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金正恩はなぜ米韓合同軍事演習をここまで恐れるのか
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/post-9623.php
2018年2月28日(水)11時00分 高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載 ニューズウィーク
16年12月に北朝鮮軍のロケット発射演習を見守る金正恩 KCNA-REUTERS
<米韓軍事合同演習が実施されれば、北朝鮮としては演習のふりをして攻め込まれてはたまらないので、相応の備えをしなければならない>
米国防総省のマニング報道官は26日、延期していた米韓合同軍事演習について、来月の平昌パラリンピックの終了後に実施するとの方針を改めて強調した。詳細な日程や規模については今後、韓国と協議した上で決めるという。
これに対し、北朝鮮は強く反発している。
朝鮮労働党機関紙・労働新聞は同日付の論評で、「朝鮮半島の緊張緩和と恒久平和を願う全民族と北南関係の改善のために誠意と努力の限りを尽くしている共和国に対する、悪らつな挑戦として絶対に容認されない」と非難の声を上げた。
それにしても、北朝鮮はなぜ、米韓合同軍事演習を嫌うのか。
米国と韓国は通常、3月と4月に合同軍事演習「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」を行う。今年は米軍からは最大1万7000人、韓国からは30万人超が参加する可能性があり、昨年は米軍から空母「カール・ビンソン」や原子力潜水艦「コロンバス」、最新鋭ステルス戦闘機F-35B、金正恩党委員長に対する「斬首作戦」への投入が想定される特殊部隊などが派遣された。
北朝鮮としては、演習のふりをして攻め込まれてはたまらないので、相応の備えをしなければならない。
<参考記事:米軍が「金正恩斬首」部隊を韓国に送り込んだ>
そのため例年、12月に中隊(約150人)規模の冬季訓練を開始し、1月にはこれを1000人前後の大隊規模に拡大。2月に近づくと10000人余りの師団規模となり、3月には30000〜50000人の軍団規模になる。このように軍の動員規模を大きくしながら、いつでも戦える態勢を整えるのだが、慢性的な経済難の中にある北朝鮮にとっては、これが相当に大きな負担なのだ。
とりわけ今年は、「北朝鮮軍が冬季訓練を縮小している」と米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが1月29日付で報じている。
冬季訓練が縮小されるということは、米韓軍への備えがおろそかになるということなのだ。縮小が事実なら、経済制裁や財政難による北朝鮮軍の弱体化は、相当なところまで来ているということだ。
その裏にはもちろん、核武装したことによる自信もあるだろう。ただ、北朝鮮は自分が軍事的に弱い時に、対話攻勢に出る傾向がある。2015年8月、北朝鮮側の地雷に韓国軍兵士が接触し、軍事危機が高まったときもそうだった。
<参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士...北朝鮮の地雷が爆発する瞬間>
当時も北朝鮮は韓国との対話姿勢を示したが、それはおそらく「いま戦っても韓国には勝てない」との判断からだったと思われる。つまり当時の対話姿勢は、核武装を強化するための時間稼ぎに過ぎなかったのだ。
このように見るにつけ、平昌冬季五輪をきっかけにした南北対話の裏で北朝鮮が何を考えているのか、非常に気になるところだ。
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。
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