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59歳・年収500万円、突然雇い止めされた非常勤講師のマイルド貧困(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/146.html
投稿者 赤かぶ 日時 2018 年 8 月 08 日 17:19:05: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

59歳・年収500万円、突然雇い止めされた非常勤講師のマイルド貧困
https://diamond.jp/articles/-/176761
2018.8.8 黒田透:ライター  ダイヤモンド・オンライン


写真はイメージです Photo:PIXTA


格差や貧困問題の是正が放置されているうちに、「アンダークラス(パート主婦を除く非正規労働者)」が900万人を突破、日本は「階級社会」への道を突き進んでいる。中でも「中間階級」が崩壊、新たな貧困層が生まれてきた。それは、どん底一歩手前の「マイルド貧困」とも呼べる新たな階級だ。そこでDOL特集「『マイルド貧困』の絶望」第4回は、突然雇い止めを通告された59歳の非常勤講師を追った。(ライター 黒田透)

日大の2学部で突然
非常勤講師15人が雇い止めに


 アメリカンフットボールの危険タックル問題で注目を浴びた日本大学。だが、実は、もう一つ大きな問題を抱えている。スポーツ科学部と危機管理学部で、英語の授業を担当する非常勤講師15人が、2018年3月で雇い止めとなったのだ。

 この二つの学部は、16年に新設されてばかり。非常勤講師らは採用時、16年4月から4年間の雇用を約束されていたにもかかわらず、昨年11月に大学側が突然、雇い止めを通告。首都圏の非常勤講師らで組織する「首都圏大学非常勤講師組合」を通して抗議したものの、最終的には解雇されてしまったのだ。

 背景には、今年4月以降、非常勤講師たちを容易に切れなくなるという“ルール”が適用されたことにある。そのルールとは、通算5年を超えて働く有期契約労働者が希望すれば、無期雇用にしなければならないというもの。そこで慌てて、雇い止めを強行したものとみられている。

 非常勤講師たちにとっては、突然、雇用を奪われ、収入が絶たれるのだから死活問題。現在、雇い止めにあった非常勤講師らが大学を相手取り、裁判を起こしている。

59歳にして2度目の雇い止め
収入は大幅ダウン


 真砂久晃さん(59歳)も当事者の一人。日大スポーツ科学部と危機管理学部で、非常勤講師として英語を教えていた。


日本大学の2学部から雇い止めされた真砂久晃さん Photo by Toru Kuroda

「昨年11月の説明会で唐突に通告されました。そんな時期に言われても、既にどの大学も翌年度の非常勤講師の枠は埋まってしまっています。失った収入をカバーするのは厳しい。住民税も、前年度の収入で計算されますから大変です。書類には、『20年3月まで継続して担当してください』と書かれてあったのに…」

 真砂さんは、昨年、約30年間勤めた日大の工学部でも雇い止めに遭っている。工学部から突然、「来年度は、契約を半期空けてくれませんか」と言われたのだ。理由はやはり継続雇用による無期転換を避けるためと見られる。 “クーリングオフ”を伝えてきたのだった。

「嫌ですと断ったら、『お疲れ様でした』と記念品を送られてきました(苦笑)。こちらはクーリングオフが嫌だと伝えただけで、働くのが嫌と言ってはないのに。30年近く働いてこんな目に遭うとは…」

 工学部に続いて、スポーツ科学部と危機管理学部を雇い止めされた分、真砂さんの収入は大幅ダウン。それでも日大の別の学部や、他の大学で英語の授業を合計14コマ教えているため、現在は月給42万円ほど。年収にして500万円ほどだ。

 とはいえ、非常勤講師はしょせんバイト扱い。額面の数字ほど、いい生活は期待できない。

「国民年金や国民健康保険など合わせて、年間50万円くらいの負担になります。また、家のローンが75歳まで残っています。非常勤講師なので、ボーナスが出るわけでも、退職金が出るわけでもありません。そういう意味で、老後はやはり不安です。年金も少ないでしょうし。ただ非常勤講師は、大学によって75歳や80歳まで働けます。私は70歳までは働くつもりです」

 既に、子どもが社会人になり働いてることもあり、学費や子育てにかかる費用はないのが救いだ。

研究を志して非常勤講師から
専任講師を目指すがかなわず


 真砂さんが非常勤講師の世界に入ったのは、大学時代に専攻していた英文学の研究者を志したから。ただ、周知のとおり、大学で研究者になるのは狭き門だ。その入り口となる専任講師にならないと、准教授や教授といったその先が見えない。非常勤講師として大学で働きながらそのチャンスをうかがった。

「1990年、31歳のときに非常勤講師になりました。指導教授が、知り合いの日大工学部の先生から『うちに英語の授業に来てくれる人はいませんか』と聞かれ、私に話がきたのです。キャンパスが福島県郡山市で、自宅のある所沢市から遠かったので迷いましたが、結婚することが決まったので決断しました」

