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骨太方針の「外国人労働者受け入れ」は日本人労働者にとって不利益だ
https://diamond.jp/articles/-/174093
2018.7.6 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
政府は6月15日、「骨太の方針」を閣議決定、その中で、外国人労働者の受け入れを拡大する方針を掲げた。「現行の専門的・技術的な外国人材の受入れ制度を拡充し」、「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関し、就労を目的とした新たな在留資格を創設する」という。具体的な業種としては、農業、介護、建設、宿泊、造船をイメージしているもようだ。
労働力不足は経営者の不幸で
労働者と日本経済には幸せ
そもそも、今回、「外国人労働者の受け入れ」が浮上した背景には、昨今の「労働力不足」がある。しかし、「労働力不足」という言葉は、経営者目線の言葉だ。「今の給料では労働力が集められないから、賃上げをしなければならない。それは嫌だから、外国人労働者を連れてこよう」ということならば、それは労働者にとって迷惑千万な話だ。
だいたい、「不足」という言葉は、否定的なニュアンスの言葉だから、例えば「仕事潤沢」とでも言い換えればいいと、筆者はかねてから主張している。もっとも、筆者はコピーライターではないので、もっといい言葉を誰かが使い始めてくれることを期待しているのだが。
労働者の目線で見れば、労働力不足であるが故に失業せずに済み、給料が上がると期待され、ブラック企業も淘汰されていくのだ。これほどめでたいことはない。日本経済にとっても、実にめでたい話だ。
では、そのめでたい話を具体的に見ていこう。
バブル崩壊後の長期低迷期の
問題の根源は労働力余剰
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済はさまざまな問題を抱えていた。まずは失業だ。仕事をする意欲も能力もある人が仕事にありつけないという状況は、経済的のみならず、本人の生きがいなどにも悪影響を与えかねない大問題だった。
そこで、失業対策としての公共投資などが実施され、その結果として財政赤字が巨額となった。明示的な公共投資だけではない。緊縮財政の先送りも間接的な公共投資だ。必要性が叫ばれながらも先送りされて来たのは、「緊縮財政によって景気が悪化し、失業が増えてしまうリスク」が強く意識されたからである。
こうした問題の根源にあったのは「労働力余剰」だった。仕事に対して労働力が余っていたために、失業者が生まれたのだ。
正社員を希望しながら正社員になれず、非正規労働者として生計を立てている「ワーキングプア」の存在も、この「労働力余剰」が背景にある。企業としては、「いつでも安い労働力が好きなだけ確保できるのだから、わざわざ正社員を大量に採用して労働力を囲い込む必要がない」と考えていたからだ。
ブラック企業の存在も同じだ。就職活動に失敗した学生が「ワーキングプアになるよりは、ブラック企業に就職した方がマシだ」と思って企業に入社し、辛さに耐えかねて辞職しようとすると、「辞めたら失業者だよ。それよりは、我慢して働き続けた方が君のためだ」と言われ、辞められなかったというわけだ。
マクロ経済に目を転じて、日本経済の「労働生産性」が低いことの一因も、やはり「労働力余剰」にある。安い労働力が好きなだけ調達できるので、企業が“省力化投資”をするインセンティブが乏しかったのだ。例えていうなら、自動食器洗い機を購入するよりもアルバイトに皿を洗わせた方が安いからだ。
その裏表として、安い労働力が好きなだけ調達できるので、労働生産性の低い企業も生き残ることができ、労働生産性の平均が高まらなかったという問題もある。
労働力不足が
多くの問題を解決しつつある
しかし、失業問題が少子高齢化とアベノミクスによる「労働力不足」によって解消したことで、そこに端を発する多くの問題も解消に向かいつつある。失業者はもちろん、仕事探しをあきらめてていた高齢者や子育て中の主婦なども、仕事を見つけることができるようになったからだ。
景気対策としての公共投資も不要となった。もっとも、東京オリンピック関連や震災の復興関連、老朽化インフラの問題などは依然あるので、公共投資全体の減少は少し先の話になりそうだ。
増税も、消費税率を8%に引き上げることができた。10%への引き上げも行えるかもしれない。もっとも、筆者は「景気は税収という金の卵を産む鶏だから、増税は焦る必要はない」と考えているが。
ワーキングプアも減っていくと見込まれる。非正規労働者を正社員として登用することで、労働力を囲い込む必要性を企業が感じ始めているからだ。正社員になれないとしても、非正規労働者の待遇は改善していくはずだ。時給を引き上げないと労働力が確保できないため、時給の“引き上げ合戦”が始まる可能性もある。そうなれば、ワーキングプアの生活はかなりマシになっていくだろう。
そうなれば、ブラック企業も存続が難しくなる。ブラック企業には新入社員が入社しない上に、既存の社員も転職先を容易に見つけることができるようになるためだ。
日本経済の生産性も向上していくと期待される。各企業が省力化投資のインセンティブを持つようになることに加え、高い給料の払えない労働生産性の低い企業から、高い給料の払える労働生産性の高い企業へと労働力の移動が起きるはずだからだ。
すべて、「労働力不足」の賜物なのである。
外国人労働力の大量導入は
望ましい流れを逆転すると危惧
こうした望ましい流れを、すべて逆転しかねないのが、「外国人労働者の大量導入」だ。要するに、「労働力不足の時代」を「労働力余剰の時代」に逆戻りさせようという取り組みだからだ。
農業に関していえば、比較優位に基づく国際分業の観点から、農産物を輸入すればいいだけだ。土地が狭い日本で無理をして農業をやる必要はない。今までは、「農産物を輸入すると、農業従事者が失業してしまうから農業を保護するのだ」と言われてきた。であるならば、保護すべき農業従事者が高齢で引退したタイミングで“保護”を外せばいい。そうすれば、農業関係の補助金も廃止でき、財政の健全化にも資するだろう。
介護に関しては、介護保険料を引き上げて介護士の待遇を改善すべきだ。介護士不足の主因が待遇面の問題なら、需要と供給が一致するところまで介護士の給料を引き上げるのが当然だ。
建設、宿泊、造船に関しては、労働力不足ならば賃金を上げればいいだけで、外国人労働力を導入する必要はない。例外的に、熟練労働者が不足している場合にのみ導入すればいいのであって、熟練労働者は「高度人材に準ずる者」とでも定義すればいいのではないだろか。
ただ、外国人労働力の受け入れに反対の筆者でも、導入すべきと考えている職業がある。バスやトラックの運転手だ。免許を持つ日本人が高齢化していて、現役世代で免許を持つ運転手が不足しているのだから、外国人に頼らざるを得まい。これも「高度人材に準ずる者」でいいだろう。付け加えるなら、「自動運転が広く普及するまで」と時限的に導入すればいいのではなかろうか。
そこで、「日本人運転手を養成する」という選択肢は合理的ではない。どうせ数年で使えなくなる運転免許を取得するために、大金を払う受講者がいるとも思われないからだ。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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