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第2次朝鮮戦争後の東アジアで何が起こる?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/2-78.php
2018年2月6日(火)17時50分 エリック・チャン(米空軍政策分析官〔中国政治・安全保障担当〕)、ピーター・ロフタス(米空軍少尉) ニューズウィーク
朝鮮半島有事は台湾にも影響を与えるだろう(台湾軍の軍事演習) Tyrone Siu-REUTERS
<金正恩体制が崩壊して人口7500万人の統一朝鮮が誕生すれば、アジアのパワーバランスは大きく変わる>
ドナルド・トランプ米大統領の就任から1年がたった。
多くのアジア専門家は、大統領の度重なる強硬な発言にもかかわらずトランプ政権のアジア政策が従来の流れを継承する方向で落ち着きつつあることに、胸をなで下ろしている。
北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、核・ミサイル実験を繰り返していることさえ、ある意味で「これまでどおり」だ。そのたびに、トランプは好戦的なツイートを連発してきたが、今のところは口先だけで済んでいる。
トランプ政権は、日本や韓国など同盟国を安心させる措置も取ってきた。米軍駐留費の負担拡大要求も、いつの間にか聞かれなくなった。おかげでアメリカとアジア諸国の関係には一定の安定がもたらされた。
一方、北朝鮮の核危機は、予想外の効用をもたらした。日本と中国の尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権問題や、南シナ海の岩礁の領有権問題など、ここ数年、インド洋・太平洋地域で深刻化していた火種を目立たないものにし、地域の緊張を低下させたのだ。
しかし第2次朝鮮戦争が起きるなどして、金体制と北朝鮮が崩壊すれば、こうした伝統的な火種は一気に大きくなる危険がある。そうなれば、アメリカと中国の緊張も高まるだろう。
朝鮮半島危機がどのような形で勃発し、どのように展開するかについては、これまでさまざまなシナリオが示されてきた。だが、その結果、北朝鮮という国家が崩壊した場合、アジア地域に何が起きるかは、さほど検討されてこなかった。
ただ1つだけ専門家の間で一致しているのは、どのような形であれ北朝鮮が崩壊すれば、中国と韓国に大量の難民が流入するということだ。
■台湾が米中対立の舞台に
北朝鮮が戦争によって崩壊した場合、韓国の首都ソウル(韓国のGDPのほぼ50%を生み出している)も壊滅的な打撃を受けるだろう。そんななかで韓国政府は、難民問題への対応を指揮しなければならない。
短期的には、アメリカや韓国、中国などの周辺諸国は、北朝鮮崩壊の混乱に対応することに時間とエネルギーを奪われて、お互いの間の緊張は低下するだろう。しかし時間がたてば、アメリカと中国の対立を抑える要因は少なくなる。それが最悪の形で表面化する場所は、台湾海峡になる可能性が高い。
米国防総省は14年、太平洋に配備する米海軍艦船の割合を、当時の50%から20年までに60%に引き上げる方針を示した。だが朝鮮半島危機が起きれば、その割合はもっと高まるだろう。
また、おそらく北朝鮮崩壊後も不安定な状況は続くだろうから、米軍の高いプレゼンスはしばらく維持される可能性が高い。それが展開される場所は、朝鮮半島周辺だけでなくアジア太平洋全域に及び、この地域に積極的に進出してきた中国を不安に陥れる。
その中国では、習近平(シー・チンピン)国家主席による権力集中が進んでいる。これは迅速な意思決定を可能にする一方で、習は国内の混乱は何としてでも防がなければならないという思いと、世界の舞台で弱腰だと思われてはならないという意地を強めるだろう。
■「統一朝鮮」の将来性
それだけに北朝鮮崩壊後の混乱は、習にとっても中国共産党にとっても、天安門事件以来の大きな難題になる。目先の懸念は、北朝鮮難民が数百万人規模で中国に流入して、中国東北部の社会や経済を著しく不安定化させることだ。
