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「東大卒」の半分が失業する時代が来る
http://diamond.jp/articles/-/170046
2018.5.16 田坂広志:田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第46回の講義では、「ビジョン」に焦点を当て、新著、『東大生となった君へ─真のエリートへの道』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。
東大卒が就職で有利だった「本当の理由」
最初に、前回の連載(「なぜ、東大卒に『活躍する人材』が少なくなったのか」)で述べたことの要点を、振り返っておこう。
実社会での人材を論じるとき、「求められる人材」という言葉と、「活躍する人材」という言葉を、明確に区別して使わなければならない。前者は、人材市場でニーズがあり、職に就ける人材という意味であり、後者は、会社や組織、職場や仕事において、リーダーシップを発揮できる人材という意味だからである。
そして、実社会において「活躍する人材」になるためには、次の「五つの能力」が求められる。
(1)「基礎的能力」(精神的な集中力と持続力)
(2)「学歴的能力」(論理思考力と知識修得力)
(3)「職業的能力」(直観判断力と知的創造力)
(4)「対人的能力」(コミュニケーション力とホスピタリティ力)
(5)「組織的能力」(マネジメント力とリーダーシップ力)
しかし、「東大卒」の人材は、これらのうち、最初の二つの「基礎的能力」と「学歴的能力」については、優れていることが保証されているが、後の三つの「職業的能力」と「対人的能力」「組織的能力」については、優れていることは、全く保証されていない。
近年、東大卒に「活躍する人材」が少なくなったことの一つの大きな理由は、過熱する受験競争の中で、後者の「職業的能力」と「対人的能力」「組織的能力」の基本を身につけないまま、大学に入学し、実社会に出てくる東大生が増えているからであろう。
だが、それでも、これまでの時代は、「東大卒」という肩書さえ持っていれば、それなりの会社に就職できた。
それは、なぜか。
筆者は、あるシンクタンクで部長を務めていたとき、人材採用の仕事に携わり、数百名の人材の審査・面接を行い、人事部長と共に採用の可否を決めてきたが、あるとき、この人事部長が語った言葉が、その理由を端的に示している。
それは、ある東大卒の人材を採用するかどうかの判断に迷ったときのことであるが、最後に、その人事部長が、こう言った。
「いいじゃないか…。まあ、地頭は良いんだから、とりあえず採用しておけば…」
この人事部長は、要するに、こう言おうとしたのだ。
東大卒だからといって、「職業的能力」「対人的能力」「組織的能力」が高いということは何も保証していない。従って、当社で活躍する人材になるかどうかは、現場で使ってみなければ分からないが、「学歴的能力」はある(地頭は良い)のだから、言われた仕事はしっかりやるだろう。知的創造力やリーダーシップなど、期待した能力がなければ、そうした能力を持つ人材の下で、部下として働かせればいいだろう。会社で幹部になっていく人材ではないとしても、優秀な兵隊として使えばいいだろう。
そして、こうした考え方をするのは、この部長だけではない。いま、世の中の大企業の多くの人事部長が、同様の考え方をしている。
「地頭」と「兵隊」という言葉の怖さ
すなわち、人材採用において、採用したすべての人材が、将来、幹部になっていくことを期待しているわけではない。その必要はない。しかし、その幹部やリーダーの下でしっかりと働く「兵隊」は必要だ。優れた知的創造力やリーダーシップを発揮する人材ではなくとも、言われたことを正確に早く実行できる、「地頭」の良い兵隊は必要だ。その点、東大卒は、期待はずれでも、「地頭の良い兵隊」としては使えるのだから、とりあえず、採用しておこう。
実は、大企業の人事部が、東大卒を採用する本当の理由は、こうした考え方からだ。従って、東大卒の人材は、自分が採用されるとき、そこには、こうした判断があることを理解しておくべきであり、この「地頭」という言葉と「兵隊」という言葉の怖さを知っておくべきであろう。
率直に言えば、いまや、「東大卒だから知的創造力があるだろう」「東大卒だからリーダーシップがあるだろう」などと期待している人事部は存在しない。そして、東大卒だから出世が約束されている会社など存在しない。
しかし、それでも、先ほど紹介した人事部長の言葉、
「いいじゃないか…。まあ、地頭は良いんだから、とりあえず採用しておけば…」
という言葉は、東大卒の人材にとっては、救いの言葉であった。
なぜなら、その企業で、その官庁で出世はできないとしても、東大卒という「地頭の良さ」(学歴的能力)の証明書さえ手にしていれば、とりあえず、企業や官庁は採用してくれるし、社会で食いはぐれることはなかったからだ。
