トランプ大統領が武器輸出攻勢、苦境続く日本の防衛産業に追い打ち延広絵美、占部絵美 2018年7月11日 6:00 JST • F2後継戦闘機で国産断念の報道、「日本主導の開発必要」と三菱重 • 輸出解禁も実績はほぼゼロ、豪潜水艦受注は失敗 安倍晋三政権下で防衛費が増加を続ける中、国内関連産業に逆風が吹いている。トランプ米大統領が、近年輸入が急増している米国産装備品をさらに売り込もうと攻勢をかけているためだ。世界中で貿易摩擦を仕掛ける強敵を前に、業界は技術基盤が失われると危機感を募らせている。 F2(左)とX2 Photographer: Kaz Photography/Getty Images 当面の焦点は航空自衛隊の戦闘機F2の後継機開発だ。運用中の約90機が2030年頃から退役するのを見越し、三菱重工業やIHIは09年度からステルス機能など先進技術を搭載した実証機X2の開発に取り組んだ。後継機につなげる考えだったが、今年に入って防衛省が高コストを理由に国産を断念したとの報道が相次いだ。 三菱重工業の阿部直彦執行役員は先月5日の事業戦略説明会で、F2後継機について「国内産業が持続していくため、わが国主導の開発は必要ではないか」と訴えた。16年にはX2の飛行実験にも成功し、国産で「十分やれる力はある」と強調した。 調達を担当する防衛装備庁は、国内開発・生産基盤の維持・強化を掲げているが、日米共同で開発したF2の後継機を巡る姿勢は定まっていない。小野寺五典防衛相は「国産開発を断念したという事実はない」と話している。朝日新聞は、国際共同開発を軸に同省で検討を進めるが、米国製の戦闘機F35−Aを追加購入する代替案もあると報じている。 防衛費は第2次安倍政権発足後、北朝鮮の核ミサイル開発や中国の東シナ海進出などを背景に6年連続で増加、18年度は5兆1911億円と過去最大を記録した。うち戦闘機や護衛艦などに支払われる装備品等購入費は8190億円と15.7%を占める。安倍首相は先月の国会答弁で「真に必要な防衛力については今後ともしっかりと強化を図っていく必要がある」との考えを示した。 FMS 安倍政権下の防衛装備で目立つのは輸入の増加だ。当初予算(契約ベース)の輸入比率は11年度の7.4%から16年度には23.3%まで拡大。このうち、米政府を通じて高性能な米国製装備品を購入する「有償軍事援助(FMS)」は実績値で、13年度の1117億円から16年度には4倍以上の4881億円に急増した。15年度はF35−Aやオスプレイ、イージス・システムなどの調達が総額を引き上げた。 これに加えて、トランプ大統領は昨年11月の日米首脳会談後の記者会見で、「重要なのは米国から大量の兵器を買うことだ」とさらなる輸入増を促した。 「FMS」調達額 安倍政権発足後、3年で4倍以上に急増 出所:防衛装備庁 三菱重工の阿部氏は、FMSでは国内部品メーカーに「仕事が降りてこない」と指摘、技術基盤を支えてきた企業が「いなくなっていく」と懸念を示した。防衛省が16年に公表した調査では、関連企業72社の約7割にあたる52社が、「部品等を製造する企業の事業撤退、倒産による供給途絶が顕在化した」と回答した。 国内企業が主に建造を担う護衛艦や潜水艦、戦車と比べ、戦闘機開発の分野で日本勢の苦戦が目立っている。F2の生産が終了した11年前後には、関連企業が相次いで事業継続を断念した。住友電工は防衛省向けの製品は成長性に乏しいと判断し、07年から順次縮小・撤退。横浜ゴムも10年に同省向け航空機用タイヤ事業を終了した。 拓殖大学海外事情研究所副所長の佐藤丙午教授はFMSの増加について「明らかに日本の防衛産業が防衛省が望む物を作れていないことの証明。良い事態ではない」と指摘した。 防衛大綱 政府は年末に「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を改定する。今後の装備品調達の方向性などを打ち出すが、技術基盤維持を唱える自民党と経費削減を求める財務省とのさや当てが早くも始まっている。 防衛費、18年度は過去最高に 安倍政権発足後、6年連続増 出所:財務省 自民党の合同部会は先月1日、北大西洋条約機構(NATO)が目標とする対国内総生産(GDP)比2%を参考値に現在1%以下の防衛費の増額などを安倍首相に提言した。若宮健嗣・国防部会長は国内産業の維持・強化が「大きなポイント」とし、国際競争力を国内企業にも持たせる必要性を訴えた。 一方、財務省は、国内防衛産業の高コスト体質を問題視する。同省の審議会は5月、麻生太郎財務相に「費用対効果に優れる機種」への切り替えを提言した。