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大量リストラは「思いつき」、大企業の信じられない判断の裏側
http://diamond.jp/articles/-/165740
2018.4.9 秋山進:プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
偉大なリーダーの意思決定は
苦悩と深い思索の末にあるのか
辻一弘氏がオスカーを受賞したことでも話題のアメリカ映画「チャーチル」。映画では、第二次世界大戦初期に世界の命運が英国首相チャーチルの双肩に重くのしかかる。ナチスとの厳しい交渉の中、イギリスはもはや降伏しか道はないのかという崖っぷちに立たされる。
政権内を覆う空気は、ドイツとの圧倒的な戦力差の前には降伏もやむなしというものだった。チャーチルは深く苦悩する。しかし、ハーケンクロイツがバッキンガム宮殿に掲げられる絵図を想像して、「ダメなものはダメ」だと立ち上がり、演説する。国民の闘志を呼び起こし、勇気を掻き立てる。
チャーチルファクター。まさにチャーチルの決断によって、歴史は書き換えられ、ナチスの世界制覇は阻まれたのだ。
現代の日本の話をしよう。「○○という事業から撤退。子会社を売却」「△△との経営統合。単独の生き残りは難しいと判断」など、日々報じられる企業や組織の大きな意思決定の背景には、チャーチルほどでないにせよ、重圧に耐えたリーダーが重い決断を下すものだと思っていないか。
これらの背景には、深い思索や逡巡や苦悩があってほしい。そのうえで、「しかたない」、「それ以外の選択肢はなかった」と言ってほしいと思う。しかし、その実態はチャーチルとはかけ離れているかもしれない。
かなり前の話だが、ある店舗展開をしている会社から、店舗の「採算性分析」の依頼を受けた。すでに別のプロジェクトで関わっていた会社で、あくまで、これもついでにやってほしい、というくらいの軽い依頼だった。
気軽に頼まれた数字上の分析が
予想だにしない結果に…
地域の市場性分析:対象年齢となる住民数の増減、世帯年収の増減、競合店の状況など。
個店ごとの成長性や収益性分析:売上の増減、投下資本に対して必要なリターンを得ているか。投資回収見込みはあるかなど。
全ての店舗を上記のような分析にかけ、ABCDの4つのランクに分けて、Aは優秀、Dは撤退の検討を、とレコメンドして提出し、もとのプロジェクトに戻った。
その2ヵ月後、驚くべきことが起こった。
新聞に「XX社、店舗の〇割を削減。希望退職○○人」と出たのである。まさかと思って依頼主に問い合わせてみると、「あの分析どおりにやることにした」との信じられない回答。
「待ってください、私がやったのは、あくまで、数字上、データ上だけの分析だと申し上げたはずです。個店の状況を逐一考慮することのない、極めてアバウトな比率分析にすぎません。そのまま使うなんて乱暴なことはやめてください」と懇願した。もちろん、人員削減にまで踏み込むとは聞いていなかった。
どうもこの意思決定の背景には次のような思惑があったようだ。
経営トップは「そういえば、店舗網の見直しをしたらどうだ」と担当部長(私の依頼主である)に言う。
担当部長は「ははーん、店舗を削減せよ、ということだな」と解釈する。しかし、「自分がやったらいろいろしがらみがあって面倒だ。遺恨の生じないよう、使い勝手のいい外部を使おう」と思い、外部コンサルタント(私)に前述の依頼をする。
私は「採算分析をやれということだから、単に数字上の分析をして、おおまかに区分けすればいいだろう」と思って実行する。
担当部長は提出されたものを見て、「なかなかうまい具合に区分けしてくれた。これを使えば採算性は大幅に上がることは間違いない。トップに進言すれば喜ぶだろう」と算段する。
経営トップは「(その事業は自分の手掛けた事業でないため)おお、このDランクの店は、前の経営者の負の遺産として片付けられるではないか。店舗閉鎖のコストは特損に入れて、今年は大幅な赤字にしてしまえ。全部前のトップのせいにすればわれわれには何の痛みもない。来年からは一転真っ黒。これでIRでも有利にはたらく」。
かくのごとく、タイミングよく会社の状況に、私の仕事がはまってしまったのだった。
残念ながら、意思決定の際にチャーチルのような深い懊悩も、会社を去る人たちに対する断腸の思いも、その先に描く将来ビジョンもない。ただ目先のIR対策が最重要課題であっただけなのだ。
思いつきでも結果オーライで
“立派な経営者”然とする
実はさらに続きがある。この会社が店舗クローズを発表したあと、競合もこぞって店舗数の大幅削減を発表して実施した。業界全体が過剰供給だったのだ。店舗削減とリストラをして供給能力を減らした結果、事業の採算性は大幅にアップし、大いに利益の上がる事業体になってしまった。つまり、結果的にこのトップは当該事業を大成功に導く経営判断をした、立派な経営者として記憶されることとなった。
先方からはとても感謝されたが、私の想いは複雑だった。
私はあくまで「ビーンカウンター(bean counter:数字の計算ばかりしている人の意)」の仕事をしたにすぎない。つまり計算しただけだ。
そして仕事の依頼主は単に上司である経営トップの意向を「忖度」したにすぎない。
経営トップは、もとはといえば、「店舗網の収益性をもう少しどうにかできないか」と思っただけ(事後に直接尋ねたらそう答えたのだ)。目先のIRが気になっていただけだった。そこにおあつらえ向きの分析が提出されたので「乗った」というのである。
企業や組織の、多くの人の将来を左右するような大きな意思決定の背景にはチャーチルのような深い分析や、大いなる煩悩やそれを乗り越えるリーダーとしての胆力があってほしいし、あるものだと思いたい。
しかし、実際には私が遭ったケースのように、「ちょっとした思いつき」と「忖度」と「ビーンカウンター」と「当座をやりすごす言い訳」くらいの、極めて皮相的で、浅くて浅くて、とても人には言えないような要因の絡まり合いによって、いとも簡単に決定されていることも多いのではないか。とくに、トップにとって思い入れのない事業や子会社の扱いとなると、かなりひどいことがある。
結果的に成功すればそれでよいのかもしれない。冒頭のチャーチルのような意思決定とその歴史的な結果は例外で、途方もない大事ほど、些事の積み重ねにすぎなかったり、偶然の成功も多い。その陰で、翻弄される善良な名もなき多数の人々がいるということも、とりたてて騒ぐほどのことではないのだろう。歴史とは往々にしてそういうものかもしれない。
それでもビーンカウンターの小賢しい計算と、上の意向をうかがい媚びへつらうような忖度で、社会が動いているとすれば、やりきれない気持ちになるのだ。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山進、構成/ライター 奥田由意)
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