「金利の変動幅拡大など方向感を」 第一生命執行役員の宮田康弘氏 黒田緩和修正 私の診断 金融機関 2018/8/20 17:47日本経済新聞 電子版 生命保険会社のような長期運用を原則とする投資家にとって、長期国債の流動性の低下は懸念材料だった。そうした意味で、今回の緩和修正で金利変動にある程度の幅を持たせたことは望ましい。変動幅の拡大にも中長期的に含みを持たせた。長期国債の金利を市場に委ねていく第一歩だと受け止めている。 第一生命保険で投資本部長と株式部長を務める宮田康弘執行役員 画像の拡大 第一生命保険で投資本部長と株式部長を務める宮田康弘執行役員 一方で、生命保険は平均契約期間が20年と長い。このため20年、30年といった長期ゾーンの金利が現状のままでは、長期国債のみで顧客に対して約束した利回りを確保することは難しい。つまり保険会社が抱える負債とのマッチングが困難だ。 生保は個人年金や企業年金など、公的年金を補う商品を扱っている。だが現状では円建ての魅力的な商品を供給しにくい。円建ての個人年金では契約時に約束する利回りが1%を超えないと顧客に魅力的とは映らない。 企業年金も同様だ。現在、国内の企業年金市場は約80兆円規模で、うち半分をリスク性資産、残り半分ほどを国債などで運用している。平均予定利率は2.5%程度、平均運用期間は約15年間だ。 足元は国内外の経済や企業業績が堅調で、株価が大きく上昇したことに支えられている。だが低金利が続けばいずれ企業年金の運用や個人の資産形成にも影響が出て、老後の保障という意味で保険会社の役割を果たせなくなりかねない。 2019年秋には消費増税も控え、金融政策のかじ取りはますます難しくなるだろう。日銀にはある程度、景況感が安定している今のうちに金利変動幅を広げるなどの方向感を示していただきたい。
27,000,000,000,000,000円(大機小機) 2018/8/20 12:44 株式市場の荒れる理由が、最近変わってきたと感じる。 2月や4〜5月の下落の震源は米長期金利の上昇だった。2月は市場予想を上回る米賃金上昇率、4〜5月は原油価格の上昇などが引き金となって米長期金利が跳ね、世界中の株式市場が動揺した。 ところが、6〜7月の日経平均株価の下げや、8月半ばの急落は様子が異なる。米長期金利が安定あるいは低下している局面で起きたからだ。 トランプ米大統領が仕掛ける貿易戦争や、トランプ氏とエルドアン・トルコ大統領の強権政治対決への不安が、ダイレクトに株安を引き起こした。投資家がより深刻に、政治リスクをとらえ始めた証しだ。 つい年初まで、低金利と株高が共存するゴルディロックス(適温)相場の賞味期限を論じていたのが懐かしい。今後、米長期金利の上昇と政治リスクは絡み合いながら、折に触れて複合要因的に市場を揺さぶるだろう。少なくとも11月の米中間選挙まで、投資家はシートベルトをしっかり締めた方がいい。 それにしても、投資家がこれほど金利上昇におびえるのはなぜだろう。 その答えが表題の数字だ。2京7000兆円。国際金融協会(IIF)が直近にまとめた世界の政府・企業・家計の債務残高だ。 リーマン危機後、各国中央銀行による大規模な金融緩和は天文学的な債務を生み出した。1%の金利上昇が270兆円の利払い増につながる世界。金融正常化がもたらすマネー巻き戻しへの恐怖感が、市場の通奏低音にある。 思えば、強権政治が世界にはびこるようになった芽もリーマン危機にあった。 1980年代以降の新自由主義は、金融のユーフォリア(陶酔)と「グローバリゼーション・ファティーグ(国際化疲れ)」を負の側面として残した。国際化に取り残された人々はリーマン危機を機に「反エリート」意識を強め、それがポピュリズム(大衆迎合主義)を呼び込んだ。 政治学者ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏はポピュリズムの本質を、異論を認めぬ「反多元主義」と読み解く。異論を認めぬ政治姿勢こそが強権政治を生む。 リーマン危機から間もなく10年。世界はなお10年前の地続きにある。(茶柱) 「決断の欠如、ポピュリズム生む」 ヤシャ・モンク氏 (2018/8/16 1:31) [有料会員限定] リーマン10年、残る危機 (2018/6/27 2:00) [有料会員限定] 欧州発、市場不安再び 「南欧売り」の様相に (2018/5/30 23:23) 伊政治混迷、市場揺らす 日経平均一時2万2000円割れ (2018/5/30 11:54) 「DとR」が示す世界の転機 (2018/1/26 2:30) [有料会員限定]
