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アマゾンの次の狙いが「高齢者」である、これだけの理由
https://www.sbbit.jp/article/cont1/35354#image55708
2018/08/27 ビジネス+IT
連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤
驚異的なスピードで若年層や中年層の囲い込みに成功した小売の巨人アマゾン。同社は次に中高年層の取り込みを本格化させ始めている。「健康と医療」をキーワードにすると見えてくる、同社の“次の一手”を明らかにしていこう。
在米ジャーナリスト 岩田 太郎
アマゾンは処方薬宅配などにより医療分野に殴り込みをかける。写真は宅配事業に関する発表を行う同社シニアバイスプレジデント、デイヴ・クラーク氏(写真:ロイター/アフロ)
ピルパック買収の真の狙いは「高齢者市場への殴り込み」
米国勢調査局によると、米国では2035年に65歳以上の人口と18歳未満の人口が逆転すると予想されるなど、高齢化が急速に進んでいる。高齢者人口は2016年推計の4920万人(総人口比15.2%、ちなみに日本は2017年推計で3514万人、総人口比27.7%)から、2035年には7800万人、そして2060年には9470万人(総人口比23.5%)と、1億人に迫る。
ここにビジネスチャンスを見い出したのが、若年層と若い中年層をしっかりと押さえたアマゾンだ。ゴールドマン・サックスの2017年の分析では、同社のユーザーの半分以上が19歳から44歳の世代であり、囲い込みは最終段階に来ている。この「アマゾン主力」世代は一般的に健康で医療支出も少ないのだが、45歳を過ぎると医療支出が加速度的に多くなる。
そのためアマゾンは、手始めに中高年層の支出で大きな割合を占める処方薬市場を押さえる意図を持って、オンライン処方薬局「ピルパック」を約10億ドル(1,100億円)で買収した。
ピルパックでは1日に服用する複数の錠剤を一包化して、わかりやすい説明とともに届けるサービスが好評だ。主要顧客層は、医療支出が増え始める40代半ばが中心であったものが、最近では50代半ばへと移ってきている。
当局の買収認可があれば、今年後半には年間5600億ドル(約64兆円)規模の米処方薬市場に、アマゾンの強力な武器である「送料無料のプライム」と組み合わせた形で殴り込みをかけるだろう。
関連記事:アマゾンによる「異業種参入」に備える、たった一つの方法
また足腰が弱く“買い物弱者”とも言えるお年寄りは、処方薬だけでなく、同時に一般薬や健康関連商品もアマゾンで買い物をするようになるとの読みがある。市価より約2割も安いアマゾンPB市販薬の「ベーシックケア」の解熱鎮痛剤、消化薬、アレルギー薬、発毛剤なども同時に伸びそうだ。
スマートスピーカーは高齢者の心をつかむため?
アマゾンは7月に、「ユーザーがどこにいても、人工知能(AI)アシスタントのAlexaを使えるようにする」との目標を掲げたが、これはスマホやパソコンのリテラシーが低めの中高年層に、操作が簡単な同社スマートスピーカーの「Amazon Echo」を使って注文を出してもらえるようにする狙いもある。
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アマゾン傘下となるピルパックで購入した処方薬の服用時間や服薬方法を思い出させてくれる音声通知を、Echoから「声がけ」することも考えられる。米国では処方された薬剤の50%について「忘れた」などの理由で医師の服薬指示が守られていないため、治療の効果低下が懸念されている。この面で、Echoによる医療改善に期待がかかる。
2017年4月〜6月期に76%のシェアを誇ったEchoの市場占有率は、2018年4月〜6月期に41%まで縮小している。だが、同期間中に16%から28%までシェアを上昇させたグーグルの「Google Home」に猛追されながらも、健康分野で差別化ができる可能性がある。
こうした中アマゾンは8月に、Echo向けアプリ開発者への報奨金を支払う仕組みを2019年に開始すると発表した。中高年にも使いやすいアプリの充実を狙う。
加えてアマゾンは、以前グーグルでGoogle Glass等を開発してきたババク・パービズ氏を、医療テクノロジーや老いに関する特別プロジェクト担当の副社長として迎え、中高年層向けの商品やサービス開発に注力している。
パービズ氏は2月に行った講演で、「高齢者の健康分野で、多くの課題と満たされていないニーズがある」と指摘。「彼らはますます寂しく孤独に感じている」と述べ、Alexaを搭載したEchoを老人の寂しさを紛らわす話し相手として位置づけた。孤独は身体的疾病につながりやすいことが報告されており、Alexaが話し相手として高齢者の健康増進に役立てるのか、注目される。
また、高齢者向けEchoの使い方としては、車いすの高齢者がテレビや電灯の操作をAlexaに指示したり、緊急時に親族に助けを求めたり、忘れっぽくなった人が、「レーガンが大統領だったのはいつ?」など、認知補助に使う場面などが想定されている。
このような場面の積み重ねから信頼を得て、高齢者利益団体であるAARP(旧称は米国退職者協会)などとも協力しながら、アマゾンの商品やサービス販売拡大につなげる考えをパービズ氏は示唆した。
