http://www.asyura2.com/18/hasan126/msg/242.html
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松本人志「ネカフェ難民は、ちゃんと働いて」発言に足りなかったもの 都内に4000人もいるのは理由がある
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54595
2018.02.25 大西 連 NPO法人もやい理事長 現代ビジネス
ネットカフェ難民の本当の実態
2月18日放送のフジテレビ系「ワイドナショー」のなかで、ネットカフェ難民という社会問題が取り上げられました。
番組中に、司会のダウンタウンの松本人志さんは、「ネットカフェ難民にちゃんと働いてほしい」という主旨の発言をしたということを、ニュース記事で知りました。
松本人志“ネットカフェ難民”に「ちゃんと働いて」 https://www.nikkansports.com/m/entertainment/news/201802180000429_m.html |
記事によれば、同じく番組に出演していた社会学者の古市憲寿さんが「見えにくい貧困」も問題であるとの主旨の発言をしてくれていることもあり、必ずしも番組全体の方向性として「ネットカフェ難民にちゃんと働いてほしい」というような意味づけをしているとは思いません。
また、実際に松本人志さんの発言に賛同する人もいるでしょうし、古市憲寿さんの発言に共感する人もいるでしょう。これ自体が一つの問題提起であるとも思います。
ですので、これを一つの契機として、ネットカフェ難民をはじめとする生活困窮者への支援、日本の貧困問題について取り組んでいる立場として、このネットカフェ難民の問題について書きたいと思います。
番組では限られた時間ですので、ネットカフェ難民の人たちの実態について、必ずしも伝えきれていないことも多いかと思います。
ここでは、ネットカフェ難民の実態について、彼らがネットカフェ難民でなくなることが困難な理由は何か、どのようなきっかけでネットカフェ難民におちいってしまうのかなどについて解説します。
東京都の調査で判明「都内に4000人」
実は、ネットカフェ難民をテーマにした特集を放送する番組や記事がここ数週間で多く存在します。
これは、東京都が1月26日に発表した「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書」(以下、東京都の調査)において、都内のネットカフェ難民が約4000人であると明らかになったことによります。
東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」の結果 http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/01/26/14.html |
実際に、その日以降、僕や僕が所属する〈もやい〉(生活困窮者の支援をしている認定NPO法人)にも取材依頼が多く寄せられていますし、いくつかのメディアには取材協力やインタビュー撮りなど協力しています。
この東京都の調査の報告書は80ページ近くあるボリュームのあるものなのですが、残念ながら多くのメディアでは、それを丁寧に読み込んだり、専門家や現場で支援をしている実務家に取材したりはしていません。
飛び込みでネットカフェに取材に行って、協力してくれる人がいたら当事者に直接アポをとって取材をするところが多いのも事実です(専門家や支援団体の多くは当事者の紹介をあまり積極的におこなわないこともあり、番組や記事にする際には当事者が自らを語ることが核になりますから)。
当事者のインタビューというのは、それはそれで事実であり、その人がネットカフェ難民であれば、ネットカフェ難民の一つの実態ではあるのですが、一方で、当然ながらその人の状況が多くのネットカフェ難民の人に共通しているとは限りません。
また、ある種、飛び込みの取材の場合、そういった取材手法でも協力してくれる状況の当事者の人である、というバイアスもかかるでしょう。当然、メディア側が編集をおこなうわけですから、何らかの意図をもったインタビューになる可能性もあります。
そういった意味では、今回の東京都の調査は、200以上の24時間営業のネットカフェ等の店舗と、946人の利用者へのアンケートをもとにしているので、ネットカフェ難民等の実態を明らかにする重要なデータです。
ネットカフェ難民はちゃんと働いていないのか、どんな人たちなのか、見ていきましょう。
派遣、契約、アルバイト・パートが約8割
東京都の調査では、ネットカフェ難民の人のなかで、正社員の人は約4.5%、派遣で働いている人が34.7%、契約社員が4.4%、パート・アルバイトの人が35.5%、自営業者が5.2%となっている。仕事をしていない人(失業中・休職中)が13.5%となっています(同報告書42ページ)。
