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ドキュメント「教員免許失効」〜更新を忘れた教師の末路 知られざる「失効」の世界
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55651
2018.05.19 田中 圭太郎 ジャーナリスト 現代ビジネス
免許失効――。誰もが一度は「もしかして、運転免許の更新期限、知らない間にすぎちゃったんじゃ…」と冷や汗をかいたことがあるのでは。一度失効すると、原則的にはもう一度試験を受けて、再発行をしてもらうしかない。
運転免許の失効もつらいが、これから紹介する免許も失効すると大変だ。あまり知られていない話だが、「教員免許」の更新を忘れ、失効してしまうケースが相次いでいるのだという――。
教員免許は、10年前までは更新の必要がないものだったのだが、09年4月に「教員免許更新制」が導入された結果、有効期限が定められ、10年ごとに講習を受けて免許を更新しなければならなくなった。
しかし、この制度が導入されてから、更新を忘れて免許を失効する教員が後を絶たないのだ。去る4月24日には、滋賀県の公立小学校の40代女性教諭が、手続きを忘れ免許失効となり、失職したことが発覚した。
「間抜けな話」と片付けるのは簡単である。だが、その責任は本人だけにあるのか。実際に免許を失効した職員に話を聞いてみると、意外な落とし穴が見えてきた。
気付いた時には、すでに手遅れ
私立高校教員のAさん(女性、特定を避けるため年齢は伏せる)が、教員免許の更新手続きをしていないことに気付いたのは、今年3月に入ってからだった。
教員免許更新制が導入されたのは2009年4月。それ以前に免許を取得した教員は、生まれた年度によって更新する年が定められている。Aさんの場合、2017年度中に更新しなければならなかったが、完全に失念していた。
Aさんは主任クラスのベテラン教員だ。教員免許更新のためには、教員は30時間に及ぶ講習を受けなければならないのだが、主任クラスであれば、この講習が免除される……ということはなんとなく知っていた。だから、免許の更新について「自分は指導的立場の職位にあるので、講習を受けなくてもよい」という認識で、更新手続きは必要ないと思っていた。
しかし、確かに主任クラスは講習を受けなくてもよいのだが、それには「講習の免除」を事前に申請する必要があり、そのうえで更新手続きをしなければならなかったことが分かったのだ。
気付いた時点は、更新期限までぎりぎりのタイミング。それでも、「講習免除の申請をして、更新手続きをするだけなのだから、まだ間に合うだろう」と軽く考えていた。同僚も「何とかなるよ」と声をかけてくれた。
ところが、更新制についてネットなどで調べると、管理職や指導を行う立場の教員でも、講習免除申請などの手続きを、やはり1月31日までに済ませておかねばならなかったのだ。
これはもしかしたら大変なことになっているかもしれない…青ざめながら、Aさんは教育委員会に電話で問い合わせた。すると担当者はあっさりと答えた。
「失効ですね。3月末をもってあなたの教員免許は失効します」
教員免許失効――Aさんは初めて事の重大さに気づいた。
奈落の底
「とにかく、すぐに相談に来たらどうですか」と担当者に言われて、翌日教育委員会に出向いた。しかし、そこでのやり取りは、きわめて事務的なものだった。教育委員会の担当者は、こう言い放ったという。
「教員免許はもう失効しましたので、いまの学校で4月以降も働くのであれば、免許を再発行するしかありません。再発行のためには、3月末までに講習を30時間以上受けなければなりません」
教員免許の更新手続きは1月末が締め切り。つまり、Aさんの免許はすでに3月末で失効することになる。ただし救済手段として、3月末までに30時間の講習を受けて更新手続きを終えれば、4月1日から引き続き免許を持って仕事を続けることができるのだ。
1月31日までに申請していればこんなことにはならなかったのに、と悔やむ間もない。3月末までに講習を受けなければならないのだから。
Aさん「間に合わない時はどうすればいいのですか」
教育委員会「知りません。お勤めの学校で相談してください」