この問題は中国とアメリカ、そして新たに統一された朝鮮半島(以下「統一朝鮮」と呼ぶ)との関係を悪化させるだろう。中国指導部が、「そもそも朝鮮半島危機は、トランプ政権の強硬な政策がきっかけだ」と判断したら、米中間の緊張は一段と悪化する。
当面の間、中国指導部は難民問題など北朝鮮崩壊後の混乱への対応に追われるだろうが、それが一段落したら、これまで以上に強気な態度を示すようになるだろう。それは台湾との関係にも影響を与えるはずだ。
かねてから習指導下の中国は、台湾に対する態度を硬化させてきた。習は17年秋の第19回中国共産党大会で、台湾独立に断固反対すると明言。自らが主張してきた「中華民族の偉大な復興」にとって、台湾統一は不可欠であるとの考えをにじませた。
北朝鮮の金体制が崩壊して、韓国に合流する形で朝鮮半島が統一されれば、人口約7500万人の国が誕生する。数十年もたてば、統一朝鮮は戦争の荒廃から立ち直り、現在の韓国よりはるかに大きな経済基盤と国際的な競争力を持つだろう。
当然参考になるのは、91年の東西ドイツ統一だ。統一により経済基盤も政治的影響力も大きくなったドイツは、EUのリーダーに成長し、ヨーロッパという共同体の経済的・政治的バランスを根本から変えた。
統一朝鮮が同じような成長を遂げれば、中国との間で緊張が高まるのは間違いない。中国は北朝鮮の一部の歴史的領有権を主張したり、統一朝鮮における駐留米軍の地位や国境線の引き方など、地政学的な要素を問題視するかもしれない。
■日中関係は一段と悪化
統一朝鮮は、日米関係も韓国時代とは違うものにするだろう。北朝鮮という脅威が消えた以上、アメリカと同盟関係を維持する大きな目的の1つが失われる。冷戦後のNATO(北大西洋条約機構)が経験したのとよく似た状況だ。
北朝鮮の脅威に対抗するために生まれた韓国と日本の協力関係も、統一朝鮮下では消滅するだろう。朝鮮人(韓国人)は伝統的に愛国主義的意識が強く、歴史的な敵である日本に対して、より強硬な外交政策を取るようになる。
中国と台湾の間でいざこざが起きたとき、統一朝鮮は駐留米軍が台湾海峡に派遣されることを嫌がるだろう。これは中国にとっては好ましいことであり、統一朝鮮との国境防衛に神経をとがらせずに、中国軍を台湾方面に動かすことができる。
第2次朝鮮戦争が起きれば、日本の地政学的環境は大きく変わるだろう。短期的には、日本経済が受ける打撃は大きい。金政権はほぼ確実に日本にもミサイルを発射するだろうし、年間7兆円超の日韓貿易は壊滅的な打撃を受けることになる。
しかし、北朝鮮の脅威がなくなれば、これまでその対策に向けられていたリソースを他に向けることができるため、長期的には日本の外交政策はより積極的になるだろう。統一朝鮮は、おそらく中国とアメリカ両方と良好な関係を維持しようとするだろうが、日本は中国と統一朝鮮に対する自衛のため、アメリカとの同盟強化を図るだろう。
しかも日本と中国は長年、インド・太平洋地域における経済的・外交的影響力拡大をめぐり、静かな競争の火花を散らしてきた。それは朝鮮有事後に一段と悪化するはずだ。
台湾は唯一、第2次朝鮮戦争を(物理的に)無傷で乗り切る可能性が高い。統一朝鮮も日本も、東アジアで覇権を築こうとする中国に対抗するため、台湾と非公式の関係拡大に努めるだろう。台湾はこうした国際的な承認拡大を歓迎するはずだ。
また、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が唱える「新南向政策」に倣い、台湾では東南アジアとの経済連携を強化して、経済的な中国依存から脱却しようとする動きが加速するだろう。そのいずれも中国にとっては面白くない話であり、中台関係は大幅に悪化する可能性が高い。
最近のアメリカは、目先の朝鮮半島の危機管理方法(北朝鮮の封じ込めか戦争)にばかり目を向け、戦後の中長期的シナリオや、それが東アジア諸国とアメリカの関係にどのような影響を与えるかは、ほとんど検討していないようだ。
トランプ政権は、今すぐこうしたシナリオの検討を始めるべきだ。さもないと、アメリカはこれまで北朝鮮に対して取ってきた瀬戸際政策を、中国に対して取ることになりかねない。
<本誌2018年2月16日号掲載>
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