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黒田日銀が「デフレ克服」を諦めて消費増税実現に舵を切った可能性 黒田発言を丁寧に読み解く
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56872
2018.08.07 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
視点を変えてみれば…
黒田日銀総裁が先週火曜日(7月31日)に公表した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を巡って、様々な解説やコメントが交錯している。そもそも原典が意見の異なる日銀審議委員たちの合作でレトリック(修辞学)も多いだけに、様々な解説にはそれぞれ傾聴に値するポイントがある。だが、筆者はそれらの解説とはちょっと違った視点があってよいと感じている。
それは、この「金融緩和」が、目的の面でも、手法の面でも、アベノミクスの3本の矢のひとつとして始まったものとは異なるものに変質しつつあるという視点だ。
どういうことかと言うと、新たな「金融緩和」は、当初の目的だった「デフレ経済からの脱却」を脇に置き、むしろ、来年秋に迫った、税率を10%に引き上げる消費増税の3度目の延期をさせないことに主眼を置いたものに生まれ変わりつつあるということだ。
そして、政策目的を実現するための方策も、当初の「量的・質的金融緩和」が限界に直面し、これを縮小。代わりに、マイナス金利の深掘りの可能性を含む伝統的な金利調節を主軸に据えざるを得ない状況に陥っていると言えるだろう。
だが、デフレ脱却が重要なテーマでなくなり、経済が危機対応の金融政策を必要としない段階に到達したのならば、円相場の安定に目を配りながら、金融政策の正常化を目指すのが常道のはずである。頑なに過度な金融緩和を続けることは弊害を伴うので、我々は金融政策が歴史的な失敗を犯さないか、しっかり注視していく必要がありそうだ。
黒田発言を読み解く際に、注意すべきこと
最初に、お断りしておく。このコラムは、経済ジャーナリストとしての取材をベースにした筆者の個人的見解に基づくものだ。筆者が社外取締役をつとめるゆうちょ銀行の経営や立場とは一切関係ない。
さて、本題に入ろう。まず、あの記者会見の黒田総裁発言を振り返っておこう。紹介はポイント部分に限るので、全体に興味のある読者は、日銀の公式議事録を参照してほしい。リンクは下記の通りである。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2018/kk180801a.pdf
黒田総裁は冒頭で、「強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワードガイダンスを導入することにより、『物価安定の目標』の実現に対するコミットメントを強めるとともに、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置を決定しました」と大見えを切った。
さらに、「『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置について説明します。長短金利操作、いわゆる『イールドカーブ・コントロール』に関しては、短期金利・長期金利とも、基本的に、これまでの水準から変更ありません。すなわち、短期金利については、日本銀行当座預金のうち 政策金利残高に−0.1%のマイナス金利を適用する方針を維持することを決定しました。長期金利についても、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、 長期国債の買入れを行う方針を維持しました」と強調した。
黒田発言を読み解くにあたって注意すべきなのは、伝統的に、総理の解散発言と並んで、日銀総裁の公定歩合(金融政策)を巡る発言は「ウソをついてよい」とされてきたことだ。近いところでは、日銀は2016年1月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の導入を決めたが、黒田総裁が決定直前まで国会証言などで「(マイナス金利導入は)検討していないし、考えが変わることもない」と否定し続けた例がある。
「目的達成は難しい」と認めている
そこで、今回の総裁発言だが、日銀がこの日公表した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」や「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を併読すれば、黒田総裁が尽くしたレトリックをある程度推し量ることができる。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/k180731a.pdf
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1807a.pdf
レトリックの第一は、黒田総裁の冒頭の大見えだ。「『物価安定の目標』の実現に対するコミットメントを強める」という発言である。
というのも、「物価安定の目標」、すなわちデフレ克服について、今回の展望レポートは、今後の物価上昇率の見通しを悉く下方修正しているのだ。2018年度は従来の前年度比1‣3%から1‣1%に、2019年度は1・8%から1・5%に、2020年度は1・8%から1・6%に、といった具合である。しかも、いったい、いつになったら「2%」を達成できるかの目途を一切記していない。
この点について、総裁自身も歯切れが悪い。記者会見で「日本銀行としては、マクロ的な需給ギャップがプラスの状態が続くもとで、企業の賃金・価格設定スタンスが次第に積極化し、家計の値上げ許容度が高まっていけば、実際に価格引上げの動きが拡がり、中長期的な予想物価上昇率も徐々に高まるとみています」と、実現時期の目途の無い迂遠な道のりを希望的観測として述べるにとどまった。
