消費者物価指数より「動学的価格指数」の導入をバブル期の失敗を繰り返す日銀異次元緩和 ニュースを斬る 2018年8月23日(木) 澁谷 浩 2013年に始まった日銀の異次元緩和(QQE)は過剰である。日銀は消費者物価指数(CPI)という静学的価格指数(1期間価格指数)に基づいた2%インフレ目標に固執し続けているが、筆者らが考案した動学的価格指数(多期間価格指数)によれば、日本経済は2013〜14年にはすでにデフレを脱却していた。 本稿では、動学的価格指数に基づく新しい金融政策を提案すると同時に、日銀が近視眼的な静学的価格指数(CPI)に基づいて1990年前後のバブル期と同じ失敗を再び繰り返していることを実証する。 筆者の議論の骨子は、短期的で静学的な価格指数であるCPIに代わる、最新の経済学の考え方を取り入れた長期的で動学的な価格指数を金融政策に導入するというパラダイムチェンジを提案するものである。 この価格指数の導入によって、資産価格バブルによる金融危機以降、金融政策当局やエコノミストらの間で大きな議論になっている「資産価格と金融政策をどうリンクさせるか」という課題を同時に解決できる点も先に強調しておきたい。 【目次】 1. 日銀の政策目標と動学的価格指数 2. バブル期の金融政策失敗の原因 3. 金融不均衡を捉える動学的価格指数の有効性 4. 異次元緩和の限界と高まるリスク 5. 動学的価格指数に基づく新しい金融政策 1.日銀の政策目標と動学的価格指数 企業経営者が、目先1期間の収益だけではなく、長期間の期待収益の現在価値を考慮して経営戦略を決めるべきことは、今では教科書に載るほどの常識となっている。実は、まったく同じ理由によって、日銀は1期間の生活費を測る消費者物価指数(CPI)ではなく長期間の期待生活費の現在価値を測る価格指数を情報変数として金融政策を実施すべきだと筆者は考える。 1期間の視野しか持たない消費者物価指数(CPI)に基づく金融政策は、企業経営者が目先1期間だけの収益しか考えないで経営戦略を決定するのとまったく同じ近視眼的過ちを犯していることになるからだ。 日銀の政策目標は「物価(通貨価値)の安定」を通じて国民経済の健全な発展に資することにある。ここでいう「物価」や「通貨価値」を測る価格指数は、経済理論によれば「ある一定の効用水準(生活水準)を得るために必要な生活費」として定義される。ここでいう生活費は、目先1期間の生活費ではなく、現在から将来にわたる長期間の期待生活費の現在価値と考えるのが理論的に正しい。なぜならば、1期間より長期間の生活費の方が包括的、普遍的、現実的であるのみならず、真のインフレ動向をより正確に測ることができるからだ。 中銀も「経営者の視点」で政策運営を そこで企業経営と同様に、中央銀行が長期的、動態的視点に立った金融政策を実行するために必要な情報変数として創られたものが、動学的価格指数である。CPIのような1期間の生活費を測る価格指数を「静学的価格指数」と呼び、長期間の生活費を測るものを「動学的価格指数」と呼ぶが、実は理論上、前者は後者の一部(部分集合)すなわち特殊形にすぎない。 資産価格をどう金融政策に取り込むか さらに、動学的価格指数は、2008年に勃発した世界金融危機以降、世界の中央銀行や経済学者の間で活発に議論されている「資産価格と金融政策の関係」についても明確な答えを提供するものでもある。多くの中央銀行によって資産価格の重要性が共通に認識されているにもかかわらず、資産価格の変動に金融政策はどのように対応すべきかという問いについては意見の一致が見られていない。 金融政策の目標は「物価(CPI)の安定」なので資産価格を無視すべきだという意見から、資産バブルは金融危機を引き起こすので注視すべきだという意見まで、幅広く議論されている。動学的価格指数は、資産価格を多期間価格指数自体の内部に理論的に導入することによって、金融政策の観点から資産価格をどのように捉えればよいのかという未解決問題に対する一つの理論的回答を提供するものである。 2.バブル期の金融政策失敗の原因 1ページで述べたように、日銀は消費者物価指数(CPI)という1期間の生活費を測る静学的価格指数を情報変数として金融政策を進めてきた。しかし理論的に正しい価格指数は、長期間の期待生活費の現在価値に基づいて真のインフレ動向をより正確に捉えることができる動学的価格指数の方である。 したがって、中央銀行による正しい金融政策は、CPIのような静学的価格指数ではなく、より普遍的な動学的価格指数に基づいて実行されなければならない。