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介護職の給料はなぜ「低賃金」のままなのか? その闇の深層 このままでは一生貧困が続く…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55149
2018.04.10 中村 淳彦 ルポライター 現代ビジネス
また同じような事件を起こすはず
2014年11月に神奈川県川崎市の老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で起こった連続転落死事件で、横浜地裁は3月22日、3件の殺人の容疑に問われた今井隼人(25)被告に対し、求刑通り死刑を言い渡した。今井被告の弁護団が無罪を主張した、客観的証拠がないままの死刑判決だった。
この判決に、筆者の周囲の介護職や介護関係者は背筋を凍らせている。
今井被告の、3人の高齢者をベランダから投げ捨てるという行為は常軌を逸している。しかし、介護施設を運営したこともある筆者の経験からいえば、虐待は介護現場では日常茶飯事。そんな“危ない”職場に自分も身を置いていることや、万が一にも殺人を犯してしまうかもしれないという恐怖心で、とても他人ごととは思えない気持ちなのだろう。
2025年の超高齢社会にむけて、高齢者介護を社会で担うという介護保険制度の施行から18年が経った。当初は介護を民間に渡すことで、バラ色の超高齢社会が迎えられるかの如く語られたが、実際に振り返ってみれば、介護現場は、行政、地域、高齢者、介護職、家族と、あらゆる角度からみても、問題が山積みのまま放り投げられている。
特に深刻な問題となっているのが、介護人材の不足と介護報酬削減による経営難だ。
深刻な人手不足と介護報酬の削減傾向が明らかになったのは、雇用情勢が上向きになった2012年からで、低賃金で労働環境が悪い介護職は世間に見向きもされなくなった。そこから介護事業所は「限界までお金を使わずにサービスのクオリティーを上げる」という、労働者にとって矛盾した方向に舵を切っている。
無駄を省くマネジメントだけでは、人材の確保やクオリティレベルの不足は補えず、高齢者に自立を促し症状を改善させてサービス量を減らす「自立介護支援」を実施したり、介護職に対して洗脳紛いの自己啓発することでブラック労働させたりといった、“それぞれの工夫”が乱立し、足並みの揃わない「カオス状態」が続いていた。
そんななか、先進的なマネジメント方法としてもっとも注目されていたのが、今井被告が在籍していた「Sアミーユ川崎幸町」を運営する株式会社積和サポートシステムと、その親会社である株式会社メッセージが開発した「アクシストシステム」だった。同社はこのマネジメント方式で「合理的な介護」を確立し急拡大を遂げている。
「アクシストシステム」とは、介護職の一日のスケジュールをコンピューターによって割り出し、分単位で介護労働を徹底する管理システムで、「Sアミーユ川崎幸町」でもこの仕組みが導入されていた。今井被告を含む、当時の介護職たちは、ライン表とよばれる分単位の毎日の作業表を渡され、それ通りに働くことを指示されていたという。
各担当者のスケジュールが15分刻みでびっしり埋めつくされている(提供・飯山氏)
筆者の経験から言えば、介護は高齢者の生活を支える仕事であり、高齢者の症状も一人として同じものがない。日々なにが起こるかわからないなか、介護職個人の裁量を認めず、機械的な作業だけをこなすよう指示する「アクシストシステム」は介護の仕事に向かないのだ。
「あの事件で今井だけが裁かれるのは、どう考えてもおかしい。あのアクシストシステムは地獄です。あのシステムを使っている以上、また同じ事件が起こってもおかしくないと思っている」
死刑判決の日、元アミーユの介護職だったという男性から筆者宛てにこんなメールが届いた。
今井被告が殺人を犯した2014年当時、「Sアミーユ川崎幸町」の施設長が変わり、その上司が分刻みの業務に加えて、“手厚いお客様の対応”や“接遇”を要求していたことが、以前の取材で分かった。
余裕のない過密スケジュールのなかで、あくせく業務をこなす介護職に対し、さらにその業務範囲内で高齢者に手厚くサービスをするよう求める、割に合わない、偏った運営をしていたという。客観的に見てもこれでは上司である施設長と部下の介護職の間に歪みが生じるのもおかしくない。