「決断の欠如、ポピュリズム生む」 ヤシャ・モンク氏 パンゲアの扉 2018/8/16 1:31日本経済新聞 電子版 保存 共有 その他 戦後、グローバリゼーションの基盤となってきた民主主義は強権指導者の台頭などで試練に直面している。米ハーバード大講師のヤシャ・モンク氏に、その背景やグローバリゼーションの課題を聞いた。 ――世界で強権指導者が台頭している背景は。 「民主国家の市民には今の体制は機能していないとの不満が高まっていた。生活水準の伸び悩みや社会の高齢化、移民の流入などへの対策が一向に進まず、将来への悲観が広がった。交流サ… リーマン10年、残る危機 本社コメンテーター 梶原誠 梶原 誠 Deep Insight 本社コメンテーター 2018/6/27 2:00日本経済新聞 電子版 保存 共有 その他 世界はようやく、2008年のリーマン・ショックを克服しつつある。だが、成長の持続に向けてやり残した課題はないのか。 6月は危機モードの終わりを象徴する月だ。米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを加速する姿勢を見せ、欧州中央銀行(ECB)は年内に量的緩和を打ち切ると決めた。経済底割れを防ぐために緩和を進めた中央銀行が、「もういらない」と判断した。 この10年間、債務の圧縮や金融規制の強化で世界… 欧州発、市場不安再び 「南欧売り」の様相に 政治混乱・景気減速・不良債権 ヨーロッパ 2018/5/30 23:23 保存 共有 印刷 その他 【ベルリン=石川潤】欧州発の新たな市場の混乱が米国や日本にも広がってきた。ポピュリズム(大衆迎合主義)が席巻するイタリアだけでなく、スペインでも政治は不安定化している。イタリアでは不良債権問題もくすぶっているうえ、景気減速の懸念が域内では広がる。市場の動揺を受け、ユーロ圏で「遠心力」が再び強まりかねないとの見方さえ浮上しつつある。
画像の拡大 「信用を失う数歩手前にある」。イタリア中央銀行のビスコ総裁が29日、警告を発すると金融市場では不安感が一段と強まった。
イタリアでは10年国債利回りが一時、2014年以来の3%台まで上昇(債券価格は下落)。スペインやポルトガルの国債も売られた。一方、経済的にしっかりしているドイツやフランスなどの金利は低下基調にあり、リスク回避に傾斜する投資マネーは「南欧売り」の構えを強めている。30日は利益確定を狙った反対売買が出ている。 イタリアの政治不安はユーロ危機の再燃につながりかねないと懸念されている。マッタレッラ大統領から首相候補に指名された国際通貨基金(IMF)元高官のコッタレッリ氏による組閣作業は難航している。議会はポピュリズム政党が多数派を占めており、再選挙の可能性がくすぶる。 エリート官僚が牛耳っているとして欧州連合(EU)への国民の反感は根強い。再選挙でもポピュリズム政党が議席を増やせば、EUに反旗を翻し、財政拡張に突き進む恐れがある。イタリアの政府債務はユーロ圏で最大で、ギリシャの7倍にのぼるだけに市場の不安は強い。 ハンガリーやポーランドなど東欧諸国でもポピュリズム政権は勢いを増す。スペインでは汚職問題を巡って最大野党がラホイ首相の不信任案を提出。総選挙の実施に伴う政治空白のリスクが意識されている。EUは6月の首脳会議で金融危機の再来を避けるためのユーロ圏改革を議論し、結束を確認する考えだったが、シナリオは狂いつつある。 欧州景気の減速懸念も混乱に拍車を掛ける。ユーロ圏の1〜3月の域内総生産(GDP)は前期比0.4%成長で1年半ぶりの低い水準に沈んだ。輸出に陰りがみえ、企業の景況感も悪化している。貿易摩擦やイラン核合意からの離脱など「米国リスク」が浮上してきたところにイタリア発の市場の動揺が加わり、景気の先行きは一段と見通しづらくなってきた。 欧州株式市場でも総じて売りが優勢となり、銀行株の下げが目立った。イタリア最大手のウニクレディト、スペイン最大手のサンタンデール、仏BNPパリバなどがほぼ軒並み安となった。