誤った価格指数を政策判断のための情報変数として使うと、必然的に誤った金融政策へとつながるからである。 筆者は、1990年以降のバブル崩壊時、資産価格を理論的に組み込んだ動学的価格指数を支出関数最小化問題の解として具体的な方程式の形で導出し、それを「動学的均衡価格指数(DEPI)」と名付けた(注1)。そして、DEPIによるインフレ率に基づいて、1990年のバブル発生前には過剰な金融緩和、そしてバブル崩壊後には過剰な金融引締めをすることによって、日銀は誤った金融政策を遂行していたことを示した。 すなわち、日本の「失われた28年」の出発点となった1990年前後のバブル発生と崩壊の背景には、金融政策の失敗があったのである。 バブル時における金融政策の失敗は、静学的価格指数(CPI)を使ってインフレに関する近視眼的な認知誤謬に基づいた政策判断をしたことに根本原因がある。実際、静学的価格指数(CPI)は1990年のバブル前後の期間を通じて比較的安定していた(図)。特にバブル前にはインフレの気配を全く見せていなかった(1989年の3%消費税導入の影響を除く)。 誤っていたCPI その結果、日銀は適切な金融引締めを実行することができなかったのである。しかも、1990年のバブル崩壊後は、CPIは減少を示すどころか逆に上昇している。バブル崩壊後の日本経済のデフレ状況について、CPIはインフレが発生していると誤ったシグナルを送ったのだ。 一方、動学的均衡価格指数(DEPI)は1990年前(1986〜89年)には大きく上昇(インフレ)しており、1990年後には大きく下落(デフレ)していた(図)。すなわち、日銀は1989年12月に頂点に達したバブル前には緩和し過ぎ、そしてバブル崩壊後には引締め過ぎたことをDEPIは示しているのである。 以上の点からも、金融政策のための情報変数として、CPIとDEPIのどちらが優れているか、CPIインフレ率とDEPIインフレ率を比較したチャート図を見れば明白であろう。実際、動学的均衡価格指数(DEPI)に基づいて正しい金融政策をしていれば、1990年前後のバブル発生と崩壊、さらにはその後の日本経済の長期停滞も防ぐことができた可能性が高い。 (注1) 澁谷浩、「動学的均衡価格指数の理論と応用−資産価格とインフレーション」、金融研究(日本銀行金融研究所機関誌)、第10巻第4号、1991年. 3.金融不均衡を捉える動学的価格指数の有効性 今回、1991年に筆者が発表したDEPIに理論的改良を加えた新しい動学的均衡価格指数(DEPI)を使って、バブル期以降のDEPIインフレ率をアップデートしたのが前出のグラフである。新しいDEPIは、「資本の限界生産(資本生産性)=実質金利+資本の減価償却率」という均衡条件を利用することにより、資本生産性というファンダメンタルによる資産価格の上昇とインフレによる資産価格の上昇(バブル)を明確に区別することができるようになった(注2)。 例えば、実質金利の上昇を伴う資産価格の上昇は、インフレではないのでDEPIは上昇しない。他方、実質金利の上昇を伴わない資産価格の上昇はインフレ(バブル)であり、DEPIは上昇する。さらに、実質金利の低下を伴わない資産価格の下落はデフレであり、DEPIは減少する。このように、動学的均衡価格指数(DEPI)によって真のインフレやデフレという極めて動態的な金融不均衡を正確に測ることができるようになった。 日銀は消費者物価指数(CPI)を使って年率2%のインフレ目標を設定したが、いまだに目標を達成できずにいる。そもそも、CPIを構成する財・サービス価格は硬直的であることはマクロ経済学の常識になっている。実際、CPIによればアベノミクス以降インフレは発生しておらず、いまだにデフレから十分に脱却できていないように見える。 確かに、サブプライム・ローン問題が発生した2007年から2009年にかけては日本経済においてもデフレ傾向が非常に強く、金融緩和は全く不十分であった。しかし、動学的均衡価格指数(DEPI)によれば、2013年以降、異次元緩和によって1980年代後半のバブル時代に次いで高い水準のインフレが発生していた(2ページの図参照)。 すなわち、アベノミクスによる異次元緩和は、文字通り強力な金融緩和であり、2013年と2014年に2年連続10%以上のDEPIインフレを経験しており、日本経済はすでにデフレから完全脱却していたのだ。 それにも関わらず、日銀は2%のCPIインフレ目標に固執して、過剰な異次元緩和を続けている。したがって、再び今回も、1990年のバブル期と同じように、誤った近視眼的価格指数(CPI)に基づいて、超金融緩和を誤って継続している可能性が高い。 