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「階級社会」に突入した日本、格差を拡大させた3つの仮説
【対談】橋本健二(早稲田大学人間科学学術院教授)×河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト)
http://diamond.jp/articles/-/165884
2018.4.4 週刊ダイヤモンド編集部
橋本健二氏(右)と河野龍太郎氏 Photo by Kazutoshi Sumitomo
「週刊ダイヤモンド」2018年4月7日号の第1特集は「1億総転落 新・階級社会」。7万部のベストセラーとなっている『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)の著者である橋本健二・早稲田大学教授と気鋭のエコノミスト、河野龍太郎氏に、日本に階級社会が生まれた背景と階級社会がもたらす「不都合な未来」について徹底議論してもらった。「超人手不足」「就職氷河期世代」「日本人の横並び意識」が格差拡大をどう助長しているのか、社会学と経済学のアプローチで解説する。
【前提】
格差拡大の背景は?
「新・階級社会」の誕生
河野 現在は完全雇用なのに、格差問題がテーマの『新・日本の階級社会』がビジネスマンの多い東京・丸の内界隈で売れているのは象徴的なことだと思いますね。
完全雇用で人手不足になった後も安倍政権が1億総活躍とか人づくり革命とか言い続けているのも、このまま働いても豊かになれないと思っている人が増えているのが背景にあるのではないかと。
橋本先生は、格差拡大のスタートラインは、どこだという認識ですか。
橋本 起点は高度経済成長の終焉です。賃金の規模間格差、学歴間格差の拡大から始まり、1980年代からあらゆる格差が拡大してゆく。バブル後半になると、初めは正社員も非正規労働者も求人倍率が上がっていたのですが、正社員が上がらなくなって、非正規ばかりが上がるようになりました。
87年にフリーターという言葉がはやり、新卒の若者たちが大量に流れ込みました。フリーター第1世代は50歳を超え、氷河期世代も40歳を超えてきたのが今です。
豊かさは「どの階層に属するか」で決まる
こうの・りゅうたろう/横浜国立大学経済学部卒業。1987年に住友銀行(現三井住友銀行)入行。97年第一生命経済研究所を経て、2000年BNPパリバ証券。歴史観を踏まえたマクロ分析に定評がある。
河野 80年代以降の日本で格差拡大が始まった時期には、グローバルでも格差が拡大していました。
高度成長が終わった段階で、世界各国はその高い成長が続くという幻想の下で、財政政策や金融政策を積極化しました。その結果、70年代は高インフレとなりました。
財政・金融政策では成長を高めることはできないといって、規制緩和を進めたのが、米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相、そして日本の中曽根康弘首相らです。私自身は経済の実力である潜在成長率を高めるためには、規制を取り除いて、ある程度、経済を自由にするのはいいことだと思っています。ただし、彼らは同時に所得分配を弱体化させました。
規制緩和をすることで潜在成長率(景気循環の影響を除いた経済成長率)を高めることはできますが、経済活動を自由にすれば格差は広がるので、自由化を進めた上で、所得分配で対応すべきだったところを逆にその機能を弱めてしまった。実際、どこの国も80年代以降、潜在成長率は上がらず経済格差だけが拡大しました。
橋本 今から考えると最悪のタイミングだったと思います。ちょうど格差が広がったころに、新卒も含めて非正規雇用が拡大。そこで所得分配機能を弱めてしまった。その後、格差の拡大に拍車を掛けることになる。
非正規は雇用の調整弁といわれてきましたが、近年の動きを見ると、景気変動と非正規労働者の増減に相関はないですね。雇用の調整弁ではなくて、企業が収益を上げるために、構造的に組み込まれた要素になっていると思います。
【仮説(1)】
超人手不足なのに賃金が上がらない
河野 実は、17年はもう少し賃金が上がると思っていたのです。非正規の時間当たり賃金は2%台までは上がりましたが、その後、伸び悩んでいます。
完全雇用なのに賃金が上がらない理由の一つは、高齢者や主婦の労働参加が高まり弾力的な労働供給が増えているからです。そうはいっても団塊世代が70歳になり始め、健康寿命を考えると労働市場から退出する人が増えると思っていたのですが、なかなか賃金が加速しない。
