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都心の新築マンション、空室多数で完全に供給過剰状態…下落開始はタイミングの問題
https://biz-journal.jp/2018/08/post_24386.html
2018.08.10 文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト Business Journal
ここ5年ほど、都心のマンションは「値上がりする」というコンセンサスのもとに市場価格が形成されてきた。その根拠を考えると、いかにも乏しい。ただ、実際には新築、中古とも値上がりを続けてきた。東京都の港区では、この5年で1.5倍程度は確実に値上がりしたと私は理解している。
資本主義経済にあっては、モノの価格は需要と供給の関係で決まる。これは不動産についても基本的には適用できる。
たとえば、賃貸住宅市場においては今もこの需給関係による価格形成機能は、それなりに働いている。供給過剰なエリアにおいては、表面的な募集賃料が確実に下落している。また、都心の人気エリアにおいてさえ、価格交渉が容易になっている。
さらに、賃貸市場においては可視的な募集価格の背景が大きな変化を見せている。たとえば「AD」と呼ばれる、仲介業者への規定外報酬の取引慣行がすっかり蔓延してしまった。不動産の賃貸借を仲介する場合、業者は月額賃料1カ月分を超える手数料を取ってはいけないことになっている。ただ、募集に関して要した広告料などは別途請求できる、という例外規定がある。
かつて、賃貸住宅が貸し手市場であった時代には、仲介業者は借り手からこの1カ月分の仲介手数料のみを得ていた。ところが、今や借り手市場である。賃貸住宅のオーナーは自分のアパートやマンションに少しでも早く借り手を付けてほしい。そこで、あらかじめ仲介業者にADの支払いを約束する。「借り手を付けてくれたら、広告料(AD)として家賃の2カ月分をお支払いする」といった具合だ。
ADは1カ月から2カ月分に設定するのが通常。ただ、不人気エリアになると3カ月以上も珍しくなくなる。この場合、仲介業者はそういう住戸に借り手を付けると、本来の1カ月分に加えてAD2カ月分を合わせて3カ月分の実収を得ることになる。そうなれば、業者としては自然とADの付いている住戸を優先的に紹介することになる。
このADという業界独特の取引慣行により、賃貸住宅の表面的な募集価格は変わらなくても、オーナーに入る賃貸料は確実に減っている。
■築2年の湾岸タワマン、購入価格から400万円下げないと売れない
私のところには、エンドユーザー(一般消費者)さんからマンション購入に関するさまざまな相談が寄せられる。最近寄せられたある相談は、江東区の湾岸エリアにあるタワーマンション購入に関するものだった。その物件は建物が竣工して約2年。元の購入者が竣工直後から新築購入価格から300万円上乗せして売り出したが、1年以上買い手がつかなかった。そこで最近、購入価格より200万円下げた価格で再度売り出した。私への相談者は、そこからさらに200万円下げた価格で交渉してみたが、どうやらまとまりそうだという。まあ、ベストではないがベターなラインだろう。
実のところ、この5年間は「値上がり期待」で新築マンションを購入するケースが多くあった。そういう物件は、ほとんどが竣工直後から中古市場で売り出される。運のいい物件は、新築購入価格の2割から3割増しくらいで売買が成立した。ただ、私の見るところそういう「成功例」はほんの一部。少なくない住戸が前述の例のように、1年以上も中古市場に滞留を続けて、結局は値引きで「原価割れ」に追い込まれている。
そういった値上がり期待で新築マンションを購入した人々は、ほとんどが富裕層である。前述のケースのように1年以上も売却できなくても特段焦った様子は見られない。つまりは含み損が生じても、それに十分耐えられる人々が、この5年間に値上がり期待で新築マンションを購入していたのだ。
そのせいか、ここ2、3年の間に建物が完成した都心の新築タワーマンションには、やたらと空室が目立つ。値上がり期待や賃貸運用のために購入したものの、転売や賃貸付けがうまくいかずに空室のままになっている住戸が多いのだ。
ここ5年ほど、都心で供給された新築マンションのボリュームは、おそらく本来の健全な「住むため」の需要数を相当上回っている。しかし、このような値上がり期待や賃貸運用を目的に購入する需要があったので、販売は順調に進んだ。
ところが実情を見ると、多くの物件が中古市場で滞留をしていたり、賃貸募集を行っているのにいつまでも借り手が見つからない状態の空室になっている。
現在、私が定点観測でウォッチングしている都心や湾岸にある築3年以内のタワーマンションで、中古の売り出し物件がかなりのボリュームに膨らんでいる。需要と供給のバランスをみれば、ほぼ完全に供給過剰である。
しかし、価格は可視的に下落していない。その原因は、何よりも供給側が売り出し価格を下げない、ということだろう。つまり、売れなくても焦っていない、ということ。
一方、実態は供給過剰であることも確か。こういったアンバランスな状態が半永久的に続くとは考えにくい。
■東京五輪は関係ない
2020年には東京五輪が開催される。多くの人は、それを機に東京の不動産価格が下落する、という根拠のない都市伝説を信じている。私に言わせれば、東京五輪の開催は住宅の需給に直接関係しない。五輪の開催云々はただ、気分的な問題だ。あるいは、ロンドン五輪の後でかの地の不動産価格は上昇したので、東京五輪の後でさらに不動産が高騰する、ということを唱える人もいる。実に幼稚な議論だ。
不動産の価格というものは、基本的に需要と供給の関係で決まる。もっとわかりやすく言えば、経済成長しているエリアでは不動産への需要が高まるので、価格が上昇する。イギリスは日本と違って緩やかながらも経済が成長している。人口も増えている。日本経済はほとんど成長していないし、人口は減る一方だ。
東京でも住宅の余剰感が鮮明になれば、本格的な下落が始まるだろう。余剰の実態は今もハッキリしているので、あとは人々がそれを明解に認識するかどうかの問題である。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)
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