動学的均衡価格指数(DEPI)によれば、本来は、2013〜14年の異次元緩和をもっとマイルドなものにして、その代わりもっと持続性の高い金融緩和にすべきだったのである。そうすれば、DEPIを0%〜10%の間のプラス領域で安定して長期間維持できたはずである。しかし、あまりにも過激な異次元緩和をしてしまったので、その効果は一時的には大きかったが、その後急速に低下してしまった。結局、日銀の異次元緩和は過剰だったのである。 今回の過剰な異次元緩和の結果として、どのような負の結果が日本経済にもたらされるのだろうか。前回のバブル期の失敗のように資産バブルと長期停滞が起こるのだろうか、それとも異次元緩和の出口戦略に伴う金融市場の混乱が日本経済にもたらされるのだろうか。いずれにせよ、金融政策の失敗にはそれ相応のコストが伴う。 (注2) ただし、s=基準時、t=時間、p=CPI、q=資産価格、r=実質金利、δ=資本減価償却率、α=時間選好と生活費期間数によって決まるパラメーター。α=1の場合、DEPI=CPIとなる。すなわち、DEPIは普遍的な価格指数であり、CPIはDEPIの特殊なケースである。 4.異次元緩和の限界と高まるリスク 異次元緩和によって、日経平均株価は2倍以上に上昇し、為替レートも円安に大きく動いたにもかかわらず、実質成長率(2013〜17年)は年率1.3%未満にすぎず、1990年以降の平均成長率1.0%とほとんど変わっていない。 すなわち、日本経済の成長率はバブル崩壊後の長期停滞の水準から脱却できていないのである。しかも、2018年1〜3月期の成長率が9期ぶりにマイナスになった模様で、この状態が続けば異次元緩和後の平均成長率は1.0%に再び戻っていくと予想される。 金融緩和によって、一時的に景気が良くなったとしても、長期的にはその副作用と景気後退によって相殺されることが知られている。これは、「通貨の長期中立性」と呼ばれているが、金融政策によって潜在成長率を上げることはできないことを意味する。今後やって来ると予想される景気後退と出口戦略に伴う悪影響(副作用)が、今回の異次元緩和に伴う内発的リスクである。 さらに、世界経済に危機が起こり、日経平均株価が再び1万円に向けて下落し為替レートも円高になるようなことがあれば、ETFを大量に購入している日銀、国内外株の保有率を上げたGPIF、外債投信の保有を急増したゆうちょ銀行は大きな損失を被ることになる。また、金融政策はもうすでに限界近くまで緩和しているので、世界金融危機が再び起こった場合、それに適切に対処する手段としてはもう使えない。これが今回の異次元緩和に伴う外発的リスクである。 今後、異次元緩和に伴う内発的リスクと外発的リスクにどう対処していくべきなのか、それが日銀にとっての最大の課題である。 次に、ゼロ金利の下での異次元緩和は経済成長に大きな効果がないことを指摘しておく。ゼロ金利の下では、銀行にとって国債と日銀当座預金は完全代替資産になってしまう。そのため、いくら日銀が国債を購入しても、銀行は国債を売却して得た資金を企業に貸出すリスクは取らず、日銀当座預金に積み上げるだけに終わる。 したがって、異次元緩和によりベース・マネーを増大させても銀行による信用供給の増大につながらない。信用供給が増大しなければ民間企業の経済活動も活発にならない。すなわち、ゼロ金利の金融緩和の下では、一時的にすら成長率を大きく上昇させることができなくなる。さらに付け加えれば、通貨供給ではなく信用供給を重視する新しい金融理論によれば、金利はそもそも経済活動の調整メカニズムとしては中心的役割を果たさない(注3)。 政府と日銀は異次元緩和を始めた時、実質2%(名目4%)の経済成長率を期待していたと思われるが、それは(消費税率の影響を除くと)一時的にも実現しなかった。結局、デフレ脱却後も継続し続けた異次元緩和によって生み出されたのは内発的リスクと外発的リスクの増大である。 (注3) J.E. スティグリッツ・B.グリーンワルド(内藤純一・家森信善(訳))、『新しい金融論―信用と情報の経済学』、東京大学出版会、2003年. 5.動学的価格指数に基づく金融政策−DEPIターゲット・ゾーン 最後に、過去の失敗から学ぶ将来の金融政策運営のために、動学的均衡価格指数(DEPI)に基づく新しい金融政策を提案したい。この新しい金融政策によって、経済の成長と安定という一見すると相反する二つの目標を同時に実現することが可能になる。 世界の中央銀行の間で、資産価格に対して金融政策はどう対応すべきかという問題について現在2つの対立する立場が存在する。