銀行勢は南欧国債を保有しており、債券安による財務悪化が警戒されている。 イタリアでは不良債権処理の遅れも懸念材料だ。主要銀行の不良債権比率は2017年末で11.1%と、ユーロ圏平均の4.1%の2倍以上の水準だ。仮に景気減速の流れが強まれば、イタリアの金融セクターが打撃を受け、欧州全体に悪影響を及ぼすリスクもある。 10年以降のギリシャ危機のころと状況は異なる。当時はギリシャなど一部南欧諸国の財政悪化が問題の中心だった。12年に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が「できることは何でもやる」と宣言し、国債買い入れを決断。長期金利の上昇を抑え、問題解決への効果は大きかった。 実際、イタリアの長期金利は上昇したといっても、ギリシャ危機当時の半分以下の水準にとどまる。一方で、金利が上がりにくくなったからこそ、ポピュリズム政党が反EUと財政拡張を無責任に唱えられている皮肉な面がある。市場の不安の根っこにある政治の危うさへの処方箋は明確ではなく、今回の混乱は長引く恐れがある。 電子版の記事がすべて読める有料会員のお申し込みはこちら 有料購読のお申し込み 保存 共有 印刷 その他 類似している記事(自動検索) ユーロ危機、再発の火種なお (2018/6/22 11:00) [有料会員限定] 南欧不安の処方箋は 自ら構造改革の断行を (2018/6/5付) [有料会員限定] イタリア混迷、ECBにジレンマ 量的緩和終了に影響も (2018/6/3 18:06) 「イタリアリスク」市場は警戒 長期金利上昇続く (2018/5/28 21:25) [有料会員限定] 南欧の国債、政治リスクでも静かな人気 (2018/4/28 18:05) [有料会員限定]
増税、景気への影響どこまで 政府のトラウマ深く 2018/8/20 7:00日本経済新聞 電子版 来年10月に予定する消費税率10%への引き上げまであと1年余り。政府・与党は増税による消費や景気への悪影響を和らげるための反動減対策を年末にかけて詰める方針だ。景気の安定は重要だが、バラマキを許す余裕もない。賢い対策にするための論点を点検する。 消費増税が来年10月に迫る 景気拡大が続く日本。2012年末に始まった今回の回復局面は、来年1月に戦後最長を更新する。ところが米民間調査機関の景気循環調査研究所(ECRI)の分析は少し異なる。消費税率を前回引き上げた14年4月の直前、駆け込み需要が最高潮となった同3月に日本の景気は「山」を一度迎えたとしている。 前回増税の景気への影響はそれだけ大きく、内閣府幹部も「政府のトラウマは深い」という。 政府は住宅の購入支援など5兆円規模の経済対策を講じたが、増税直後の14年4〜6月期の個人消費は、物価の影響を除く実質ベースで前期比年率17.2%減った。その後も長く停滞し、駆け込み需要が起きる前の13年10〜12月期の水準(300兆円)に戻ったのは17年4〜6月。回復に4年近くかかった。 なぜ想定以上に消費が落ち込んだのか。消費増税だけではない複合的な要因が絡んでいた。 まず当時は円安で輸入コストが増え、食品価格などが上昇していた。さらに「もらいすぎ年金」の解消も追い打ちをかけた。公的年金は00年代初めに物価が下がっても支給額を据え置く特例が続き、このツケを解消するために13年秋から支給額を段階的に減らした。高齢者は消費増税との二重の打撃を受けたのだ。 ならば来年の状況はどうだろう。消費税率をみると、14年は5%から8%へと3%上げ、今回は2%上げて10%となる。引き上げ幅そのものが小さい。「もらいすぎ年金」の是正といった逆風もない。さらに前回と大きく異なるのは、家計負担の軽減策の存在だ。 「前回増税時の負担額は8兆円、今回は2.2兆円」。日銀は4月、消費増税で増える実質的な家計負担をこう試算した。今回は食品などへの軽減税率の導入で1兆円分、幼児教育無償化で1.4兆円分の負担軽減効果がそれぞれあるとみており「多くの措置が恒久的であることも効果を大きくする」と指摘する。 もっとも、来夏に参院選を控える与党内からは「10兆円規模の財政出動が必要」との声も出ている。