奈落の底に突き落とされた思いだった。
Aさんは、本来は受けなくていいはずだった免許状更新講習を30時間受けて、3月末までの数週間で全ての手続きを終えなければならなくなった。
講習を受けるには、実施している大学や一般法人、公益法人などに自分で申し込む必要がある。調べてみるとeラーニングで講習を提供している法人があり、3月20日まで申し込みが可能だった。もしかすると間に合うかもしれない。Aさんはここしかないと思い、動き始めた。
学校で仕事をしながら、4日間で30時間の講習を全て受けて、レポートとwebテストを提出。それ以外にも、卒業した大学に「教員免許に必要な単位を取得した」ことを示す証明書を取りに行った。
講習の採点が終わり、修了書ができたと法人から連絡があったのは3月最終週。すぐに郵送してもらって、必要な書類を全て持って役所へ。何とか手続きは終わり、無事4月1日からの免許状を得ることができた。
講習の受講料は約4万円。彼女の場合は複数の免許を保有していたため、免許の申請に約2万円の費用がかかった。
本当に失効したときのことを考えれば、安いものだというべきだろう。結局は、Aさんが更新の締切日や、必要な手続きを知らなかったことが原因、ともいえる。それでもAさんにはどこか釈然としないところがあった。
更新しなかったらどうなる?
旧免許を持つ教員は、2010年度から順次、更新の時期が来ている。更新の対象となった年度の1月31日までに、全ての手続きを終えなければならない。ただし、講習は期限となる1月31日の2年前から受けることができる。
注意が必要なのは、Aさんのような管理職や指導職の立場の人だ。Aさんのケースでもみたように、一般の教員と違って講習を受ける必要がないために、更新手続きを意識しない場合がある。
「学校からは、今年度が更新年度だったことも、1月31日までに手続きが必要だということも、何も説明がありませんでした。これでもしも3月末までに免許の再発行ができずに、4月を迎えていたらと思うと、背筋が凍る思いです」
Aさんは救済が可能な期間に気づいたので、免許を再発行して、更新することができた。しかし、更新手続きをせずに4月を迎えた場合はどうなるのか。
私立の場合、学校によって対応が異なる。一度失効しても、期間内に30時間の講習を受ければよい、とする学校もあるが、失職するケースもあるようだ。実際に、ある学校では、管理職の教員が3月末まで更新手続きをしなかったために免許が失効し、一旦退職扱いにした。その後再就職できるかどうかは、学校によって対応が異なるとみられる。
公立の教員の場合も深刻だ。3月末までに更新手続きをせずに免許が失効した教員は、採用が取り消しになる。教員免許更新講習を受けたうえで、その都道府県の教員採用試験をもう一度受けて合格しなければ、再び教壇に立てなくなるのだ(大学に入りなおす必要はない)。
昨年、山口県が発表した「公立小学校の教員二名の免許失効」のお知らせ
文部科学省の集計によると、2010年度から2016年度までの7年間で免許を失効した人は770人。その内訳は、国立学校の教員が17人、公立学校が266人、私立学校が487人となっている。
失効した人の中には、特例措置により、そのまま働き続けることができる教員もいる(たとえば、幼保連携型認定こども園の場合、幼稚園教諭免許を失効しても、保育士の資格があれば引き続き勤務できる、など)が、それでも決して少ない数字ではない。いったいなぜ多くの教員が更新を忘れるのか。制度の周知に問題があるのだろうか。
公立と私立の差
実は、教員への教員免許更新の周知は、文部科学省から個々の教員に直接行われているわけではない。文部科学省はホームページで、教員各自が修了確認期限を確認するよう求めている(国からは通知がない、ということだ)。
代わりに、文部科学省は都道府県・指定都市・中核市の自治体と教育委員会などに対して、次のような事務連絡を毎年行なっている。
・各学校などに制度の趣旨や更新講習終了確認等の申請期限及び必要な手続の流れに関して改めて周知徹底
・各学校などに対象となる現職教員へ再度注意喚起の上、当該教員の終了確認状況等の把握を適切に行っていただく等、各教員が適切に手続きを行えるように配慮するよう周知
