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大塚家具のビジネスモデル大崩壊で、銀行が備え始めた「Xデー」 ついに担保保全に走り出し…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56010
2018.06.13 高橋 篤史 ジャーナリスト 現代ビジネス
10ヵ月連続で前年割れ
大塚家具の業績悪化が底なし沼の様相を呈している。先月27日には創業の地である春日部ショールームを閉鎖した。3年前、世間の耳目を集めた激しい親子げんかの末、経営権を奪取した大塚久美子社長だが、直後からビジネスモデルは崩壊を始め、いまや土俵際まで追い詰められている。
大塚家具を悩ますのは何と言っても顧客離れだ。ある平日に東京・有明の旗艦店をのぞいたところ、広々とした店内に客の姿はほとんどなく、静まりかえった中、店員ばかりが目に付いた。先日公表された5月の月次売上高は前年に比べ10%のマイナス。これで前年割れは10ヵ月連続、しかも2桁台のマイナスが珍しくない。
先月発表された今年度第1四半期(1〜3月)は、営業赤字14億円と大幅減収ペースにコスト削減が追い付いていない状況。すでに通期で2期連続の大幅赤字が続くが、このままだと51億円もの営業赤字を計上した前期と同程度の赤字決算になる恐れもある。
関係者によれば、「久美子氏はとにかく前任者の否定から入る」という。創業者で実父の大塚勝久氏が築いた大塚家具はもともと都心に大型店を構えて広域から集客し、会員制による懇切丁寧な接客で客単価を引き上げる戦略をとっていた。しかし、それにはまず新聞の折り込みチラシなど広告宣伝費を大量に投下する必要がある。久美子氏はそれが気に入らなかったらしい。
勝久氏を追放後、久美子氏は広告宣伝費を削り、かわりに会員制を取りやめて、低中価格帯の品揃えが豊富なニトリやイケアのように誰でも入りやすい店づくりを指向した。しかし、それが当たったのはお家騒動直後の「お詫びセール」だけで、後が続かなかった。
確かに業績好調な同業者を見習うことに一定の合理性はある。しかし、舵の切り方があまりに急でちぐはぐだったのだろう。新たなビジネスモデルを確立する前に元のビジネスモデルが瓦解してしまった。
凄まじいキャッシュの流出
これを数字で検証すれば、次のようになる。
勝久氏追放前の2014年12月期、大塚家具は販管費全体の12・4%にあたる38億3300万円の広告宣伝費を投じていた。これを17年12月期には半分の19億5300万円まで削っている。販管費に占める割合も7・5%まで落とした。しかし一方で売上総利益は305億円から209億円へと100億円近くも萎んでしまったのである。
これでビジネスが成り立つわけはない。中古家具事業や法人営業強化といった増収策も焼け石に水だ。
大塚家具は無借金の優良財務で知られた会社だった。確かにこれだけ赤字続きでも自己資本比率は64%(18年3月末)と高い。金融機関との間でコミットメントライン(融資枠)を設定しているが、借り入れもまだない。しかし、そんな外見とは裏腹に資金繰りは日に日に細っている。
かつて100億円以上あった現預金は18年3月末の時点で10億2600万円まで減ってしまった。この間、埼玉県春日部市で取得していた物流施設用地を約24億円で売却し、昨年11月には業務提携先で貸し会議室事業を行うティーケーピーに自己株を10億5100万円で譲渡、さらに三井不動産や三越伊勢丹ホールディングスといった持ち合い株を大量に売却したが、本業のキャッシュ流出は凄まじく、現預金は見る間に減少した。
不採算店を閉められない事情
まさに格言で言う「勘定あって銭足らず」の状態なのだが、では、分厚い自己資本は何に張り付いているのか。流通業なので大量の商品在庫を抱えていることは当然だが、大塚家具のバランスシートで目を引くのは多額の差入保証金である。
18年3月末でその額は50億円に上る。差入保証金は店舗の賃貸借契約時に大家に預けたもので、見方によっては金融資産と同等に考えることも可能だ。賃貸借契約が満了すれば戻ってくるからである。
しかし、事はそう簡単ではない。いざ店舗を閉鎖する際には必ず原状回復費用がかかるため一定額は相殺される。さらに契約期間途中の明け渡しとなれば、違約金が発生することもありうる。
大塚家具の場合、都心の大型フロアを借りているためそもそも多額の差入保証金が必要だったと見られるが、その契約期間が長期にわたる点も特徴だ。17年12月期の有価証券報告書によれば、差入保証金の償還までの年数は5〜10年のものが15億7900円、10年超のものも8億9400万円に上る。差入保証金の半分は5年以上先にしか戻ってこない。