昨秋に気が付いたのですが、外国人労働が凄まじく増えていて、この5年間で倍増しているんですね。過去5年で60万人増えて120万人になっている。あらゆるセクターで増えていますし、一番増えている在留資格が留学ビザと技能実習生ですから、低スキル低賃金の労働ですよね。彼らの弾力的な労働供給が増えているから賃金が思ったほどには上がらなかったということです。
橋本 最近、新しいタイプの非正規、低賃金労働者が増えています。
全体的に所得が低迷しているから、今までだったら子どもが小学校に上がってからパートに出るはずだったお母さんが、幼稚園に入る前からパートに出るとか。65歳を過ぎた人がさらに非正規で働き続けるとかですね。今まであまり労働市場に出てこなかった人たちが参入することで、賃金が上がらなくなっている。
正社員の賃金が上がらないのはどのように説明できますか。
河野 正規労働と非正規労働の賃金決定のメカニズムはまったく別ものだと思ってます。
非正規労働は労働需給がかなり影響しますが、正規労働は労働需給の影響をあまり受けず、基本的に生産性の上昇率とインフレで規定されています。生産性が上がらない原因には、資本市場からのプレッシャーによる短期主義が影響しているとみています。
私は、基本的に生産性を規定しているのは人的資本だと思っています。かつての内部労働市場では、時間をかけて人的資本が蓄積されていくから生産性の高い仕事ができた。人的資本の蓄積の機会が少ない非正規雇用が増えただけではなく、正規雇用についても能力主義から成果主義にシフトしている企業も少なくない。
そして、正規雇用に対しOJT(職場内訓練)やOff-JT(職場外研修)の機会が減ってきている。人的資本が蓄積されないから生産性が高まらず、長期的に賃金が上がらないという悪循環にある。
経営者も従業員もベアは固定費が上がり、終身雇用が持続できなくなるので、経営者が渋いだけでなく、組合も従業員もベアを望んでいない。
米国で所得格差が拡大した理由として、よくいわれる要因が三つあります。イノベーションとグローバリゼーションと社会規範の変化。どれもつながっていて、ICT(情報通信技術)革命の結果、労働集約的な生産工程だけを新興国に移管することが可能になった。先進国の企業は自分たちが持っていたノウハウと新興国の安い労働力を組み合わせることで、業績を改善させることができるようになったのです。
イノベーションによってグローバリゼーションが加速したということです。さらに、労働組合がどこの国でも弱体化し同時に、資本市場から企業経営者へ強いプレッシャーが働くようになる。もうかっていても簡単には賃金を上げられない。この結果、国内では経営者を含め生産性の高い高スキルの賃金は上がり、労働集約的な生産工程は海外に出るので、低スキルの賃金が低下する。
人によっては、これは悪いことではない、という人もいるわけです。労働集約的な組立製造工程を海外へ出して、国内には研究開発とかアフターサービスとか、収益性の高い工程が残っているからと。
でも、先進国では学校を出たばかりの低スキル労働が製造業の工場に吸収され、そこで人的資本を蓄積して賃金が徐々に上がっていくという話だった。
それが分厚い中間層を生み出していたわけですが、そうした中間的な賃金の仕事がなくなり、結果的に、比較的高い賃金の仕事と比較的安い賃金の仕事が増えている。これは欧米でも日本でも起こっていて、各国の政治が不安定化する原因になっています。
橋本 非正規の巨大な群れができたときに、最低賃金の保証と所得再分配がないと。人々は将来が不安だからわずかな余剰が出ても貯金するので消費に回らない。今の景気が良いとは思いませんが、消費は低迷したままです。格差拡大が景気の改善を阻む「格差拡大不況」の状況がずっと続いているんじゃないでしょうか。
【仮説(2)】
就職氷河期世代が社会のコストになる
河野 少子高齢化は70年代半ば以降の婚姻率・出生率の低下が原因とばかり考えられていますが、理由はそれだけではない。就職氷河期に当たった団塊ジュニアは、就職が非常に厳しく、非正規になった人が多かった。正社員になれても不況期に就業すると、望んだ職種や企業に勤められないから、すぐに転職して就業期間も短くなり、人的資本の蓄積も進まない。だから所得が増えません。