介護業界だけでなく世間も揺るがした「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、今井被告ひとりが逮捕され、結局彼だけが死刑判決を受けた。難を逃れた株式会社メッセージの経営陣は事件後、同社を売却。そのうちの一部は別の有料老人ホームを運営する同業他社に役員として招かれて、いまだアクシストシステムを使った介護事業を継続しているという。
介護職にお金がまわらない
現在でも介護現場は、この苦難がいつまで続くのかわからないまま、日々の現状を乗り越えている状態だ。介護人材の不足はもやは慢性化し、それゆえ一部の現場ではいまだ介護職に労働基準法をはるかに超えた「ブラック労働」を強いている。
人材不足のそもそもの原因は、介護職の低賃金によるものだ。介護報酬の処遇改善加算と、熾烈な人材獲得競争によって、賃金は徐々に上昇しているものの、“介護”は63職種のなかで圧倒的な最下位のままだ。「普通に働いて」「普通の生活」ができない業種に人材が集まるはずがない。
「介護事業者をとりまく一部の周辺事業者が、本来であれば事業所に入るはずの介護報酬に群がり、介護職にお金がまわらないという、とんでもない問題が限界まで来てしまいました」
こう語るのは、株式会社日本介護福祉グループ創業者である藤田英明氏だ。
周辺事業者とは人材会社、有料紹介会社、求人広告会社、コンサルティング、フランチャイズ本部など、介護保険事業所をクライアントとする業者を指している。そもそも介護職の賃金は、介護保険の介護報酬が原資となっており、本来であれば介護職に分配されるべき報酬が、こういった周辺事業者に流れてしまっていることが、介護職の低賃金の大きな引き金になっているという。
「周辺業者のなかでも、特に一部の人材会社(人材派遣、有料紹介会社)への売上流出が深刻です。介護の求人はインターネットが中心で、人材の採用は検索システムが優れた人材会社に握られている。中小の事業所や介護運営会社では、人材募集をかけても応募すら来ないので、必然的に人材会社に利益を吸われ続ける構造になってしまっています」
試しに検索サイトで「介護求人」などと打ち込んでみる。検索上位にずらりと並ぶのは、なるほど人材会社のサイトがばかりだ。
介護職の有効求人倍率は東京で3倍以上、愛知は5倍以上、夜勤つきになると10倍を超える状況。介護の成り手がほんど居ないなかでの採用は困難を極める。
「介護業界は長年、人材会社のカモになっていました。経営者ごと大きな渦に飲み込まれて、大袈裟にいえば、一部の人材会社を筆頭にした周辺事業者のために、介護職が過酷な労働をしているという状況です。
例えば、ある介護福祉士が人材会社に登録したとします。
まず人材会社は6ヵ月間、どこかの施設にその介護福祉士を紹介します。なぜなら6ヵ月のペナルティー期間を過ぎれば、その介護福祉士が紹介された施設を辞めても、キャンセル料は発生しないからです。そして入職6ヵ月が経つころ、その介護福祉士に新たに転職勧誘のメールをバンバンを送るわけです。
今いるところよりも賃金や働く条件がよければ、人材は移ってしまう。こうやって退職させて、次の施設を紹介し、これを3回程度繰り返して大儲けするというビジネスモデルになっているのです」(藤田氏)
介護福祉士1人の紹介料は会社によって異なるが、約15万円〜50万円という。1人雇うのに半年ごとにその金額を支払い続けなければならないとなると、事業所は破綻してしまう。零細事業所であれば月の利益が吹き飛ぶどころか、赤字運営になる金額だ。
介護は高齢者の日々の生活を支えているので、一度休業して事業所を立て直すことができない。慢性的な人材不足にあえぐ事業所で募集をかけても誰も集まらない。結局、人材会社に頼るしか運営する手段がなくなる。本来であれば介護職に分配されるべき介護報酬が人材会社に流れていく悪循環が、ひとつのスキームとして完成されているのだ。
介護保険は40歳以上が毎月支払う介護保険料と、国、都道府県、市区町村の公費でまかなわれており、その介護保険に応じた介護報酬の売上を事業所が介護職に分配する仕組みになっている。3年ごとに改定される介護報酬は、介護職に分配することが前提で制度設計がされており、しかし現実は、介護職に分配される前の段階で手にするべきお金が事業所からなくなっているのだ。
