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巨大IT企業の銀行業参入に対する「期待と警戒」
https://diamond.jp/articles/-/172834
2018.6.20 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
IT企業の銀行業参入は、既存銀行にどのような影響があるのだろうか Photo by DOL
日本は異業種の銀行参入に寛容
日本は、銀行以外の業種企業が傘下に銀行を持つ形での銀行業参入に対して、比較的寛容な国だ。これまでもソニー銀行を始め、セブン銀行や楽天銀行など、金融以外の業種が親会社である銀行が世に出ている。
こうした異業種からの銀行は、対面営業の証券会社に対するネット証券のように、インターネットを使って銀行のサービスを低コストで、あるいは便利に提供するビジネスモデルもあれば、コンビニなどにATMを多数設置して、利便性を提供することで手数料を取るようなモデルもある。前者では電機メーカー・ソニー傘下のソニー銀行、後者ではコンビニエンスストア最大手・セブン−イレブン傘下のセブン銀行が共に老舗で代表格だろう。
ただし、こうした新銀行が参入を決めた当時、銀行業界の側には、異業種新銀行に「食われる」という危機感はほとんどなかった。バブル崩壊後の不良債権問題などはあっても、金融行政の手厚い庇護の下で厳しい生存競争にさらされず、生存を守られるという環境の中で、投資信託や保険の販売が認可されるなど新しい食い扶持まで与えらるといった“厚遇”を満喫してきた。
ところが現在、(1)特に地方経済の縮小に伴うビジネス基盤の縮小見通し、(2)新技術の発達による店頭での銀行サービスの無力化、加えて(3)長引く金融緩和政策に影響された資金利ざやの縮小、といった逆風を受けて、特に地方銀行(もちろん信用金庫や信用組合を含む)を中心に、銀行のビジネスモデルの存続自体が危ぶまれる状況に至っている。
こうした中で、例えば多くの情報を持つ企業、例えばアマゾンやフェイスブック、グーグルのような企業が銀行に参入してきた場合、既存の銀行のいわば本業と言うべき融資ビジネスにあっても、新しい銀行に食われる可能性があるのではないかという問題意識が台頭してきた。
例えばアマゾンは、多くの個人顧客の購買や決済に関わるデータを持っているし、フェイスブックは人間関係の個人情報を、グーグルは個人の検索履歴や各種サービスを通じて個人の信用情報を持っている。こうした情報は、これまでの銀行が顧客の預金の動きを通じて持っているレベルを超えるかもしれない。
金融行政の問題として、今後、例えば「アマゾン銀行」や「グーグル銀行」の参入申請があった場合に、これを認めるべきか否かが、かつてとは異なる真剣さで議論されるようになっている。
AIは銀行業務をどう変えるのか
AIの発達に伴って、銀行のいわば本業である融資が、どの程度AI化できるかが議論されている。銀行、信用金庫、信用組合などの金融機関の主に支店の営業担当者を読者としていると思われる業界誌「近代セールス」の7月1日号は、「よく分かるAI融資」と題する特別企画を組んだ。
ちなみに、筆者は、金融行政に近い金融業界情報の把握のために「週刊金融財政事情」を読み、銀行のリテール業務の現場感覚を知るために「近代セールス」を読んでいる。前者は、地方銀行の経営統合について金融庁がどう考えているかといったことが分かるし、後者は、銀行の店頭でどのようなセールストークによって投資信託が売られているのかといったことが分かる。両方を読むと面白いし、共に貴重な情報源だ。
ご興味のある方は是非「近代セールス」(7月1日号)誌に直接当たって見てほしいが、AIによる融資は、共に短期の融資であるが、個人向けにも法人向けにも実用化されつつある。
データに基づく融資というと、かつて新銀行東京や日本振興銀行が試みて失敗した「スコアリング」による融資とどこが異なるのかが興味深くもあり、心配されるところでもある。例えば個人向けの融資にあって、現在のAIは所得や所有不動産といった直接的な信用情報だけでなく、本人の性格や趣味嗜好など一見信用力に無関係に見えるデータも含めて相関関係を解析しつつ、データに当てはめて繰り返しディープラーニング(深層学習)を行うような仕組みで、かつてよりも随分賢くなっているようだ。
