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阿波踊り、遠藤市長の間違った判断でブランド毀損…来場者激減→巨額の経済的損失か
https://biz-journal.jp/2018/08/post_24425.html
2018.08.14 文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント Business Journal
2018年阿波おどり 独自に総踊りを披露する「阿波おどり振興協会」の踊り手ら(写真:読売新聞/アフロ)
お盆休みの白眉を飾る国民的なイベントといえば、四国・徳島市の阿波踊りであろう。今年の阿波踊りはしかし、そのメインイベントである「総踊り」の実施が取りやめの決定の後、強行実施されるなど混乱した。
総踊り取りやめの決定は遠藤彰良市長によってなされたものだが、実質的な運営を担ってきた阿波おどり振興協会はこの決定に反発し、8月13日の夜に自主的な実施として総踊りを強行した。
観光資源の活用という観点からは、その目玉である総踊りを取りやめようとした市長の判断には大きな疑問が残る。昨年、今年の有料観覧チケットの売上を比較すると、それは明らかとなる。
■4会場で行われる阿波踊り、目玉は総踊り会場
今年の阿波踊りは8月12日から15日まで開催されている。この真夏の一大イベントを見に来る人の数は2016年、17年ともに123万人と、四国では年間最大の観光イベントとなっている。
このような状況で今年、総踊りの実施が取りやめとされたのには理由があった。阿波踊りを昨年まで主催していたのは、徳島市の観光協会だったが、その協会に対して破産手続きを開始するよう、徳島市が今年3月2日に徳島地方裁判所に申し立てたのだ。観光協会は徳島市の観光振興をめざす公益社団法人で、市の補助金を大きな収入源としてきた、実質的に徳島市の外郭団体である。その市観光協会が、主な事業だった阿波踊りの実施などで累積4億円以上の赤字を出していたので、徳島市が同協会の破産を申し立てたのだ。
阿波踊り実施のために、今年は市と徳島新聞社などでつくる実行委員会が組成され、主催者となった。この実行委員会は、総踊りが他の3演舞場のチケット販売を低迷させているとして、6月に中止を発表。有名連(踊りの出場グループ)を4演舞場に均等に配置すると決めたのである。この決定には、遠藤市長の意向が大きく働いていた。
4演舞場とも有料チケット制で、17年の阿波踊り最終日(8月15日)の第2部(午後8時30分〜10時30分)の演舞場ごとのチケット販売率は、概ね次のようなものだった(市観光課のまとめによる)。
・南内町(総踊り会場):100%
・藍場浜:50%
・紺屋町:50%
・市役所前:30%
南内町以外の3つの会場でも阿波踊りが披露されるのだが、第2部の午後10時には南内町に阿波おどり振興協会所属の連の約2000人が一堂に会するため、4会場の間で人気に大きな差が出ていたのである。
■踊り手は反発、強行実施へ
総踊りの中止というこの決定に、有名連が加盟する「阿波おどり振興協会」は「踊り手をないがしろにする」と反発し、演舞場外で独自に総踊りをする意向を示した。遠藤市長は「危険だ」などとして4度文書で中止を要請していた。8月13日の記者会見では、実施した場合に「ペナルティーも検討する」と述べるなど、異例の事態となっていた。
そして有名連の踊り手約1500人が8月13日夜、実行委の決定に反して名物の「総踊り」を披露した。「阻止する」としていた実行委側も静観し、心配された混乱はなかった。
さて、事前には「総踊りの中止」と告知されていた今年の阿波踊り、肝心の有料入場者数はどう増減したのか。有料演舞場や「選抜阿波おどり」などの7日時点のチケット販売率は昨年同時点を9ポイント下回っているという。つまり、遠藤市長が目指した、「総踊りの中止により、有名人気連の出場演舞場分散化を図り、総踊り会場以外の会場の売上を増加させる。その結果、売上の増収を図る」という目論見は外れたことになる。
■強さを伸ばし、弱いところは撤退、縮小を
今年の「総踊り中止」の決定が遠藤市長の意向だとすれば、市長のビジネス戦略的判断には疑問を持たざるを得ない。
まず、昨年までの4演舞場のチケット売上分布に基づく総数増への目論見である。一番人気だった南内町を中止して他の3演舞場に来場者を流す、というのは文字通り机上の空論の愚策だったと指摘できる。
「阿波踊り」という「商品」にとって、メインブランドは「総踊り」ということになる。「総踊り」がメインブランドで、「顧客(=観光客)」はそのブランドを認識して購買行動を起こす。他の3演舞場はメインブランドから派生するサブブランドなので、メインブランドが消失するとサブブランドだけでは購買行動を起こすまでに機能しない、というのが阿波踊りのビジネス構造だ。
経費削減を図るために中止すべきは、メインブランドである南内町ではなく、サブブランドのなかでももっともチケット販売率の市役所前である。ビジネス戦略では「強きを伸ばし、弱いところには注力しない、あるいは撤収する」というのが鉄則だ。遠藤市長の施策は、スポーツにおける下手なコーチのそれを想起させる。
さらに取るべき施策だったのは、残すべきサブブランドである藍場浜と紺屋町の演舞場の強化、メインブランド化だった。具体的に提言すれば、夜10時からスタートする「総踊り」に出場する有名人気連には、7時あるいは8時からこの2演舞場のどちらかの出場を義務づけるというやり方だ。南内町のチケット販売率が100%だったということは、それ以上の潜在顧客がいたということだ。藍場浜と紺屋町のサブブランド力を強めれば、総踊り会場のチケットを購入できなかった客の移行率が高まるはずだ。
さらにいえば、メイン会場である南内町のチケットを少し値上げすることにより、メインブランドとしての一層の格付けと増収を図ることができるだろう。
今回の混乱により、「阿波踊り」というブランドは毀損してしまった。入場チケット数が約10ポイント減ったという速報をもとに、昨年までの123万人来場者が12.3万人減少してしまったと試算してみよう。宿泊や飲食を含めて一人2万円の消費が徳島市で発生していたとしたら、その減少額は24億6000万円となる。
破産申告された市観光協会の累積赤字額は4億円超だったが、この赤字は累積であり、単年度のものではない。また阿波踊りの実施以外の事業による赤字、あるいは不明朗出費も取り沙汰されている。
遠藤市長は4億円超を節約しようとして約25億円を失った、という言い方もできようか。徳島市としては、運営方法の改善に取り組む一方、阿波踊りの目玉である総踊りの実施・強化に力を入れることこそが、観光による地域活性化の戦略にかなうだろう。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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