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日米自動車摩擦「再燃」の危機、またも日本車は政治に利用されるのか
https://diamond.jp/articles/-/175750
2018.7.27 佃 義夫:佃モビリティ総研代表 ダイヤモンド・オンライン
米中貿易戦争は日本車の輸出にも影響する懸念がある(写真はイメージです) Photo:PIXTA
米中貿易戦争が「飛び火」?
中国以外にも自動車に関税の可能性
世界の2大経済圏、米国と中国がお互いに高関税をかけ合う米中貿易戦争は、米トランプ政権が仕掛け、中国の習政権も報復で応じ、かつての米欧間の貿易摩擦「チキン戦争」の様相を呈してきている。ことの真相は、国策としての製造強国の主導権争いとも言われる。
自動車産業においても米国と中国は、今や自動車の世界2大市場であり、日本車の販売台数としても1位と2位にあたる。米国は対中国以外に欧州や日本、韓国などにも、輸入車と自動車部品の関税を2.5%から25%へ引き上げる検討を開始したことで、日本の自動車産業界ではかつての日米自動車摩擦の「再燃」といった危機感が高まっている。
トランプ政権には、発足時から保護貿易主義的な考えに懸念があったが、ここへきての安全保障を理由とした鉄鋼・アルミニウムの追加関税実施と、中国の知的財産権侵害に対する制裁を科す高関税実施は、中国の報復関税を招き、米中貿易戦争は現実のものとなってしまった。
貿易摩擦への懸念は業種を問わず広がりつつあるが、特に自動車関連は最大の貿易品目であるだけに、世界経済全体に与える影響は大きい。
米国に対しては中国だけでなく、EUはじめ7ヵ国が報復関税で応じるなど「自国第一」の連鎖が広がっている。輸入車と部品の関税引き上げを検討する米国の公聴会でも自動車業界内からも反論が出るなど、異論は内外から噴出。こうした中で、トランプ大統領が11月の中間選挙に向けどう出るか、注視されている。
日本の自動車業界は
かつての自動車摩擦再燃を懸念
日本の自動車産業は、かつて1970年代末に勃発した日米自動車貿易摩擦によって「日本車対米輸出自主規制」(VER)を10年以上続け、決着が付くまで20年近くかかった苦い経験をしている。それだけに「いつか来た道」をできるだけ避けたいとの考えが強い。
米国が輸入車と部品に対して、25%の高関税実施に踏み切った場合、日本の自動車関連メーカーは輸出から現地生産に切り替えなければ苦しいが、現状で米国での日本車供給体制は現地生産と輸出が半々の状態である。さらに現地生産が進めば、日本国内生産の空洞化にもつながりかねない。かつ、部品も含めた高関税化で価格アップとなれば、米国現地の販売店や消費者は結果的に大きな打撃を受けることになる。
今のところ日本車メーカー各社はトランプ政権の動向を注視しているが、保護貿易主義の高まりが、大きな転換期にある自動車産業の発展をそぐ流れになることを危惧している。
米中貿易戦争による制裁は
世界中の部品供給や生産体制に影響
米国と中国は、7月に入ってお互いに340億ドル(約3.8兆円)相当の輸入品に対する高関税をかけ合って、米中貿易戦争の火ぶたが切られた。
トランプ米政権がさらに2000億ドル(約22兆円)分の関税リストを公表すると、中国政府もすぐさま報復措置を表明するなど、冒頭で述べたように米中関係はかつての「チキン戦争」を彷彿させ、先行きを憂慮する事態となっている。
ちなみに、“チキン戦争”とは、1963年に米国と欧州の間で発生した米国産鶏肉を巡る貿易摩擦のことだ。欧州が米国産鶏肉に対して高関税を課し、それに対して米国がライトトラックなどに25%の報復関税を課した。米国が課した高関税が“チキンタックス”と呼ばれたため、一連の貿易摩擦が“チキン戦争”と言われるようになったのだ。
自動車の場合、米中貿易戦争による制裁の影響は、米中の自動車産業だけにとどまらない。自動車メーカーは世界各地にサプライチェーンがあるだけに、世界中の部品供給体制や生産体制の見直しまでも求められるのだ。
すでにEUや中国からの報復関税の発表を受けて、米国の大型2輪車メーカーのハーレーダビッドソンは米国から海外生産の振り替えを表明。EVのテスラは中国現地生産の進出を決めるなど、企業サイドが率先して対応策を打ち出してきている。
◆日本車メーカーの米国現地生産化は
展開できるものはほぼ終えている
