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韓国に二百億円が奪われた?「苺事件」に見る知財戦争の過酷な現実 日本の財産を守るためにすべきこと
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56094
2018.07.02 正林 真之 弁理士 正林国際特許商標事務所所長 現代ビジネス
韓国に「盗まれた?」日本のイチゴ
4か月前のことながら、だいぶ昔のことのようにすら思える、平昌オリンピックでのカーリング女子日本代表の銀メダル獲得。
選手たちの「そだねー」という言葉や、“もぐもぐタイム”ならぬハーフタイムの栄養補給の姿をはじめ、なにかと微笑ましい話題に尽きなかった闘いの背後に、もうひとつの熾烈な戦いがメディアでは盛んに報じられていた。ハーフタイムにLS北見の選手達がおいしそうに頬張っていた、真っ赤なイチゴを巡る韓国イチゴ問題だ。
斎藤健農林水産大臣までもがこんなコメントを繰り出し、ことは次第に大事になっていった。
「選手の1人の方が韓国のイチゴはおいしいと発言されて、随分それがキャリーされたわけではありますけど、日本の農林水産大臣といたしましては、女子カーリングの選手の皆様には、日本のおいしいイチゴをぜひ食べていただきたいなというふうに思います」
日本の選手達が食べていた韓国のイチゴの品種は不明だが、韓国で最も栽培されているイチゴ品種は、「雪香(ソルヒャン)」という名で呼ばれる、品種改良によって韓国で誕生したイチゴだ。ところが、この「雪香(ソルヒャン)」は、日本のイチゴ種、「章姫」と「レッドパール」を掛け合わせて生まれた品種であることから、話はややこしくなってくる。
見事銅メダルに輝いた日本女子カーリングの「もぐもぐタイム」と呼ばれた打ち合わせハーフタイム。イチゴをほおばりながら試合に臨む姿が微笑ましく紹介された Photo by Getty Images
無法と無法が掛け合わされ
問題は、それが国と国との合法的な約束ごとで成り立っていたのか、それとも日本から盗んだ苗を掛け合わせた不当な品種流出かどうかということだ。
「章姫」は、静岡県の萩原章弘氏が日本のイチゴ品種、「久能早生」と「女峰」を掛け合わせて育成した、収穫量が多く、甘みが強く、摘花により大玉率が上がるといわれる人気のイチゴ品種だ。
一方、「レッドパール」は、愛媛県の西田朝美氏が同じく日本のイチゴ品種、「アイベリー」と「とよのか」を掛け合わせて育成した、甘みと酸味の濃い味が特徴で病気にも強く、収穫量が多い、育てやすい品種だという。
報道によれば、ある日、この「レッドパール」の生みの親である西田氏のもとへ韓国人の農業研究者金重吉(キム・チョンギル)氏が訪れ、「レッドパールの苗」がほしいと懇願してきたという。断り続けた西田氏だったが、仕舞いには断り切れず、「レッドパール」の苗を5年間、有料で栽培できる条件で契約したという。
ところがその農業研究者は西田氏の承諾も得ず、勝手に他の韓国人に苗を譲ってしまった。金氏は、テレビの取材に対し「知り合いに苗を譲り渡したところ、勝手に栽培したり売ったりし始めた」と説明し、自分の責任ではないと答えているのである。その後、「レッドパール」は一時期韓国イチゴ市場で8割を占めるほどまでなっていたという。
「日本人のように良心的にやってくれる、と信じてしまった」という西田氏だが、その後西田氏のもとに使用料が入ることはなく、無念のまま2015年に他界されてしまった。
この「レッドパール」と「章姫」を掛け合わせて生まれたといわれる「雪香(ソルヒャン)」は、収穫量が多く、しかも病害虫にも強く、栽培技術も安定化されていることから、いまでは韓国で圧倒的なシェアを誇る。もちろんただの1円も日本にロイヤリティが支払われることはない。
主張だけで終わりかねない
そして、農林水産省は、日本のイチゴ品種が韓国へ流出したことで「5年間で最大220億円の損失」という試算を発表し、この「220億円の損失」という言葉が一人歩きしていったのだ。