(文部科学省「教員免許更新制における更新講習終了確認等の申請期限到来等に係る注意喚起について(事務連絡)」平成30年1月4日より)
ただ、この連絡が各学校に徹底されているかは定かではない。本人への通知がなされていないケースがあるのは、Aさんの例でも明らかだ。
公立学校の教員の場合、失職すると教員採用試験を受け直す必要が出てくるため、例えば東京都教育庁では「特に注意深く対応している」(人事部選考課免許担当)と話す。更新の対象になっている教員に対して、学校が頻繁に通知しているという。
各地方自治体や教育委員会は、教員免許更新制の導入によって、更新手続の窓口業務が新たに発生している。周知徹底もしなければならないので、負担は増える一方だろう。
免許更新制導入の目的
いったいこの更新制度は何のためにできたのだろうか。
教員免許更新制について定めた「改正教育職員免許法」が成立したのは2007年6月。教員免許更新制の議論はそれ以前からあったが、文部科学省は当初否定的だった。
ところが、2006年9月に発足した第一次安倍内閣が、この年の10月に「教育再生会議」を内閣に設置し、不適格教員の排除を叫ぶようになった。2007年1月の「教育再生会議」第一次報告には「不適格教員は教壇に立たせない」「真に意味のある教員免許更新制の導入を」といった文言が並んでいる。その上で「教育職員免許法の改正が緊急に必要」と訴え、早々とこの年の6月には法律が成立してしまったのだ。
ただし、文部科学省は、教員免許更新制はあくまで知識技能の刷新を図るための方策としている。ホームページには、制度の目的を次のように掲げている。
「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身につけることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊厳と信頼を得ることを目指すものです。※不適格教員の排除を目的としたものではありません」
わざわざ※印を使って、不適格教員の排除が目的ではないと明言しているのは不自然にも思える。簡潔に言えば、教育改革の目玉として、当時の政権が教員免許更新の導入を推進、文部科学省は当初は抵抗したが、「不適格教員の排除ではない」ことを明記することで、この導入に妥協した――こうした経緯でできたのが、この教員免許更新制ではないだろうか。
導入の目的はともかくとして、定期的に講習を受けさせることで、最新の知識技能を身につけさせるという目的は、ある程度果たされているのだろう。ただし、更新の通知自体や、あるいは更新忘れは即失効となるような点は、制度の欠陥といえるのではないだろうか。
せめて通知ぐらいは
Aさんは「手続きを知らなかった自分が悪い」と言いながらも、納得がいかない部分もあるという。
前述のとおり教員免許更新の年度になっていることについて、学校から事前に通知はなかった。自分だけでなく、同僚たちも、制度のこともよく理解していなかった。
学校からは、教員免許を失効したことに対して処分こそなかったものの、「謝りなさい」と上司から叱られたという。更新についてはあくまで自己責任という態度では、自分と同じように危うく失効するかもしれない教員が続出するのでは、と危惧しているという。
「教員免許更新制を否定する考えはありませんが、例えば運転免許の更新と同じように、公的な機関から本人に直接通知があってもいい気がします。1月31日までに手続きをしなければならないことも含めて、1回でいいから通知は必要ではないでしょうか」(Aさん)
文部科学省によると、教員への通知を行わないのは、「住所が変わった場合に把握できないため」(初等中等教育局教職員課)。また1月31日までに手続きを締め切っている背景には、新卒の教員に免許状を交付するのが3月に集中するため、その時期を避けたいという狙いもあるという。
更新制度が導入されて来年で10年になる。大多数の教員が更新を行っていることは承知しているが、それでも少なからぬ「悲劇」を防ぐための「改善措置」がなされてもよいのではないだろうか。
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