 当初は、非常勤講師勤めも待遇がよく、遠方からの通勤ということもあってか、グリーン車代が出ていたという。

「郡山で朝、2コマ教えて、夜は東京の予備校で教えていました。平成の初め頃はまだまだ学生が多くて、大学の学部が次々と新設されていたこともあり、英語の非常勤講師の仕事は引く手あまたでした。その後、順調に他の大学でも担当することが決まり、非常勤講師として食べていけるようになりました」

 しかし、専任講師の夢には届かなかった。

「論文を書いたり、何度か大学の専任講師に応募したりしたのですがダメでした。40代くらいまで頑張ってみましたが無理で、非常勤講師でやっていかざるを得ないなと思いました。不安ですか?そりゃ、少しはありましたが、ある程度授業のコマ数を持っていたので、なんとか食っていけるかなぁとは思っていました」

 それでも、非常勤講師の立場は不安定だ。雇用契約は基本的に1年契約、毎年更新するという。通常であれば、よほどの問題を起こさない限り更新されていくが、カリキュラムの変更でせっかく得た授業を失うこともあるし、今回のように突然雇い止めに遭う可能性もある。

「例えば、月曜日に行っていた英語の授業を水曜日に変更しますと言われても、簡単には対応できません。他大学の英語の授業と被るケースもあるからです。過去に何度かそういうことがあり、担当コマ数が減りました」

30歳前からのスタートで
年収200万〜300万円がゴロゴロ


 非常勤講師の道を選ぶ人の多くが、研究者を志している。ただし、大学院の修士課程や博士課程で学んだ後に非常勤講師になるため、ほとんどの人が30歳前のスタートとなる。

 英語など語学系の講師ならコマ数をもらえるチャンスも多いが、それ以外の専門科目となると、そもそも担当できるコマ数自体が少ない。そのため、年収200万〜300万円の非常勤講師はゴロゴロいる。しかも、教授はおろか専任講師にすらなれる保証はない。

「研究者、非常勤講師という選択をしたころ頃は、まだ若いってこともあったんでしょうね、楽天的でした。今、過去の自分に何か伝えることができるとしたら、『そんなに甘くないよ』と言いたい」(真砂さん)

 真砂さんはまだ恵まれている方だが、それでも常に不安が付きまとう。そのため老後の生活に備えて節約を心がける。

「昼飯はコンビニ弁当を買うこともありましたが、今はウィダーインゼリーとかソイジョイといったもので空腹をごまかしています。交通費も出ますが、回数券を買うようにしていますし、買い物はポイントが貯まるものを使っています。服はほとんどユニクロです」

 仕事終わりの一杯がささやかな息抜きだったが、今では自宅飲みが多い。

 60歳は目の前だが、働き続けないといけない。「日々の授業で喉はかれますし、腰も痛めます。それでも働かないといけません」

 日大との裁判も続いている。真砂さんに、身も心も休まる日はまだまだ訪れそうにない。



 

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コメント
 
1. 2018年8月08日 19:41:22 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[1184]

>月給42万円ほど。年収にして500万円

既に子どもが独立しているのであれば

絶対的にはもちろん

相対的にも貧困ではない

 


 


いずれにせよ賃金・報酬は、需給で決まるから

政治が介入しても、あまり良いことはない

韓国のように実体経済を無視した左翼のポピュリズム政治が先走ると、悲惨なことになる


http://www.asyura2.com/18/hasan127/msg/390.html?c3#c3
「格差拡大」統計に衝撃を受ける韓国政府
「庶民重視」で最低賃金を大幅に引き上げたのが裏目


 

関西6府県の最低賃金、上げ幅最大
兵庫・和歌山は目安上回る
関西
2018/8/8 18:21
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 関西6府県の地方最低賃金審議会による2018年度の最低賃金(時給)の答申が8日出そろい、引き上げ幅は25〜27円となった。6府県すべてが時給のみで示すようになった02年度以来で最大の上げ幅。兵庫と和歌山は中央最低賃金審議会の目安を1円上回った。10月1日に適用される予定だ。

 936円となる大阪は4年連続で上げ幅が20円以上となり、この4年間に98円(12%)高くなった。最低賃金に近い水準の給与で働く非正規社員らの所得を増やし、個人消費の拡大からデフレ脱却につなげたい国の方針が背景にある。

 兵庫は目安を上回る27円の引き上げで871円となった。兵庫労働局は「若年層の流出を食い止めるため、大阪府との差が広がらないよう考慮した」と説明する。

 りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「消費底上げに一定の効果はある」とする一方で、「資源価格の高騰で中小企業の収益悪化が懸念されている。人件費の上昇は一段と経営を圧迫する。作業工程の見直しなどで生産性を高める工夫が必要だ」と指摘する。


 

