ビジネス2018年7月23日 / 19:41 / 3時間前更新 焦点:日銀緩和策、作用と副作用 相場調整もファインチューニング内 3 分で読む [東京 23日 ロイター] - 日銀が金融政策を見直す可能性が浮上している。副作用を減らし持続可能性を高める方向とされるが、副作用を完全に消そうとすれば、円安・株高といった「作用」まで失いかねないジレンマが今の政策にはある。政策の枠組みを変えるようなレジームチェンジに至るのでなければ、相場調整もファインチューニングの範囲となりそうだ。 <やめられないETF買い> 見直しの対象になるとみられている政策の一つが、日銀によるETF(上場投資信託)買いだ。225銘柄に購入対象が限られる日経平均型ETFを採用していることで、一部の銘柄が「品薄株」になっているとの批判が出ている。 市場ではロイターの21日の報道などを受けて、日経平均型が廃止されTOPIX型に一本化されるのではないかとの思惑が浮上。23日の東京株式市場では、ファーストリテイリング(9983.T)など値がさ株が軒並み安くなった。加重平均型の日経平均型ETFでは、株価が高い銘柄が買われやすいためだ。 ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏の試算によると、ファーストリテイリングの日銀の間接保有分を固定株とみなした場合の「実質浮動株」は、6月末で2.2%。日経平均型を併存させる現在の方法では、あと数カ月で実質浮動株はゼロになる見通しだが、TOPIX型に一本化すれば1年後も1.9%とわずかな低下にとどまるという。 しかし、日銀のETF買いが続く限り、市場の浮動株が少なくなっていくことには変わりはない。副作用を完全になくそうと思えば、世界でも異例である中央銀行による株式購入をやめる必要があるが、やめれば株価へのマイナスインパクトは相当に大きい。今の日本株の買い筆頭は日銀だ。 「秋の自民党総裁選を控える中、(日銀は)ETF買いを止めたり、買い入れ額目標の年間6兆円を引き下げたりすることはできないだろう」と井出氏はみる。 <金利上昇は両刃の剣> 23日の市場では、銀行株が軒並み上昇するなど、長期金利目標の引き上げに対する思惑も強まった。現在ゼロ%となっている目標を引き上げ、金融機関の利ザヤを改善させて副作用を緩和させるのではないかという期待だ。 しかし、わずかな金利上昇では金融機関の収益が劇的に改善するのは難しい。10年ゾーンの金利が0.2%に上がったとしても、単純計算で年間のインカムゲインは1兆円投資して20億円、5兆円でも100億円だ。 また、厳しい貸出競争や企業の資金過剰という環境の中では、長期金利の引き上げは貸出金利の上昇にも結び付きにくい。23日のユーロ円東京銀行間取引金利(TIBOR)は、ほぼ変わらずだった。 とはいえ、副作用をなくすために利ザヤを大きく改善させるのも難しい。円高・株安リスクが高まることに加え、輸入物価下落を通じてデフレ圧力も増す。景気にも圧迫要因だ。国の利払い費も膨らむ。日本経済にとって金利上昇は、両刃の剣だ。 マネックス証券チーフ・アナリストの大槻奈那氏は「わずかな金利上昇では金融機関の窮状を変えることはできない。イールドカーブ・コントロールの操作目標を10年から5年にするなど、金融引き締めと受け止められない方法を模索すべき」と指摘する。 <盛り上がり乏しい市場> 23日の東京市場は、週末の日銀観測報道を受けて動いたが、あくまで現行の金融政策がもたらす副作用を修正する程度の動きにとどまった。 値がさ株の下落で日経平均.N225が1.33%の急落。一方、銀行株の上昇に支えられTOPIX.TOPXは0.36%安。この結果、19年ぶりの高水準となっていたNT倍率.NTIDXも急低下。市場の「ゆがみ」はある程度、解消される方向になっている。 しかし、市場に盛り上がりは乏しい。東証1部売買代金は約2.1兆円と薄商い。日銀政策調整の可能性も「ネタがない一部の投資家だけが、材料に使っている程度」(外資系証券)という。 ドル/円JPY=EBSも一時111円を割り込み2週間ぶり安値を付けたものの、トランプ米大統領によるドル高けん制発言の影響が大きいとみられている。 円高/株安がさほど進まないのは日銀にとって朗報ではあるが、裏を返せば「それほど大胆な政策見直しはできない」(クレディ・スイス証券・株式本部長の牧野淳氏)と市場がみている証左でもある。 政策の微調整によって持続可能性を高めたとしても、需給的な思惑だけが高まるだけで、物価や経済に対する市場の見方はほぼ変わらない。市場を覆う空虚なムードも、また残ることになりそうだ。 Fast Retailing Co Ltd 49900.0 9983.TTOKYO STOCK EXCHANGE -3,030.00(-5.72%) 9983.T 9983.T.N225.TOPX 伊賀大記 編集:田巻一彦
