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現在空中発射型弾道ミサイルを核兵器が運用できる戦略兵器として使用している国はほぼない。中国と運用思想が違うだろうが、今年の3月にロシアが「キンジャール」という空中発射型弾道ミサイルの映像を公開した程度だ。写真はB-52。
<コラム>中国の「核の三本柱」、米露に比べ弱いのは…
http://www.recordchina.co.jp/b594925-s175-c10.html
2018年4月25日(水) 23時20分
2018年4月10日、ディプロマット誌は中国が核弾頭搭載可能な空中発射型弾道ミサイルを開発していると報じた。
記事ではアメリカ国防情報局(DIA:U.S.Defense Intelligence Agency)の見立てとして、中国が新型ミサイルのテストをおこなっていると報道している。国防情報局ではこのミサイルのことをCH-AS-X-13と呼んでおり、2016年12月から2018年1月の間に5回のテストが行われたとしている。
最近の2回のテストでの新型ミサイルは、空中発射型弾道ミサイル(ALBM:air-launched ballistic missile)用に変更が加えられたH-6爆撃機に搭載されて発射された。アメリカ国防情報局ではこの派生型H-6爆撃機をH6X1/H-6Nと呼んでいる。CH-AS-X-13は射程3000キロメートルの二段式固体燃料ロケットで、ディプロマット誌では中国の地上発射型準中距離弾道ミサイルDF-21の派生型のようだとしている。H-6爆撃機に搭載できるように弾道ミサイルには複合材料が使用され軽量化されている可能性があるという。
2017年7月には元アメリカ国防情報局長であったヴィンセントR.スチュワート中将が、中国の2種類の新型空中発射型弾道ミサイルについて語っており、この内の一つは核弾頭を運用できるかもしれないとしている。スチュワート中将が言及していたものがCH-AS-X-13ミサイルかどうかは定かではないが、通常弾頭型のCH-AS-X-13ミサイルは対艦弾道ミサイルとしての使用が可能かもしれない。国防情報局によれば2025年までには配備ができると見積もっているようだ。
現在、空中発射型弾道ミサイルを核兵器が運用できる戦略兵器として使用している国はほぼない。中国と運用思想が違うだろうが、今年の3月にロシアが「キンジャール」という空中発射型弾道ミサイルの映像を公開した程度だ。
しかし、かつては1950年代後半にアメリカ軍も空中発射型弾道ミサイルであるGAM-87スカイボルトの開発を試みていたことがある。GAM-87スカイボルトはB-52のような戦略爆撃機に搭載され、ロシアの防衛圏内の外側から発射される射程約1600キロメートルの空中発射型弾道ミサイルだった。けれども、ポラリス潜水艦発射型核弾道ミサイルが配備されるようになると空中発射型弾道ミサイルの有利な点は失われてしまった。爆撃機には空中を1日飛び続けることでさえ大変だが、潜水艦なら数カ月もミサイルを発射できる適切な位置に居続けることができたからだ。
核兵器運用手段を複数用意するのには理由がある。アメリカやロシアなど核兵器を運用する国の幾つかは核の三本柱として、大きく3種類に分けられる核攻撃手段を用意している。代表的な核攻撃手段としては、核弾頭を運用できる地上発射型大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)、そして戦略爆撃機がある。中国の場合は、DF-5大陸間弾道ミサイル、JL-2潜水艦発射型弾道ミサイル、H-6爆撃機に搭載されたKD-20空中発射型巡航ミサイルが代表的な核の三本柱にあたる。核の運用手段を3通り持つ最大の理由は敵の先制攻撃で国家の核兵器部隊が全て破壊されてしまう可能性を減らすことにある。先制攻撃された状況でも報復攻撃能力を維持できる可能性が高ければ、それだけ国家の核抑止能力は確かなものになるわけだ。
しかし、アメリカやロシアに比べて中国の核の三本柱には現在においても弱点が少なくない。
中国はたしかにDF-31やDF-41のような陸上移動型の大陸間弾道ミサイルの開発を続けてきた。また、核兵器を移動しながら隠しておける地下トンネルも建造されている。しかし、移動できるといっても陸上に配備されている核兵器は、敵側の先制攻撃で多くが無力化されてしまう可能性が無視できない。
さらに、戦略爆撃機においても現在の中国には弱点が存在する。中国はソビエトのTu-16爆撃機の国産型であるH-6爆撃機を使用している。H-6には何度も改良が加えられ近代化が図られているが、作戦行動半径は3500キロメートル程度しかない。よくH-6と比較されることの多いアメリカの長距離爆撃機であるB-52Hの作戦行動半径は、任務にもよるが6500キロメートルから8000キロメートルもあり、航続距離の差は歴然としていた。
これまでは、中国本土からH-6爆撃機がDH-20巡航ミサイル(射程約2500キロメートル)を運用してカバーできる距離は6000キロメートル程度だった。しかし2017年8月にはH-6爆撃機が空中給油機から燃料を受けることのできる給油プローブを備えたテスト機らしき写真が中国ネットに流出したことをJaneウエブ版などが伝えている。新浪軍事(2017年8月23日付)では、この空中給油可能になった機種はH-6Nだとしており、空中給油を利用しながら、射程3000キロメートルの空中発射型弾道ミサイルを運用すれば、カバーできる範囲ははるかに広くなるわけだ。
中国本土から飛び立っても6000キロメートルではハワイにさえ届かないが、空中給油できるH-6Nに今回報道された新型CH-AS-X-13ミサイルを搭載すれば、状況によってはアメリカ西海岸をも射程に収めることが可能になるだろう。
しかし、中国の空中発射型弾道ミサイルは技術的な問題も多く、試験段階にあるという見方もある。ディプロマット誌もこの新型ミサイルが実証試験用で、本当に実用化されるかはわからないとしている。しかし実際に配備運用されることになれば、敵の先制攻撃で陸上配備の核ミサイルや弾道ミサイル搭載型原子力潜水艦が利用できない状況であっても、核弾道ミサイルを搭載した爆撃機が空中にいて報復核攻撃能力を維持することができるようになり、結果として中国における核戦争の抑止力が強まることになる。
また、この新型ミサイルには対艦攻撃能力がある可能性が指摘されている。通常弾頭の空中発射型弾道ミサイルを持てば、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を形成するより多層な攻撃能力を形成できることになる。さまざまな運用手段や攻撃手段を維持することで、敵側がそれら全てを迎撃することが難しくなるわけだ。
■筆者プロフィール:洲良はるき
大阪在住のアマチュア軍事研究家。翻訳家やライターとして活動する一方で、ブログやツイッターで英語・中国語の軍事関係の報道や論文・レポートなどの紹介と解説をしている。月刊『軍事研究』に最新型ステルス爆撃機「B-21レイダー」の記事を投稿。これまで主に取り扱ってきたのは最新軍用航空機関連。
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