最低賃金、目安超え全体の4割 人材流出を懸念
経済
2018/8/8 18:39日本経済新聞 電子版
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 国の審議会が示した目安を超えて最低賃金を引き上げる動きが地方で相次いでいる。8日時点で答申を終えた43都道府県のうち、目安を超えたのは19県と全都道府県の4割にのぼる。2017年は4県だった。政府が掲げる3%の引き上げ目標にあわせて目安自体も大幅な引き上げが続いたため目安を超える例は減っていた。一転して目安以上に引き上げる例が増えている背景には地方で深刻化する人口流出の懸念がある。

 最低賃金は企業が従業員に支払わなければならない最低限の時給をさす。毎年、国の審議会が都道府県をA〜Dランクに分け引き上げ目安を定め、都道府県が具体的な金額を決める。現在の全国平均は848円だ。

 政府は3%ずつ最低賃金を引き上げ、全国平均1000円にすることを目指している。18年度の全国平均の目安も3%の引き上げ(26円)で決着し、A〜Dで23〜27円のランクに分けた。

 8日までに引き上げ額を決めた43都道府県のうち、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、徳島、香川、愛媛、佐賀、熊本、大分、鹿児島、沖縄の19県が目安を上回って決着。目安より上振れする都道府県は減っていたが、4年ぶりに増えた。

 なかでも愛媛、佐賀、熊本、大分、沖縄の5県は目安より2円上昇。現在まででDランクの目安の23円上げを決めた県はない。全都道府県の結果は10日にもまとまる見通しだ。

 2円上振れして25円の引き上げが決まった愛媛県の経営者協会は「地方の中小企業には景気回復の波が来ず景況感もよくない。このまま引き上がれば廃業に追い込まれるケースも増える」と話す。長野では目安通り26円の引き上げとなった。上振れしなくても審議会では使用者側の委員は4人全員が反対した。

 上振れが相次ぐ背景には深刻な人手不足がある。九州地方の労働者委員は「引き上げなければ都市部や近県に労働者が流れてしまう。実際の時給は最低賃金を大きく上回ることが多く、企業は賃金を上げる余力はまだまだある」とみる。

 18年6月の有効求人倍率は1.62倍と44年ぶりの高水準だ。16年7月には全都道府県で1倍以上となり、全国的に人手不足の様相は強まっている。景気回復で売り手市場が一段と進めば、賃金が低い県に働き手は集まらず、産業の空洞化を引き起こす。

 実際に人口の流出は深刻だ。総務省の住民基本台帳に基づく17年の人口移動報告によれば、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入超過数は約12万人で人口集中が一段と進む。一方、東京圏と福岡、愛知、大阪以外の40道府県はいずれも転出超過だ。

 新潟県内のある中小企業経営者は「地方の人材が首都圏に流出するなか、人件費は経営の大きな負担になっている」と話す。「経営者側は生産性を高める必要があり、支援制度が求められる」(新潟労働局)との声も聞こえる。

 


 


韓国版「働き方改革」でサービス業に明暗 食品販売好調、飲食店は苦戦
週52時間労働制で強まるだんらん志向
小売り・外食 朝鮮半島 アジアBiz
2018/7/17 17:30日本経済新聞 電子版
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 【ソウル=山田健一】7月から労働時間の上限が従来の週68時間から52時間に引き下げられた韓国で、サービス業の中で収益を巡り明暗が分かれている。7月に入り、生鮮食料品や加工食品の販売が伸びる一方、飲食店は来客数の減少に悲鳴をあげる。韓国企業で残業を敬遠する雰囲気が広がるのと並行して、家族だんらん志向が強まっていることが背景にある。

 「夕方の退勤時刻を迎えたら、さっさと帰宅しようと考える社員が増えた…



2. 2018年8月08日 19:49:51 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[1185]

#この記事とは異なり、東洋経済が得意とする、非正規貧困の問題は、依然として、継続しているが

景気と待遇の改善で、拘束の厳しい正規よりも非正規を選好するものが増えてきている


ただし、これはバブル崩壊以前の、自由を望むフリーター増加時代と違い、

長時間労働を嫌う、女性&高齢労働者の増加によるものではないか


 


「自由だから非正規」4割増 待遇改善も影響 労働力調査 多様な働き方なお課題
経済
2018/8/7 19:26
 働く時間の自由度を求めて非正規雇用を選ぶ人が増えている。総務省によると、4〜6月時点で「都合のよい時間に働きたいから」非正規で働く人は592万人で、5年前から44%増えた。人手不足を受け、賃金が上昇したり厚生年金に加入できたりと待遇改善が進んだことが大きい。企業は働き方改革を急ぐが、非正規・正規ともに多様な働き方の実現にはなお課題が残る。