例として挙げたのは価格上昇が著しい輸送機だ。1機あたり208億円する川崎重工業のC2に対し、米国製のC130J−30は98億円。航続距離はC2の半分に落ちるが、東シナ海や北朝鮮を想定した展開は十分可能との主張だ。 桃山学院大学の松村昌廣教授は、国産装備品は「工芸品を作っている」イメージだと指摘する。米など実戦でも使用している国では量産され「使い捨て」となるが、自衛隊は長期間使い続けるため購入量が少なく、価格高騰につながっているという。 輸出解禁も受注競争で苦戦 若宮国防部会長は、5月の党会合で、「海外にある程度受注できるようになれば当然のごとく規模の経済で単価が下がってくる」と述べ、海外輸出を増やせば自衛隊の調達コスト削減にもつながるとの考えを示した。政府は14年に防衛装備移転三原則を策定し、国産装備品の輸出に道を開いたが、オーストラリアの潜水艦受注で日本勢はフランスに敗れるなど実績はほぼゼロだ。 経団連の吉村隆産業技術本部長は、日本企業も海外で防衛装備品の展示会に参加しているが、性能に関して情報開示の規制が厳しく商談に発展していないとし、改善を求めている。企業側は「使命感のもと、歯を食いしばって続けている」が、「各社の努力も限界に来つつある」と窮状を訴えた。 ビジネス2018年7月11日 / 17:50 / 3時間前更新 焦点:2000億ドル規模の貿易戦争、低成長の日本には大ダメージ 3 分で読む [東京 11日 ロイター] - 米中貿易戦争への警戒感が再び燃え上り、金融市場はリスク回避ムードに包まれている。米国が2000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を適用する方針を表明。中国側の報復措置はまだ示されていないが、同等の対抗策が講じられれば影響は大きい。経済が堅調な米国への打撃は限定的としても、低成長の日本には大きなダメージとなりそうだ。 <好調米経済は影響限定的> 「水を差された」(邦銀)──。貿易戦争への警戒感から世界的な株安が前週まで進んでいたが、前週末6日に米中両国が340億ドル相当の製品に対し25%の関税適用を予定通り実施。いったんの悪材料出尽くし感が広がり、株価が反発し始めた矢先だった。 米政権は日本時間11日早朝、追加で2000億ドル相当の中国製品に10%の関税を適用する方針を表明。円高は限定的だったが、日経平均は一時450円安まで下げ幅を広げ、今週前半の上昇幅を帳消しにしようとしている。 すでに6月18日にトランプ米大統領が、2000億ドル規模の中国製品に対し、10%の追加関税を課すと警告しており、内容は予想外というわけではない。しかし、「少なくとも今週は何もないだろう」(同)との期待は裏切られ、正に貿易戦争へとエスカレートする懸念が市場の雰囲気を暗くしている。 もっとも米国から中国への輸出額は2017年で1303億ドル。2000億ドル規模の追加関税に対抗する枠はない。中国は関税率を高めたり、中国企業への出資を制限するなど、別な措置で対抗すると予想されている。 ただ、トータル2000億ドル程度の影響度であれば、米経済にとっては、それほど大きな規模ではない。 日本総研調査部の副主任研究員、井上肇氏の試算では、間接的な効果を含めても米国にとって0.3─0.4%のGDP(国内総生産)押し下げ効果にとどまる。米経済は今年、減税など政策効果で年率3%近い成長が予想されており、影響は限定的だ。 先行きの不透明感は漂うが「中間選挙を控えているトランプ大統領に景気を腰折れさせる動機はない」(日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト、神山直樹氏)ともいえる。 <日本は成長率の4分の1喪失も> しかし、2000億ドルのインパクトを吸収できるのも、GDPの規模が20兆ドル(約2200兆円)を超える米国経済なればこそ。間接的としても経済的なインパクトは小さな国になればなるほど大きくなる。 日本のGDPは約500兆円と米国の約4分の1。成長率も今年が1%前半と、米国の3分の1程度だ。特に中国から米国への輸出が減少すれば、中国を最大の輸出先とする日本が受ける影響は大きい。中国から米国への輸出製品に使われる部品などを日本は輸出しているためだ。 シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏の試算では、日本の対中輸出と、中国の対米輸出の36カ月相関は、世界金融危機前の0.8(1.0が完全連動)に迫る0.6超まで上昇。