「活躍する人材」になることはできなくとも、「求められる人材」になることはできたからだ。
しかし、これからの時代は、残念ながら、その救いもない。
なぜなら、これから、たとえ東大卒であっても、時代の変化を読めないと、その半分が失業する可能性があるからだ。
それは、なぜか。
人材市場に、厳しい荒波がやってくるからだ。
税理士会からの講演依頼の衝撃
それは、「人工知能革命」という荒波だ。
すなわち、これから「人工知能」(Artificial Intelligence:AI)の技術が急速に進歩し、世の中に普及し、社会の在り方、企業の在り方、仕事の在り方を劇的に変えてしまう。そして、その結果、人材に求められるものを根本から変えてしまう。
いや、その変化は、すでに起こっている。
例えば、2016年、筆者は、ある団体から講演の依頼を受けた。毎年、様々な方面から数多くの講演依頼を受ける立場ではあるが、この講演依頼は、驚きを覚えると同時に、感銘を受けた講演依頼でもあった。
それは、東京の税理士会からの講演依頼であったが、依頼者から、どのような講演テーマを希望されるかを聞いて、驚いた。
講演会を主催する依頼者は、真顔で、こう言ったのだ。
「これからやってくる人工知能革命によって、我々の業界の仕事は、10年以内に、半分が不要になると思っています。そのときに備え、いま、我々税理士が、どのような能力を身につけておかなければならないか、教えていただきたい」
驚いた理由は、筆者に対する講演依頼は、未来予測、情報革命、知識社会、企業経営、働き方、生き方など、様々なテーマでの依頼があるが、これほど切実な危機意識で講演を依頼してくる例は、決して多くないからである。
そして、感銘を受けた理由は、この東京の税理士会が、人工知能革命の脅威をいち早く予見し、その具体的な対応策を考えていることであった。
いま、世の中では、様々な変化が急激に起こり、その変化の結果、短期間に、一つの産業や市場、業界や事業、さらには職種や仕事が消滅することなど日常茶飯になっている時代であるが、こうした変化の中で、淘汰される企業や人材は、そもそも、その変化を脅威と感じておらず、持つべき危機感を持たない企業や人材である。
その意味で、いち早く、強い危機感を持って講演依頼をしてきた、その税理士会の姿勢には、感銘を受けた。
たしかに、その通り。これから10年以内に、税理士や会計士の仕事の半分は、人工知能に置き換わっていくだろう。いや、それは、税理士や会計士の業界だけではない。弁護士や司法書士を含め、いわゆる「士職業」の半分は、不要になっていくだろう。
なぜなら、「士職業」の仕事の大半は、知識修得力による「専門的知識」と「論理思考力」によって行えるものだからだ。そして、次に詳しく述べるが、「論理思考力」と「専門的知識」を活用する能力は、人間よりも人工知能の方が、圧倒的に高いからだ。
そして、この「士職業の危機」は、そのまま、「東大卒の危機」を意味している。
もし、東大卒の人材が、論理思考力と知識修得力、すなわち「学歴的能力」だけに頼って仕事をしており、直観判断力と知的創造力、すなわち「職業的能力」、さらには「対人的能力」「組織的能力」を身につけ、磨くことを怠っていると、その仕事は、必ず、人工知能に置き換わっていき、その人材は、不要になっていくからだ。
人間が絶対にかなわない人工知能の能力
では、人間の能力に対する「人工知能の強み」とは、いったい何か。
ここでは、「四つの強み」を述べておこう。
第一が、「圧倒的な集中力と持続力」だ。
これは、改めて説明する必要はないだろう。コンピュータは、どれほど膨大な情報でも、どれほど時間がかかっても、全く疲れを知らず、処理することができる。
その意味で、人工知能との比較になった瞬間に、人間の持つ集中力や持続力という「基礎的能力」は、勝負にならない。
第二が、「超高速の論理思考力」。
このことについても、すでに多くの人々が、人工知能の強さを痛感しているだろう。
すでに、1997年の時点で、チェスの世界王者カスパロフが人工知能ディープ・ブルーに敗れ、チェスよりもゲームが複雑で難しいと言われてきた将棋や囲碁も、それから20年を経ずして、最高の頭脳を持つプロが、人工知能に敗れている。
このように、もはや、人間の「論理思考力」は、人工知能には全くかなわない段階に入っている。そして、何よりも脅威と感じるべきは、こうしたことが、ただチェスや将棋、囲碁といった世界だけでなく、日常のビジネスの世界でも、次々と起こっていることだ。
例えば、すでに2015年の段階で、欧米の先進的な法律事務所では、人工知能が、何百枚もの契約書の膨大な条項の中から、見直すべき箇所を見つけている。これは、従来、若手弁護士たちの仕事だったものだ。
いま、書店に行けば、「ロジカル・シンキング」の本が数多く積まれており、「論理思考力」を鍛えることがプロフェッショナルになるために重要だと考える人が多い。たしかに、仕事をするために、基本的な「論理思考」ができることは不可欠だが、ただ「論理思考」に強いだけでは、その人材は、いずれ、人工知能に置き換わってしまうだろう。