じつはこのことが不採算店の店舗リストラの柔軟性を奪っている可能性は高い。閉めたくても多額の損失(=差入保証金の取りっぱぐれ)が生じるため閉められないとのジレンマである。
その窮余の策がティーケーピーに余剰フロアを転貸して貸し会議室ビジネスに使ってもらうという前述の業務提携だが、その分の家賃引き下げ効果くらいしか期待できるものはない。自己株を買ってもらったのは転貸主である大塚家具がテナントのティーケーピーから差入保証金を取ったものと考えれば分かりやすい。
商品在庫はすべて担保に差し出した
大塚家具にとってまとまった換金可能資産は残りの投資有価証券21億5100万円くらいしかない(18年3月末)。それを売ったとしても前期並みの赤字が続けば手元資金は底をついてしまう計算だ。
となると、あとは借金をするしかないが、これもそう簡単な話ではない。前述したように大塚家具は金融機関との間でコミットメントラインを設定しており、昨年末でその額は50億円だ。が、もはやコーポレートの信用では借りられなくなっている。昨年の時点で商品在庫のすべて(約129億円)と差入保証金の一部(約13億円)を担保に差し出しているのである。
さらに今年に入ってからは一部金融機関の警戒心が高まっているようだ。というのも日本政策投資銀行は今年1月4日、3月9日、4月11日に計4本の動産譲渡登記を行っているのである。万が一、法的整理となれば登記の先順位が回収では物を言う。政投銀はそれをも想定し始め、商品在庫の担保保全に走っているのだろう。
そもそも大塚家具の現預金がここまで細った一因には配当の大盤振る舞いがあったことを見逃してはならない。お家騒動でプロキシファイト(委任状争奪戦)が行われた際、久美子氏は株主から賛同を得るため大幅増配を約束した。15年12月期、大塚家具はそれまでの倍増となる年80円配を実施。必要な原資は14億円超にも上った。
「家具や姫」の末路
不可解なのは、大赤字に陥った16年12月期も80円配を継続、さらに赤字幅が拡大し現預金の枯渇さえ心配され始めた前期も減配とはいえ年40円配を実施した点だ。
前期はアレンジメントフィーとして1億円を費用計上したが、これは前述のコミットメントライン設定に関するものとみられる。それだけの手数料を払ってやっとのこと融資枠を確保するという状況下、タコ足配当をするのは馬鹿げている。
久美子氏の過去の動きをあらためて調べると、実父・勝久氏からの経営権奪取は用意周到なものだったとわかる。始まりは久美子氏がいったん取締役を退任して4年後の08年2〜4月。久美子氏の主導で資産管理会社「ききょう企画」の株主構成を見直し、同社発行の社債15億円と引き換えに勝久氏の保有株を大量に移したのだ。
それまでききょう企画株の50%は久美子氏の一歳下の長男・勝之氏が持っていた。勝久氏は勝之氏を後継者と考えていたからだ。
そこで久美子氏は相続対策と称して、勝之氏の保有株を自身と二女・舞子氏、三女・智子氏(夫は現・取締役専務執行役員の佐野春生氏)、二男・雅之氏(現・執行役員社長室長)にも分け与え、各18%と平等にした上で大塚家具株を保有させることを提案(残り10%は実母の千代子氏が保有していた)。
これに伴い、久美子氏ら譲り受け側には贈与税納付のため各自2000万円の銀行借り入れが必要だったが、それでもスキームを実行した。
かねて周囲に対し「自分が後継社長になる」と言って憚らなかった久美子氏はその後、舞子氏、智子氏、雅之氏を味方に付け、ききょう企画を実質支配。勝久氏を説き伏せ、09年3月に念願の社長に就任する。が、前述した社債15億円の償還を勝久氏から求められると、14年1月に同社の取締役から解任して閉め出した。
続く7月、激怒した勝久氏により大塚家具の社長を解任されると、久美子氏はききょう企画を足がかりに反撃、勝久氏のパワハラ問題などをあげつらい株主として訴訟提起を要請する内容証明郵便を監査役に送るなどし取締役会を揺さぶった。そして「家具や姫」との親しみやすいイメージを振りまき、株主総会でのプロキシファイトを制し、実父・勝久氏の追放に成功する。
現在、ききょう企画は前述の社債償還のため三井住友銀行から10億5000万円を借り入れ、さらに三菱UFJ銀行にも保有する大塚家具株の3分の1を担保に差し出している。経営権奪取の足がかりとしたききょう企画の保有資産は大塚家具株がほぼすべてで、借金の利払いはその配当金だけが頼りだ。
赤字にもかかわらず配当を続ける真因がそこにあると考えるのは邪推だろうか……。
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