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50代で「守りに入る」ことが定年後を危うくする理由
http://diamond.jp/articles/-/166282
2018.4.9 野田 稔:明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授 ダイヤモンド・オンライン
自分の人生に満足し続け、実際に安定させるためにも、「働き」の幅を常に広げ続けていますか?安心や安定を求めて「守りに入る」と、定年後を危うくすることに!(写真はイメージです)
今回からしばらくの間、人生100年時代において定年後の第二の人生を満足できるものにするための「定年前5年の過ごし方」について考えてみたいと思います。
私は去年、還暦を迎えました。否も応もなく、それまでの人生を振り返りました。今までの人生の、仮総括のような心持ちでした。
50歳になるまではいろいろなことに挑戦もし、自己投資もしてきたと言えました。子どもの頃にもそれなりに挑戦をしました。大学の選択、就職先の選択、大学院への進学もその時々での挑戦でした。そして新卒で入社した会社を退職し大学教員の道に進み、マスコミでの仕事を始め、複数の会社のコンサルタントや顧問を務め、研修ビジネスもスタートしました。
決して人任せの人生ではなく、私なりに頑張ってきたつもりでした。しかし、50歳から60歳までの10年間、私はそうした積極的な試みをあまりしてこなかったことに気づきました。
もちろん、何もしなかったわけではありません。60歳以降の人生を考え、その時点ではもうあくせく働かなくても、悠々自適になるためにはどうすればいいかを考え行動しました。安全・安心の余生を最大のテーマとして、そのためのトライは行いました。
しかし、いずれも上手くいきませんでした。
安全・安心を目的とするのは、実は危険なことであると気づきました。それが、ここまでの人生を振り返った時の最大の反省です。端的に言えば、守りに入ったことが失敗だったのです。
もう一度50代を過ごせるとすれば、30代や40代で行ってきた自己投資やトライを超える、さらにアグレッシブなトライをするでしょう。なぜならその方が結果として安全であり、安心を得られる近道だからです。なすべきと信じること、本心からやってみたいと思うことを真剣に行い、成功し、結果として安心・安全も手に入る。こうすべきであったと思っています。
安易な雇用延長ほど
危険なものはない
定年を機に小さなビジネスを起業する人も多いと思います。典型的なのはカフェなどの飲食店の開業でしょうか。
起業は十分にアグレッシブでしょうし、その試みは賞賛に値します。しかし、「お客様を心底楽しませるお店を作ろう」「自分が徹底的に楽しめるお店を作ろう」というのならいいのですが、「とにもかくにも安定収入を得よう」という思いで起業するのは、はなはだ危険です。なぜなら心の底にある安定志向が、ここぞという局面での判断を誤らせるからです。本来掛けるべきお金をケチってしまったがために、かえって中途半端なものを作ってしまうようなことが起こります。守ることを目的としたトライなどあり得ないのです。守るためには人生も会社も、攻め続けなくてはいけないのです。
安定収入のための“とりあえず起業”よりさらに危険なのが、今のままをとりあえず続ける生き方です。
大企業に勤める多くの人は60歳で定年を迎えます。そしてそのうちの多くのビジネスパーソンは65歳までの雇用延長という道を選びます。その理由を尋ねると、かなりの確率で「それまでは忙しくてその先の人生について何も考えていなかったので、考える猶予を得るために延長を選んだ」と答えます。これが、“とりあえず継続”の生き方です。
このような理由で雇用延長を選んだ人の大半は、65歳になった時点でも、何も考え及んでいないものです。そして会社から今度こそ追い出される。60歳での雇用環境もよくありませんが、65歳になってしまえば、もはや働き口はないと思うべきです。
だからこそできるだけ早く、60歳から先の人生のデザインをすることをお勧めするわけですが、そうは言うものの、定年後を現実感をもって考えられるのは55歳以降だろうと思い、定年前5年をターゲットにしたのです。
ではいつから考え始めましょうか。例えば、今、本記事をお読みになっているあなたが54歳だとしたら、来年になってから考え始めればいいのでしょうか。もちろんそれは違います。
Today is the first day of the rest of your life.
