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日本初の有人宇宙飛行を目指すベンチャー企業「スペースウォーカー」の挑戦
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10719.php
2018年8月3日(金)14時40分 鳥嶋真也 ニューズウィーク
スペースウォーカーが開発を目指すスペース・プレーンの想像図 (C) SPACE WALKER
日本の宇宙ベンチャー企業「スペースウォーカー」(SPACE WALKER)は2018年8月1日、都内で記者会見を開き、日本初の有人宇宙飛行を目指して、スペース・プレーンを開発すると明らかにした。
九州工業大学が研究している技術をもとに、大手企業や宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの協力を受けて開発。2027年ごろの実現を目指すという。
翼をもったロケット、スペース・プレーン
スペース・プレーンとは、翼をもったロケット、あるいは飛行機のように飛べる宇宙船のことで、かつて米国が運用していたスペース・シャトルがその代表例である。
日本でも1980年代からスペース・プレーンの研究が本格化し、90年代には無人のシャトル「HOPE」の研究・開発も行われたが、予算不足や、研究の優先順位の変更などもあり凍結の憂き目にあっている。
スペース・ウォーカーのファウンダー(創設者)である、九州工業大学の米本浩一(よねもと・こういち)教授は、かつて川崎重工でHOPEの開発に従事していたこともあり、現在も同大学でスペース・プレーンの研究を行っている。
そんな折、個人的なつながりなどから人が集まり、スペース・プレーンを実用化したい、日本でも有人宇宙飛行をやりたいなどといった想いが集積。スペース・ウォーカーを設立する流れになったという。
スペースウォーカーのファウンダー・米本浩一氏(左)と、代表取締役CEOの大山よしたか氏(右)
創業メンバーは米本氏を含め10人だが、こうした経緯もあり、専門や世代はさまざまである。
たとえば同社取締役会長には、元JAMSS社長で宇宙ステーションの運用を行っていた留目一英氏が就任。また、元三菱重工でロケット開発に従事していた淺田正一郎氏、元IHIエアロスペース社長で固体ロケットの専門家である浅井達朗氏などが取締役を務める。
一方で、代表取締役CEO/CMOには、アートディレクターの大山よしたか氏が就任。また元ミクシイ執行役員の辻正隆氏が取締役を務める。
同社COOの眞鍋顕秀(まなべ・あきひで)氏は、「弊社の役割は、これまで日本が培ってきた宇宙関連技術を取りまとめる"インテグレーター"となり、民間事業として有人宇宙飛行を実現すること」と語り、そのために世代や業種を超えた組織体制を構築したという。
スペースウォーカーの創業メンバー
2027年の有人宇宙飛行を目指す
同社のスペース・プレーンは、米国のスペース・シャトルとは違い、飛行機のような機体が単独で飛行し、宇宙に行って、そして帰ってくるところにある。シャトルのように打ち上げのための別のロケットは必要なく、まさに飛行機のように飛べる宇宙船となる。
そのもととなるのは、現在九州工業大学が研究している「WIRES」という小型の無人実験機である。これまでは同大学が中心となって研究や飛行実験を行ってきたが、今後、スペースウォーカーと共同で飛行実験を行うなどし、研究・開発を進める。
そしてロケットにとって一番の肝となるロケットエンジンは、IHI、IHIエアロスペースが開発を進めている、液化天然ガス(LNG)を燃料とするエンジンを採用するという。
九州工業大学が研究しているスペース・プレーンの実験機。今月、飛行実験を行う予定だという
現在の計画では、まず2021年に宇宙空間まで到達できる「サブオービタル・プレーン」を開発。続いて、機体を大型化し、さらにその背中に小さなロケットを追加で載せ、小型の人工衛星を打ち上げられるようにした機体を開発。こちらは2023年ごろの試験飛行を狙う。
そして、さらに機体を大型化した有人のスペース・プレーンを開発。2027年ごろを目処に、日本初の有人宇宙飛行を目指すという。
この有人のスペース・プレーンは、全長15.9m、質量18.7トンで、2人の乗員と、6人の乗客を乗せ、高度120kmまで到達する能力をもつという。サブオービタル、つまり軌道には乗らない飛行だが、丸い地球を眺めながら、数分間ながら無重量状態を体験できる。
運賃などについてはまだ明確な見通しは立っていないものの、米国で同じような宇宙旅行ビジネスを狙っているヴァージン・ギャラクティックの金額(約2500万円)が、ひとつのベンチマークになるとしている。
開発のロードマップ
課題は資金調達
米本教授によると、スペース・プレーンは、その翼を使って、機体を効率的に再使用できるため、打ち上げコストの大幅な低減につながるという。また加速度なども低くできるため、安全性も高い。
さらに、九州工業大学の研究やHOPEの経験など、日本はスペース・プレーンの分野において30年以上の実績があり、そしてIHIなどによるLNGエンジンも完成しつつあることなどから、技術的な実現の可能性も高いという。
ただ、実現のためには多額の資金が必要となるため、資金調達は大きな課題、関門となろう。
同社のいまのところ社員の手弁当で行っており、資本金も100万円ほどだという。
しかし、サブオービタルプレーンの実現だけでもざっと100億円、有人のスペース・プレーンの実現には1000億円以上の開発資金が必要だという。
「設立以来、技術チームの構築に尽力していた」(眞鍋氏)ということもあり、資金調達や、宇宙事業におけるマネタイズの方法について具体的なことは決まっていない、あるいは明らかにはされなかったが、現在のところエンジェル・ラウンドにおいてエンジェル投資家などに対し、投資を呼びかけている段階という。
米国では1990年代から、数多くの宇宙ベンチャーが立ち上がってきたが、資金不足を理由に多くが撤退し、いまも生き残っているのはスペースXなど数社にとどまる。また近年、日本でも宇宙ベンチャーが活発になってきてはいるが、衛星開発やデータ利用などといった分野に比べ、ロケット開発にはあまり資金が集まらない傾向がある。
スペースウォーカーもまた、多くの人にとって魅力的な計画であり、技術的にも実現可能かもしれないが、資金が集まらなければ、結局な絵に描いた餅で終わってしまうだろう。
今後、開発を予定している機体の想像図
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