特集で紹介されている、企業向けの融資を判断するAIエンジンは、会計ソフト会社が提供し、会計ソフトのデータを活用するものだが、提供会社は同エンジンについて「金融機関の優秀な担当者さんが行うことをAIが代替しているイメージで、人間を超えたものではないと考えています」と述べている。謙虚なコメントだが、むしろ自信を感じさせる。
現時点で、少なくとも個人向けの融資にあっては、アマゾン、フェイスブック、グーグルといった巨大インターネット企業、いわゆる“ITジャイアント”は、すでに既存の銀行が持っている以上の信用情報の元データを持っている可能性が大きいように思われる。
参入は歓迎、むしろ業界再編に活用したい
もともと、銀行業への新規参入にオープンであることは、日本の金融行政の大きな長所だ。規制が柔軟であったおかげで、消費者はインターネットを通じて手軽にお金を動かせるし、方々にあるコンビニで現金を引き出すことができるようになった。
行政は、既存企業のビジネス上の都合よりも、ユーザーにとっての利便性を優先して考えるべきものなので、新規参入を認めないという方向性はあり得まい。
むしろ、大きな資金力、新しい技術、ビジネス上有益なデータを持った強力な銀行が参入して、できれば既存の銀行を買収し、傘下に収めてくれるくらいのことがあると好ましいのではないか。
特に、既存の業態のままでの銀行同士の経営統合が進まぬまま、時間切れを迎える銀行が出かねない地方の金融ビジネスを考えると、利用者の預金や借り入れが連続性を保ちながら、主に個人向けのビジネスがITジャイアントによって営まれて、当初はデータと判断力が不足しがちな法人向けビジネスを既存の銀行がカバーするといった組み合わせは、ビジネス上も悪くはなさそうだ。
ユーザー側も、例えば自分が購入した電子ブックのタイトルによって、融資の条件が変わるようなことがあると少々気持ち悪く感じるかもしれないが、やがては新しい状況に慣れていくだろう。
心配はマーケティングへのデータ活用
例えば、ITジャイアントの銀行業参入を考えた場合、規制では止めようがなさそうだが、現実問題として心配なのは、新銀行が持つビッグデータが融資判断に活用されるのではなく、もっぱらマーケティングに活用されることの影響だ。
例えば、書籍の購買データと預金のデータを合わせると、お金を持っている情報弱者の顧客に対し、手数料の高い投資信託を勧めるようなセールス行為が容易にできそうだ。あるいは、ギャンブルの本をよく買う読者に、カードローンの利用を勧めるようなマーケティングも心配だ。金融の場合、動く金額が大きく、その分、顧客が負担する手数料やリスクが大きなものになりやすい。
こうしたデータを活用した金融マーケティングは、すでに既存の預金関連のデータの活用にあって心配な段階に入っているが、これに新たな個人データが加わると心配はさらに拡大する。
金融機関が所有するデータを営業に活用することに関して、これをフェアかつ有効に規制することは難しそうに思える(規制しても、金融業者は必ず抜け道を見つけるだろう)。
例えば、現在でも個人向けに販売することが不適切な、店頭デリバティブの仕組み商品(仕組み債や仕組預金)のようなものは販売を禁止すべきだろうし(この種の商品の横行は規制緩和のやり過ぎだった)、個人向けのカードローンは銀行が行うものも早急に総量規制(年収の3分の1まで)の対象にすべきだろう。
こうした消費者を守るための一部の規制強化と、毎月分配型の投資信託を買うことが不利であると多くの人が理解するようになる金融教育が必要だ。
「振り込め詐欺」のような、金額的に小さなものにばかり大きな警鐘を鳴らす現状はいかがなものか。異業種の銀行参入があればなおのこと、ないとしても当然のこととして、消費者保護を進化させる必要がある。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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