今日こそ、残りの人生の最初の日です。
残りの人生が1日でも長く残っているうちにスタートしたほうが、いいに決まっています。
「仕事ばかりで働かない」
という言葉の真意とは…
リクルートワークス研究所が昨年、興味深い調査プロジェクトをスタートし、2018年3月に中間報告を行いました。「人生100年時代のライフキャリア」という研究です。
ここでポイントとなるのが「キャリア」です。「キャリア」を考える上で、中心となるのが「仕事」です。しかし、会社に勤めるといった、狭義の仕事だけを考えたのでは十分ではありません。
「あいつは仕事ばかりでちっとも働かない」という言い方があると聞きました。
そもそも「仕事」とは、自分の意思とは関係がなく、事に仕えてお金を稼ぐことを指します。
一方、「働き」とは、読んで字のごとく、自分が動くことで傍を楽にする、「ありがとう」と言ってもらえる事をすることなのです。もちろん、「働き」においても対価の存在を否定はしません。NPOを考えれば明らかなように、金儲けを目的としないといっても、組織を回していくだけの利益が必要ですし、NPOで働くことで給与を得ることに何の齟齬もありません。
働くことにはいろいろな範疇があります。家事労働も地域のコミュニティ活動も、ボランティアでの清掃活動などもすべて「働き」です。また、趣味が高じた研究活動や芸術活動なども含まれます。市民運動などもそうでしょう。つまり、自分が一所懸命に活動することを通じて、何らかの価値を世の中に生み出すことすべてが「働き」と言えるわけです。
これからは「仕事」ではなく、この「働き」を意識する必要があると思ってください。
その意味を端的に表した言葉が「ライフキャリア」です。このライフキャリアという概念において、人間は60歳を過ぎても働き続けることには大きな意味があります。対価の有無も実際には重要かもしれませんが、決してそのことが一義的な目的ではありません。
キャリアの幅がずっと変わらないという人が
一番多いという現実
話をリクルートワークス研究所のプロジェクトの中間報告に戻します。
驚くべきことに、全体(20代から60代までの男女)の実に91%の人が、「仕事にモチベーションを感じていない」「生き生きとしたキャリアを実感できていない」と言うのです。これ以外の調査でも、日本のビジネスパーソンのワーク・モチベーションの低さは多く指摘されるところですが、これはとても大きな問題だと思います。
これでは満足できる人生を送ることもできません。
若い方はもちろんのこと、すでに55歳になっていたとしても、その点で決して人生をあきらめないでほしいのです。
冷静に考えて、人生100年とすれば、55歳はまだまだ半分強です。ここで人生を立て直してもまだ十分に残りの人生があります。死ぬ間際に「あそこで立て直してよかった」と思える、そんな人生を送っていただくためのヒントを様々な角度から提供していきたいと思います。
この調査では、「キャリア導線」という考え方を大切にしています。ライフキャリア(仕事における職務範囲や自分自身が一所懸命に取り組んでいる働き)の幅を時系列で捉えたもので、次の7つのパターンをモデル的に提示しています。
1番目が仕事に就いた当初からずっとキャリアの幅を広げ続けているパターン(右肩上がり型)。2番目が同じ仕事を深め、絞り続けるパターン(右肩下がり型)。3番目が仕事の幅がずっと変わらない不変型。4番目がキャリアの前半は幅を広げ、後半絞って深めるパターン。5番目が、その逆に前半は深めながら絞っていき、後半は広げるパターン。6番目が最初広げて、次に絞り、また広げるパターン。最後が、広げる、絞る、を何度も繰り返すパターンです。
とても驚いたのですが、上記のうち、3番目に挙げた「ずっと変わらない」と答えた人が28.5%で一番多いということです。若いうちならそれも当たり前かと思いますが、60代になっても24.3%もの人が「変わらない」と答えています。
安心・安全・安定を目的としたら、
決して満足できる人生にはならない
さて、ここからが問題です。
次にこのキャリア導線ごとに「キャリア展望」「過去受容」「人生満足」のスコアを出していますが、すべて一番スコアが高いのは、一貫してキャリアの幅を広げ続けているパターンでした。続いて僅差で5番目と6番目のパターンのスコアが高い結果となりました。つまり、途中はどうであっても、最後にキャリアの幅を広げている人が、現在の仕事への満足度が高く、過去を受容できていて、これからのキャリア展望も明るいということなのです。
私が「守りに入らずトライを続けるべき」と言ったのはまさにこのことです。自ら率先して仕事のみならず働きの幅を広げ続けている人だけが人生に満足できるということなのです。
もちろん、状況に応じて「絞る」「深める」ことも大切です。何らかの職務に精通していく過程も、キャリアにおいては重要なことです。仕事の幅を絞りその分野でのスキルを深めて進化させるということは、自分の立場が安泰になり、安全・安心を得ることにもつながります。
問題はそこからです。目の届く範囲に仕事を絞り、その中で慣れ親しんだことだけを続けていれば確かに安心です。しかし、それは同時に自らの可能性の幅を狭め、仮にその分野が廃れた時の転身を難しくしてしまうことにもなるわけです。
一般的に、55歳からの生き方、過ごし方を論じる場合、安全・安心・安定がテーマとなることが多いと思います。それは私も欲しかったものなので、そういう気持ちを否定はできません。しかし、それを目的としたら危険だということがこの調査でもよくわかります。結果として過去も受容できず、自分の人生にも満足できなくなってしまうのです。
自分の人生に満足し続け、実際に安定させるためにも、「働き」の幅を常に広げ続けることが必要だというわけです。
ちなみに、最も回答が多かった3番目の不変型ですが、「キャリア展望」「過去受容」「人生満足」のスコアはすべて最も低いものでした。
だからこそ、55歳でもトライを続けることが重要なのです。この調査では、50代でも16.8%、60代でも14.1%の人が「まだキャリアの幅を広げ続けている」と回答しています。本当の意味での生涯現役とは決して今に留まることなく、自らの可能性を追求し続けている人のことを言うものなのです。
(明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授 野田 稔)
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