ネット通販にシェアが追い打ち 上がらぬ物価を探る 2018/7/23 17:49日本経済新聞 電子版 日銀が上がらない物価に戸惑っている。今年は賃上げが消費を押し上げると思われたが、6月までの物価は年初よりも伸びが鈍った。家計の節約志向だけでは説明が難しい。消費の現場ではネットビジネスが価格競争を強め、増える外国人労働者や省力化投資が賃金の伸びを抑える。物価統計が主に大衆品を対象にする問題もある。上がらない物価の要因を探る。
ラクサス・テクノロジーズのサービスは約60種のブランドバックが月額約7000円で使える 100万点以上の商品が掲示される通販サイト「価格ドットコム」では、商品の価格が秒単位で変わる。サイトを通じ家電などを売るディーライズ(東京・台東)は自動のシステムで、自社商品が最安値になるように提示価格を1円単位で下げている。「大事なのは安いことだ」。販売企画部の宮川裕之氏はこう言いきる。 LINEは今年秋に、実店舗とネット通販の商品価格をスマートフォン(スマホ)で一覧して比べられるサービスを始める。最近は型落ちセールなどのある店頭の商品が、配送料の上がったネットの商品より安いこともある。ネットとリアルの垣根が崩れ、価格競争はさらに強まる。 米アマゾン・ドット・コムによるネット通販が物価を下げる力は「アマゾン・エフェクト」として注目されている。日銀によると日本ではネットの販売価格は実店舗に比べ平均で13%安く、エネルギーと生鮮食品を除く物価を最大で0.2ポイント押し下げている。 6月の消費者物価は生鮮食品を除くベースで前年比0.8%上がった。非耐久消費財は1.8%の値上がりで、日銀が目標とする2%に近い。それでも2月の1.0%から鈍った原因の一つは、ネット販売が多い耐久消費財が1.0%値下がりしたことにある。 さらに物価を下押しする可能性を秘めるのが、シェアビジネスだ。 アパホテルの宿泊料が下がってきている。2〜3年前には1泊3万円を超えることもあったが、今は7千円程度で泊まれることも。アパグループの元谷外志雄代表は「2〜3年前の料金は今となっては夢」と語る。背景にあるのが民泊との競争だ。総務省によると、17年は平日のホテル宿泊料が前年比3%下がった。 ラクサス・テクノロジーズ(広島市)はエルメスやシャネルといった60種類近くのブランドバッグが、月額約7000円で使えるサービスを提供する。価格は平均30万円以上だが、シェアすれば買わずにすむ。会員数は25万人を超えた。同社の児玉昇司社長は「高い商品を安く使えるのが人気」と話す。シェアビジネスは資産の稼働率を上げ、商品の需給を緩める。 「中央銀行の手が及ばない構造要因」。6月20日、各国の中銀首脳がポルトガルに集まった会合で、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はグローバル化とネット通販などをこう評した。デジタル経済と物価の関係は、欧米の中銀でも解きほぐせていない。 「金融緩和を続けても賃金と物価の伸びが弱いメカニズムはまだクリアではない」。同じ会合で、日銀の黒田東彦総裁も正直な思いを吐露した。日銀は7月30〜31日の金融政策決定会合で、物価の動きを改めて点検する。 日銀、異例の「指し値オペ」 緩和修正観測で揺れる市場 経済部 後藤達也 2018/7/23 12:15日本経済新聞 電子版 金融市場が「日銀が金融緩和を柔軟化させる」との報道に揺れている。0%程度としてきた長期金利の誘導目標が将来修正されるとの観測で、23日に長期金利が急上昇。日銀はすかさず「指し値オペ」と呼ばれる異例の対応で金利を押さえ込み、金利は乱高下している。 23日の債券市場は朝から売り注文が膨らみ、新発10年物国債は0.09%と先週末より0.06%上昇した。