政府・与党は来年度予算編成に合わせて反動減対策を年末までに詰める方針だが、議論は前回増税時に消費が大きく落ち込んだ「トラウマ」に引きずられがちだ。 確かに、世界経済は米中貿易戦争など不安を抱え、潜在成長率が1%前後にとどまる日本も増税ショックにどれだけ耐えられるか不確かな面もある。一方で、「トラウマ」から影響を過大に見積もれば「増税を大義名分にしたバラマキ」(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)になりかねない。 第一生命経済研究所の星野卓也氏は「金額の規模よりも、反動減が表面化したタイミングでどれだけ和らげられるかが重要だ」と指摘する。適時適切な対策を見極め、財源を集中して効果を高める。政策運営の基本を出発点とすることが欠かせない。 関連記事 消費増税、中小企業の価格転嫁を支援 政府「転嫁カルテル」容認 2018/8/15 20:00 GDP復調、持続性に不安 貿易戦争や酷暑が重荷 2018/8/10 12:17 類似している記事(自動検索) 消費増税対策の財政ばらまきはやめよ (2018/7/10付) 消費増税と景気変動(大機小機) (2018/6/14付) 本気度疑われる政府の財政健全化目標 (2018/5/31付) 10%への消費税率上げ、家計負担「2兆円どまり」 日銀試算 (2018/5/1付) 消費増税決断への布石 (2017/12/17付)
消費増税対策の財政ばらまきはやめよ 2018/7/10 23:13 政府は10日、2019年度予算の概算要求基準を閣議了解し、予算編成作業がスタートした。19年10月に予定する消費税率引き上げによる需要変動をならすための予算要求には別枠も設ける。増税対策に名を借りたばらまきにならないよう注意が必要だ。 安倍晋三首相は9日の経済財政諮問会議で「消費税率引き上げに伴う機動的な対応をはかるための措置の具体的な内容の議論を進めてほしい」と指示した。 首相の念頭には、前回14年4月に5%から8%に消費税率を上げた際の、駆け込み消費とその後の反動減による景気悪化がある。 当初予算から対策を盛るのは、19年度に入ってからの補正予算での対応では、10月の税率上げ時に予算執行が間に合わないという判断がある。 消費増税に伴う景気の変動を抑えるのは望ましいが、その対策は予算措置以外の対策を中心にすべきだ。消費増税時に一斉に商品価格が上がらないように、小売価格への転嫁指導を見直すなど、従来型の財政出動に頼らない手法を考えてほしい。民間企業も増税後に魅力的な新商品を投入するなど、消費落ち込みを防ぐ知恵をもっとしぼってはどうか。 今回の消費増税は14年に比べ上げ幅も小さく、増税分を教育無償化などの歳出に回すので、財政引き締め効果は前回ほど大きくないとの見方も多い。財政支出は真に効果があるものを厳選すべきだ。 好調な企業業績を背景に2017年度決算の一般会計税収は前年度比3.3兆円増の58.8兆円に回復した。90年代前半のバブル期並みの水準に戻ったといっても、歳出のほうは社会保障費を中心に右肩上がりで増えている。税収が回復したからといって、財政規律がすぐに緩んでしまうようでは困る。 来年度予算編成では社会保障費用の抑制も大きな焦点になる。16〜18年度の3年間は伸びを合計1.5兆円に抑える目標があったが、19年度以降は目標を設定していない。高齢化で増え続ける社会保障費抑制のため制度改正も含めた改革を急ぐべきだ。 西日本を襲った記録的豪雨の被災者支援のため、政府は10日、18年度予算の予備費を使用する方針を決めた。災害復旧や防災対策など真に必要な歳出をしっかり手当てするのは当然だ。そのためにも非効率な歳出は抑えるべきだ。 消費増税と景気変動(大機小機) 2018/6/14 17:00日本経済新聞 電子版 消費税率の10%への引き上げが迫ってきた。誰もが注目するのは景気への影響だろう。政府は、その影響をできるだけ小さくしようとしているようだ。