画像の拡大
 総務省が7日発表した4〜6月の労働力調査(詳細集計)によると、パートや派遣社員といった非正規雇用は前年同期より4%多い2095万人だった。
 非正規で働く主な理由は「家計の補助・学費等を得たいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」などを抑え、「自分の都合のよい時間に働きたいから」が最も多く全体の約3割を占めた。ただ、この5年で24%減ったとはいえ「正規の職員・従業員の仕事がないから」非正規で働く人も259万人いた。
 非正規雇用が増えている理由のひとつは人手不足を背景にした待遇の改善だ。企業は、正社員よりも転職が活発な非正規の賃金を引き上げてきた。6月の毎月勤労統計調査によると、パートタイム労働者の時給は1.8%増で、正社員ら一般労働者の所定内給与は0.9%増にとどまった。
 非正規の賃金上昇ペースが正社員を上回り、その差は縮小している。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2017年の非正規の賃金は正社員の66%で5年前より4ポイントも上昇した。
 リンガーハットはパート店長を20年に現在の約5倍の150人にする。店長には時給を25〜50%増やし、月に3万5千円の手当も付ける。正社員店長は通常2〜4店舗を担当するがパートは原則1店舗。就労時間も短く、転勤もない。
 また、少数だが人工知能(AI)の開発など専門スキルを持ち、月収数百万円という非正規もでてきている。
 勤務時間を自由にできるのも非正規の魅力だ。スーパーのいなげやは平日しか働けない人も積極的に採用。「働く人の都合に合わせて人手確保につなげたい」と成瀬直人社長は話す。
 「派遣でもやりがいがあり時給もよい仕事が増えた。定時に帰れて家庭と仕事を両立できる今のほうが、正社員の安定よりも魅力的」。広告会社の管理職だった女性(40)は昨年、ウェブコンサルティングをする派遣社員に転じた。
 非正規の弱点だった将来の保障も充実しつつある。パートタイムの非正規も16年10月、従業員501人以上の企業のうち、労働時間が週20時間以上、月収が8万8000円(年収約106万円)以上などの要件を満たす人を厚生年金保険に加入させるよう、適用の対象が広げられた。
 厚生労働省によると18年3月時点のパート労働者の加入者数は38万2841人と、想定の25万人を大幅に上回った。保険料は労使折半。日本総合研究所の山田久主席研究員は「企業は保険料負担より労働力確保を優先している」とみる。
 しかし非正規は安全網がまだ脆弱だ。08年のリーマン・ショックで景気が急激に悪化すると、製造業の期間工らの雇い止めが相次いだ。人材投資も正社員に偏りがちだ。
 一方、正社員も、時間でなく成果をもとに賃金を決める脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)などが自由な働き方の一つとして期待されるが、まだこれからだ。
 みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「同一労働同一賃金の徹底で正規・非正規の格差をなくしつつ、人材の流動化を進めていくことが地道な解決策だ」と指摘する。

 

月収12万円で働く39歳男性司書の矜持と貧苦
勤続15年でも給与水準は採用時からほぼ同じ
藤田 和恵 : ジャーナリスト 2018年08月08日

努力や経験が評価されないことが残念だと話すショウタさん(編集部撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
今回紹介するのは、「記事(48歳「市の臨時職員」、超ブラック労働の深刻)を拝読し、まさに自分たちのことだと思いメッセージさしあげました」と編集部にメールをくれた39歳の男性だ。
猛暑にもかかわらず、首都圏のある公立図書館は多くの人でにぎわっていた。ベビーカーに何冊もの絵本を入れた親子連れや、盆栽関連の書籍を抱えたお年寄り、制服姿の高校生グループ――。ロビーでは、「戦争パネル展」が開かれている。真っ黒に日焼けした子どもたちが、空襲を受けた後の地域の街並みを収めた写真に見入っていた。


この連載の一覧はこちら
館内の児童書コーナーは、すべての棚が大人の腰ほどの高さにしつらえられている。図書館司書のショウタさんが(39歳、仮名)が「うちでは、子どもの目線の高さに合わせて本を置いています」と説明する。

郷土に関する資料・書籍を展示するコーナーでは、自治体の花が選定された由来や、地元の地名にまつわるエピソードをよどみなく教えてくれた。

「民主主義の社会では、市民一人ひとりが自ら勉強をして、賢くならなければなりません。そのための知識や情報を提供し、市民の勉強を助けること。それが司書の役割です」

大学生のころ、ボランティア活動で知り合った図書館司書から教えてもらった言葉である。当時、大学では理学部で地学を専攻していた。この言葉が、専攻とは畑違いの司書を目指すきっかけのひとつとなり、そして、今も揺らぐことのない道しるべになっているという。

司書の仕事の「醍醐味」
ショウタさんによると、司書の仕事は「貸出・返却」のほか、図書館で購入する本を決める「選書」、利用者が探している資料や書籍を提供する「レファレンス」などがある。中でも利用者の求めに応じ、さまざまな事典や総覧、データベースなどを調べてどんぴしゃりの資料・書籍を探し出すレファレンスは司書の腕の見せどころだ。