金利がほとんど動かなかった最近では珍しい上昇幅だ。市場は金融政策は当面変わらないと決め込んでいたが、20日夜に「日銀が長期金利の誘導目標の柔軟化を検討する」と一部で報じられ、一気に動意付いた。 そうしたなかで日銀は23日午前、0.11%の固定金利で国債を買う「指し値オペ」を通知した。実際取引されている金利(0.0%台後半)より金利が高い(価格は安い)が、これ以上金利が急上昇させないよう日銀は強い姿勢を示したことになる。通知直後には金利は一転し0.065%に低下した。 オペの運営は金融市場局に一任されているが、金融政策も絡む重要な局面では政策委員や理事などの意向も影響している可能性が高い。金利上昇に一定のけん制を示したととらえることもできる。 日銀は30〜31日の金融政策決定会合で物価が上がりにくい背景を集中的に点検する。緩和の一段の長期化は避けられない見通しで、緩和の副作用にも配慮し、いかに緩和の持続性を保つか議論される見通しだ。ただ拙速に緩和の調整に動くと、日銀の2%目標への姿勢が揺らいだと見なされ、円高・株安を招く恐れもある。 日銀の黒田東彦総裁は出張先のアルゼンチンで「どういう根拠があって報道しているのか、まったく知らない」と距離を置いた。事務方も対応策を慎重に模索している段階で、黒田総裁が24日に帰国してから検討が本格化する。 市場は日銀の政策調整をどこまで織り込むべきか悩んでいる。大手証券のある国債トレーダーは「市場は予見していなかった分、7月に急に政策調整すると波紋が大きく、あっても数カ月後ではないか」と読む。 23日の東京市場では長期金利の上昇で円高や株安も進んだ。「観測であれ円高が進めば物価上昇が遠のき、巡り巡って緩和が修正しづらくなる」(外資系証券)との声もある。 逆風強まる日銀金融政策 シェアする0ツイートする0 2018年07月23日 5か月半ぶりの指値オペ 日本銀行の金融政策に、俄かに逆風が強まってきた。7月23日には、操作目標としている国債10年利回りが0.09%と、日本銀行が事実上の上限としている0.1%に接近したことを受けて、10年国債を0.11%で無制限に買入れる「指値オペ」を実施したのである。指値オペが実施されたのは、日本銀行の政策正常化期待や米国長期金利上昇を受けて、国内長期金利の上昇傾向が強まった今年2月2日以来、5か月半ぶりのことである。また指値の水準は、2017年2月、7月、今回と3回連続で0.11%となり、0.1%という事実上の上限を守る日本銀行の姿勢がアピールされた。 副作用に対応した政策変更の観測が浮上
週明け後、10年国債利回りが先週末から6bp(ベーシスポイント)程度と大きく上昇したのは、週末に相次いだ幾つかの報道の影響である。ある報道では、次回7月30、31日の金融政策決定会合で、日本銀行が現在のイールドカーブ・コントロールを修正して長期金利の目標を柔軟化する、つまり事実上の変動許容幅を拡大する可能性が指摘された。 また別の報道では、次回会合では政策の変更は実施しないが、声明文に副作用に配慮した政策の検討を示す文言を入れる、との観測が示された。こうした報道を受けて、10年利回りを上昇させるような措置が近く講じられるのではないか、という観測が市場で俄かに広がったのである。 深刻化する国債市場の流動性・機能低下
さらにこのような政策変更の観測が浮上してきた背景には、国債市場の流動性低下、機能低下が深刻になっていることがある。6月に入ってからは、10年国債の業者間取引が成立しない日が多発したのである。こうした流動性低下は、日本銀行が大量の長期国債を買入れ続けていることによってもたらされている。そこで6月には、日本銀行は長期国債買入れ額を一段と低下させるオペレーションを見せた。 しかし長期国債、とりわけ指標となる新発10年国債の流動性低下は、日本銀行の国債買入れ策によって引き起こされていると同時に、10年利回りを0%程度に維持するという、イールドカーブ・コントロールによっても促されているのである。このもとで価格変動が小さい状況が続くなか、金融機関が10年国債を売買するインセンティブは着実に低下していった。さらに銀行、証券会社では国債取引の担当者は大幅に削減されている。これは、市場機能の大幅な低下を意味するだろう。流動性が低下し、市場機能が低下したもとでは、国債市場は外部からのショックに非常に脆弱になってしまう。海外金利が大きく変動するなどのショックが生じれば、流動性が極度に低下したもとでは、国債市場の利回りが急速に変動幅(ボラティリティ)を高めてしまう可能性がある。これは金融市場全体の安定性に大きな打撃を与えてしまうだろう。 日本銀行がこうした国債市場の流動性問題に配慮して、今まで続けてきた長期国債買入れペースの減額、いわゆるステルス・テーパリングに加えて、イールドカーブ・コントロールの修正に動くとの観測が強まってきたのである。 10年金利目標の柔軟化は難しいか