一つは、米連邦準備理事会(FRB)の成長重視の立場である。資産価格バブルを抑制するために金融引締めをすると企業のイノベーション活動による経済成長も抑制してしまうので、実際にバブルが崩壊した後に金融緩和で対応するのが望ましいという見解である。他方、国際決済銀行(BIS)の安定重視の立場は、資産価格の上昇で金融危機のリスクが高まるので、実際にバブル崩壊が起こる前に金融引締めが必要であるという見解である。 FRBとBISの相対立する立場、すなわち成長と安定を両立できる金融政策の方法はないだろうか。これら二つの立場は一見対立しているように見えるが、実は必ずしも矛盾しているわけではない。すなわち、早すぎる不必要な金融引締めを回避することによって、企業のイノベーション活動による経済成長を最大限に可能にしながら、金融危機が起こる手前で金融引締めを実行すればよいのである。ただし、そのためには、資産価格のファンダメンタルとバブルの違いを区別できる情報変数、金融不均衡を正確に捉えることができる情報変数が必要になる。 そこで、経済成長を抑制することなく金融危機を未然に防ぐための金融政策として、動学的均衡価格指数(DEPI)に基づいたターゲット・ゾーン政策を提案する。DEPIターゲット・ゾーン政策によって、資産価格バブルによる金融危機が起こらない程度にDEPIの変動を最大限に認めると同時に、DEPIがアウト・ライナーにならない範囲(ターゲット・ゾーン)に抑えることを目的とした金融政策である。具体的な数値は経験則に基づいて適切に決定されるべきものであるが、例えば、DEPIインフレ率の上限10%と下限0%をターゲット・ゾーンとした金融政策が考えられるだろう。 DEPIターゲット・ゾーン政策の優れた点は、企業のイノベーション活動をできるだけ自由にさせるため資産価格バブルを容認する成長重視のFRBの立場と資産価格バブルによる金融危機を未然に防ぐ安定重視の国際決済銀行(BIS)の立場を矛盾なく両立統合できることにある。 このようなDEPIターゲット・ゾーン政策が市場参加者によって信認されれば、上限または下限で実際に日銀が金融政策を通じて市場介入しなくても、DEPIインフレ率は自動的にターゲット・ゾーンの中にとどまることが理論的に知られている(注64)。なぜならば、市場参加者は、DEPIターゲット・ゾーン政策を念頭に自ら期待を形成し行動するからである。 その結果、DEPIターゲット・ゾーンという新しい金融政策によって、金融システムが機能不全になるような金融危機(ブラック・スワン)を未然に防ぐことができると同時に、日本経済の長期成長率をより高い水準で維持することが可能になる。 まさしく、動学的均衡価格指数(DEPI)に基づいた新しい金融政策によって、日銀の政策目標である「物価(通貨価値)の安定を通じて国民経済の健全な発展に資する」ことが実現可能になるのだ。 (注4) P. Krugman, “Target Zones and Exchange Rate Dynamics,” The Quarterly Journal of Economics, Vol. 106, No. 3. (Aug., 1991), pp. 669-682、参照. P.クルーグマンのターゲット・ゾーン理論は、為替レートのターゲット・ゾーン政策に関するものであるが、その理論モデルはそのまま金融政策にも応用できる。為替レート政策には、外貨準備残高による限界が存在するが、金融政策にはそのような限界がないので、より容易に市場参加者の信認を獲得できる。 このコラムについて ニュースを斬る 日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
オペ「ただし書き」ににじむ日銀の苦悩 2018/8/23 5:30日本経済新聞 電子版 「日銀を当てにしたオペ(公開市場操作)への応札は禁止」 長期国債の買い入れオペの対象者に対して日銀の金融市場局は8月、通知にこんな内容の「ただし書き」を付け加えた。「金利を低位に抑えつつも変動幅を拡大する」という難題を課された市場局の苦悩がにじむ。 ただし書きは以下の2点だ。ひとつは国債補完供給を前提とした国債買い入れオペの応札はしないこと、そしてもうひとつは補完供給を前提にした国債応札があった場合、次の補完供給の応札に応じない場合があるということだ。 国債補完供給とは、日銀が持つ国債を金融機関の求めに応じて一時的に貸し出すオペを指す。民間同士の取引で必要な国債がどうしても確保できない場合の「最後の手段」との立て付けだ。