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シリアで今度はトルコ軍が化学兵器攻撃か?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/post-9565.php
2018年2月20日(火)19時00分 青山弘之(東京外国語大学教授) ニューズウィーク
市民ジャーナリストを名乗るムハンマド・ハサンのツイッターより MHJournalist-twitter
<シリア北部のアレッポ県でトルコ軍が、塩素ガスを使用したとの疑惑がおきている。相次ぐ化学兵器攻撃。その「効果」とは>
ハーワール通信(ANHA)、シリア・アラブ通信(SANA)、スプートニク・ニュースなどは16日、トルコ軍が、塩素ガスと思われる有毒ガスを装填した砲弾で、シリア北部のアレッポ県アフリーン郡シャイフ・ハディード区マズィーナ村を砲撃、民間人6人が呼吸困難などの症状を訴えて、アフリーン市内の病院に搬送されたと伝えた。
ANHA, February 16, 2018
SANA, February 16, 2018
NHAは、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導するロジャヴァ(西クルディスタン移行期民政局/北シリア民主連邦)のマウスピースとでも言うべき通信社、そしてSANAはバッシャール・アサド政権下のシリアの国営通信社だ。
■市民ジャーナリスト、西側メディアも報道
この攻撃に関して、市民ジャーナリストを名乗るムハンマド・ハサン(Mohammed Hassan)はツイッターを通じて、被害を受けたとされる住民の写真や映像を公開した。
https://twitter.com/MHJournalist/status/964604751047462912?ref_src=twsrc%5Etfw
またロイター通信も17日、ロジャヴァ傘下の人民防衛部隊(YPG)のビルースク・ハサカ報道官の話として、トルコ軍が有毒ガスを使用したと伝え、英国で活動する反体制系NGOシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表も、フランス通信社(AFP)に対し「トルコ、ないしは同国と連携する反体制派が砲撃した」と明言した。
なお、シャイフ・ハディード区マズィーナ村は、ロジャヴァ(クルド語)ではシーヤ郡アルナダ村と呼ばれている。
■シリア軍による化学兵器使用疑惑再燃
シリアでは、国連安保理決議第2209号(2015年3月採択)に基づき、化学兵器および塩素ガスの使用が禁止されているが、2月に入って、紛争当事者たちによる使用疑惑が相次いで噴出している。
最初に疑惑の目が向けられたのは、シリア政府だ。ダマスカス郊外県東グータ地方やイドリブ県でアル=カーイダ系組織のシャーム解放委員会をはじめとする反体制武装集団への攻勢を強めていたシリア軍は、米国からサリン・ガスの使用の可能性をにわかに疑われるようになった。そうした最中の2月4日、シリア軍は、イドリブ県サラーキブ市で塩素ガスを装填した爆弾を敢えて使用し、住民11人が負傷したのだという。
米国は根拠を示さないまま、この攻撃でシリア軍が塩素ガスを用いたと断じた。対するシリア政府は「米国はシリア軍の戦果を快く思っていない。だから、シリア軍が化学兵器を使用しているという嘘の情報を流している」と一蹴した。
■クルド人勢力による使用疑惑
続いて、YPGが塩素ガスを使用したと疑われた。アレッポ県アフリーン市一帯へのトルコ軍の「オリーブの枝」作戦に参加する「自由シリア軍」が2月6日に緊急声明を出し、「PYDのテロ民兵(YPGのこと)」がアフリーン郡ブルブル区シャイフ・ハッルーズ村にある自由シリア軍の拠点を、塩素ガスを装填した迫撃砲で攻撃し、20人が負傷したと発表した。トルコ政府もこれに同調、「テロリスト」とみなすロジャヴァに非難を浴びせた。だが、YPGは、「トルコ軍が塩素ガスを装填した砲弾をクルド人に対して撃ったが、自由シリア軍が被弾した」と反論した。
syria.liveuamap.comより転載
■化学兵器が発揮する効果とは?
そして16日のトルコ軍による塩素ガス使用疑惑である。
トルコ政府は正式なコメントを控えているが、同国匿名外交筋が17日、ロイター通信に対して「疑惑には根拠がない。トルコは化学兵器を決して使用したことはない。我々は「オリーブの枝」作戦で民間人を保護している...。疑惑は「オリーブの枝」作戦に対する暗黒の宣伝だ」と強く否定した。
真偽は定かではない。だが、シリアで化学兵器や有毒ガスが使用される度に再認識されるのは、使う側にとっての軍事的、政治的な「効果の低さ」と、使われる側(犠牲者となる民間人ではなく、彼らを代弁すると主張する紛争当事者)にとっての「旨み」だ。
軍事的効果の低さは、上記の三つの攻撃で、死者が1人も出ていないことからも明らかだ。敵側の兵士や民間人により大きな打撃を与えるのであれば、通常兵器による爆撃や砲撃の方が効果的だ。そのことは悪名高いシリア軍の「樽爆弾」がもたらす被害だけを見ても明らかだ。
しかも、化学兵器は、敵に恐怖を喚起し、屈服を促す以上に、その使用に対する国際社会、とりわけ欧米諸国の非難、さらには軍事的制裁を招く(可能性が高い)。政治的な費用対効果が著しく低い化学兵器の使用に関して、常に自作自演説が流れるのはそのためだ。
実行犯を特定する決定的な証拠も、第三者には決して開示されない。断定的な言説は、憶測、あるいは特定の当事者への共感や憎しみに基づいていることがほとんどだ。
化学兵器とは、こうした憶測、共感、憎しみに起因する思考停止をもたらし、暴力の連鎖を助長する点で最も大きな効果を発揮する兵器だと言えるのかもしれない。
■追記(2018年2月19日)
米ホワイト・ハウスの国家安全保障会議(NSC)のマイケル・アントン報道官は18日、「ホワイト・ハウスはこれらの報告(トルコ軍による有毒ガス攻撃についての報告)について承知しているが、確認はできない。ただ、我々は、トルコ軍が化学兵器を使用したということは決してないだろうと思っている」と述べた。
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