「よくテレビに出てくる女の人が書いた、“なんとか、かんとかは正しい”という名前の本」――。こんなあいまいな情報を基に、経済評論家・勝間和代の著書『起きていることはすべて正しい』を探し当てたときは、おおいに感謝された。

また、芥川賞を受賞した本だと言われたが、断片的な内容などから推測して直木賞作品も併せて提示したところ、その中に利用者が求める本があったこともある。

「(利用者が)希望する本がない場合でも、『代わりにこんな本はどうですか、こんな資料ならありますよ』と提案することも、大切な仕事です」。人と本が出合う――。そうした機会を提供することが、司書の仕事の醍醐味だという。

しかし、すべての司書がこうした水準に達しているわけではない。ショウタさんは勤続15年。日本図書館協会が主催する研修や、知り合いの司書たちによる勉強会に参加するなどして、自分なりに研鑚を積んできた自負もある。

その自負とは裏腹に、ショウタさんは1年ごとに契約更新を繰り返す嘱託職員。週4日勤務で、毎月の手取り額はわずか12万円ほどだ。給与水準は採用時からほとんど変わっていない。自治体の正規職員には支給されるボーナスも退職金もなし。健康診断の費用も自己負担だ。

「1年目の新人司書と、ベテランでは当然、スキルに違いがあります。でも給与は同じ。お金だけの問題だけではなく、努力や経験がなにひとつ評価されないことが残念です」

ショウタさんは自嘲気味に続ける。「僕の場合、持ち家に母と同居している“パラサイトシングル”だからなんとか生活できている。一人暮らしや結婚なんて、どこの別世界の話?という感じです」。

いずれは正規雇用の司書になれると考えていた
物心ついたとき、すでに両親は離婚。ショウタさんを引き取った母親は正社員として働いており、収入は安定していた。中学、高校は私立の有名進学校に進むこともできたという。

「頑張ってくれた母や、忙しい母に代わって僕を育ててくれた祖母に感謝しています。父も誕生日には本を贈ってくれましたし、(父を)恨んだことはありません」

国立大学を卒業後、地元の公立図書館に採用されたときは、非正規公務員とはいえ、念願の司書になれるという喜びで、待遇などは二の次だった。追って採用試験に合格すれば、いずれは正規雇用の司書になれると考えていたという。

しかし、現実は厳しかった。地元にこだわらず、全国の自治体で正規職員が募集されるたびに試験を受けたが、いずれも不合格。多くの自治体が30歳以下、35歳以下など受験に年齢制限を設けており、ぎりぎりまで挑戦を続けたが、ついに希望はかなわなかった。

文部科学省の社会教育調査によると、ショウタさんが働き始めた当時、全国の各自治体で採用された司書のうち、正規公務員の割合は7割近かった。彼がいつか正規採用されると期待したのも無理のない話である。しかし、その後、正規雇用の司書は減り続け、2015年度には29.6%にまで落ち込んだ。ここ数年、正規雇用の募集人員は全国で年間数十件にすぎないといわれる。

現在、ショウタさんの職場は8割が非正規公務員。このうち半数近くが司書資格を持っている。正規公務員の中にも司書はいるが、多くは3年ほどで異動していくという。

ショウタさんは「オーバーワークの中で頑張っている正規公務員もいるので、彼らをバッシングするつもりはありません」と念押しする。そのうえで、選書や個人情報の取り扱いにおいて、正規職員のほうが軽率な対応をしがちなのは事実だという。

「市民からリクエストがあると、(嫌韓、反中などの)ヘイト本や、いわゆる萌え系の漫画などを必要以上に購入する職員もいます。市民にとって必要かどうかよりも、(リクエストした)市民からクレームを受けることを心配しているようです。

利用者がどんな本を借りたかについては、たとえ家族でも本人以外からの問い合わせに答えるべきではないのですが、正規職員が安易に対応してしまったケースもあります」

「労働組合」に助けられてきた
これまで、ショウタさんは働き続ける中で、たびたび労働組合に助けられてきたという。

10年ほど前、祖母の体調が悪化。ちょうど同じころ、労働組合が自治体側に働きかけ、非正規職員も介護休業を取得できるよう、制度を整えたのだという。これにより、当時はまだ働いていた母に代わり、ショウタさんが休暇を取ることができた。

「祖母に最期の恩返しができたのは、労働組合のおかげ」。ショウタさんはこれをきっかけに労組に加入。最近は、非正規職員たち自らが中心となって自治体側と交渉し、有給休暇の時間単位取得を実現させた。すでに、非正規職員向けにこの仕組みを導入している市町村の実例を調べて提示することで、当初、消極的だった自治体側を動かしたのだという。

「自分たちの労働条件を改善するのに、棚ぼたで待っているだけではダメなんです」とショウタさん。もっと大勢の同僚に組合員になってほしいが、雇い止めの心配もあるのだろう、なかなか加入にまでは至らない。それでも、非組合員の同僚が子どもの学校行事や通院のために、時間単位で有休を申請している姿を見ると、誇らしい気持ちになるという。