この「220億円の損失」という数字はどこから出てきたのだろうか。
「農林水産省における知的財産に係る取組 」と題された資料がある。この資料中「農林水産物に係る知的財産の国内外での保護 」というページの中で、「韓国のいちご輸出による日本産 いちごの輸出機会の損失は 5年で最大220億円(推計)(※韓国のいちご輸出量4千トン/年が日本産 に代替されたとして試算 )」とし、「日本の農業関係者は海外での育成者権保護の必要性に気づいていない」と指摘されているのだ。
さまざまな報道では、韓国のイチゴ栽培面積の9割以上が日本の品種をもとに開発された品種であり、日本の品種が韓国で育成者権を取得できていれば、現在でもいちごのロイヤリティ収入を獲得できた可能性があると言われている。
韓国は、これらの品種のイチゴをアジア各国に活発に輸出しているので、そこには韓国産イチゴ輸出を日本産で代替できていた可能性も含まれるだろう。
その真偽や解釈は様々だろう。日本では、農作物の権利を守るべく、「品種登録制度」が法律で整備されていて、通常25年間は使用料を取ることができるが、韓国国内で不法に栽培されてしまったイチゴ品種はまさに無断栽培し放題という無法地帯なのだ。しかしながら、その後、この「220億円の損害」の賠償問題等の話は一切聞かない。
この日本と韓国のイチゴ騒動、結局はうやむやなまま忘れ去られていってしまうのだろうか。いや、本当はこの問題を機に、「日本の知的財産権」をどう守るかを今こそ考えなければならないのだ。
商標登録で利益を守った日本の実例
日本国内に目を向けてみると、「知的財産権」についてあながち悪い事例ばかりとは限らない。
たとえば、浜松や静岡方面に出張に出かけた帰りに決まって持ち帰るお土産「うなぎパイ」も、この商標が登録されていることで一人勝ち状態を保っている。当然のことながら、類似の商品も多数販売されてはいるが「うなぎパイ」という商標がある限り、その圧勝は揺るぎようがないだろう。
もはや「うなぎパイ」という商標、つまり名前自体がお菓子の美味しさの一部になっているので、名前の違う類似商品をお土産に持って帰ってもがっかりされてしまうだろう。
「うなぎパイ」の類似品追随を許さない背景には、商標登録が必須だった 「春華堂」HPより
同様に、同じみかんでも「有田みかん」というだけで、その希少性は何倍にも跳ね上がる。
みかんといわれても積極的に食べたいと思わないのに、「有田みかん」と聞くと途端に高級なイメージに早変わりする。
しかしこれは、「地域団体商標」という「地域名+商品名等」の組み合わせからなる「有田みかん」の登録商標を「ありだ農業協同組合」が権利者として守り続けているからなのだ。つまり、国内での商標も利権を持つ場所が一致団結しないと商標は守れない。商標をはじめとした知的財産を守るには、対海外でも国内の権利者が一致団結して対策を練る必要があるのではないだろうか。
CIAが取り締まる分野を「生活安全局」
ところで、知的財産権の流出、いわゆる産業スパイのようなものを取り締まるところは、アメリカだとCIAやFBIであるが、日本では、どこの管轄となるかご存知であろうか。それはなんと、警察庁の生活安全局である。生活安全局といえば、ご近所トラブルや、ストーカー・DV、そして悪質商法など、市民の生活の安全や平穏に関わる様々な困りごとに対応する部署である。
この生活安全局には、生活経済対策管理官なる組織が存在し、その所轄事務の第3番目にようやく、「特許権、著作権又は商標権を侵害する事犯その他の知的財産権関係事犯の取締りに関すること」という記載が見つかる。
CIAやFBIに比べてどうこう申し上げたいわけでは毛頭ないが、知的財産権保護に対する取り組みが遅れていることの証明ではないだろうか。
日本国内では、日本国内の様々な法令によって、知的財産権保護への取り組みも以前よりは進んでいるようだ。
しかしながら、知的財産の侵害に対する優先順位はまだまだ低く、担当警察官の危機感もない。そして、当然他国から恐れられるはずもなく、技術大国日本が誇る知財資産は難なく海外に流出してしまうのだ。