「日本の輸出や生産が、米中貿易摩擦の影響を受けやすくなっていることを示唆している」という。 村嶋氏によると、関税と報復措置で米国の対中貿易赤字が500億ドル減少すれば、日本の中国への輸出減少や設備投資の抑制などを通じて、日本のGDPは0.27%押し下げられる。経済協力開発機構(OECD)の予想では、日本の成長率は今年、来年とも1.2%。約4分の1が吹き飛ぶ計算だ。 <軟調だった安川電の株価> 貿易戦争による米経済への影響度が大きくないことは、日本にとっても朗報だ。11日の日本株が下げ渋ったのは円高が進まなかったことが大きい。 「米国の成長率押し下げが限定的であれば、FRB(米連邦準備理事会)の利上げスケジュールに変更はないだろう」(三井住友銀行チーフ・マーケット・エコノミストの森谷亨氏)とみられていることが、ドル/円を下支えている1つの要因だ。 ただ、市場の警戒感も強い。11日の東京株式市場で、目立ったのは、あす12日に第1四半期(3─5月)決算発表を予定している安川電機(6506.T)のさえない株価だった。「現時点では業績に影響が出てないとしても、中国需要の先行きに市場の警戒感が高まっていることを示している」(国内証券)という。 ミョウジョウ・アセット・マネジメントのCEO、菊池真氏は「日本株の場合は、中国の依存度が相対的に高い。結果的に日経平均やTOPIXは下げが大きくなる」と指摘。FA(工場の自動化)などの中国関連銘柄だけでなく、日本株全体のエクスポージャーを落とす動きが強まれば、中国と関係のない銘柄であっても、一緒になって外される可能性が高いと話している。 Yaskawa Electric Corp 4035.0 6506.TTOKYO STOCK EXCHANGE -65.00(-1.59%) 6506.T 6506.T 今月から始まる3月期企業の第1・四半期決算発表。現時点の業績修正は少ないとみられているが、企業経営者のマインドが冷え込み始めていないか、コメントなどをいつも以上に注視することになりそうだ。 (伊賀大記 編集:田巻一彦)
ビジネス2018年7月11日 / 18:35 / 2時間前更新
日本人の人口9年連続減、減少幅も過去最大=総務省 1 分で読む [東京 11日 ロイター] - 総務省が11日発表した人口動態調査によると、2018年1月1日現在、日本人の人口(住民基本台帳ベース)は1億2520万9603人となり、前年比37万4055人減少した。減少は9年連続。減少数も現行の調査を開始した1968年以降で最大となった。 15歳から64歳までの生産年齢人口は7484万3915人で全体の59.77%となり、初めて6割を割り込んだ。 日本に住む外国人は前年比7.5%増の249万7656人だった。
外為フォーラムコラム2018年7月11日 / 14:50 / 3時間前更新 コラム:貿易戦争でも世界経済が失速しない「3つの理由」=村上尚己氏 4 分で読む
村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト [東京 11日] - 6月19日付の前回コラムで「市場心理はやや楽観方向に傾斜気味」と筆者は指摘したが、その後、中国などに対するトランプ米政権の関税引き上げ政策をきっかけに、世界経済の風向きが変わるとの懸念が高まっている。 政治・経済情勢への不確実性の高まりは、リスク資産の上値を抑え、米国債などへの投資を強める一因になっていると言えよう。実際、6月半ば以降、米国の長期金利は3%付近で頭打ちとなり、緩やかながらも低下。米国株市場も他国に比べれば底堅いとはいえ軟調に推移しており、ほぼ年初の水準にとどまっている。 確かに、米国などによる関税引き上げや投資制限措置は、グローバルで事業を展開する多くの企業の活動を抑制するため、個々のビジネスには大きな影響を与える可能性がある。一方で、保護主義的な通商政策の応酬が米国を中心に経済全体にどの程度ネガティブな影響をもたらすかについて見方はさまざまである。 率直に言って、トランプ政権がここまで強硬な関税引き上げ政策をとることは筆者にとって予想外であり、数カ月にわたり市場心理を圧迫する展開については、もっと慎重に見積もっておくべきだったことは認める。 7月10日には、追加で2000億ドル規模の中国からの輸入に関する関税リストが発表された。米国政府の強硬な姿勢に変化が現われるまでには、まだ時間を要するため、リスク資産は上下にぶれやすい状況が続く可能性がある。足元までの景気指標はサーベイ指標を含めて総じて堅調だが、関税引き上げへの備えで事業計画が滞るなど、製造業などのマインドが悪化するリスクもある。 <負のインパクトを相殺する要因> 経済指標の下ぶれは、当社にとってあくまでリスクシナリオだが、「貿易戦争」によって世界経済がソフトパッチ(景気の一時的足踏み)にとどまらず、米国を含めて景気後退に至るとの懸念が金融市場でさらに高まる可能性はある。 株式市場が調整した2016年前半にも米国経済の後退懸念が高まった局面があったが、今回も同様の市場心理の悪化があるかもしれない。 もっとも、現在想定されているように中国などへの関税引き上げの対象が広がり、世界経済の後退懸念が高まっても、米国経済の状況を踏まえると、実際には世界経済全体が景気失速に至るほどのショックは起きないと筆者は考えている。以下、3つの理由をあげる。 第1に、米国では減税政策などによる景気押し上げ効果が、関税引き上げによるネガティブインパクトをかなり相殺することが見込まれる。米議会予算局(CBO)の試算によれば、家計に対する減税政策だけで2019年までの2年間に年平均800億ドル、国内総生産(GDP)比0.5%相当の所得押し上げ効果がある。 すでにリストが発表された対中輸入2000億ドル規模まで関税引き上げが広がった場合は、累積的な関税負担は約435億ドルである。もちろん、これら以外にも、関税引き上げが製造業の活動を停滞させ、それが景気を押し下げる負の影響もある。ただ、米国経済全体でみれば、減税効果で家計部門の総需要が増え続けるため、潜在成長率を上回る経済成長が続く可能性が高い。 第2の理由は、政策金利サイクルと景気循環の経験則である。6月の米連邦準備理事会(FRB)による利上げで、政策金利がほぼ2%まで上昇したが、シンプルにインフレ率を控除した実質政策金利はほぼゼロだ。景気が後退局面に入る前には、多くの場合、実質政策金利が3%以上まで上昇、金融環境が景気抑制的に作用し、景気後退が訪れるのが経験則だ。 また、米国以外の中央銀行の金融政策が総じて緩和的な中で、長期金利は今年緩やかな上昇が続いているとはいえ低水準のままだ。金利サイクルと景気循環の観点からは、景気後退に至るにはまだ時間を要し、緩やかな利上げが続いても金融緩和的な状況はあまり変わらない。 <米景気後退の典型的パターンに合致せず> 第3の理由は、米国の景気後退をもたらす典型的なパターンと現状が合致していないことだ。米国が景気後退入りする前には、経済活動に何らかのブームや行き過ぎがあり、それが崩れることで需要縮小ショックが起きることが多い。 ところが、今の米国経済は失業率の低下こそ下限に近づいている可能性があるものの、景気後退をもたらすようなブームが起きている兆候はあまりみられない。例えば、米国の景気後退を招く典型的なケースは、住宅や自動車の総需要が増えて、金利上昇などでそれが大きく調整することだが、そこまでの総需要増が起きていることは確認できない。 住宅投資のGDP比率について、1940年代後半からの長期推移をみると、平均は4.6%。多くの場合、景気後退が発生する前には、この水準を超える住宅市場の盛り上がりが起きていたが、2018年初でこの比率は3.9%と、平均からかなり低い数値にとどまっている。2000年代半ばの住宅ブームの崩壊の余波がとても大きかったわけだが、住宅市場の回復は依然かなり遅れているように思われる。 同様のことは、自動車関連消費のGDP比率についても言える。家計の住宅・耐久財消費の状況から判断すれば、米国の景気後退入りはまだ遠いとみられる。 金融市場の値動きが、米国など各国の政治動向に起因する市場心理の揺らぎに支配される神経質な状況は、もう少し続くかもしれない。ただ、それがリスク資産の投資機会をもたらす可能性も十分あるのではないだろうか。 村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供) *村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。 *本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。
316回 日本株下落でもドル円が下値固いのは何故?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】 配信日:2018年7月4日 フリーアナウンサーの大橋 ひろこ氏が実際のトレードを通じて学んできたFX取引のコツ、魅力をお伝えいたします。