「ぼくらは介護サービスを提供することがメインの仕事です。事業所の家賃や光熱費、人材教育費などの固定費がかかるため、少ない介護報酬のなかで人材確保にまでお金はなかなか回りません。
しかし、人材を集めることに特化した人材会社は、先ほど述べた検索システムの最適化にお金をかけたり、人を集めるために就職祝い金の予算を組んだりといった、求職者に対するサービスを提供できる。
人材の確保や育成、介護職のキャリアパスなどは介護事業所の企業努力ではあるけれど、実際のところ、そうしたことに特化した人材会社にわれわれが勝つのは難しい。直雇用のほうが圧倒的に還元率は高いのに、こうした負の連鎖に介護事業所や介護職は苦しめられている」(藤田氏)
UAゼンセン賃金実態調査によると、介護職の2017年8月の平均賃金は、前年度と比べて若干上昇しているものの。入所系介護職正規雇用で21万5749円、非正規雇用介護職14万2853円と依然として低水準のままだ。
介護事業所で働く過半数が非正規で雇われており、単身者であれば「相対的貧困」に該当する金額だ。泥沼のダブルワーク、トリプルワークなど、生きていくために長時間労働を強いられる「介護職の貧困」が社会問題になって久しい。彼らが必死になって働き稼いだ介護報酬が人材会社に流れていく仕組みがある限り、介護職は貧困のまま続くというのが現実なのだ。
新たに始まった「再編」の動き
前述した通り介護保険は3年に1度、報酬が見直され、今年がその改定の年で4月より新報酬で運営されている。今改定では0・54パーセントアップという現状維持で決着した。一方で社会保障の増大は国の急務の財源課題であり、次改正以降の報酬減は既定路線となっている。
訪問介護事業を展開する、株式会社ケアリッツ・アンド・パートナーズの宮本剛宏社長も、この既定路線に危機感を募らせている。
「介護業界が抱える問題の大前提としてまず、国の財源不足と人手不足があります。しかし、それ以上に大きな問題は、やはり介護保険事業のまわりに群がる周辺事業者の存在です。具体的には人材会社やM&Aアドバイザー、コンサル、フランチャイズですね。彼らは介護事業を手掛けているわけではないのに、介護事業者を通す形でなけなしの介護報酬を奪っていきます」
介護報酬改定の指針となるのが、毎年行われる「介護事業経営実態調査」による“収支差率”だ。売上の中の利益をしめす調査で、2017年度は介護老人福祉施設1・6パーセント、訪問介護4・8パーセント、特定施設入居者生活介護2・5パーセントと、かなり厳しい数字が出ている。
例えば、有料老人ホームなどの特定施設入居者生活介護で、年間1億円を売り上げたとする。しかし利益は250万円しか残らない。夜勤つきの介護求人倍率は10倍を超える状況で、そこの求人を前述した「半年で辞めさせる一部の人材会社」に頼れば、たちまち赤字に転落するのは目に見えている。事業所は売上の大部分を占める介護職の賃金を下げてでも事業所を運営するしか手段がなくなってしまうのだ。
「中小零細会社が運営する介護保険事業所が多すぎることが、人材不足の大きな原因のひとつとなっています。中小零細企業の多くは、職員に適切なキャリアパスを用意できないので、辞めてしまう介護職が多いのが実態です。
企業活動とは、業務の効率化を図って儲かる仕組みを作ることが本来の目的です。現在、法人の売上が10億円以上の複数の大規模法人経営者で情報と人材を共有し、介護保険の維持継続のために協力、政策提言していこうと動きがあります」(宮本氏)
先日、宮本氏もメンバーに加わり、プレジデント社が主催する「FUTURE CARE CLUB」が発足した。「FUTURE CARE CLUB」は介護事業者が、経営効率を良くするために勉強会や講演会を行うということが主旨だが、オプションサービスとして、参画企業は退職者情報を共有して、外部の事業者への介護報酬の流出を防ぐ施策も行うとのことだ。他にも、コンサルやM&Aの業者に介護報酬の流出を防ぐ方策も準備中だという。
2000年から現在まで続いた、手の打ちようのない荒れ果てた状態を経て、また新たな動きが始まりつつある。高齢者たちの死と、ひとりの介護職の死刑判決という最悪の悲劇を経て、ようやく「遅すぎる再編」がスタートするのだ。
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