一方、米国の自動車市場は世界首位を中国に譲ったとはいえ、2017年の新車販売は1730万台と好調な売れ行きを示した。このうち日本車は677万台、シェアは4割を占める。その米国での日本車販売のうち約5割の345万台が現地生産、約3割の177万台が日本からの輸出、残りの約2割の155万台がカナダやメキシコなどからの輸出となっている。
すでに日本車メーカーによる米国での現地生産化は、かつての日米自動車摩擦解消の経緯もあり、展開できるものはほぼ終えている観がある。
例えば、トヨタの米国販売に占める日本からの輸出は、80年には99%を占めていたが、全米に7工場を展開し現地生産を促進したことで90年には66%、2017年には29%にまで下がっている。保護主義色が強いトランプ政権が誕生してからも、1年間で計30億ドルを超える米国への投資を公表している。これはGMの10億ドルを上回るもので、フォードの34億ドルに迫るものである。
さらにトヨタは、日本国内でも「年産300万台体制を維持していく」(豊田章男社長)とし、日本経済全体に与える影響に雇用面も含めて配慮していく考えを示している。つまり、過去の日米自動車貿易摩擦での経験に基づき、現地・現物の方針を強める一方で、母国を守る体制をキープしていく方針なのである。
他の日本車メーカーも同様で、できる限りの米国現地化は進めてきている。日本自動車工業会は「輸入自動車に対する米国通商拡大法232条に基づく調査開始について」のコメントを以下のように発表している。
「米国商務省による輸入自動車に対する米国通商拡大法232条に基づく調査開始は、米国のお客様と自動車産業従事者に不安を与えるものであり、我々は強い懸念を表明します。自動車はお客様が自ら選び使用する製品であり、貿易制限的な措置が実施された場合、車両価格の上昇や選択肢の削減等で不利益を被るのは米国のお客様です。同時に、自動車・同部品産業や輸入自動車販売店の経営を揺るがし、米国経済や雇用にも悪影響をもたらしかねません。
日本自動車工業会会員企業は、全米19州に24ヵ所の生産拠点と44ヵ所のR&D拠点を持ち、2017年には米国従業員によって約380万台の自動車を生産しています。そのうちの42万台以上は米国外に輸出されており、米国経済と雇用の成長に大きく貢献しています、生産性向上や人材育成を通じ、米国自動車産業の持続的発展と競争力向上にも努めています。
米国においては、これら日系自動車メーカーによるものも含めて年間1200万台の自動車が生産されています。お客様の多様化するニーズを補完し選択肢を拡大するための輸入自動車が米国の国家安全保障を損なうとは考えられません。我々としましては、国際ルールに基づいた自由で公平な貿易・競争環境こそが米国のお客様の利益になり、産業と経済の持続的成長につながると考えます。引き続き動向を注視するとともに、自由貿易の重要性を訴えてまいります」
かつての激しい“日本車バッシング”は
日本車批判を政治利用した側面も
かつての日米自動車摩擦問題では、70年代末に日本車の「集中豪雨的米国輸出」の非難が米国内で沸き起こり、“日本車バッシング”が過熱して政治問題となった。
筆者は当時、第一線の記者としてこの問題を取材し、著書「トヨタの野望 日産の決断」(ダイヤモンド社刊)で“日米自動車問題の虚と実”の項でも触れている。
デトロイトの復興を助けたのが「日本車対米輸出自主規制」(VER)だった。これは当時の通産省主導で、自主規制の名の下に81年から実に13年間も続き、この間に小型車シフトが後手に回って業績を悪化させていた米ビッグ3に立ち直るための時間を与えた。日本車は現地生産進出を促進させたが、一方で自主規制の枠によりで売りたくても売れないメーカーからの不満も上がっていたのも事実だ。また、米国はカーター政権からレーガン政権に移行する際の選挙事情により、日本車批判を政治利用した側面もあった。実態は、本来の企業努力によるフェアな競争を妨げるものだった。
時は流れて、自動車産業はグローバル化し次世代技術への大転換に向かう中、保護貿易主義の広がりは憂慮すべき事態だ。一方で各国とも自動車産業を国策として強化していきたい思惑もあり、日本も改めて国としての自動車産業の方向性を、自由貿易の主導とともにしっかり進めてもらいたいものだ。
(佃モビリティ総研代表 佃 義夫)
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