日銀から借りて日銀に応札するような使われ方は想定しておらず、日銀幹部は「これまでもオペ先に要請してきた内容を改めて示しただけ」と説明する。だが市場では、7月に発生した「巨額空売り」の再発を防止する狙いだとみられている。 政策修正観測から金利に強い上昇圧力がかかった7月30日、日銀は無制限に国債を買い入れる「指し値オペ」を実施した。市場実勢より高い価格だったため応札が殺到し、1兆6400億円にものぼった。このうち1兆円以上が国債を手元に持たず、あとで調達することを前提とした日銀への「空売り」だったとみられる。空売り勢は国債を確保するため、まずレポ(現金担保付き債券貸借)市場に向かい、さらに翌日実施された補完供給に流れ込んだ。日銀はこれを「モラルハザードだ」として通知を出したというのだ。 しかも補完供給でも調達できなかった金融機関があった。「日銀オペでフェイル(決済不成立)が起きていた」。資金需給に関する日次データが公表されると、債券市場関係者は騒然となった。レポ市場でも補完供給でも、期限までに特定の国債を手に入れられず、400億円弱の決済ができなかったことが判明したのだ。 運転違反をすると違反点数が加えられるのと同じように、日銀はオペでの引き渡しが遅れたり決済額を減額したりした金融機関に対して、加点方式で罰則を課している。金融機関はミスを繰り返して点数が増えると、オペに参加できなくなったり、参加資格を剥奪されたりする。 そのため日銀に対するのフェイルを回避しようと金融機関が動いた結果、7月は玉突き的に金融機関間でのフェイルが多発した。日銀の集計では550件とリーマン・ショック直後の2008年10月以来およそ10年ぶりの高水準だった。「海外投資家を中心に、受け渡しミスが多発した」との声が聞かれた。 「市場の混乱を抑えたい日銀の狙いは分かるけれど……」。通知を受けたある大手証券会社の担当者は「補完供給を当て込んだ空売りかどうかを判断するのは難しい」と語る。オペの応札後に顧客から買い注文が来ることはよくある。市中で手当てできず、仕方なく補完供給に手を出すこともあるからだ。 別の証券会社の担当者は「日銀からの罰則を恐れて証券会社が取引を手控えれば、さらに市場の流動性が落ちてしまう」と危惧する。「そもそも市場を枯渇させてきたのは日銀なのに」 日銀が「変動幅を拡大する」と決めた7月末以降、長期金利は一時乱高下したが、いまではすっかり「静かな債券市場」に戻ってしまった。日銀の国債の買い入れ額もほぼ変わらないため市場では国債の需給が逼迫した状況が続いている。日銀が狙う「経済・物価情勢に応じて金利がある程度変動する」健全な債券市場の復活には、時間がかかりそうだ。 (今堀祥和) 日銀 出口への難路(上) 緩和効果・副作用の相反 焦点 (2018/8/20 6:00) [有料会員限定] 2%インフレを永久目標に (2018/8/10付) [有料会員限定] 黒田緩和修正 私の診断 拙速な玉虫色の決定 (2018/8/8付) [有料会員限定] 日銀、遠い金利正常化 (2018/8/7付) [有料会員限定] FRB、金融緩和「新たな手法議論」 景気悪化に備え 北米 経済・政治 2018/8/23 3:32 【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は22日、7月31日〜8月1日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表した。先行きの景気悪化に備えて金融緩和の手法を議論し、参加者は利下げや量的緩和に加えた「新たな政策手法を議論する」と決めた。2%の物価目標を柔軟にして一時的なインフレを容認する案などが検討課題になりそうだ。
前回のFOMCでは追加利上げを見送った。ただ、4〜6月期の実質成長率が4%台に達するなど米景気は好調で、多くの会合参加者が「景気が想定通りに推移すれば、間もなく追加利上げが適切になる」と主張。9月の次回会合での利上げを示唆した。FRBは年内に2回の追加利上げを見込んでおり、金融市場も9月の利上げを織り込んでいる。 もっとも、会合参加者は「政策金利は(景気を冷やさず過熱もさせない)中立的な水準に近づいている」との見方でも一致した。現在の政策金利は1.75〜2.00%にとどまるが、利上げ局面は既に2年半に到達。FOMCは利上げサイクルの終了時期を探っていることを改めて明らかにした。6月の会合では2019年から20年にかけて利上げを停止する可能性を示唆している。 