第316回 日本株下落でもドル円が下値固いのは何故?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】 上海総合指数が2015年〜2016年のチャイナ・ショックの急落時水準まで下落しています。2018年1月には3,500Pの高値がありましたが、足下では2,750Pを割り込み、上半期だけで20%を超える下落となっています。一般的に20%を超える下落はベアマーケット入りのシグナルとされ、中国株からの資金流出が世界の金融市場全般の懸念材料となってきました。 足下の下落加速は、今週7月6日に迫った米国による対中制裁関税第1弾発動、並びに中国による対米報復関税発動が経済に及ぼす影響を嫌ったものと推測されます。株式だけではありません。為替市場では人民元安が進んでいます。7月3日午前には対米ドルで人民元相場は一時6.72元台にまで下落し2017年8月以来の元安水準へと沈みました。米国による25%の関税引き上げに対抗するために、中国当局が人民元の切り下げに動いているという憶測も浮上していますが、人民元安のスピードが速ければ、資産の目減りを嫌う投資家らが人民元からの資金逃避を加速させる事態へとつながります。7月3日の東京時間には、中国の大手国有銀行が人民元支援のためドル売り元買いを実施しているとの観測も聞かれました。2015年のチャイナ・ショックは、急激な人民元下落がもたらした金融ショックでしたが、その記憶がまだ新しい中で、中国当局が積極的な人民元安誘導に動いているとは考えにくく、足下の元安は投資家らの資金が中国から逃げ出している可能性が大きいとみています。 上海総合指数、人民元の下落はいよいよ日米の株式市場にも影響を及ぼし始めています。過去の日本市場においては日本株式市場が下落すればドル/円相場も一緒に円高ドル安に動く相関がみられますが、ドル/円相場は110円台で下値固く推移、111円台を狙うような強さすら感じられます。何故でしょうか。 推測できるのはスワップ金利です。現在、欧州、日本、オセアニアなど主要国の中で、政策金利が最も高いのが米国です。FX市場では米ドルの買いポジションを保有すると、自国通貨との金利差分がスワップ収入として受け取ることができますが、米ドルを売れば、逆にスワップ分を支払わなくてはなりません。2015年からスタートした米国の利上げにより、長期での米ドル売り保有には、スワップ支払いという高いコストが生じる構造となりました。未だゼロ金利政策を継続している欧州、ユーロ/ドルでのユーロ買いドル売りや、マイナス金利政策の日本、ドル/円でのドル売り円買いは長期ポジションとして保有し続けることが難しくなってきている、ということなのです。その昔高金利通貨として人気のあった豪ドルやNZドルも同じです。豪州やNZよりも米国の政策金利の方が高い構造となったため、豪ドルやNZドル相場においても、ドル買いの方が長期的に楽なポジションである、ということです。 今、米中・米欧貿易問題や、ドイツの政治リスク、排ガス不正再燃での独自動車株下落などリスク懸念が広がる中、積極的にリスク資産を買う気になれない投資家らによる手仕舞いが広がっており、手仕舞われた株などのリスク資産は、置いておくだけでスワップ収入が得られる米ドルとなっているのではないかと考えられます。つまり、リスク資産のキャッシュ化がドル高を加速させており、リスクが懸念される環境にあってもドル/円相場が崩れず下値固く推移しているものとみられます。 円を主軸に考えれば、〇〇ショックというような大きな金融混乱が起きれば、円の対外資産が国内回帰するレパトリエーションの思惑から円高になることも懸念されるため、ドル/円相場は、すっかり膠着してしまいました。 米中貿易問題が話し合いにより対立の構図から脱却するなど、リスク要因が払拭されればキャッシュとして待機しているマネーが再びリスク資産に流入すると考えられますが、足元ではそのような期待が持てる状況ではなさそうです。このまま中国株、人民元安が進行し中国経済が失速していくなら、中国との貿易関係が強い豪ドルの下落が懸念され、対ドルでの豪ドル売りに妙味のある局面かと考えています。 317回 コモディティ市況と米ドルの動向【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】 FXトレードは為替のチャートだけを見ていてもなかなか勝てません。大きなトレンドをいち早く見つけるためには、金利動向や、株式、商品市場などあらゆる市場の動向をウォッチしておくことが肝要です。特に商品市場は、他市場と比べるとその取引規模が大きくないことから、変化の兆候が表れやすいという特徴があります。コモディティ需要というのは景気の先行きを占うものでもありますので、特に銅価格は「ドクターカッパー」と呼ばれ、金融関係者らは定期的に銅価格をウォッチしています。
