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メガバンクの採用抑制は、銀行・行員・日本経済の「三方一両得」だ
http://diamond.jp/articles/-/167043
2018.4.13 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
Photo by Akiko Onodera
メガバンクが採用を抑制すると報道されている。メガバンク3行合計の来春の新卒採用数2300人程度と、今春を3割下回り、リーマンショック前の3分の1となる模様だ。
新卒市場の“ガリバー”だったメガバンクの変化は、多方面に影響を与えると注目されているが、筆者はこの動きを「メガバンク、従業員、日本企業の三方それぞれにとって一両の得である」として歓迎したい。
メガバンクの採用抑制は
収益改善に資する
昨今、メガバンクを取り巻く情勢は、厳しいものがある。
まず、ゼロ金利の長期化により、預金部門のコストの持ち出しが長引いている。ゼロ金利なのだから、必要な資金はいつでも他行から借りることができ、預金部門は不要といえる。にもかかわらず、各行が預金部門を持ち続けているのは、ゼロ金利が解除されて高金利時代が到来したときに備えているわけで、長期化すればするほど銀行の収益にとっては大きな重荷となっている。
加えて、ゼロ成長も重荷だ。ゼロ成長だと、普通の会社は売り上げも利益も前年並みだが、銀行はそうではない。企業が設備投資をしない(更新投資はするが、その資金は減価償却で賄える)ので、利益のうちで配当されなかった部分は借り入れの返済に回されてしまう。つまり、ゼロ成長だと融資残高は減り、銀行の収益も減少していくのだ。
こうした状況を補うために、貸出金利の引き下げ競争が繰り広げらているわけだが、これもまた銀行の収益を悪化させている。
このような短期的な収益圧迫に対して、新卒採用の絞り込みの効果は限定的との見方もあるが、そうとは言い切れない。新入社員の給料は安いが、採用コストや教育コスト、それからミスをして銀行に迷惑をかけるリスクなどを考えれば、新人を雇うコストは決して小さくないからだ。
加えて、今のような売り手市場の就職戦線においては、従来のような大量の優秀な人材を集めるのは容易ではないから、人数をしぼって優秀な学生だけを採用するということも大いに意味がある。
加えて銀行は、長期的にはフィンテックなどにより、必要な労働力が減っていくと言われている。そうであれば、早めに手を打って新卒採用をしぼっていくことが、長期的な銀行経営にも重要だ。新卒を採用してしまうと、長期にわたって余剰人員を抱え込むことにもなりかねないからだ。
機械化や合理化対応の実現で
現在の行員もリストラされず助かる
短期的には銀行の収益悪化が予想され、長期的には必要労働力の減少が予想されるならば、現在、銀行で働いている現役行員が懸念するのは、「リストラ」だろう。その点、早めに新卒採用をしぼってもらえば、「余剰人員」が発生する可能性が減り、リストラが行われる可能性も減る。
一方で、新卒採用をしぼることで、短期的に現場の労働力不足が深刻化すれば、現役行員が長時間の残業を強いられるといった事態も懸念される。フィンテックなどにより、銀行員が余るようになるのは将来の話で、短期的には銀行ビジネスの仕事量は減らないからだ。
もっとも、報道によれば、幸いなことに機械化や合理化対応することで人員減が実現できそうだ。それなら、現役行員は過重労働もしいられず、リストラもされないということになろう。
他産業も優秀な学生を獲得でき
日本経済にとって素晴らしいこと
不況期、特に就職氷河期には、採用を減らすというのは悪いニュースだった。しかし、採用難の今、就活市場の“ガリバー”が採用を減らすのは、他産業の企業にとっても、日本経済にとっても大きな“グッドニュース”だろう。
人数だけではない。質の面でも銀行は優秀な学生を大量に採用してきたので、それが減ることは、他企業にとって喜ばしいだろう。
ちなみに、「銀行は難関大学の学生ばかり採用したがるが、難関大学の学生が就職したからといって優秀なサラリーマンになるとは限らない」といった批判を耳にする。
だが、本稿における「優秀な学生」の定義は、「各社の採用担当者が採用したいと考える学生」という意味であり、そうした学生を銀行が獲得することで、「内定を出した学生が、銀行に行ってしまって残念だ」と嘆いている非銀行企業の人事担当者が多い、という意味だ。そうしたことがなくなるということは、いいことだろう。
金融は経済の“血液”であり、銀行が日本経済にとって重要な仕事をしていることは疑いないが、それにしてもあれだけ大量に優秀な人材を囲い込むのは日本経済にとって好ましいことではない。それが「適切な人数の囲い込み」になるのだから歓迎すべきことだ。
銀行が衰退産業だとの
印象には一抹の不安も
ただ、銀行が採用人数をしぼったことで、「銀行は衰退産業だ」との印象を学生に与えてしまうことについては、一抹の不安もある。
既存の銀行ビジネスは、少しずつフィンテックなどに代替されていくだろうが、銀行自身がフィンテックの担い手になる可能性も十分あるし、そうでなくとも既存の銀行業務が完全に衰退してしまうわけではない。
そうした中で、銀行志望者が急減すれば、銀行として「採用人数をしぼった以上に銀行志望の優秀な学生が減ってしまう」といったことにもなりかねない。実際には、20年後に栄えている産業や企業など誰にも分からないのだから、銀行の人気が高すぎるのも、低すぎるのも望ましいことではない。適度な人気となることを期待したいと思う。
余談になるが、バブル崩壊前で銀行の給料が高かった頃、「銀行は、右の金を左に動かしているだけの虚業であるから、銀行員が高い給料をもらうべきではない」という批判を耳にした。今は、銀行員の給料も昔ほど高くなさそうだが、「銀行は虚業であるから、優秀な人材を囲い込むべきでない」といった批判はあるだろう。
ただ、こうした批判は的外れだ。「物を作っている製造業は偉いが、物を作っていない金融業は偉くない」という価値観から出ている発言だとすると、日本中の労働者の76%を敵に回すことになりかねない。労働力調査によると、製造業と建設業で働く人は全体の24%に過ぎないからだ。
優秀な人材が各産業に
分散されることが望ましい
金を預けたい人と、金を借りたい人が世の中に大勢いるときに、金融業がなければ金を借りたい人は借りることができず、預けたい人も預けることができない。そんなときに「借りたい人と、預けたい人は銀行へきてください」と言えば、両方をつなぐことができて皆が助かるのだ。つまり、銀行は必要なのだ。
例えば、金融危機で銀行が貸し渋りをすると、資金繰りに困って倒産する中小企業が多発する。こうしたことからも分かるように、「心臓は普段は特に感謝されないが、止まってみるとありがたみが分かる」といったイメージだろう。
もっとも、銀行の方が他の産業より優秀な人材を必要としているか、というと、そこは疑問だ。優秀な人材が適度に各産業に分散されるならば、それは望ましいことだ。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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