はっきり言えば、当分の間、消費者物価の前年比2%上昇の実現は難しいと認めているのである。
こんなあやふやな理屈で、「『物価安定の目標』の実現に対するコミットメントを強める」という発言を真実と受け止めるのは無理だ。デフレ脱却というテーマは、もはや黒田日銀の政策目的の主眼から外れていると読むのが素直だろう。
現在の金融政策の源流となる「量的・質的金融緩和」策を黒田日銀が決定したのは、2013年4月のこと。当時から、大胆な金融政策として、アベノミクスの3本の矢のひとつに数えられていた。
ところが、あれから5年以上が経つのに、成果は上がっていない。物価上昇率はいまだに目標の「2%」にほど遠い。
振り返れば、安倍政権の誕生まで、金融政策はデフレ下の需要不足対策として無力だとの見方が経済学者やエコノミストの間では多かった。そちらの説が正しかったと言われかねない状況なのに、黒田日銀は、この問題を脇に置いて、釈明もせず、そうした議論にほっかむりしている。
株式市場からも批判の声が
第二が、「『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置を決定しました」という発言だ。前述のように、黒田総裁は「短期金利・長期金利とも、基本的に、これまでの水準から変更ありません」「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う方針を維持しました」と、あえて「基本的」とか「程度」という言葉をちりばめた。こういった言葉も、レトリックの一部とみなすべきだろう。
この直後に、黒田総裁は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一連の施策をことごとく弾力化することを淡々と説明した。例えば、長期国債の買入れ額について「保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する」と発言。すでに年間40兆円程度にとどまっている現状よりも、さらに減らす可能性を示唆したのだ。
長期金利の変動幅も、現状の「概ね±0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置いている」といい、0.2%程度まで容認する姿勢に転じた。
さらに、ETF(上場投資信託)やJ−REITの買い入れもそれぞれ年間約6兆円、約 900 億円という、これまでの保有残高拡大方針に拘らず、これからは「市場の状況に応じて買入れ額は上下に変動し得る」と軌道修正した。さらに、ETFの買い入れを日経平均株価連動型からTOPIX連動型にシフトする方針も明らかにしている。
こうした量的・質的金融緩和の見直しは、すでに、それらの策の限界や弊害が鮮明になっていることを、日銀が無視できなくなったことの表れだ。例えば、債券市場でも株式市場でも、日銀が流通市場から購入し過ぎて、それぞれの市場が機能しなくなっているばかりか、株式市場ではETF購入が「アベノミクスの成功や株高を演出する道具になっている」といった批判まで飛び出す始末だ。
それゆえ、今後、日銀が金融緩和を強化する局面が到来したとしても、量的・質的金融緩和を強化する可能性は乏しく、今後は次第に収束に向かう可能性が大きい。今後の黒田日銀の金融緩和策の主たるツールは、マイナス金利のふかぼりも含む伝統的な金利調節に回帰していくと筆者はみている。
ただ、これまでは購入の規模やパースが尋常でなく、それぞれの市場の価格形成をバブル化させてしまっているので、いきなり過激な撤収策を打ち出すと、市場をいたずらな混乱に陥れないから、黒田日銀は微調整を装わざるを得なかったとみるのが妥当なところだろう。
このように考えれば、日銀は、輸出頼みとは言え経済が安定し、物価上昇率2%という目標には届かないものの、デフレ克服も一定程度は成果があったので、2013年4月に始めたデフレ克服策(量的、質的金融緩和)に終止符を打ち、それらの施策の幕引きにかかったと言って良いだろう。
真の狙いは…?
では、いったい何のために、いつまで、黒田日銀は金融緩和を続けるのだろうか。
手掛かりになるのは、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和の持続性を強化する措置」に盛り込んだ「フォワードガイダンス」(将来指針)だ。
そこには、「2019 年10月に予定されている消費税率引上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している」と明記さている。
「消費税率引き上げ」という言葉を明記したことから、これまで2度にわたって、国政選挙での支持率などを重視する安倍政権によって先送りされてきた消費増税が、今回は延期されることのないように、金融政策で経済を下支えしていくという黒田日銀の問題意識がはっきりと伺える。
こうした記述について、エコノミストの中には、黒田総裁が安倍首相に対し、金融緩和継続と引き換えに消費増税の断行を迫ったものだといった見る向きもある。財務官僚出身の日銀総裁らしい話法だというのである。
筆者が気掛かりなのは、フォワードガイダンスが厳格に日銀の手足を縛るものである点だ。
このままでは過度な金融緩和の継続に拘り、金融政策の正常化が遅れ、いざと言うときに打つ手がないという事態を招きかねない。欧米の中央銀行はすでに金融引き締めに転じており、内外の金利格差から円相場が混乱するリスクに早急に備えておくべきだし、放漫財政を助長する金融緩和の弊害にも目を配るべきだろう。米国発の貿易戦争や途上国の通貨危機といったリスクにも注意を払う必要がある。
潜在成長率の低下が顕著なので、金融緩和を終了したとしても、金利水準自体はそれほど上昇しないだろうが、消費増税の断行は重要であっても、本来的な日銀の使命ではない。黒田総裁には、日銀固有の使命を見据えた金融政策の運営を心掛けてリーダーシップを発揮してほしいものである。
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