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「正社員モデル」は既に終焉を迎えているのか
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180501-00010000-nkbizgate-bus_all
日経BizGate 5/1(火) 16:27配信
働き方改革は考え方そのものに改革を求めている
働き方改革は考え方そのものに改革を求めている
2017年3月28日に「働き方改革実行計画」が策定されてから約1年が経過しました。この間、時間外・休日労働に関する36協定の見直し、恒常的な長時間労働の是正にとどまらない長時間労働の抑制、兼業・副業の容認・推進、テレワークの検討などの広い項目について、企業の取り組みが報じられています。一方で、労働者の側からはあまり動きや反応が見られないようにも思われます。残業が減ったことによる割増賃金の減少や、増大した私的時間を持て余す様子などが伝えられますが、働き方改革を積極的に活用する労働者は現段階ではまだ少数なのでしょう。
「働き方改革実行計画」には、「『働き方』は『暮らし方』そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人のライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である」との一節があります。この実行計画において改革の対象、そして変えていく主体とされるのは企業ではなく、労働者、そして国民でしょう。国民が働き方を変えることを求められているのです。「働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土を変えようとするものである」ともされますが、企業の「働かせ方」を変えることは手段にすぎず、国民の「働き方」を変えることが目的であるように読めます。
この実行計画の中では、「画一的な労働制度」が「壁」として位置付けられています。この「画一的な労働制度」とは、明確には書かれていませんが、正社員制度のことでしょう。正社員制度のために、非正規雇用者が「頑張ろうとする意欲をなくす」ことになるとします。また、正社員制度には長時間労働があることで、仕事と家庭生活との両立が困難となり、少子化の原因となり、女性のキャリア形成を阻むとします。「長時間労働を是正すれば、ワーク・ライフ・バランスが改善し、女性や高齢者も仕事に就きやすくなり、労働参加率の向上に結びつく」との一節もあります。
働き方改革実現会議に先行する規制改革会議の第27回雇用ワーキンググループ(2014年8月7日開催)において厚生労働省が提出した資料に、「正規雇用と非正規雇用の労働者の推移」と題する棒グラフがあります。これによると、1985年の正規雇用者数は3343万人、非正規雇用者数は655万人で、非正規雇用者の率は16.4%でした。これが1995年には、正規雇用者数は3779万人、非正規雇用者数は1001万人で、非正規雇用者の率は20.96%になりました。2005年には、正規雇用者数は3375万人、非正規雇用者数は1634万人で、非正規雇用者の率は32.6%になりました。
同資料に記載されていた「現在」の年は2013年ですが、正規雇用者数は3294万人、非正規雇用者数は1906万人で、非正規雇用者の率は36.7%でした。この変化について、資料には、「正規雇用は、95年から05年までの間に減少し、以降その数はわずかに減少。非正規雇用は、95年から05年までの間に増加し、以降現在まで緩やかに増加(役員を除く雇用者全体の36.7%)」との記載があります。「95年から05年までの間」などの部分は赤字となっています。
これらを見ると、正規雇用者数についても、1985年と2013年とを比較すれば、それほど大きくない減数なのでしょう。非正規雇用の率が上昇したのは、正規雇用が非正規雇用に置き換わったのではなく、非正規雇用の数が約3倍に増加したことが主たる原因です。これにより、正規雇用と非正規雇用を合わせた労働参加者の数は、1985年の3998万人から2013年の5200万人へと増加しています。そして、働き方改革はさらなる「労働参加率の向上」を求めています。
正社員が働く仕組みは既に変容してきている
正社員が働く仕組みは既に大きく変容しているのかもしれません。「正社員」を定義することは難しいのですが、1985年ころの正社員は職能資格等級制度と呼ばれる人事制度の下で働いていました。当時の状況を概していえば、この職能資格等級制度は外資系企業以外のほとんどの企業で導入された人事制度でした。正社員の長期雇用システムは、この職能資格等級制度と定年制を車の両輪としていました。