高齢者市場開拓の要はやはりデータ
米国においては養護老人ホームより在宅ケアを選択する家族が増え、それに合わせて高齢者補助のテクノロジー市場規模は、2016年の20億ドル(約2,200億円)から数年間で300億ドルへと飛躍的に伸びることが予想される。
アマゾンは、高齢者の治療コスト削減を掲げ、Echoを用いて市場へ参入する。処方薬宅配、服薬通知をはじめ、Alexaを介した遠隔診断、アマゾンのクラウドサービス「AWS」を利用したカルテの電子化、などの役割が予想できる。
アマゾンの高齢者市場開拓の要は「データ」だ。同社は「プロジェクト・ヘラ」と呼ばれる電子カルテのデータ解析にも注力している。
医療機関や電子カルテ開発のソフト企業が患者を逃さず囲い込むため、電子カルテの方式をバラバラにしており、患者のデータが医療機関の間で共有されることは少ない。そのためアマゾンをはじめグーグルやマイクロソフトなどは、企業の垣根を越えるFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)と呼ばれる統一電子カルテ方式を推進している。
これに加えて、Alexaが老人の話し相手として蓄積したデータの共有による予防医療提案、行動データに基づいた医療・健康広告ターゲティング、傘下の生鮮大手ホールフーズからの健康食品や高齢者向けのオーガニック生鮮の宅配、Alexaを入り口にした商品提案と売り込みなど、可能性は大きく広がる。
また、アマゾンが米保険大手バークシャー・ハサウェイや米金融大手JPモルガンとの協業で計画する非営利型健康保険組合のカスタマー対応やコスト計算にも、こうしたデータが使われてゆく可能性もある。
一方、留守でも宅配の荷物を置いてくれる「Amazon Key」を使い、身体の動きが緩慢になった高齢者宅にアマゾンの配達員が入ることも考えられる。さらには、それを応用して医者の往診まで仲介するのも夢ではない。
同社は修理屋や家政婦、庭師などをユーザー宅へ送り込む「Amazon Home Services(アマゾン・ホームサービス)」と呼ばれる仕組みを開発中であり、そこに医師や介護士が加えられることは不自然ではない。アマゾンが派遣するヘルパーが高齢者見守りの役割を担う可能性も考えられる。
“アキレス腱”はオムニチャネルの欠如だ
可能性が無限に広がるように見えるアマゾンの高齢者ビジネスだが、弱点もまた多い。
まず、医療は規制業種であり、同社のノウハウは少ない。最も懸念されるのが、医療データや個人の健康データのプライバシー保護だ。Alexaによる服薬通知や遠隔医療などは、一般データ保護より格段に厳しい連邦医療保険法規のデータ保護規制を受ける(Alexaはまだ、連邦政府の医療データ保護認証を受けられていない)。
また、アマゾンにとって、医療分野において必須である、オンラインと実店舗を組み合わせたオムニチャネルの確立は容易ではない。米オンライン薬局では直接対面で相談や変更ができず、「コールセンターに電話がつながりにくい」「対応が悪い」「間違った処方が薬剤師の確認なしにそのまま届いた」などの例が報告されているという。多くの患者は、薬局の実店舗も必要とするのだ。
このアマゾンの弱点を突くのが、以前本連載でも紹介した競合の米ドラッグストア大手CVSによる米医療保険大手エトナの買収だ。規制当局の認可を得て買収が実現すれば、現在1件4.99ドルで翌々日宅配を行うオンライン薬局に加え、既存の店舗内の薬局とミニ診療所を組み合わせた「処方薬版オムニチャネル」が完成する。そうなれば、アマゾンにとって高い参入障壁となるだろう。
加えてピルパックは現在、薬剤卸も兼業するCVSから処方薬の多くを仕入れている。だが、CVSとエトナが統合された場合、エトナの医療保険利用者が親会社のCVSのオンライン薬局で処方薬を購入するほうが、競合のピルパックでの価格より安くなることが予想され、アマゾンには不利となる。
アマゾンのライバルであるウォルマートは4月にピルパックを買収しようとして失敗した。それをアマゾンが手に入れたとの6月28日の報道で、米ドラッグストア大手8社が1日で175億ドル相当の時価総額を失う一方、アマゾンの時価総額が196億ドル分上昇したが、実はアマゾンにとっての処方薬市場への参入障壁の高さは変わっていないのである。
こうした不利を克服するため、アマゾンがドラッグストア大手や医療保険企業を買収することはあり得る。米中堅ドラッグストアのライトエイドとの統合計画を、米生鮮大手のアルバートソンが8月に撤回したが、アマゾンはこのライトエイドの買収を狙うかもしれない。あるいは、傘下の生鮮大手ホールフーズの店舗の一角を活用し、医療オムニチャンネルを実現してゆく可能性もある。
アマゾンがシアトル本社に自社運営の小規模診療所を開設することも報じられており、対面医療のノウハウも取得してゆくことだろう。同社は、オンラインのみでは高齢者医療分野において勝てないことを知っている。
アマゾンの処方薬宅配や医療参入などの一連の動きは、「医療分野への進出」と捉えるよりは、米国の少子高齢化の文脈における「中高年層向け事業の強化」と捉え直したほうが、アマゾンが打つ手の意図や長期戦略が見えやすくなる。これからの同社の新事業の方向性や手法は、老いが進む米国の人口動態にますます沿ったものになってゆくだろう。
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