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貧困家庭を破壊する新たな地雷「生活保護費の強制返還」とは
http://diamond.jp/articles/-/160989
2018.2.23 みわよしこ:フリーランス・ライター ダイヤモンド・オンライン
野良猫の姿は社会を映し出す。最も弱く差別されやすい動物や人々の様子を見れば、その国や地域におけるモラルの程度がわかるからだ。果たして日本はどうだろうか(写真はイメージです)
生活保護法改正方針に隠された
恐るべき「ステルス兵器」
生活保護法(1950年制定、2013年改正)、生活困窮者自立支援法(2013年制定)の改正案の姿が、少しずつ明らかになってきた。これらの改正は2013年に予定されていたもので、この2月9日、同時に閣議決定された。生活困窮者自立支援法の改正案は、すでに衆議院・厚労省のサイトで公開されているが、生活保護法改正案は現在、厚労省方針が断片的に報道されているのみだ。
生活保護法改正案について、特に関心が集まっているのは、「生活保護の医療なら後発医薬品(ジェネリック医薬品)を原則に」「生活保護世帯の子どもが大学に進学すると進学準備一時金を支給(自宅通学10万円・自宅外30万円)」「就労指導強化」の3点だが、いずれも数多くの問題点や課題を含んでいる。
しかし本連載では今回、生活保護法改正案に隠された“地雷”を取り上げる。目立ちにくく問題にされにくいが、巨大な破壊力を含んでおり、射程は生活保護と無縁な人々にも及ぶ。あまりの強力さの前に、近隣某国のミサイルも裸足で逃げ出しそうだ。しかも最初の対象は、生活保護で暮らす、悪意と無縁な人々だ。
「最も弱く差別されやすい人々や動物の様子を見ていれば、その国やその社会がわかる」と語る人々は多い。社会学者の故・小室直樹氏は、社会を見るとき野良猫に注目していたという。
貧困地域の野良猫の栄養状態が良く、人間を見ると人懐っこく近寄ってくるのであれば、たとえ貧しくても良好なコミュニティが存在する。経済指標の数値が同程度でも、野良猫が痩せさらばえている地域もあれば、人間を見ると逃げていく地域もある。「食べつくされてしまったので、いない」という地域もある。野良猫には、人間のコミュニティのありようが反映されるのだ。
私は、「日本の生活保護制度は、日本の本当の姿を示す鏡であり、日本のすべての人々の近未来に関する最も確実な占い」と考えている。日本社会は、言い換えれば日本人である私たちは、私たちのうち最も傷つきやすい人々に何をしたいのだろうか。それは、日本社会と私たちに何をもたらすのだろうか。
受け取りすぎた生活保護費を
返還させることの是非
この“地雷”の正体は、生活保護法改正案に盛り込まれそうな費用徴収規定、「受け取りすぎた生活保護費は、税金の徴収と同じように強制的に返還させてよい」という規定だ。この「受け取りすぎ」は、いわゆる不正受給ではなく、悪意のない単純な受け取りすぎだ。もちろん、現在も、受け取りすぎた分は返還することになっている(いわゆる生活保護費不正受給の場合には、福祉事務所が「生活の維持に支障がない」と認めた場合に限り、生活保護法78条の2によって保護費からの“天引き“が認められている)。問題は、生活保護費の差し押さえは禁止されているにもかかわらず、強制的に徴収できることになる可能性にある。
誰もが、「税金や社会保険料は払わなくてはならない」と考えているだろう。収入があったら、所得に応じて納税し、社会保険料を納付しなくてはならない。脱税が明るみに出れば追徴課税が追いかけてくる。滞納すれば、差し押さえを含む強制的な手段によって徴収される。社会保険料も同様だ。日本社会は、その約束の上に成り立っている。
しばしば「税金も払わずに、私たちの税金で暮らしている」と言われる生活保護の人々も、この事情は基本的に変わらない。税金や社会保険料を納付する義務は、あまりに低所得ゆえに免除されているだけだ。
問題は、その「あまりにもの低所得」である生活保護費から、税金の徴収と同様の強制力をもって何かの費用を徴収することの是非だ。月々の生活保護費は、もともと「健康で文化的な最低限度の生活」を想定した金額だ。理由が何であれ、何かの費用が強制的に徴収されれば「最低限度」以下になる。このため、生活保護費からの“天引き”が可能な場面は、ギリギリまで制約されてきた。行政といえども、税金をはじめとする公租公課を生活保護費から差し押さえることはできない。
なお、行政が税金滞納などを理由として持ち家や給料を差し押さえることはあり得るが、その場合も生活保護基準に相当する分は残されることになっている。誰にも「健康で文化的な最低限度」以下の生活をさせないことが、行政の義務だからだ。
生活保護を利用していてもいなくても、あらゆる人々の生活の最低ラインが、生活保護法と生活保護基準に守られている。その土台を破壊しかねない“地雷”が、今回の生活保護法改正案で現実になりかねない「不正受給ではない生活保護費の受け取りすぎも、税金の徴収と同様に取り返してよい」という規定なのだ。言い換えれば、「何かちょっと下手をしたら、生活保護以下になりかねない」ということだ。
これがもしも現実となったら、生活保護の「最後のセーフティネット」機能は事実上骨抜きにされ、「最後のセーフティネットのない国」という既成事実が積み上がってしまうだろう。
これからの日本の姿は
「国民から惜しみなく奪う」?