職能資格等級制度は能力主義です。成果で評価するのではなく保有能力(職能)を評価します。能力が発揮されなくても、保有しているだけで評価し、これが賃金処遇につながります。それだけに、能力をどのように発揮させるかは使用者である企業の裁量となります。これが「強い人事権」として現れます。保有は蓄積されていきますから、賃金処遇は少なくとも下がることを予定しません。「賃金を下げられない」のは、法律があるからではなく、そのような人事制度、賃金システムを採用していたからです。
1995年から2005年の間には、1997年の金融危機、その後の事業会社の相次ぐ倒産などがありました。また、景気が循環するものではなく長期低迷する傾向が生じてきました。成果主義人事制度が導入されたのも、この時期です。リストラクチュアリングと呼ばれる人員削減も行われました。正社員の働き方は大きく変容し始めました。2008年のリーマンショック後の変動を受けて、さらに変容します。かつては内部労働市場であった大企業、中堅企業においても、相当に外部労働市場化が進みました。新規学卒一括採用からスタートして60歳定年まで同一の会社で就労するという「正社員モデル」は、既に終焉を迎えているのかもしれません。
もっとも、こうした正社員モデルは、労働市場全体でみたとき、一部の労働者に関するものにすぎなかったことも事実です。中小企業、零細企業においては、そもそも外部労働市場が成立していました。1970年前後からの最高裁判決で確立されてきた内定、試用、解雇、就業規則などに関する伝統的雇用法理も、「管理職要員」であった一部の労働者を射程とするものであったといえます。しかし、企業はそのような雇用法理を正社員だけでなく、非正規雇用者にも事実上適用していたのでしょう。高度成長、安定成長が続く限り、企業にそれだけの余裕があったし、また必要があったのでしょう。2008年のリーマンショック後の雇用に関する状況は、この余裕と必要が失われ、雇用法理に基づく本来は正社員を予定した扱いを非正規雇用者に及ばさなくなった結果ともいえます。裁判所が求める射程に則した扱いに変えて行ったのです。
多様な正社員は人事権の放棄により実現する
丸尾 拓養(まるお ひろやす) 丸尾法律事務所 弁護士
厚生労働省は、2012年3月29日、「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」を公表しました。2014年7月30日には、「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」が同じく公表されました。同報告書は、「多様な正社員」を「職務、勤務地、労働時間等のいずれかが限定的な正社員」と概念整理しています。
これらが「限定的」であることは、限定的でない「典型的な正規雇用」と比較したとき、法的には、人事権の強さの差として現れます。配転、転勤、時間外・休日労働の命令権を使用者が有するか、有したとしてもその範囲及び権利濫用になる程度が異なります。かつては当然ともされた使用者の強い人事権が制約されることになります。しかし、これにより労働者は「正社員」性の程度を弱めるのかもしれません。これを「正社員」と呼ぶか否かは考え方によるのでしょう。
企業からみたとき、「限定」されるのは人事権です。これを「限定」とみるのではなく、「放棄」と考えることもできます。放棄することで企業が得るものもあるでしょう。企業があえて働かせ方をいくつかに類型化・範疇化します。そこで実現するのは、「多様な(正)社員」の働かせ方です。相互の相違が明確となった働かせ方です。正規雇用と非正規雇用という二者択一ではなく、複々線化、複々々線化された働き方です。働き方改革実行計画の中には、「多様な働き方が可能な中において、自分の未来を自ら創っていくことができる社会を創る」、「労働者が自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようにな(る)」などの一節があります。
50年も前の1968年12月25日の最高裁大法廷判決は、「多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定する必要が生じる」という文章から始まります。この「集合的」、「統一的」、「画一的」に含意されているものは、労働者を同じように扱うという基本的考え方であるように思われます。それは法律上の要請というよりも、企業が「事業を合理的に運営」するためのものでした。「多様な(正)社員」はこの基本的な考え方とやや相容れないものがあるでしょう。
「働き方改革」や「多様な正社員」は特に先進的なものではなく、むしろ実態や実務の後追いであるようにも見えます。この20年余にわたる時間の流れの中で変化・変容が遅れているものがあるとすれば、それは外部から強制される改革だけでは対処困難であるのかもしれません。企業が、そしてひとりひとりの労働者が自らの問題として、働く現場の中で、地に足をつけて考えていかなければならないのでしょう。
(丸尾 拓養 丸尾法律事務所 弁護士)
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