かつて、筆者が子どもの頃は、算盤ができて、計算が速い、正確だということだけで、「仕事ができる」と評価された。しかし、それから情報革命が進み、パソコンが普及し、計算ソフトが手軽に使えるようになってからは、「算盤ができる」「計算が正確だ」ということは、「仕事ができる」ということを全く意味しないものになった。
同様に、人工知能の普及によって、もはや「論理思考」に強いというだけでは、「仕事ができる」と言われない時代を迎えているのだ。
では、その時代に、我々は、どのような能力を身につけ、磨いていくべきか。そのことは、新著『東大生となった君へ』(光文社新書)において詳しく述べたが、その要点は、この連載の後半で語ろう。
まず、ここで我々が理解すべきは、我々が身につけた「学歴的能力」の一つの柱である「論理思考力」は、人工知能によって置き換わっていく時代を迎えているということだ。
「知識」が価値を失う時代
そして、人工知能の強みの第三は、「膨大な記憶力と検索力」だ。
もともとコンピュータは、「データベース」や「ナレッジベース」という言葉があるように、膨大なデータ(情報)やナレッジ(知識)を記憶しておき、それを瞬時に取り出すという点では、人間がかなわない圧倒的な能力を持っている。
そして、インターネット革命の結果、「ワールドワイドウェブ」と呼ばれるように、ウェブの世界そのものが、世界中の情報や知識を記録している「巨大なアーカイブ(保管庫)」であり、現在の超高速の検索技術を使えば、瞬時に、世界中に存在する情報や知識から必要なものを取り出してくることができるようになった。
では、その結果、何が起こったか。
「知識」が価値を失うようになった。
こう述べると、読者は驚かれるかもしれないが、それが現実である。
例えば、筆者が若い頃は、「物知り」や「博識」「博覧強記」という言葉が、誉め言葉であった。日頃の読書や勉強で、様々な知識を記憶しておき、会議の席などで、その知識を披歴すると、周りから「あの人は、物知りだ」「あの人は、博識だ」という評価を得ることができた。
しかし、いまや,誰もがスマホを持つ時代になったため、会議の席で、何かの専門知識が求められるようになると、即座に、若手社員が手元のスマホで検索をして、「ああ、それについては、ウェブでこう書かれています」などと言うようになった。
すなわち、いまでは、スマホやパソコンで、誰でも世界中の知識を瞬時に検索できるようになったため、ただ色々な専門知識を憶えているだけでは、誉められることはなくなった。その結果、いまや、「物知り」「博識」「博覧強記」という誉め言葉は死語になってしまった。
また、営業の世界などでも、一昔前は、優れた先輩社員は、商品に関する膨大な専門知識を記憶しており、顧客に質問されると、その記憶を探りながら、当意即妙に答えていた。しかし、タブレットなどの情報端末が普及したことによって、新人でも、顧客に対する商品知識の説明は、それなりに上手くできるようになった。
このように、情報革命が進むことによって生まれてくる「知識社会」は、実は、「知識が重要になる社会」ではなく、「知識が価値を失う社会」に他ならない。そのため、これからは、「専門知識を憶えている」ということが大きな人材価値にならない時代になっていく。
そして、こうした大きな流れの中で、人工知能は、さらに高度な能力を発揮するようになる。
それは、「曖昧検索」「類推検索」「関連検索」とでも呼ぶべき能力だ。
我々が、明確なキーワードで検索を指定しなくとも、我々が人工知能と交わす対話の中の曖昧な言葉から、人工知能は、我々が必要としている知識を類推し、関連する知識を検索してくれるようになる。分かりやすく言えば、「勘の良い秘書」のような能力を発揮するようになる。
従って、これからの時代には、我々が身につけた「学歴的能力」のもう一つの柱である「知識修得力」という能力、そして、それに基づく「専門的知識」という能力も、極めて高度なレベルで人工知能によって置き換わっていく。
さて、ここまで述べただけで、読者は、これまで我々が身につけてきた「基礎的能力」(集中力と持続力)、さらには、「学歴的能力」(論理思考力と知識修得力)の大半が、人工知能に置き換わってしまうことを理解し、強い危機感を覚えるだろう。
しかし、実は、この話は、まだ序幕にすぎない。
この人工知能の能力は、さらに、人間が持つ極めて高度な能力をも凌駕しつつあるからだ。
次回、そのことを述べよう。
この連載について 拙著『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べたが、この「7つの知性」を磨く場として「田坂塾」を開塾したところ、現在、4200名を超える経営者やマネジャー、リーダーが集まり、様々なテーマでの学びを深めている。 この連続講義「7つの知性を磨く田坂塾」では、この「田坂塾」での学びの一端を公開しながら、毎回、7つの分野から一つのテーマを取り上げ、講義を行っていく。 |
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