住居喪失者の就業状況と労働形態
ここから、ネットカフェ難民の多く(9割近く)が働いていることがわかります。
また、現在フルタイムで働いている人は44.1%に及び、派遣労働者に関しては88.9%、契約社員に関しては81.3%がフルタイムで働いています(同報告書44ページ)。
フルタイム勤務の経験
「ちゃんと働いている」という言葉の定義をどう考えるかは難しいのですが、ネットカフェ難民の大半が働いていて(残念ながら非正規雇用などの不安定な働き方ではあるものの)、しかもフルタイムの人も少なくはないということから、ネットカフェ難民が「ちゃんと働いていない」とは言えないのではないか、と思います。
フルタイムで働いていても低収入
同調査ではネットカフェ難民の収入についての項目もあります(同報告書48ページ)。
1ヵ月の収入
それによれば、全体の平均収入は11.4万円(額面ではなく手取りの金額)。
ネットカフェ難民で正社員の人の平均月収は19.6万円ですが、派遣労働者の場合は12.1万円、契約社員だと15.7万円、パート・アルバイトだと11.5万円となっています。
東京の最低賃金は932円(同調査時点)ですから、そこからわかるのは、フルタイムやそれに近い働き方をしていても、非正規で時給単価が最低賃金レベルである、ということが推察できます。
ネットカフェ難民自体は、20代から50代までに広く分布しているものの、60代以降は極端に少ないことから、働いているが非正規で収入が低い人が多い、ということが明らかです。
ネカフェ、サウナ、カプセルホテル、路上…
また、ネットカフェ難民の人のうち、ネットカフェのみを利用する人は4.4%で、他にもカプセルホテルを利用する人、サウナ、ファーストフード店を利用する人がそれぞれ3〜4割いたり、野宿をすることがある人も43.8%いました(同報告書29ページ)。
特に、路上で寝泊まりしたことがある人のうち、週に3日以上の人は10.8%で、週に1〜2日程度が57.2%と、多くは野宿経験があっても、野宿生活にならないように、もしくは、野宿とネットカフェなどを行き来している人が比較的多くいることを表しています(同報告書30ページ)。
路上で寝泊りする頻度
このように、ネットカフェ難民の人の少なくない人が、ネットカフェのみならず、安価な宿泊施設や24時間営業の飲食店など、不安定な生活環境を転々とせざるを得ないということがわかってきています(今回のネットカフェ難民調査はネットカフェのみへの調査なので、24時間営業のファーストフード店などを含めたらもっと多くの住居がない生活困窮者がいると言われています)。
働いていて、しかも比較的フルタイムで働いている人もいて、でも収入が低くて生活が苦しい。それが、ネットカフェ難民の実相と言えるでしょう。
「でも路上で始まる方が俺はチャレンジしてる感じがするけどね。路上なら頑張るんじゃないかな」
という「ワイドナショー」番組内での発言は、こういった実態からみると、まったくあたらないのではないか、と思います。
まずアパートを借りるのが大変
ネットカフェ難民の人の多くは低いとはいえ、収入はあります。
では、なぜ、アパートを借りたり、収入アップを目指した就職活動など安定的な生活に向けたアクションを起こしたりできないのでしょうか。
まず、なぜアパートを借りることができないのか。
アパートを借りるには、敷金礼金等の初期費用、保証人(保証会社利用の場合はその費用)、安定期な収入(大家さんからしたら低収入や不安定な就労状況は心配)、身分証明(住所があることなど)が必要です。
ネットカフェ難民状態で、上記のすべてをそろえることができる人は稀でしょう。特に最も懸案となっているのは初期費用で、実際に、「アパート等の入居に必要な初期費用(敷金等)をなかなか貯蓄できない」と回答した人が62.8%いました(同報告書39ページ)。
住居確保にあたっての問題
ネットカフェ難民の人の多くは先述したように平均して11万円程度、すなわち一定程度の収入はあります。
しかし、ネットカフェ生活には実はお金が少なからずかかってしまいます。
ナイトパックのような利用料のほかに、例えば、仕事をしていれば、仕事中に自分の荷物を保管しておくためのコインロッカーやコインシャワー、コインランドリーなど、「家」がないことにより本来「家」でおこなうことのできるさまざまな機能を活用することができず、コストがかかります。
また、自炊も難しいので、すべて外食に。収入があっても貯蓄をすることは難しい、むしろ、生活を維持するので精いっぱいというのが実情でしょう(もちろん、自力で貯蓄をしてアパート生活に移行する人もいるでしょうが多くはないでしょう)。
「安定した仕事」にもハードルが…
次に、収入アップを目指した就職活動などをできないのはなぜでしょう。
