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トルコショックが世界経済に無視できない影響を与える理由 特に、新興国経済が不安だ
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57064
2018.08.20 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
8月10日、トルコリラが米ドルに対して20%程度急落した。それがトルコショックだ。主な原因は、米国人牧師の解放を巡ってトルコと米国の関係が悪化し、トランプ政権がトルコへの制裁を発動したことだ。強権体制を敷くトルコのエルドアン大統領は、トルコ中銀の金融政策にも介入し、利上げによる通貨防衛が困難となってきた。それもリラ売りにつながった。
市場参加者にとっての懸念材料は、いつ、何を理由に米国とトルコの両国が妥協するか、落としどころが見えないことだろう。リラの下落を警戒する投資家は増えている。そのリスク回避姿勢は、その他新興国の通貨などへの売り圧力にも波及している。8月10日のトルコショックは、市場参加者が新興国への慎重姿勢を強める転換点になった可能性がある。
トルコショックの波紋
トルコがキリスト教福音派の米国人牧師を拘束し続けていることを受け、米トランプ大統領は、トルコから輸入するアルミと鉄鋼の関税率をそれぞれ20%と50%に引き上げた。これに対して、トルコのエルドアン政権も報復措置を取り、乗用車やアルコール、たばこなど米国製品への関税を2倍に引き上げた。
現状、米国のトランプ大統領は通商面などでの強硬姿勢を示し、中間選挙に向けた人気を確保したい。そのために、福音派牧師の解放は重要な得点稼ぎとなるはずだ。一方、強権体制をとってきたエルドアン・トルコ大統領としても、国民から“弱腰”とみなされることは避けなければならない。当面、米国もトルコも意地の張り合いを続けるだろう。
この状況は、米国、トルコ、双方が傷つくことにつながるはずだ。特に、トルコ経済は厳しい局面に直面する可能性がある。リラが対ドルなどで下落すると、トルコ国内企業の外貨建て債務のデフォルトリスクが上昇するだろう。すでにこのリスクはユーロ圏の銀行株に波及している。8月10日、リラ急落からスペインBBVAをはじめユーロ圏の銀行株価が下落したのはそのためだ。
先進国の中でも、ユーロ圏では金融機関の不良債権の処理が遅れていると考えられる。そのため、米国とトルコの関係冷え込みからリラへの売り圧力が高まりやすい状況下、市場参加者はユーロ圏の金融機関のリスクに慎重になるだろう。リラ急落は、世界経済に小さくない波紋を投げかけているのである。
高まる新興国経済への懸念
トルコショックを受けて、新興国の金融資産の価格動向には、大きな変化が現れた。昨年後半から今春にかけて、ゴルディロックス経済(適温経済)が続くとの見方から、多くの投資ファンド勢が通貨を中心に、新興国の金融資産のロング(買い持ち)ポジションを増やした。その中には、南ア・ランドなど対外債務比率の高い通貨も含まれていた。
その後、米国の仕掛ける貿易戦争への懸念から、新興国の株式、通貨、債券への売りが増えた。同時に、相対的な成長率の高さを理由に、安値を拾おうとする投資家がいたことも確かだ。しかし、トルコショックの発生以降、新興国の金融市場は荒れ模様の様相を呈し始めた。それは、市場参加者がトルコに続く“売りの対象”を探し始めたことを意味する。
踏み込んでいえば、為替相場などに大きな影響を与えるヘッジファンドなどは、新興国市場をロングではなく、ショート(売り持ち)の対象とみなし始めた可能性がある。トルコショックは新興国投資の転換点となる可能性があるということだ。
トルコショック以外にも、中国経済の減速懸念が高まっている。新興国経済は、中国経済との相関性が高い。
現在、世界経済全体は米国経済の好調さに支えられ、相応の安定感を保っている。今すぐに世界経済が混乱するリスクは抑制されている。その中、トルコショックの発生によって、先行き不透明感は一段と高まったといえる。
トルコと米国の関係が悪化し、リラがさらに下落するようであれば、新興国からの資金流出が加速し、世界の経済と金融市場には無視できない下押し圧力がかかる可能性がある。
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