ちなみにショウタさんが加入しているのは、個人加入できるユニオンである。正規公務員を中心とした自治労や自治労連傘下の労組ではない。職場には、自治労系の労組があるが、まだ彼が採用される前、雇い止めにされそうになった女性の非正規職員がこの労組に相談したところ「パートのおばさんのことなんて知らない」と門前払いされたのだという。

今、ショウタさんが心配しているのは、2020年4月1日から始まる「会計年度任用職員」制度だ。これにより、彼を含む嘱託や臨時、非常勤といった非正規公務員のほとんどが会計年度任用職員へと移行される。

文字どおり会計年度ごとの任用になるので、事実上「毎年解雇」になるうえ、任用のたびに試用期間を経なくてはならない。雇用条件によっては、大幅な賃下げになる職員もいる。

「この問題に対処するには、正規職員の労働組合とも連携していく必要があると思うのですが……」とショウタさん。今のところ、自治労系労組からの歩み寄りはないし、ユニオンの側も過去のわだかまりを払拭しきれずにいる状態だという。

待遇だけ見ると「失敗」だが…
図書館内を案内してくれたショウタさんはとても誇らしげだった。しかし、彼が正規採用される道はほぼ閉ざされたといっていい。今後、待遇が劇的に改善されることもないだろう。司書という仕事を選んだことについて、彼はこう語る。

「待遇だけ見ると、どうみても失敗。それでも、司書の仕事は天職だと思っています」

ふと、かつて司馬遼太郎が「図書館司書には、その自治体の最高レベルの職員を充てるべきだ」と語っていたという話を思い出した。出典を知りたくてインターネットを検索したが、どうにも見つけることができなかった。

だから、取材後、ショウタさんにレファレンスをお願いした。司馬はいつ、どこで、この話をしたのか、あるいはそれは私の記憶違いなのか――。

ほどなくして、ショウタさんからメールが来た。


司馬遼太郎のインタビューが掲載された週刊朝日増刊号(筆者撮影)
「もとは1971年の大阪市立図書館報に載った司馬さんのインタビュー『図書館と歩んだ私の青春』です。『週刊朝日増刊12/10号』(1997年)の『司馬遼太郎が語る日本?未公開講演録愛蔵版3』の304〜305ページに載っています。(雑誌は)すでに絶版ですが、うちは所蔵しています。ぜひ参考にしてください」

図書館司書の底力である。

あらためて雑誌を読んだところ、司馬は正確にはこう語っていた。

「自治体はまず最初に図書館をつくるくらいの気概を持たなければなりません。〜中略〜まず図書館を立派にしなければ街という感じがしませんね。それと、その市における最高の官吏に司書をやっていただけるといい」


3. 2018年8月08日 20:50:35 : 86wNaCGoz6 : eBgazD6EyTw[27]
>1
>政治が介入しても、あまり良いことはない

逆で、政治が介入した結果が非常勤講師の雇い止めになっていると理解しています
大学だけでなく教育機関は、じわじわと政府の忖度機関にされています
森友問題や日大の体質はその象徴にすぎません

他は、長文すぎて読んでいません


4. 2018年8月08日 22:36:58 : nLGiMiYrx6 : Pwd8svbsDZM[8]
>>1 (2)

ところで君はどういう雇用形態で働いているのかな? 常用雇用で大規模な企業や組織で働いているようには思えないのだが。

コメントあたり何十円で請け負って何とか生活の足しにしているんじゃないのか?


5. 2018年8月09日 00:31:55 : otqpMS8KKw : 9HFRWtdlYjY[63]
65歳を目前にした友人がいる。
某有名私大で週3コマの非常勤講師をしている彼は交通費含め1コマ9000円で切り売りしている。大手予備校を退職したが今は再雇用。非常勤と予備校講師を合計してもたいした額にはならない。
しかし年金では生活できないから自分の余命を仮定し、死ぬまでに必要な額を推定した結果70過ぎても働かざるを得ないという。
博士課程中退し、予備校講師をやりながら、かつては学術誌に寄稿し一般の月刊誌からも原稿を依頼されてきた彼も衰えた身体をおして働かざるを得ない。
若い世代はもっと悲惨だろう。

6. 2018年8月09日 11:04:16 : opbZbkSxSI : xqvkAuvg8Uw[119]

