http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/334.html
Tweet |
好景気なのに消費停滞の原因は「体感物価」の上昇だ
https://diamond.jp/articles/-/178539
2018.8.30 酒井才介:みずほ総合研究所主任エコノミスト ダイヤモンド・オンライン
「2%物価目標」は遠いが
家計の「体感物価」は上昇
「物価はなぜ上がらないのか」「消費がどうして伸び悩んでいるのか」。異次元緩和を続ける日本銀行や多くの有識者の頭を悩ませている。
2013年4月に始めた「量的・質的金融緩和」から5年半が経過したが、消費者物価指数(コアCPI=生鮮食品を除く総合)は今なお目標としている前年比+2.0%に届いていない。
「デフレ経済」が長く続いてきた中で、企業が原材料費や人件費の上昇を販売価格になかなか転嫁できないからだという声も多いが、家計が感じている物価の動向は違うようだ。
「家計が体感している物価」はどのくらいなのか。日本銀行が行っている「生活意識に関するアンケート調査」から測ってみた。
消費者物価に比べて「体感物価」は、図表1のようにかなり上昇していることがわかる。
それがどうやら消費を停滞させている「犯人」のようだ。
足元では「3%の伸び率」
上がりやすく下がりにくい
◆図表1:体感物価とCPIの推移
(注1)家計の体感物価は「1年前に比べ現在の物価は何%程度変化したと思うか」とのアンケート調査の中央値。 (注2)CPIは、持家の帰属家賃除く総合。 (資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、総務省「消費者物価指数」などより、みずほ総合研究所作成
「1年前に比べ現在の物価は何%程度変化したと思うか」とのアンケートに対する家計の回答(中央値)は、2014年の消費増税後に前年比+5%まで上昇し、その後も同+3%前後で高止まりしている。
2018年に入って再び+5%まで上昇した後、足元では3%程度で推移している(図表1)。
家計には、物価が上がらないと感じている「デフレマインド」があるとは思えないような絵姿になっている。
図表からわかるのは、体感物価はCPI以上に大幅に上昇する傾向があり、しかもCPIの伸びが低下した後も鈍化しづらいことだ。
家計は、価格引き上げ(アップサイドリスク)を敏感に感じ取っている一方、いったん値上がりを体感するとその印象が根強く続き、その後の値下げについては反応が鈍くなる傾向があるようだ。
その意味で、体感物価は「上がりやすく下がりにくい」特徴を持つと言えるだろう。
では体感物価はどのような要因で上昇しているのか。
消費者庁「物価モニター調査」(2017年11月調査)によると、「どのような品目で一番物価の変動を感じますか」とのアンケート項目に対し、ガソリン・灯油価格、生鮮食品価格、生鮮以外の食料品価格を挙げる割合が突出して高い(図表2)。
◆図表2:家計が物価変動を感じる品目の割合
(注)2017年11月調査。 (資料)消費者庁「物価モニター調査」より、みずほ総合研究所作成
ガソリンや生鮮食品などの
購入頻度の高い商品に敏感
◆図表3:品目の購入頻度別でみたCPIの推移
(注1) 高頻度購入品目は年間購入頻度15回以上の品目(約40品目。コアCPIに占めるウェイトの割合は約12%程度)。低頻度購入品目は年間購入頻度0.5回未満の品目(約190品目。コアCPIに占めるウェイトの割合は約19%程度)。 (注2)消費増税の影響を除く。 (資料) 総務省より、みずほ総合研究所作成
最近でも、2017年には原油高を背景にガソリン価格が上昇したほか、2018年になってからも天候不順の影響を受けてキャベツやレタスなど生鮮食品の価格が高騰したことは記憶に新しい。これらの動向も体感物価を押し上げた要因だろう。
注目すべきは、家計は「ステルス(こっそり)値上げ」にも気付いているということだ。
ステルス値上げとは、表示上の販売価格を変えずに、容量を減らして実質的に単価を引き上げるというものだ。
広がる「ステルス値上げ」
容量減らしてこっそり値上げ
物価が以前のようには上がらない状況が長く続き、企業は客離れを恐れて値上げに踏み切れない中で、原材料費や人件費上昇による収益悪化を補うため、食品メーカーが菓子類や飲料などの容量を減らすといった動きが広がってきた。
価格は同じでも容量を減らしている品目について、インターネット上などでも指摘されている例を挙げれば、ポテトチップスが昔は1袋当たり90gだったものが60gに減少し、カントリーマアムは30枚だったものが20枚に減少しているそうだ。
最近の報道では、2018年4月からハッピーターンが120gから108g(30枚から27枚)まで容量を減らしたほか、明治ブルガリアヨーグルト(LB81)は450g→400gまで容量を減らしている(価格は10円安くなったがグラム当たり単価は上昇している)とのことである。
「ステルス値上げ」の実態はどうなのか。
スーパーやコンビニなどでの家計の購買金額や価格を集計したSRI一橋大学消費者購買指数を用いて、新旧商品交代や容量変化が反映される「単価指数」と、価格変化のみが反映される「価格指数」の前年比を示したものが図表4だ。
価格指数の伸びに対し、単価指数の伸び率が高い状況が継続していることがわかる。この両者の差を「ステルス値上げ率」と呼ぶことにしよう。
◆図表4:ステルス値上げの状況