商品は「物」ですから、通貨の価値が下がれば相対的に上がります。反対に通貨価値が上がれば商品価格は下がります。円高の時代に日本がデフレだったのはこのためですね。従って米ドルベースで見る国際商品価格は、商品価格が上がれば米ドル安、商品価格が下がれば米ドル高となる関係にあります。しかし、原油は米国のシェールオイル生産動向や、OPECの減産、増産などによって大きく動きますし、穀物価格は天候によって大きく動きます。為替要因だけが商品価格を形成しているわけではありません。相対的な商品価格の動向を知りたい場合は「CRB指数」という米国内の各商品取引所等で取引されている先物取引価格から算出される国際商品先物指数を見てください。この指数はエネルギーや貴金属、農産物などのコモディティを幅広く網羅し、世界的な物価や景気の代表的な指標として使われています。特に製品原料として使う商品を多く含むため、インフレ動向の先行指標として国際的に注目されているのです。CRB指数が上昇傾向にあれば米ドル安傾向、CRB指数が下落傾向であれば米ドル高と判断することができます。 足下でCRB指数は2017年6月を底値に約1年間上昇を続けたトレンドに陰りが見え始めました。2018年6月中旬に上昇トレンドラインを下方向に抜けたような恰好です。この上昇トレンドが崩れたのだとすると、この先に訪れるのはさらなる米ドル高の可能性ということになりますが、明確に下落トレンドが発生したとも判断しがたい形ですので、1年もの上昇トレンドが一服し、もみ合い期間に入っただけかもしれません。 大局ではCRB指数を見ることが重要なのですが、足下では原油価格は上昇基調、穀物は大幅下落と商品によってまちまちです。原油価格はOPECの減産やシェールオイルの生産動向が価格に大きな影響を及ぼしており、大豆やトウモロコシなど穀物価格は、米中貿易摩擦の影響で売られ過ぎているという側面があって、米ドルの影響よりも政治的なファクターによって動いている側面が大きいためです。現在、比較的米ドルとの相関がきれいに出ているのはゴールド価格。ゴールドは現在、米ドル高にキレイに逆相関となって崩れてきています。 ゴールドだけではありません。7月3日、NY市場でプラチナ価格が800米ドルの大台を割り込み2008年来の安値に崩れたほか、東京商品取引所(TOCOM)で円建てプラチナ先物価格が3,000円を大きく割り込み2,842円まで下落、こちらも2009年来の安値に売り込まれました。特にTOCOMのプラチナ市場は、直近平常時の4倍あまりにも上る3年ぶりの突出した出来高を記録しました。相当な損切が入って急落したものと考えられます。出来高から考えると、TOCOMのプラチナ市場は短期的にはセリングクライマックスを見た可能性が高いとみられます。また、プラチナの平均生産コストは900米ドル台で、800米ドル台を下回る水準まで売られているのはやや行き過ぎに見えます。円建て、米ドル建てのプラチナ価格が短期的に底入れし反発する可能性がある、と仮定するならば、米ドルが下落する可能性がある、と考えることもできます。ゴールド価格も足下で売りにさらされており、短期的には反発しそうなレベルにあります。 また、先述したドクターカッパー、銅価格も足下では大きく下落してきましたが、2016年年初の大底安値から2018年6月につけた高値でフィボナッチリトレースメントを引いてみると、ちょうど38.2%レベルで下げ止まっています。大天井をつけて下落トレンドを形成し始めたという可能性も否定できませんが、38.2%で下げ止まっているということは短期的な反発の可能性がある局面とみることができます。今週から短期的には、商品価格の反騰と米ドル高の一服がみられるかもしれません。そうなれば、通貨市場では、カナダドルや豪ドル、NZドル、南アフリカランドなど資源関連通貨が買い戻されるでしょう。 コラム執筆:大橋ひろこ フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。 TwitterAccount @hirokoFR 次の記事「第316回 日本株下落でもドル円が下値固いのは何故?!【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めて
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