現在 日本の大学教育はこれら高学歴パートのオヂサン・オバサンによって

半分以上が賄われている 教育産業の実態は本当にブラックそのものだ

さらに

高学歴ルンプロは毎年かなり大量に生み出されている

毎年1万人も入学する医学部で国家試験に合格しないものが1割 千人
 
1万3千人が入学する薬学部では3割の約4千人が薬剤師になれない

歯学部には毎年2千5百人ほど入学して1/3が国家試験に合格できない

法科大学院も 大学院そのものが消滅しつつ

司法試験不合格による大量の「法務博士(専門職)」を世に送り出している

日本は現在ほんとうに悲惨な

行くあてのない「高学歴ルンペンプロレタリアート」時代を迎えている



7. 2018年8月11日 15:20:36 : LY52bYZiZQ : i3tnm@WgHAM[-7179] 報告
日本人の庶民はホームレス同然の生活をしている現状について【NET TV ニュース】内外タイムス 2018/06/14
.
JRPtelevision
2018/06/14 に公開
https://www.youtube.com/watch?v=PYvbmMgOExk

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8. 2018年8月11日 23:56:06 : fK40MmLWNs : j0k3UG88OWY[109] 報告
AIがとどめをさすことになりそうだ
9. 2018年9月06日 00:57:49 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[1449] 報告
http://www.asyura2.com/18/hasan128/msg/353.html?c5#c5

退職勧奨に応じた34歳男性がハマった袋小路「このままではホームレスになるしかない」
藤田 和恵 : ジャーナリスト 2018年09月05日

会社に言われるまま退職に応じていては、正社員になった意味が…(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
記録的な猛暑日が続いた7月末。テツハルさん(34歳、仮名)は就職活動に奔走していた。


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ある日の正午過ぎ、都内のオフィス街を汗だくで面接会場に向かっていたとき、ふいに足がもつれた。景色がゆがんで見えるのは、陽炎のせいなのか、それとも自分がめまいを起こしているのか。慌ててコンビニエンスストアを探し、冷房の利いた店内に飛び込んだ。

「軽い熱中症だったんだと思います。電車代を浮かそうと、1駅分歩いたせいです」

切られるとしたら非正規社員からだと思っていた
テツハルさんは今年3月、正社員として勤めていた会社を「強制的に退職させられた」。

退職の1カ月半ほど前、上司に別室に呼び出され、「来年度のわが社にとって、あなたは戦力ではないと判断しました」と告げられた。このときに手渡されたのが、A4判サイズ1枚の「合意書」。

合意書には、「退職勧奨」を承諾することや、退職金を通常の規定に上乗せした計72万円とすることなどが箇条書きされていた。加えて一連の合意内容を第三者に漏らさないこと、退職について聞かれたときは「円満退職」とのみ述べることといった旨も記されていた。

「会社の業績が悪いというウワサはあったんです。でも、切られるとしたら、高齢の嘱託社員や派遣社員の主婦の人たちからだと思っていました。同僚たちとは『僕たちは正社員でよかったね』と話していた矢先だったんです。だから、(退職勧奨は)寝耳に水で……。退職金72万円といっても、これじゃあ口止め料じゃないですか」。

正社員でよかった、という屈託ない物言いに、かすかな違和感を覚えた。しかし、非正規労働者が真っ先に切り捨てられる現状があるのもまた事実である。

この日、上司からはその場で合意書に署名するよう求められたが、テツハルさんは応じなかった。「こういうときはすぐサインしちゃだめだっていうじゃないですか」。署名する代わりに退職金のさらなる上乗せと、退職金の振込期日を明記するよう求めたという。

私は再び違和感を覚えた。

強制退職というからには、テツハルさんはてっきりこのような「不当解雇」には応じられないとして署名を拒んだと思ったのだ。しかし、実際には退職金の金額や期日についての交渉に入ったという。条件さえ整えば、退職勧奨自体は受け入れる――。少なくとも会社はそう受け止めただろう。

労働基準監督署で相談員に言われたこと
一方で、テツハルさんは労働基準監督署にも足を運んだ。しかし、相談員からはこう言われたという。

「(今回の退職勧奨は)倫理上は望ましくないが、法律上アウトとはいえません。(労使間紛争を解決する手続きである)労働審判は、結論が出るまで1、2年かかるし、実名で会社と交渉をしなくてはなりません。その間、気持ちよく働き続けることができますか?」

会社には逆らわないほうがいい――。そう言われていると感じた。テツハルさんは「労基署も僕の味方にはなってくれない。世の中、敵だらけだと思いました」と振り返る。

結局、会社は退職金の上乗せには応じなかった。上司から「君はまだ若い。3カ月くらいあれば(再就職先は)決まるだろ」と促され、テツハルさんはついに合意書に署名した。

都内で自営業を営む両親の下で育った。私大を卒業したときはリーマンショックの直前で、就職状況は「売り手市場」。複数の内定の中からアパレル関係の専門商社を選んだ。

正社員で年収約300万円。雇用条件は安定していたが、勤続3年目あたりから、上司によるパワハラが始まった。

後頭部をひっぱたかれる、背中を蹴られる、営業車を運転中に助手席から首根っこをつかみ上げられるなどの暴力を受けたほか、商品の色指定をめぐる行き違いがあったときには、同僚らの前で「お前、色盲か!」と罵倒されたこともある。