この問題を、法律家はどう見るだろうか。生活保護制度に詳しい弁護士の小久保哲郎氏は、こう語る。
「これは63条返還を、78条返還と同じように非免責債権にするということですね」
生活保護法の63条は保護費の単純な受け取りすぎ、同じく78条は不正受給による受け取りすぎの取り扱いを規定している。これらが同様に「非免責債権」になるということは、「不正であろうがなかろうが同じ」ということだ。味噌もクソも一緒にするのなら、政府のモラルハザードではないだろうか。
さらなる問題は、「受け取りすぎ」であるかどうかを判断するのは行政であるということだ。生活保護法の63条が適用され得る場面は、災害時の義援金や見舞金・犯罪被害を受けた場合の賠償金・障害年金の遡及請求・給付型奨学金など数多い。「受け取りすぎ」とみなされれば、収入認定(召し上げ)の対象となる。
とはいえ、「保護費以上の収入は、とにかく収入認定する」という取り扱いがなされると、数多くの問題が起こる。たとえば、「災害で何もかもを失ったが、生活保護なので義援金も利用できない」ということがあってはならないだろう。もちろん、現在の生活保護制度は「自立更生費」を認めており、たとえば義援金からは「自立更生費」分が本人の手元に残ることとなっている。しかし実際には、「収入認定してはならないことを福祉事務所の職員が知らなかった」など数多くの理由と背景によって、「揉めどころ」となる。
「本来、自立更生費は認められるべきものなんです。しかし、最初からその検討をせず、安易に全額を収入認定してしまう例が多いです。もちろん違法ですし、『違法』とした判決も多数出ています」(小久保さん)
実際には「すべてか無か」というわけではない。たとえば、災害に遭って100万円の義援金を受け取ったとき、生活再建に実際に必要だった費用は98万円だったことが後で判明すれば、残る2万円が収入認定の対象となる。本年、生活保護法が改正されれば、この2万円は非免責債権となる可能性がある。また、保護費から強制的に徴収される可能性もある。そういう運用であれば、「まあ、仕方がないかも」と言えるかもしれない。
しかし忘れてはならないのは、本連載のタイトルでもある「生活保護のリアル」だ。生活保護で暮らす200万人以上の人々は、日常の情報源が地上波テレビだけであったり、充分な教育を受けていなかったり、文字の読み書きや基本的なコミュニケーションに困難を抱えていたりすることが珍しくない。友人や知人の中に都合よく、小久保さんのように生活保護を専門の1つとしている弁護士や、私のように生活保護に異様に詳しい物書きがいるわけでもない。
「福祉事務所に『全額を返還してください』と言われたら、多くの方は『おかしい』と思ったり声を上げたりせずに、黙って全額を返すでしょうね」(小久保さん)
生活保護で暮らす人々と行政の間には、知識・能力・立場とも大きな差がある。行政に悪意がなくても、結果として「無知に付け入る」ということになりかねない。本来なら、知ったり調べたりすることに関するハンデに対する配慮は、行政側に求められるはずだ。
生活保護から始まりかねない
社会の「モラルハザード」
小久保さんは、さらに懸念する。
「非免責債権は、本来、限定的であるべきものです。たとえば破産法では、悪意の不法行為に基づく損害賠償請求権が非免責債権とされています。生活保護法の78条が適用される不正受給の事例は、 これに近く、本人に落ち度がある場合なので、同じ扱いとなってもやむを得ない面があります」(小久保さん)
たとえば他人から1000万円を騙し取り、豪遊して使い切った後で計画的に自己破産することを認めたら、モラルハザードの温床そのものができてしまうだろう。もちろん、騙し取った1000万円は非免責債権となり、自己破産の対象とはならない。生活保護法には、「不正受給した分を保護費から返還させれば最低生活保障が成り立たなくなる」というジレンマはあるけれども、不正受給の「やり得」は認めていない。
「でも、生活保護法63条による返還、悪意ではなく受け取りすぎた費用の返還は、不正受給と同列に考えられるものではありません。もしかすると、『原資は税金なのだから、税金と同じ扱いに』ということなのかもしれませんが、それを言い出すと、給食費や保育料まで同じ扱いになりかねません」(小久保さん)
その税金でさえ、現在のところは、生活保護費からの“天引き”はできない。しかし、もしも生活保護法が「不正でなくても受け取りすぎた保護費は天引き返還」と改正されてしまったら、非免責債権と免責債権の境界が「なあなあ」で曖昧なグレーゾーンにされてしまう可能性は低くなさそうだ。いずれは、巨大な暗黒地帯となり、日本の多くの人々を飲み込む罠となるかもしれない。
生活保護法に仕込まれる
“地雷”の破壊力は侮れない
まるでステルス兵器のように生活保護法に仕込まれようとしている“地雷”の破壊力は、現在のところは想像の世界にとどまっている。しかし、現実になってからでは遅すぎる。最も傷つきやすい人々を対象とした生活保護という制度は、やはり日本という国の姿を最も雄弁に物語っているのだろう。
今なら、取り返しのつかない流れを、生活保護から押しとどめることができる。
【参考】
衆議院:第196回国会議案一覧
厚労省:生活困窮者自立支援法改正案(新旧対照)
(フリーランスライター みわよしこ)
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