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JR北海道の苦境は一体どこに原因があるのか
https://diamond.jp/articles/-/173703
2018.7.2 枝久保達也:鉄道ジャーナリスト ダイヤモンド・オンライン
JR北海道の経営問題がクローズアップされている。国や北海道、沿線自治体に支援してもらえなければ、全路線の約半分を廃止せざるを得ないというが、そもそもJR北海道の経営はなぜ、ここまで悪化してしまったのだろうか?(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
収支が改善しなければ
全路線の半分が廃止の危機に
この35年間で路線網の4割近くを廃止、人件費もピークの半分ほどに切り詰めたが、それでも路線の半分以上が「当社単独では維持することが困難な線区」だという
JR北海道の苦境が続いている。2017年度の連結決算は106億円の経常赤字となり、2016年度の103億円に続いて、2期連続で過去最悪を更新する大変厳しい結果となった。
2013年に特急列車からの出火・発煙が相次いで発生、さらに貨物列車の脱線事故について、線路検査データの改ざんや異常箇所が未補修のまま放置されていたことが発覚。従業員の不祥事も相次ぎ、安全管理と企業体質に疑念の目が向けられたことは記憶に新しいだろう。
事故を受けて特急列車の減便、スピードダウンを伴う異例のダイヤ改定を実施したことで鉄道運輸収入は減少。一方で安全対策として設備投資や修繕を拡大したため営業費用が増加し、さらに2016年3月の北海道新幹線新函館北斗駅開業に向けた準備費用も重なって、営業損益は大幅に悪化した。
2016年7月には経営状況が極めて厳しいとして、一部の路線の廃止や経営形態の見直しを含めた「持続可能な交通体系のあり方」の検討を提起し、経営問題が一気に表面化することになった。
今年4月からJR北海道は経営再生に向けて、国土交通省、北海道、北海道市長会、北海道町村会、JR貨物との6者協議を開催している。6月17日に行われた第2回協議で発表された「経営再生の見通し」で、北海道新幹線の札幌開業が予定される2030年度まで国と北海道、沿線自治体に対して支援を求めたが、沿線自治体の財政状況は厳しく、財務省も長期の支援に難色を示しているという報道もある。
収支が改善しない場合は全路線の約半分にあたる区間が廃止、バス転換される可能性もある。国土交通省は夏までに公的支援策をまとめたいとしている。
ここにきて風雲急を告げるJR北海道の経営問題は、今月に入って全国紙でも大きく取り上げられるようになってきた。これから夏に向けて議論が本格化するに当たって、今さら聞けないJR北海道問題の経緯と基礎をおさらいしておこう。
JR北海道は
完全な民営会社ではない
国鉄からJRになって民営化したのだから、トラブル続出で経営危機に陥るのは自業自得で仕方ないと受け止めている人は少なくないかもしれない。しかし、JR北海道は国が全ての株式を保有する特殊会社であって、そもそも完全な民営会社ではない。この問題を理解するためには一度、国鉄民営化までさかのぼらなければならない。
約37兆円の借金を抱えて経営破綻した国鉄を再生するため、全国の路線を6つの旅客会社と貨物会社に分割して、民営企業JRとして再出発させたのが国鉄民営化だ。なおJR貨物は旅客会社とは事情が大きく異なるので、本稿では旅客会社6社のみを扱うこととする。
民営化に当たって国鉄債務37兆円のうち14.5兆円がJR負担となり、大都市の通勤路線と新幹線を抱えて収益の見込めるJR東日本、JR西日本、JR東海で分担することになった。収益の見込めないJR北海道、JR四国、JR九州のいわゆる「三島会社」は返済を免除された。
JRに継承された国鉄の資産は株式化され、JR各社は政府(民営化当初は日本国有鉄道清算事業団)が全ての株式を保有する特殊会社として発足している。全社が株式を上場して完全な民間会社になることが国鉄改革の最終的な目標とされ、1993年にJR東日本の一部株式を売却し上場を達成したのを皮切りに、2002年にJR東日本、2004年にJR西日本、2006年にJR東海が完全民営化された。2016年10月には、当初は収益が望めないとされた三島会社からJR九州も完全民営化を果たしている。
残る旅客会社はJR北海道とJR四国だが、両社については完全民営化どころか会社存続の危機が迫っているのが実情である。2017年度の単体決算でJR北海道が525億円、JR四国が99億円の営業赤字を計上している。関連事業では到底カバーできない不採算路線を多数抱えているからだ。
「経営安定基金」や国の支援で
なんとか経営を維持してきた
もっとも、三島会社の苦戦は当初から想定されていた事態であった。そのため分割民営化時に用意されたのが「経営安定基金」という事実上の補助制度だ。基金の額はJR北海道6822億円、JR四国2082億円、JR九州3877億円で総額1兆2781億円。この運用益で鉄道事業の赤字を穴埋めするとしたのである。
これは民営化当時の10年国債の平均金利(過去10年間)を参考に算出されたもので、7.3%の利回りで運用することが想定されていた。例えばJR北海道は1988年度に営業収益940億円、営業費用1473億円で営業損失533億円を計上したが、これに対して基金運用益は498億円で、経常利益は12億円の赤字に収まっている。