利上げサイクルが19年に停止すれば政策金利は3%程度で打ち止めとなる。以前に比べて十分な利下げ余地が確保できないリスクがあり、FOMCは「低金利環境での金融政策の選択肢」についても議論した。 FRBはこれまで利下げや量的緩和のほか、先行きの緩和期間を明示して市場の期待を高める「フォワード・ガイダンス」を政策手段としてきた。ただ、FOMCでは参加者から「量的緩和などの経済効果は不透明だ」との声が上がり「さらなる政策手段を議論していく」ことで一致した。 議事要旨では具体策に触れるのを避けたが、FRB内では2%の物価上昇率目標を柔軟に運営する「物価水準目標」の導入などを議論している。物価水準目標とは、インフレ率が長く2%を下回り続けた場合は、目標に到達した後も金融緩和を続ける政策手法だ。物価水準目標を導入すれば、FRBの将来的な政策スタンスは従来より緩和的になる。 FOMCではトランプ米政権の関税政策に懸念の声が噴出した。企業投資の停滞につながったり、物価の上昇で景気そのものを下押ししたりするリスクを指摘する参加者もいた。 FRB、無風会合に潜む4つの難題 (2018/8/2 12:13) [有料会員限定] FRBが9月利上げ示唆 (2018/8/2 3:06)
米FOMC議事要旨、次回会合での利上げ示唆 FOMC議事要旨によると、FRBは来月利上げを実施する可能性が高い(写真はパウエルFRB議長)
By Nick Timiraos 2018 年 8 月 23 日 05:23 JST 更新 【ワシントン】米連邦準備制度理事会(FRB)は22日、連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月31日・8月1日開催分)を公表した。それによると、出席者は来月利上げを実施する可能性が高いとみていることが示された。また、貿易摩擦が長引けば経済成長に響きかねないとの懸念を巡り、突っ込んだ議論が行われた。 議事要旨は、米国経済が現在の予想通り進展すれば、利上げに向けて「間もなくさらなる措置を講じることが適切になるだろう」と指摘した。 FRBは前回のFOMCで利上げを見送った。6月の会合では今年2回目の利上げを決め、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.75?2.00%に引き上げている。 FRBは前回のFOMC後の政策声明で、金融政策の説明に長年使用してきた「緩和的」という文言を外すことについて議論した。それは、金利が景気刺激に十分なほど低い水準にあるとみていることを物語っている。多くの出席者は、景気を刺激も抑制もしない水準への金利引き上げに意欲を示している。ただ、いわゆる中立金利がどの程度を指すのかについては、不透明感が強い。 議事要旨は、段階的な利上げを進める中、金利政策を緩和的と表現するのは「かなり早期に(中略)適切でなくなる」だろうとした。 このフォワードガイダンス(今後の金融政策に関する指針)見直しは、FRBが債券資産を急拡大させ、財政刺激策が増す環境ではとりわけ「正確さを錯覚させる」可能性があるためだとした。 前回会合の約1週間前に、ドナルド・トランプ大統領は利上げに不満を示した。このところ後援者や記者団にも、そうした懸念をたびたび伝えている。大統領の発言についての議論があったことを、この要旨は示していない。大半のFRB当局者は大統領の発言を考慮しない見込みだ。 貿易を巡る不透明感が米国企業とFRBの大きな懸念材料になっている様子も浮き彫りになった。 出席者は先月、地元企業は関税の影響で投資計画を縮小してはいないと報告したものの「貿易摩擦が間もなく決着しなければ、投資を縮小する可能性がある」と指摘した。 出席者全員が、貿易摩擦は「不透明感とリスクをもたらす大きな要因」だとの見方を示した。摩擦が長引けば企業の投資を阻み、企業の景況感と雇用に痛手を与え、家計の購買力が弱まるとした。また、サプライチェーンを混乱させ、既に低調な生産性をさらに落としかねないと警戒感を示した。 この要旨には、いつまで利上げを継続する必要があるかという点について、参加者の考えをうかがわせる手掛かりはほとんどなかった。 関連記事 米利上げ、年内2回の予想が大勢=WSJ調査 米FRB、利上げの最終到着点はどこに? トランプ氏、FRBの利上げに不満表明
[スレ主【赤かぶ】による初期非表示理由]:その他(アラシや工作員コメントはスレ主が処理可能)アラシ。場違いコメント多数。
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