ただし一部で報道されているように、10年国債利回りの変動レンジを、現在の上下10bpずつから、20bpずつなどへと柔軟化する可能性は低いのではないか。長期金利の上昇を無理やり抑え込んでいる現状のもとでは、海外金利が上昇する際や日本銀行の金融政策正常化期待が高まる際には、10年国債利回りは一気に引き上げられた上限まで高まってしまうだろう。その結果、そうした変更は、流動性を多少高めることには貢献しても、イールドカーブ・コントロールの持続性を高めることには貢献しないからである。 筆者は多くの問題を抱えるイールドカーブ・コントロールは廃止すべきと考えているが、廃止に至るまでの移行措置としては、目標値を10年から5年に移すのが妥当であり、メリットが大きいものと引き続き考えている。 「正常化」ではなく「調整」
日本銀行が仮にイールドカーブ・コントロールの枠組みを修正する場合でも、それは「正常化」ではないことを強調するはずである。物価上昇率が下振れるなかで正常化策を採用すれば、それは2%の物価目標の達成を目指す姿勢と整合的でなくなってしまう。その場合に用いる言葉を日本銀行はかなり以前から準備している。それは「調整」である。さらに、副作用への対応としてこの「調整」を実施するといった後ろ向きの説明ではなく、もっと前向きな説明を準備するのではないか。 日本銀行はかつて強く批判された「サプライズ戦略」は封印している。従って、次回会合でいきなりイールドカーブ・コントロールの修正を発表する可能性は限られるだろう。しかし「正常化」ではなく「調整」と説明することで、2%の物価目標との非整合性を回避するのであれば、そうした決定は物価情勢には左右されず、ある意味いつでも実施可能の状態にある。 「調整」はいつでも実施され得る
筆者は国債市場の流動性・機能低下への配慮に加えて、イールドカーブ・コントロールの持続性、安定性への配慮が、日本銀行がイールドカーブ・コントロールの枠組みを修正する、大きな誘因になるのではないかと考えている。この観点からは、米国を中心とする海外長期金利の変動がそのきっかけになるのではないか。 サプライズ戦略は封印したと言っても、比較的短い周知期間で日本銀行がこうした事実上の政策変更を行う可能性は常にあるものと考えておくべきだろう。 シェアする0ツイートする0 Writer’s Profile 木内登英Takahide Kiuchi 金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト 専門:内外経済・金融 研究員プロフィール この執筆者の他の記事 2018年07月23日研究員の時事解説洗濯機にみる米国保護貿易のブーメラン効果 2018年07月18日研究員の時事解説米中貿易戦争が中国金融リスクの引き金に 2018年07月17日研究員の時事解説中国が市場開放を急速に進め始めた 2018年07月13日研究員の時事解説ワシントンDCで現金受取りを義務付ける法案 2018年07月11日研究員の時事解説米中貿易戦争の拡大は米消費者にも被害が及ぶ段階に 木内登英の他の記事一覧 このページを見た人はこんなページも見ています 2018年07月06日研究員の時事解説米中関税報復合戦始まる:中国対抗策の選択肢 2018年06月26日研究員の時事解説対米貿易紛争下での中国社債市場の環境悪化 2018年07月13日研究員の時事解説ワシントンDCで現金受取りを義務付ける法案 2018年07月09日研究員の時事解説シリコンバレーでの米中の熾烈な争い 2018年07月11日研究員の時事解説米中貿易戦争の拡大は米消費者にも被害が及ぶ段階に
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