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「円安が景気にいい」という定説が実は正しくない理由
https://diamond.jp/articles/-/172471
2018.6.15 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです Photo:Reuters/AFLO
春先に105円を割り込んだドルは、米国の金利上昇を背景として値を戻し、110円近辺で推移している。100円割れで景気が悪化すると懸念していた人も多かっただろうから、胸をなで下ろしている人も少なくないだろう。しかし、本当にドル安円高は景気に悪く、ドル高円安は景気にいいのだろうか。
円安でも輸出入数量の変化は
小幅にとどまる
かつて、日本経済は円高に弱いと言われ、円高になると日銀による為替介入が行われたり、経済対策が実施されたりした。今でも「円高は景気に悪い」と考えている人は多く、実は筆者も最近までそう考えていた。したがって、アベノミクスによる円安が景気回復に大きな力を発揮するはずだ、と期待していたのだ。
しかし実際は、期待したような効果は現れなかった。80円割れで推移していたドル相場がアベノミクスによって100円超で推移するようになっても、輸出数量は増えず、輸入数量は減らなかったからだ。
従来は、Jカーブ効果理論などというものがあり、「円安になって半年から1年経過すると、輸出数量が増えるので貿易黒字は増える」などと言われていたのだが、今回は大幅な円安になって4年を経過しても、輸出入数量はほとんど変化しなかった。最近になってようやく輸出数量は増加しているようだが、過去5年間の海外経済の成長だけで十分説明できてしまうほどのわずかな増加である。
理由としては、企業が「地産地消」志向を強めているから、企業内で国際分業が確立していて、国内生産品目と海外生産品目がしっかり定まっているから、輸出企業が円高時に無理して安値輸出をしていたのが是正されただけだからなどがあるようだが、本稿ではその理由について論じない。重要なのは、「最近の日本経済に何らかの構造変化が起きていて、最近では円安でも輸出入数量の変化は小幅だと思われる」ということだからだ。
数量以外の面では
円安は景気悪化要因にも
円安でも輸出入数量が変化しないとすると、それ以外の面では円安は景気にマイナスに働きかねないので、注意が必要だ。マスコミで「円安によって輸出企業の利益が増え、景気がよくなった」などと報じられることがあるが、これは違う。日本は輸出入が概ね同額なので、輸出企業がドルを高く売れた分と、輸入企業がドルを高く買わされた分は概ね同額だからだ。
通常、輸入契約は、「1ドルの物を1ドルで輸入する」ので、ドル建て契約が多いが、輸出契約は外国人が日本へき来て「100円のものを100円で輸入したい」と言われる場合もあるため、一部は円建て契約だ。そうしたときにドル高になると、輸出企業がドルが高く売れて儲かる分よりも、輸入企業がドルを高く買わされる分の方が多くなってしまう。
前述のJカーブ効果が健在ならば、しばらくして輸出数量が増えることで「円安は景気にいい」と言えるのだが、輸出入数量が変化しないとすると、輸入企業の支払いが増加した分だけ、景気を下押しする要因として残ってしまうのだ。
輸出企業が持ち帰ったドルを高く売れて儲かった分は、配当に用いられるか、銀行借り入れの返済に用いられる可能性が高い。投資家が受け取った配当は、消費に向かうよりも別の株を購入するために用いられるだろうし、銀行は融資の返済を受けたら日銀に準備預金として預けるだろう。つまり、輸出企業の利益が増えても、景気には貢献しにくいのだ。
一方で、輸入企業が高く買わされた分について、一部は輸入企業の収益悪化となるが、一部は価格に転嫁されて消費者が負担することになる。値上げされてしまった消費者は、買う量を減らしたり、我慢して値下がりを待ったりする。こうした動きが加速すれば、個人消費が減って景気を悪化させる要因となる。
理論上は、輸入物価が上がると輸入インフレが発生しかねないので、日銀が金融引き締めを実施して、景気をわざと悪化させる可能性もある。だが、昨今の日本では考えられないことだが。
ちなみに、円安の反対で、円高が景気にプラスに働くことは、実際に日本経済が経験済みだ。プラザ合意後の円高は、輸入物価を下げてインフレを抑制した。バブル期の超好景気にもかかわらず、円高の「おかげで」日銀の引き締めが見送られ、景気がかえって長持ちしたのだ。まあ、おかげでバブルが拡大し、その後遺症が深刻になった、というオチはついてしまったが。
円安と景気の
因果関係には要注意
これらを総合的に考えると、昨今の経済構造を前提とした場合、「円安が景気にいい」とは言い難い。長年景気を見続けてきた筆者としては、大変居心地の悪い思いをさせられているが、何らかの事情で経済構造が変化したのであれば、筆者が順応するしかない。
ところで、統計をとると、「円安の時は景気がいい」という結果になるかもしれないが、これは上記したこととは矛盾しないので、筆者の論考が誤っていると即断しないでいただきたい。それは、因果関係が違うと思われるからだ。
「米国の景気がいいから日本の輸出が増え、日本の景気が良くなる」「米国の景気がいいと米国の金利が上がるので、日本人投資家が円をドルに替えて米国で運用するようになり、結果としてドル高になる」ということが、同時並行的に起きているのだと思われる。
そうだとすると、「円安の時は景気がいい」とは言えても、「円安のおかげで景気がいい」とは言えないことになる。「米国の景気がいい」という親がいて、「円安」「日本の好景気」という子がいるとすれば、兄弟が似ているのは自然であろう。
もしも読者が統計の取り扱いに慣れていないならば、因果関係について誤解しないように、留意が重要だ。
貿易が景気に与える影響は
数量を見るべし
輸出入統計で景気を語る際には、輸出入数量を見るべきだ。ドル高で輸出数量が増えるなら、その分だけ輸出企業の生産が増えて雇用が増えていると思われるし、輸入数量が減っているならば、その分だけ輸入品を買わずに国産品を買った消費者が多かったはずだから、やはり国産品の生産が増えたと思われるからだ。
貿易統計は円建ての統計であるため、円安になると輸出金額は自動的に大幅に増える。それを見て「円安で輸出が増えて景気が回復した」と考える人がいるとすれば、それは誤解だ。
上記のとおり日本は輸出入がほぼ同額なので、ドル建て輸出入金額が一定だと、円建てで発表される「貿易統計」は輸出も輸入も大幅増となり、差額である貿易収支はあまり変化しないのが普通だ。つまり、輸出企業がドルが高く売れた分だけ輸入企業がドルを高く買わされているため、景気への影響は限定的なのだ。
ドル建て輸出入金額を見るならば、ドル高により自動的に輸出入ともに増える分が隠れてしまうので、輸出入数量の変化に近い動きとなるが、例えば原油価格などに影響される。原油価格上昇で輸入が1ドル増えた場合と、製品輸入が1ドル分増えてその分の国内生産が減った場合では、後者の方が遥かに国内景気への影響は大きいので、やはり原油価格変動の影響を除いた数量を見る方が望ましいことには違いない。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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