当然ながら、例えば、正社員などの安定した仕事につくためには給料が出るまでの生活費を何とかできる、という条件が必要です。
例えば、正社員の仕事に応募したとして、面接を経て採用され、最初に給料が出るのはいつでしょうか。場合によっては、末締め翌月末払いなどだと、2ヵ月近く給料をもらえないことになります。
すると、当然ですが、その期間の生活費を貯蓄とまかなえないと良い仕事があっても応募できない、ということになります。
じゃあ、そのお金を借りればいいじゃないか、という疑問が浮かびますが、例えば、ネットカフェ難民の約4割はすでに何らかの借金(無回答を除く)をしています(同報告書55ページ)。
借金の状況
借金がある人の平均の負債額は、消費者金融に関しては99.6万円、奨学金は272万円、知人・友人が17万円など、すでに多くの借金を抱えていることがわかります。
こういったデータからも、一度、ネットカフェ難民生活にならざるを得なくなってしまうと、なかなか不安定な雇用から抜け出すことや、住居を確保することに困難さをともなってしまうことがわかります。
住む家を失った理由
多くの方がもつ疑問として、そもそも、なんでネットカフェ生活になったのだろうか、というものがあると思います。
もちろん、人によって一人ひとり事情は異なりますが、今回の調査では、「住居喪失の理由」も明らかになりました。
住居喪失の理由
「仕事を辞めて家賃等を払えなくなった(なりそう)ため」が32.9%、「仕事を辞めて寮や住み込み先を出た(出ることになりそうな)ため」が21.0%と、仕事を辞めたことが住まいを失った原因になった人が約半数にのぼることがわかりました(同報告書33ページ)。
また、他の理由としては、「家族との関係が悪く、住居を出た(出ることになりそうな)ため」が13.3%であったり、「友人等と同居していたが居づらくなりその家・部屋を出た(出たい)ため」が4.2%となど、家族や友人などと同居していたがそれを続けることができなくなった人も一定数いました。
これらからわかることは、仕事の影響、減収や失業などが大きな原因になっていること、また、家族や友人など親しい人との関係の悪化や援助を求められない状況であることです。
もちろん、すべての人に当てはまるわけではないでしょうが、経済的な問題だけではなく、身近な人に支援を求めにくい人も多いことが推測されます。
また、他にも、調査項目の最終学歴の部分を見ていくと、中卒が10.2%、高校中退が19.6%、高卒が51.2%と、全体の81%が高卒以下であり、大卒以上の学歴の人が1.1%であることなども明らかになりました(同報告書24ページ)。
総じて言えることは、学歴が高くはなく、不安定な仕事を転々とし、家族や友人等の人間関係に難しさを抱えてネットカフェ生活にいたっている、ともいえるのではないでしょうか。
やはり、これらの今回の東京都の調査結果をみていくと、「ワイドナショー」の番組内ででたような「(ネットカフェ難民に)ちゃんと働いてほしいから」というような発想は、これらの実態をみていくと、必ずしもあたらないのではないか、とも思います。
もちろん、限られた時間のなかで公表されたデータのすべてをひもとくことは難しいでしょう。
しかし、取材をはじめ、番組作りのなかで、適切な情報を提示し、その情報のもとに議論をしていくプロセスはとても重要だと思います。
正しい情報をもとに議論を
ここまで、松本人志さんの発言を受けて、「ネットカフェ難民」の実態について東京都の調査報告書をもとに明らかにしてきましたが、必要なのは、誤った情報による議論ではないと思います。
同報告書の「悩み事等を相談できる人」という質問項目では、「相談できる人はいない」が41.3%と最も多かったことは深刻です(同報告書62ページ)。
悩み事等を相談できる人
当然ですが、「ネットカフェ難民にちゃんと働いてほしい」というのが社会のなかでの大きな声であったら、また、テレビをつけた時に流れていたら、周囲の人になかなか相談しにくくなるだろうなと思います。
残念ながら、一定程度以上の収入がある人への支援というのは日本社会ではまだまだ少ないです。
生活保護基準以下の収入や資産であれば生活保護が利用できますが、それ以上の収入等がある人への支援についてもきちんと考えていく必要があるでしょう。
事実、一定の収入があってもネットカフェなどでの生活から抜けることができない人がいるのが事実である以上、社会として支えを作っていくことが求められます。
低所得者向けの家賃補助制度や、低所得者向けの相談支援事業については少しずつですが、制度が始まっています。
松本人志さんの「ワイドナショー」での発言をきっかけにネットカフェ難民の実態について書かせていただきました。多くの人の関心が、彼ら彼女らの生活をどう支えていくのか、という方向性に向かっていくことを願っています。
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