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「複雑化するシリア内戦」/nhk
「複雑化するシリア内戦」(時論公論)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/290745.html
2018年02月20日 (火)
出川展恒 解説委員
アラブ諸国の政変、いわゆる「アラブの春」を発端とした、シリアの混乱と内戦が始まって7年になります。ここに来て、戦闘が激しさを増しているだけでなく、対立の構図が非常に複雑になっています。国境を接するイスラエルが、シリア領内にあるイランとシリアの軍事施設を空爆するなど、これまでになかった動きもあり、事態は緊迫の度を加えています。複雑化するシリアの内戦について考えます。
解説のポイントは、次の3点です。
▼まず、内戦の構図がどう変化しているのか。
▼次に、イスラエルがシリア領内を空爆し、イランと直接衝突する恐れが出てきたこと。
▼そして、トルコがシリアに越境攻撃し、アサド政権との衝突が懸念されていることです。
■まず、シリア内戦の構図から見てゆきます。
シリアの混乱は、7年前、強権的なアサド政権に抗議する民衆のデモから始まりました。数々の勢力や組織が「反政府勢力」を形成し、アサド政権の打倒を目指しました。
その後、過激派組織IS・イスラミックステートが台頭し、「三つ巴」の戦いになりました。
アサド政権を、ロシアとイランが強力に支援し、反政府勢力を、アメリカやトルコ、それに、ヨーロッパやアラブ諸国が支援する構図で、ISは、すべての当事者の「共通の敵」となりました。
そして、去年秋、アメリカを中心とする有志連合、ロシアの支援を受けたアサド政権などが、ISを軍事的に追い詰め、事実上、シリアから排除しました。
「共通の敵・IS」がいなくなると、さまざまな国や勢力の利害や立場の違いが際立ち、それまで見られなかった衝突や対立が起きるようになったのです。
■その最たる例が、イスラエル軍によるシリア領内への空爆です。これまで、シリア内戦から一歩距離を置いてきたイスラエルが、なぜ、急に大規模な空爆を行ったのでしょうか。それは、宿敵イランの脅威が、目と鼻の先に迫ったと考えたからです。
イスラエルの発表によりますと、今月10日、シリアから無人機がイスラエルの領空に侵入したため、これをイスラエル軍が撃墜し、さらに、シリア領内で無人機を操作していたイランの施設を空爆で破壊しました。その際、イスラエル軍のF16戦闘機が、シリアの防空ミサイルの攻撃で撃墜され、パイロット2人が負傷しました。
イスラエル軍の戦闘機が撃墜されたのは、実に36年ぶりです。これを受けて、イスラエル軍は、シリア領内にあるイランとシリアの軍事施設、合わせて12か所を空爆で破壊したということです。
イスラエルは、イランを、最大の脅威と見なしています。そのイランは、内戦で一時、劣勢に立たされたアサド政権を救うため、「革命防衛隊」など最精鋭の部隊をシリアに派遣し、内戦に介入してきました。
また、イランの強い影響下にあるレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」も内戦に参加しています。ヒズボラは、イスラエルへのロケット弾攻撃を繰り返してきた武装組織です。イスラエルは、イランとヒズボラが、シリア領内に軍事拠点を築いて居座ることを、あらゆる方法を使って阻止しようと考えています。
18日、ドイツで開かれた国際会議では、イスラエルのネタニヤフ首相とイランのザリーフ外相が顔を揃えました。ネタニヤフ首相は、イランの無人機が領空侵犯したと非難して、「イラン本国への軍事攻撃も辞さない」と強く警告しました。これに対し、イランのザリーフ外相は、イスラエル側の説明を否定し、「イスラエルが周辺国に武力行使していることこそが問題だ」と非難しました。
双方とも、直接の戦闘は避けたいのが本音と見られますが、内政上も対外的にも、弱腰は見せられない立場です。今後、シリアでの偶発的な出来事をきっかけに、直接の軍事衝突に発展する恐れも排除できません。
今回の事態について、アメリカのトランプ政権は、イスラエルの自衛の権利を支持するとして、イランを非難しました。これに対し、ロシアのプーチン政権は、シリアの主権が尊重されるべきだとして、事実上、イスラエルの空爆を非難しています。国連安全保障理事会の常任理事国であるアメリカとロシアが協力して、イスラエルとイランの衝突を防ぐ態勢はできていません。
■シリアの内戦の構図を変えようとしている、もうひとつの例は、トルコ軍によるシリアへの越境攻撃です。
トルコ軍は、先月20日、クルド人勢力が支配するシリア北西部の都市アフリンの一帯に、空と陸から越境攻撃を開始しました。この地区を支配するクルド人勢力を排除するのが目的です。
シリアのクルド人勢力は、アメリカの支援を受け、ISとの戦いに大きく貢献しました。この戦いに乗じて、シリア北部のトルコとの国境地帯に支配地域を広げ、一方的に自治を宣言していました。
これに対し、トルコは、シリアのクルド人勢力が、トルコのクルド人武装組織と深くつながっていると見ています。この組織は、トルコからの分離独立を求めて、軍や政府への攻撃を繰り返してきたため、シリアのクルド人勢力から武器などが渡るのではないかと危機感を強めています。このため、シリア国内で、これ以上勢力を拡大させないよう、越境攻撃に踏み切ったのです。
アメリカのトランプ大統領は、トルコのエルドアン大統領に対し、市民が巻き添えにならないよう、自制を求めましたが、エルドアン大統領は、「テロとの戦い」だと主張し、軍事作戦を続けています。
トルコとアメリカは、NATOの同盟国であり、対IS作戦で協力し、ともに反政府勢力側を支援してきました。しかし、トルコは、アメリカがクルド人勢力を支援していることに強く反発し、両者の関係が緊張しています。トルコは、このところ、ロシアに接近しており、今回の越境攻撃についても、事前にロシアの了解をとりつけたと見られています。
さらに事態を複雑にしているのが、アサド政権です。アサド政権は、トルコ軍の越境攻撃は「主権の侵害」だと非難し、19日、アフリンに部隊を派遣すると発表しました。実際にアサド政権の部隊が派遣されれば、トルコ軍との衝突に発展する可能性もあります。事態は緊迫の度を加えています。
■見てきましたように、8年目に入るシリアの内戦は、当事者と関係国の利害が入り組んで、非常に複雑な構図となっています。
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アサド政権側が、反政府勢力との戦いで圧倒的に優勢となり、内戦の終結と和平に向けた政治交渉も、アサド政権を支援するロシアとイラン、それに、ロシアに接近したトルコが連携し、主導権を握ろうとしています。
これに対し、アメリカは、シリア問題には深入りしたくないという姿勢が目立ち、シリアの内戦終結と和平、そして、新しい秩序づくりについて、具体的なビジョンを描き出せていません。
■最近、アサド政権や、トルコ軍によって、化学兵器が使用されたのではないかと疑われる事例が、いくつか指摘されており、この問題をめぐって、アメリカやフランスによる新たな軍事攻撃が起きる恐れも出ています。
先週、シリア内戦をめぐって開かれた安全保障理事会で、国連のデミストラ特使は、「私が4年前に就任して以来、最も危険な状況に陥っている」と述べ、強い危機感を示しました。
■ISをシリアから排除したことは、当時、大きな前進と受け止められました。しかし、それによって内戦の構図が複雑化し、イスラエルとイランの衝突が危惧されるなど、極めて危険な状況が生まれています。シリア内戦に関係するすべての国や勢力が、自らの利益ではなく、犠牲者と避難民が増え続ける状況に歯止めをかけることを最優先に考え、行動することが求められています。
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