政府の取り組みを積極的にアピールすべき
農林水産省は、日本の法令の効力が及ばない海外でも、日本の開発者の品種登録や、権利を守るべく支援に乗り出しているというが、現実はどうなのだろうか。
海外での品種登録は通常100万円から200万円かかる。しかも国ごとの出願が必要で、出願可能な期間にも制約がある。
農林水産省は国の予算に出願経費の補助事業を盛り込んでいるほか、国別の手引き書を作り、対応を呼びかけているというが、その実情はどうなのだろうか。
誰が犯人かなどという犯人捜しをしている場合ではなく、一刻も早く、日本の国としての明確な意思と態度を明らかにし、そして世界に対して具体的な取り組みを講じなければならない。
実際、日本政府は外国での品種登録を促すため、出願経費を支援し始めている。「植物品種等海外流出防止緊急対策事業」として、品種登録出願経費支援の公募のための窓口も設置した。
そこでは、海外の輸出市場でも高く評価されている優良な品種が海外で栽培される場合、正統な対価が支払われなければ、農産物の輸出に支障がきたすことが懸念されるが、このような事態に対応し、我が国農産物の輸出力強化を図るため、海外における育成者保護の促進のため、無断栽培を防止するための支援を行うこととしている。
しかしながら、そのアピールはまだまだ足りないのではないだろうか。
日本の知財を守る対策が急務
私は国際特許商標事務所を主宰する弁理士のひとりだが、“国際パテント・マネタイザー”として、日本人や日本の会社が生み出した特許、商標等をはじめとする知的財産とそこから生み出される利益を、国境を越えた世界の企業との戦いの中で守ることを日々の生業としている。
イチゴに端を発した農業品種という知的財産の権益問題も、いつの間にか話題にさえ上がらなくなってきているが、2020年の東京オリンピック開催を前にして、実は最も早期に取り組まなければならない課題のひとつに違いない。
しかしながら、農産物のみならず、あらゆる知財に対するグローバルな取り組みは、まだまだ遅れているといっても過言ではないだろう。
日本は、世界に名だたる知的資産大国であることは言うまでもない。
だが、日本国内はもちろん、国家間での取り決めも含めて、特許、商標、意匠をはじめとする知的財産の権利化と保護、そしてその運用を今のうちに進めておかなければ、日本はアジアの、いや世界の最貧国のひとつとして、超高齢化時代の到来とともに没落してしまうのではという危惧さえ拭えない。
そして、私が国際弁理士を標榜しているのは、ますますグローバルな海外展開を強いられる日本の企業を、日本とはまったく異なる文化・常識・センス・感覚を有する世界各国の“猛威”から守りたいという決意と覚悟と志の証しだ。
国家間、民族間、国民間にますます広がり続ける格差社会の拡大を背景に、あらゆる知的資源の争奪戦が既に始まっていることを、私たちは決して忘れてはならないのだ。
参考資料:
http://agora-web.jp/archives/2031324.html
http://takupath.net/curling-women-strawberry-4574
http://news.livedoor.com/article/detail/14116522/
http://bunshun.jp/articles/-/6468
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDJ07H0I_X00C17A7QM8000/
正林真之 しょうばやし・まさゆき 1998年に弁理士として独立し、現在の正林国際特許商標事務所の基盤となる事務所を設立。知的財産のエキスパートとして活躍。音楽の知的財産をモーツァルトとプッチーニはどのように使用したのか? という入り口から、国内外で見られる知的財産の使用例をまとめた『貧乏モーツアルトと金持ちプッチーニ』が7月に刊行される予定。
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