した。この指標は2000年と07年の株売りを正しく予想したという。 原題:Two More Fed Hikes Could Trigger a Bear Market, Stifel Says(抜粋)
ECBメルシュ理事:インフレ安定確保、金融安定に優先する John Ainger 2018年9月6日 19:54 JST 欧州中央銀行(ECB)のメルシュ理事は、インフレの安定確保が金融安定を巡る懸念に優先されなければならないとの認識を示した。
メルシュ理事はフランクフルトで講演し、欧州連合(EU)の法律で価格安定がECBの第一の責務であると明記されていると指摘。また、2%弱のインフレ率という目標は測定が容易であることから、消費者物価の監視は中銀に適した仕事だと述べた。 「金融の安定が価格の安定に優先することはあり得ない」とし、「この二つの間で一定のトレードオフが必要になる場合、EU条約は価格安定が最重要だと定めている」と言明した。 EUは今週末にウィーンで財務相・中央銀行総裁会議を開き、ユーロ圏が金利上昇に対処できるかなどについて議論する。 原題:Mersch Says ECB Must Put Inflation Before Financial Stability(抜粋)
新興市場に一段の痛みか、指標は新たなマイナス域突入示唆 Brandon Kochkodin 2018年9月6日 10:51 JST 一つのテクニカル指標を見る限り、新興国市場株の下げ止まりを探っている投資家は、近い将来にそれが実現することを期待すべきではない。トレンドのピークや転換を見つけ出すGTI・VERA収束拡散法は、iシェアーズMSCI新興市場ETFが新たなマイナス領域へ突入しつつあることを示している。このシグナルは、8月末に下落を再開した同ETFの下げがさらに勢いづいていることを示唆する。 原題:Emerging Markets Sell-Off Seen Accelerating by One Gauge: Chart(抜粋) メキシコ・ペソもついにマイナスか−新興市場で今年唯一の勝ち組通貨 Selcuk Gokoluk 2018年9月6日 12:13 JST • ペソの対ドル年初来上昇率、わずか0.6%にまで縮小 • カナダ抜きのNAFTA交渉は決裂するリスクあるーコメルツ銀 新興市場通貨で年初来の対ドル騰落率が今なおプラスで推移している通貨がただ一つある。もっとも、その通貨も今や負け組入り目前だ。 メキシコ・ペソは5日、対ドルで0.8%安の1ドル=19.5490ペソと、主要新興国・地域24通貨の中で南アフリカ共和国・ランドに次ぐ下落率となった。北米自由貿易協定(NAFTA)を巡る米国との交渉が楽観視され、ここ数週間は相対的に堅調に推移してきたペソだが、足元では年初来上昇率がわずか0.6%にまで縮小。新興市場が次々と危機に揺さぶられる中、感染被害を受けている。 コメルツ銀行の為替戦略責任者、ウルリッヒ・ロイトマン氏(フランクフルト在勤)は「全ての新興市場通貨が広範にわたる悪影響を受けている」と述べた上で、NAFTAについては「特に良いニュースだとは思わない。カナダ抜きでは米国とメキシコの交渉も決裂するリスクがある」と語った。 アルジェブリス・インベストメンツのポートフォリオマネジャーのアルベルト・ガロ氏、新興市場についてコメント 出所:ブルームバーグ 原題:2018’s Only Winning EM Currency Is Close to Joining Losers Club(抜粋)
|