ところがバブル経済が崩壊し、1990年代後半には10年国債の平均利回りは1%台に低下、さらに2010年代に入ると1%を割り込み、一時マイナス金利を付けるまで停滞することとなった。想定外の低金利が急速に進行したことで、経営安定基金のスキームは崩壊してしまったのだ。
一方でJR北海道の基金運用益を追っていくと、1998年340億円、2008年231億円、2016年236億円と、民営化当初ほどではないものの、低金利時代にもかかわらず相当の利益が出ていることに気づく。2016年の10年国債年平均利回りはマイナス0.031%だから、破格の高金利で運用していたことになる。
実はここにはからくりがあって、実際の金利で運用したら経営破綻してしまうため、政府が経営安定基金の運用益を下支えしている。具体的には、基金の一部を国土交通省が所管する独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に高金利で貸し付けることで、高利回りの運用を実現しているのだ。
鉄道・運輸機構は国鉄清算事業団の業務を継承しており、JR北海道の全株式を保有する株主でもある。つまり、事実上の親会社から運営補助金を受けて、なんとか経営を維持してきたのがJR北海道の実態である。
経営努力を上回る
急速な事業環境の変化
超低金利時代は必ずしも国鉄民営化の逆風だったわけではない。国鉄債務を継承した本州3社にとっては返済が想定以上にはかどり、新しい設備投資の追い風となった一面もあるからだ。問題はメリットとデメリットが相殺しない形で分割してしまったことにあると言えるだろう。
経営安定基金の運用益が長期的には減少していくなかで、JR北海道は営業赤字を削減し、鉄道事業の安定経営を実現することが求められていた。そのためには収入を増やし、費用を減らさなければならない。そういった意味では、JR北海道が一定の経営努力を続けていたことは間違いない。民営化以降、札幌都市圏で列車の増発や新駅の開業、札沼線(学園都市線)の通勤路線化を進めるとともに、札幌駅を中心とする特急列車のネットワークの拡充、新千歳空港輸送の強化によって、1987年に623億円だった鉄道運輸収入は、1996年に800億円まで増加している。
ところが1997年、北海道は大きな転機を迎えることになる。ひとつは北海道拓殖銀行破綻に端を発する長期の景気低迷、もうひとつはこの年の569.9万人をピークに人口減少期に突入したことである。鉄道運輸収入も1996年をピークに減少に転じ、2014年には民営化以降2番目に少ない668億円にまで減少してしまった。
さらに経営環境を激変させたのは高速道路網の整備だ。1987年に合計167kmだった高規格幹線道路は、2018年3月には1119kmまで拡大し、自動車保有台数も1987年の165万台から2015年は290万台まで増加している。
国鉄民営化の方向性が決まった1983年に約4000kmあった路線網は、利用が少ない路線を廃止して民営化時は3176kmに、民営化後の30年間でさらに約650kmを廃止して、現在では2552kmまで減少している。人件費もピークの半分近くまで切り詰めた。それでもなお路線の半分以上が「当社単独では維持することが困難な線区」だというのである。全体の7%にあたる179.4kmの区間では、1列車あたり10人以下の利用者しかおらず、鉄道である利点がないとして、路線廃止によるバス転換を提唱している。
ローカル線ジリ貧は
全国的な問題に
JR北海道の苦境の原因は、高速バスとの競争激化にあるとする見方があるが、これは半分しか正しくない。「地域公共交通検討会議」にJR北海道が提出した資料によると、札幌と道内主要都市(帯広、釧路、稚内、北見・網走、函館、旭川)間の公共交通機関を利用した輸送量の合計を1991年と2014年で比較すると、全ての区間で減少しているという。
例えば札幌〜函館間は交通機関別では鉄道がマイナス26.3%、航空機がマイナス55.4%、高速バスだけが約2.8倍と大きく増加しているが、合計ではマイナス23.7%の大幅な減少である。鉄道のシェアを見ると80.4%から77.7%とあまり変わっておらず、依然として都市間輸送の中核的な役割を担っていることに変わりはない。確かに高速バスは健闘しているが、JR北海道の輸送量の減少分は高速バス利用者の増加分の数倍にも及ぶ。経営問題としては、全体的な需要の大幅な落ち込みの方がはるかに影響は大きいのである。
結果として、札幌〜網走間を結ぶ「特急オホーツク」、札幌〜稚内間を結ぶ「特急宗谷」、札幌〜釧路間を結ぶ「特急スーパーおおぞら」が走行する線区であっても、鉄道を維持するための仕組みを再検討しなければならない状況に陥ってしまった。
今後は、人口減少がさらに追い打ちをかける。2017年1月現在の北海道の人口は537万人。2035年には446万人まで減少すると予測されており、JR北海道の経営努力を超えた構造的問題があると言わざるを得ない状況だ。
もっとも、この「ローカル線大苦戦」問題はJR北海道に限った話ではない。局地的にはJR東日本やJR西日本のローカル線でも発生している問題であり、間もなくJR四国や各地の第三セクター鉄道会社も直面することになるだろう。日本の公共交通をどのように維持していくのか、私たちに大きな宿題が突き付けられている。
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