暴言や暴力は、理由なく受けることもあった。社内の担当部署に訴えたものの、結果は上司にばれて「チクリやがって」と怒鳴られただけ。たびたび「大卒は使えねえ」とののしられたといい、テツハルさんは「この上司は高卒。パワハラの根っこには学歴コンプレックスがあったと思います」という。

もともと細身だった体は2年ほどで10キロやせ、45キロ近くになった。精神的にも追い込まれ、最後は自ら退職した。

この専門商社を辞めた頃、世間はリーマンショックの影響で、景気は悪化。仕事探しは難航し、やむをえず派遣社員として働き始めた。年収は二百数十万円で、前職に比べて50万円以上のダウン。一方で職場の人間関係には恵まれ、心身はしだいに回復したという。

ところが、勤続4年を過ぎると、突然、派遣元の営業担当者から雇い止めをほのめかされるようになった。この担当者はあろうことか「あなたのような人が何年も派遣社員なんて仕事をしていていいんですか。このまま働いても、将来、時給が上がることもありませんよ」と説得してきたという。

「採用時は、『あなたのスキルとキャリアを生かしてください』と言っていたくせに」

テツハルさんがあきれて担当者の話を受け流していると、今度は、派遣先が閑散期に入ったという理由で、突然、1カ月間にわたり出勤日をゼロにされた。“兵糧攻め”である。結局は雇い止めに応じざるをえなかった。

典型的な雇い止めの手口
勤続4年を過ぎた頃の雇い止め――。これは、労働契約法18条に基づく「無期雇用転換」を逃れるための典型的な手口なのではないか。

同法18条は、アルバイトや派遣社員などの有期契約労働者が通算5年を超えて契約更新した場合、期間の定めのない無期雇用へと転換することができるとしている。しかし、無期雇用にしたくない一部企業が、無期雇用転換が始まる2018年4月より前に従業員を雇い止めにする「無期転換逃れ」が社会問題となっている。

私がそう指摘すると、テツハルさんは「そういう法律があることはなんとなく知っていました。でも、自分とは関係ない法律だと思っていました。派遣会社から何の説明もなかったですし……」と言う。

今年3月に退職した会社は、派遣社員を雇い止めされた後、ようやく見つけた仕事だった。年収も約280万円と比較的安定していた。しかし、正社員は簡単にクビにならないというテツハルさんの見立てとは裏腹に、同じ時期、彼を含む数人の正社員が退職勧奨を受け、辞めていったという。

テツハルさんは今も就職活動中だ。条件は、「ボーナスがあって、身分保障が手厚い」正社員だという。この間、インターネット上の転職サイトやハローワークを通して約200社に書類を出したが、面接できたのはわずか30社ほど。「年齢がネックになっていると思います」。

就職活動をする中で、3月まで勤めていた会社の求人情報を偶然、目にする機会があった。小規模な人員募集だったこともあり、自分の後任がアルバイトとして募集されていることを知ったという。テツハルさんは「自分の仕事はアルバイトでもできたと言われているような気がして、すごく不愉快でした」と憤る。

これまで仕事が長続きしなかった原因について、テツハルさんは「巡り会った上司たちがあまりにもヘンな人たちだったからです」と怒りを込める。そして、今後はパワハラや退職強要のターゲットにならないよう、「自衛策として、職場では業務以外の話はしないようにします」と続けた。

テツハルさんとのやり取りはスムーズで、社会人としても十分に有能に見えた。一方で、「怒りのポイント」が私とは微妙にずれていた。

テツハルさんの後任がアルバイトなのは、彼の担っていた仕事が取るに足らなかったからではなく、会社がより簡単にクビにできる、低賃金の非正規労働者に置き換えたからだ。非正規労働者が増える中、正社員並みの業務を任されるアルバイトや契約社員は大勢いる。

また、上司らの属人的な問題もさることながら、パワハラを見て見ぬふりをしたり、こそこそと無期転換逃れをしたりする企業側の構造的な問題のほうがより深刻なのではないか。

なにより、会社に言われるまま退職に応じていては、正社員になった意味がない。

守ってくれる労働組合なんてなかった
そう伝えると、テツハルさんはこう答えた。

「抵抗しようにも、(守ってくれる)労働組合なんてありませんでした。個人で入れるユニオンとかいうのがあると聞いたけど、どういうところかよく知らないし。どっちにしても会社とやり合えば、時間と手間がかかりますよね。それよりも嫌なことは一刻も早く忘れたいんです。新しい仕事をして、嫌な記憶から早く逃れたいんです」

失業から5カ月余り。猛暑が一段落した今も、まだ次の仕事は見つからない。

「このままではホームレスになるしかない」

そう不安を漏らしていたテツハルさんからは、取材後もLINEが届いた。

「(約束の)期日に結果を教えない企業は最悪」

「私はやはり社会から死を宣告されているのでしょうか」

進むも地獄、退くも地獄――。テツハルさんはそんな袋小路にはまっている。

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