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「草食性」新入社員に贈る、脱会社型の働き方革命
https://www.newsweekjapan.jp/kawato/2018/04/post-14.php
2018年04月09日(月)10時45分 河東哲夫 外交官の万華鏡 ニューズウィーク
就職フェアを訪れる学生たち(2012年5月) Toru Hanai-REUTERS
<「一流企業の終身雇用」から個人の資質重視へ――アベノミクスが失速した後の日本経済の処方箋>
このところ、東京の街の交通量やスーパーの客数を見ると、景気は過熱気味のようで、アベノミクスも効いてきたかと思っていた。ところが円高で雲行きが怪しくなってきた。アベノミクスは円安による輸出増で演出した幻なのか。長期持続的に効く薬、つまり日本経済・社会の活性化が手薄だったのだ。
日本は欧米に比べて、社会や企業を引っ張っていく者たち、あえて言えば「エリート」に活力と想像力が欠けている。だからヒト型ロボット「ペッパー」の対話ソフトはフランス製、世界一の囲碁AI「アルファ碁」はアメリカ製、IoT(モノのインターネット)を利用した製造業の本場はドイツになってしまった。
日本は他人が開発したものを磨き上げ、商品化することで戦後の繁栄を築いた。そうしたやり方は今や韓国、台湾、中国に奪われた。日本全体のビジネスモデルを変えないと駄目なのに、毎春まるで幼稚園の入園式のように企業に集まる新入社員たちは、ごく一部の企業の者を除いてやる気を欠いている。彼らにとって会社は自分たちが築いていくものではなく、単に生活を支えてくれるものでしかない。
この日本人の受動性、いわば「草食性」の要因は「一流企業に終身雇用」が理想として相変わらず幅を利かしていることにある。一流企業に就職すれば給料はいいし、社宅は用意されるし、いい結婚相手が見つかる。年金もいいし、いいことずくめ。
企業側も事業を拡張するために多数の新規採用をしなければならなかった。そのためには有名大学の新卒を一気に大量に採用するのが手っ取り早い。
■新聖地は「本郷バレー」
こうやって、人生での最も激烈な競争が受験に集中。大学に入ってしまえば4年間遊んで暮らす。そうした人材が企業に入って昇進するから、日本のエリートは他国に比べ見劣りしてしまう。
しかも日本の社員は社内派閥を形成しがちだ。派閥争いは時にビジネスそのものより重視される。その結果、争いに敗れて大企業から外資系に転職しても、仕事より外国人幹部にへつらい、日本人同士で足の引っ張り合いをやっている。つまり「大企業に終身雇用」モデルでは、個人としての能力・スキルは二の次になり、企業や社会の活力を奪うのだ。
こんな日本社会の体たらくを変えるにはいっそ大企業をなくせばいい――という単純な話ではない。既に家電大手は随分身売りした。ネット送金などが普及したこともあり、銀行大手だけでも19年は新卒採用人数を大幅に減らすという。
製造業も新規開発以外の仕事は外部に委託し、頭脳と多額の資金だけを握っていく。一方、部品や機械など生産財を作る部門は大企業化する。サービス分野でも新しい企業が伸びている。
だから変化の激しい時代には、大企業うんぬんよりも、個人の判断能力と稼ぐ能力を高めること。さらには新たな成長分野への転職を促進することで、社会の活力と経済の成長力を高めることが重要なのだ。
例えば経団連あたりが旗を振って、大企業での採用には大学での一定以上の平均点数、部活動での幹部経験、起業経験、1年以上の海外留学などを条件としてはどうだろうか。さらに入社後も、能力ややる気のない者は解雇、あるいは配置転換できる体制を整えることだ。
興味深いことに、最近の大企業の苦境や官僚たたきを受け、若い世代に変化が見られる。「一流企業に終身雇用」を目当てに激烈な受験競争の的となってきた東京大学法学部は近年、定員割れを起こしている。当の東大生自身も安定を目指さない。自らスタートアップ企業をつくり、大学周辺はITの聖地シリコンバレーならぬ「本郷バレー」と言われているほどだ。
安倍政権は働き方改革などを試みているが、日本経済という大船の上でのお遊びの域を出ていない。アベノミクスがどうであれ、個人の資質を磨く革命の旗を振ってほしい。
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