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コンビニより多い歯科医院 経営破綻が増えるワケ
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180607-00000013-sasahi-bus_all
AERA dot. 6/10(日) 16:00配信 週刊朝日 2018年6月15日号
コンビニより多い歯科医院(※写真はイメージ)
全国の歯科医院の倒産件数
年齢別にみた歯の平均本数
患者は子どもが減り、シニアが増えた
駅前など、あちこちで見かける歯医者さん。かつてと比べ、明るく入りやすい雰囲気の施設が増えた。それもそのはず、歯科医院の数はコンビニより多く、競争も激烈。経営破綻も増えている。
埼玉県内にある歯科医院が2月、ひっそりと倒産した。東京商工リサーチは「収入減少で事業継続が困難になった」とみる。負債は約6千万円にのぼるという。
最寄り駅から車で約10分かかる郊外の不便な立地ながら、実は千葉や東京から車で来る人もいたようだ。遠方からも患者を集められた理由の一つが“激安”。通常の保険診療は公定価格だが、自由診療で「関東最安値クラス」と掲げていた。白いセラミックのかぶせものは、10万円超かかる施設もあるが、この医院は3万9800円〜。歯を白くするホワイトニングは通常1万円ほどなのに、3960円〜。
「安かろう、悪かろうではない高品質」ともうたい、「薄利で提供」とアピール。しかし、競争の激化など、厳しい経営環境には勝てなかったようだ。
東京商工リサーチが歯科医院の倒産を集計したところ、2017年度は前年度から倍増の20件もあった。ある茨城県内の歯科医院は、過疎化や近隣医院との競争で患者が増えず、直近の売上高が3年前から1割も減って倒産に。件数が20件台に乗るのは23年ぶりで、負債総額は約11億円。東京商工リサーチは「人口減による患者減少や、歯科衛生士などの人件費上昇が深刻。小規模な歯科医院が苦境にある」という。
日本歯科医師会がまとめた個人医院の実態調査によると、収入3922万円、費用2788万円で、差額の損益は1135万円。08年に1336万円あったが、2年連続で1100万円台になった。診療報酬改定の上げ幅が低く抑えられ、保険診療収入は低水準が続き、同会は「経営努力は限界」と訴える。
保険診療は単価が高くないため、多数の患者を診察しないと経営が成り立ちにくい。日本の歯科医が1日に診る患者数は海外より突出して多い。横並びの診察台で、歯科医と衛生士が入れ代わり立ち代わり流れ作業のように診察する映像を海外で紹介すると、驚きの声があがるという。
「最近増えているのは、人手不足倒産です。産休に入った女性医師の後任を補充できないなど、(勤務する)歯科医がなかなか見つからないのです。特に、北関東や中国・四国地方の大型医院は人材を探しにくい状況で、欠員が出ても補充できず規模を縮小するところもあります。小規模医院では経営が行き詰まり、夜逃げするケースさえあります」
歯科業界関係者は、そう打ち明ける。首都圏でも、東京都心や横浜市内での勤務医募集だと応募があるが、埼玉県などは難しい。衛生士も足りず、人件費が上昇。縁故の強い業界だけに、新規採用に苦労する。駅前など好立地の医院は高い賃料が重荷になる。かつて約4千万円だった開業資金は、最新機材の費用がかさんで今や約6千万円……。歯科医の悩みは絶えない。
こうした苦労の一方で、私立大学歯学部卒業には数千万円かかる。教育投資に対するリターン(報酬)が減り、子どもを後継者にしない歯科医もいる。文部科学省の17年度の集計では、計17ある私立大歯学部のうち、7大学が定員割れだった。
歯科医療を取り巻く環境は、大きく変わってきた。かつては虫歯の治療や入れ歯づくりが多かったが、最近は虫歯が減った。厚生労働省によると、12歳児の虫歯の数は、1989年に平均4.3本、15年は同0.9本だった。年をとっても自分の歯が多く残る人が増えている。
虫歯や歯周病の予防、歯の欠損部分に人工歯根を埋めて人工歯冠をつくるインプラントなどが近年増えた。食物をのみ下す嚥下(えんげ)を訪問診療で指導することも当たり前になってきた。
船井総合研究所の砂川大茂シニア経営コンサルタントのもとには、歯科医院の引き受け手を探してほしいとの相談が寄せられる。大半が高齢の医師。経営を改善したいと訪れる歯科医には、「自由診療も含めた治療情報を患者にきちんと提供し、得意な治療領域を伸ばしたほうがよい」とアドバイスしているという。
日本では、保険ですべて治療したい患者が多い。ただ、海外を見渡すと、同様な考えの国は韓国など限られており、自由診療の国が目立つ。英国やフィンランド、スウェーデンは20歳前後まで無料で、成人すると自己負担で治療するという。
日本では、インプラント、審美性に優れたセラミックのかぶせもの、ホワイトニングなど美容的な治療が自由診療になる。保険診療が1〜3割の患者負担に対し、自由診療だと全額自己負担。患者の懐には厳しいが、医院経営には潤いをもたらす。
歯科医院の開業・経営支援をする「DBMコンサルティング」の宮原秀三郎代表は、こう指摘する。
「収入は頭打ちなのに、費用は上がっている。保険診療だけにしがみついていると、赤字経営にならざるを得ない。歯を治療するだけという発想を変えていかないといけない」
宮原氏によると、歯科医院の患者で自由診療を受けているのは約1割。丁寧に説明すれば、自由診療を受ける人も増えるが、3割ほどが迷う層だという。
歯科診療所の数は、1月時点で約6万9千(厚生労働省「医療施設動態調査」)。80年は約3万9千、95年は約5万8千だった。コンビニエンスストアの店舗(約5万5千)を上回る施設数が、競争の激しさを物語る。コンビニの来店客と同様に、歯科医院も高齢の患者が増えている。
高齢者が医療、介護、生活支援のサービスを地域で一体的に受けられるよう、「地域包括ケアシステム」づくりに政府は取り組む。歯科医院も、訪問診療や高齢者の口腔ケアなど住民のかかりつけ医としての機能がより問われる。機能を果たせる医院とそうでない医院とが選別され、生き残り競争はさらに激しくなりそうだ。(本誌・浅井秀樹)
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