ステルス値上げ率はSRI一橋大学消費者購買単価指数の伸び率からSRI一橋大学消費者購買単価指数の伸び率を差し引いて算出。2018年は1〜6月平均。 (資料)SRI一橋大学消費者購買指数より、みずほ総合研究所作成
体感物価が高止まりしている背景には、こうしたステルス値上げの影響があると考えられる。
企業は価格転嫁できず苦肉の策
家計は敏感に反応
ステルス値上げ率は消費増税のあった2014年以降プラス圏を推移しており、企業が値上げに踏み切れない中で、苦肉の策としてステルス値上げが行われてきている様子がうかがえる。
消費者庁「物価モニター調査」(2018年7月調査)によると、3年前と比較してステルス値上げが増えたと感じるという回答割合が8割超となっている(図表5)。
さらに、ステルス値上げについて、「買う商品を変えた(買うのをやめた)ことがある」「不誠実だと感じる」という回答割合が2割超となっており、なんとも手厳しい反応だ。
◆図表5:家計のステルス値上げの感じ方
(注)2018年7月調査。 (資料)消費者庁「物価モニター調査」より、みずほ総合研究所作成
家計は、ステルス値上げにも反応し、体感物価を上昇させていると見てよいだろう。
体感物価は、物価動向に対する家計の主観を直接的に表していて、消費マインドに大きな影響を与える。
2014年の消費増税後、消費が落ち込み、景気の低迷が続いた背景には、図表1でみた体感物価の上昇があると考えられる。
CPI全体としての伸びはそれほどではないとしても、家計は身近な食料やガソリンの値上げを受けて体感物価を上昇させ、財布のひもを固くしたということだ。
「体感実質賃金」はずっと低迷
節約志向強める原因に
一般的には、家計は、自ら働いて得られる名目賃金(名目所得)にCPIの動向を加味した「実質賃金」(厳密に言えば、税・社会保険料も含めた実質可処分所得)により消費水準を決定すると考えられる。しかし、CPIの動向をエコノミストのように把握している家計は少ないだろう。
家計は、CPIではなく、体感物価で「実質賃金」を評価し、消費水準を決定していると考えるのが自然だ。
これを「体感実質賃金」と呼ぶことにする。実質賃金と体感実質賃金の推移をみると、実質賃金は2015年の半ばからプラス圏に浮上してきたが、体感実質賃金はずっとマイナス圏で低迷している。
これが家計の節約志向を強めることで、消費が伸び悩む一因となっていると考えられる(図表6)。
◆図表6:体感実質賃金、実質賃金と消費の推移
(注1)体感実質賃金は体感物価で実質化。 (注2)実質賃金はCPI(持家の帰属家賃除く総合)で実質化。 (資料)総務省、厚生労働省、内閣府より、みずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所で考案した「節約志向指数」をみても、家計の節約志向が強まってきていることが確認できる(図表7)。
【図表7】(注)節約志向指数はCPIと家計調査で共通品目となる137品目を比較し、CPIと平均単価の前年比伸び率の差をCPI(2015年基準)のウェイトで指数化。3ヵ月後方移動平均。 (資料)総務省「消費者物価指数」、「家計調査」より、みずほ総合研究所作成
【図表8】(注)平年比は平成25〜29年度の食品価格動向調査業務による調査価格の5ヵ年平均価格と比較したもの。 (資料)農林水産省「食品価格動向調査(野菜)」より、みずほ総合研究所作成
この節約志向指数は、CPIと家計調査における平均単価の伸び率の差を指数化したもので、家計の節約志向が強まって、より安い商品をより多く購入するようになれば、CPIよりも平均単価の伸びが下振れするため、節約志向指数は上昇することになる。
天候不順に伴う生鮮野菜の価格高騰などを受けて、体感物価も上がり、節約志向指数は2017年の秋頃から2018年にかけて上昇しており、消費を下押ししたことがわかる。
政策判断で
「体感物価」は無視できない
以上のことをまとめると、消費が伸び悩んでいるのは、「生鮮食品価格やエネルギー価格の高騰→体感物価の上昇→体感実質賃金の低迷→実質消費低迷」という負のメカニズムが働いているからと整理できよう。
足元でも、猛暑により生鮮野菜の価格が高騰しているほか、原油高を背景にガソリンなどエネルギー価格も上昇傾向にある。
体感物価の高まりは当面、持続する可能性が高く、消費を抑制する要因にるだろう。
なお、2019年10月に予定されている消費増税では、食料品などに軽減税率が導入されるため、体感物価の上昇は2014年と比べれば小幅にとどまるだろう。
しかし、増税時の価格改定の機をとらえ、仕入コスト・人件費上昇を転嫁する動きが出た場合は、体感物価が大きく上昇する要因になり得る点に注意が必要だ。
これまでの経済政策は、金融政策におけるインフレ目標を含め、物価動向については主にCPIの伸び率に重きを置いて政策判断が行われていた。だが家計消費と体感物価や体感実質賃金の関係を踏まえれば、CPIだけではなく家計の体感物価の動向にも注視する必要があると考えられる。
体感物価を無視した政策判断は、場合によっては家計の節約志向を強め、消費を下押しすることにつながり、期待した政策効果が得られないリスクがあるだろう。
(みずほ総合研究所主任エコノミスト 酒井才介)
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民128掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。