6月5日に経済財政諮問会議に示された2018年の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)原案では、消費税率引き上げに伴う需要変動の平準化が必要だとした。「前回の2014年4月の消費税率引き上げの際には、個人消費が税率引き上げ直前の1〜3月期には前期比2%増加した後、引き上げ直後の4〜6月期には4.7%減少するなど大きな需要変動が生じ、景気の回復力が弱まることとなった(一部略)」と述べられている。 しかし、駆け込み需要で直前の消費の伸びが大きくなり、逆に直後に消費が落ち込むのは当然だ。直前の高まりに比べ、直後の落ち込みの大きさが2倍になるのも当然である。直前の増加が平常時と異常増加時の比較なのに対し、直後の落ち込みは、異常増加と異常落ち込みの比較だからだ。 駆け込み需要とその反動は、単に消費の実現時期がシフトしただけだ。だから本来は短期的に相殺されるはずで、それによって景気の回復力が弱まることにはならない。景気に影響するのは、家計の実質可処分所得の減少である。 消費税率を3%引き上げた前回は、消費者物価が2%程度上がった。賃金がその分上がるわけではないから、家計の実質可処分所得は2%減少する。消費性向が変わらないとすれば、これによって実質家計消費は2%減少するはずだ。 実際、駆け込みの影響が一段落した14年後半の消費は、駆け込み前の13年後半に比べ2.1%減少した。この落ち込みは、増税に伴うやむを得ない落ち込みであり、2年程度の時間をかけて、賃上げによって元に戻していくしかない。事実、消費のレベルは17年前半には、引き上げ前に戻っている。 前回の引き上げ時は、消費の落ち込みが大きく景気の足を引っ張ったかのように見える。だが、実のところは想定通りの現象が起きただけのことである。 19年の引き上げ幅は2%と前回より小さい。しかも軽減税率があることを併せ考えれば、景気への影響をそれほど懸念する必要はないように思われる。 (隅田川) 本気度疑われる政府の財政健全化目標 2018/5/31 23:07日本経済新聞 朝刊 政府の新たな財政健全化の目標づくりが大詰めを迎えている。従来は2020年度としていた国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化の時期を25年度とする方向だ。今度こそ財政健全化に本気で取り組むつもりなのか、政府の決意が問われている。 安倍晋三首相は昨年の衆院選前に19年10月に予定する10%への消費税率引き上げ分の税収の使い道を、借金返済から教育の無償化などに変更し、PBの20年度黒字化目標を断念した。 政府はそれにかわる新しい目標を6月中旬に閣議決定する経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込む予定だ。 政府の検討原案によると、PB黒字化の時期を25年度へと5年先送りしたうえで、21年度に3つの指標を使って進捗状況を中間検証するという。 すでに原案段階で、政府の財政再建への本気度が疑われる問題が浮上している。まずは、健全化計画の前提となる経済成長率を実質2%、名目3%以上と高めに見積もっていることだ。成長力を高める努力は必要だが、財政健全化を確実に進めるには、前提の成長率を甘く見積もるべきではない。 前回の目標づくりの際は16〜18年度の3年間の社会保障費の伸びを合計1.5兆円程度に抑える目安を設定した。今回は財政健全化の裏付けとなる歳出抑制の数値の目安を決めない方向だ。 歳出抑制策で踏み込まないのは、来年10月に予定する消費税率引き上げの景気への悪影響を和らげる財政出動の余地を残すためとの見方もある。 消費税率上げ前後の駆け込み消費と反動減をならすための対策は検討に値するが、それは消費税の価格転嫁指導や民間の新商品投入策の見直しなどで実施すべきだ。消費税率を上げるために、財政出動を繰り返すのでは、財政健全化は進まない。 安倍政権は12年の与野党3党合意で決まった消費税率の10%への引き上げを2度にわたって延期した。本来なら今ごろは、消費税率10%の先の財政・社会保障の改革を検討すべき時期だ。 財政健全化は増税だけでなく、公的年金の支給開始年齢や75歳以上の高齢者の医療の窓口負担の引き上げなど社会保障の制度改革も不可欠だ。高齢化が急速に進む中で残された時間は少ない。 東大合格1000人 名門Z会、とまらぬ膨張 キャッシュレス社会へ半歩 君たちはどう生かすか 中国が切った禁断の対米「食料カード」
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