その結果、結婚が遅れたり、できなかったりする。ある程度年を取って、所得が増え、経済的に出産が可能になっても、今度は、生物学的な限界もあるので第2子を持つことが難しくなる。結婚した夫婦でも2人の子どもを持てなくなっています。われわれが期待した「第3次ベビーブーム」が起きなかった原因はそこにあるんでしょうね。
氷河期世代に正当な賃金が払われるべき
はしもと・けんじ/1956年生まれ。東京大学教育学部卒業。現在、早稲田大学人間科学学術院教授(社会学)。主な著書に、『階級社会』『「格差」の戦後史』。“副業”として居酒屋事情にも詳しい。
橋本 そうですね。実は、アンダークラスの主力部隊がこの氷河期世代です。近現代の日本で、初めて貧困であるが故に結婚して家族を構成して子どもを産み育てることができないという、構造的な位置に置かれた人が数百万単位で出現した事実は非常に重いです。
しかも、上の世代がまだ50歳ですから、あと20年くらい働き続けるかもしれない。その下の世代まで含めると、最終的にはアンダークラスが1000万人を超えると思っています。そのとき、ようやく一番上の人が70歳になり生活保護を受けるようになって、定常状態に達するというのが私が予想する近未来の日本なんです。
河野 一方で、氷河期世代は今や働き盛り。就業者全体の3割に上るボリュームゾーンです。労働経済学者がフォーカスしているのは、氷河期世代は人的資本の蓄積が十分ではなく、前の世代に比べると賃金が低いことです。
橋本 ただ、私はあまり人的資本の話を強調したくはないんです。大学を出たときから人的資本は増えていないかもしれない。だけど、基本的な労働力は持っているわけで、それに対する正当な賃金が払われていない。生活ができる賃金は与えられてしかるべきだし、これらの人々が退職したときに基本的な生活ができるだけの社会保障は与えられるべきですよね。そういう制度が整っていないことが一番大きな問題なのです。
【仮説(3)】
日本人の横並び意識が不毛な争いを生む
河野 ちなみに、先進国では格差は拡大していますが、グローバルではむしろ格差は縮小しています。
結局、生産拠点の新興国への移転でいえば、この30年で一番メリットを受けた国は中国です。30年間で14億人の人口が中国が世界経済に組み込まれた。その過程で、農村にいた人々が豊かな都市に吸収され、中国では所得の格差が縮小してきている。
今の先進国と新興国の違いって19世紀以降の話なんですね。19世紀に先進国が工業化で発展し始めることで、アジアとの所得格差が生まれた。これが「大いなる分岐」です。90年代くらいから新興国への生産拠点の移転で新興国が豊かになり始めてきたので、「大いなる収斂」が始まりました。
19世紀以前には国の間の所得格差がないので、ある人が豊かであるかどうかは、「自国におけるどこの階層に属するか」で規定されていた。しかし、この200年くらいは「先進国の出身であるか、途上国の出身であるか」で規定された。
そして、この調子で新興国が豊かになってくると19世紀以前と同様に、ある人が豊かであるかどうかは「先進国出身であるか、新興国出身であるか」ではなくて、「自国のどの階層に属しているか」によって決まる時代になる可能性があります。つまり、日本人は日本のどの階層に属しているかが決定的になるということです。
橋本 日本では、同じ階層の中で横並び意識が働き、不毛な競争が起きることになります。
強調したいのが、アンダークラスの上の労働者階級が二つに分裂してきていること。労働者階級の中に比較的高賃金の層と低賃金の層がいる。互いに利害の異なる別々の集団になってきたという認識です。そして、アンダークラスは、人生の一時期だけではなく、恒常的にそこにとどまり続ける存在になっている。アンダークラスには子どもを生めない人も多いので、アンダークラスの子どもがアンダークラスになる構造が確立するのか……。上の階級にいる労働者階級や新中間階級の子どもがアンダークラスに転落し続けてこの規模が維持される可能性が高いと思います。
河野 働いている人が税金を払い、社会保険料を払うから社会保障制度が成り立ちます。しかし、経済の大きな変化に社会保障制度を始め国のシステムが対応できていません。そのことで、晩婚化や非婚が進み、少子高齢化が助長され、社会保険料や税金を払う人自体が減って、益々、社会制度の持続可能性が低下している。極めて危機的な状況です。
橋本 今の世代が低賃金で長時間働いて燃え尽きる。次の世代の労働力が出てこない。社会学のアプローチでいうと、「社会の再生産、労働力の再生産の危機」だと思いますね。
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