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「トランプが戦争命令を出したら、制御できるか」米国の今そこにある危機とは?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171218-00000070-sasahi-n_ame
AERA dot. 12/19(火) 16:00配信
トランプ大統領 (c)朝日新聞社
尾形聡彦・朝日新聞オピニオン編集次長(撮影/横田一)
北朝鮮からの木造船が日本に漂着したニュースが相次ぎ、11月末には2ヶ月半ぶりのミサイル発射、トランプ大統領の軍事オプションの可能性が高まるなど目が離せない。トランプ氏や金正恩朝鮮労働党委員長はどう動くのか――。『乱流のホワイトハウス トランプVS.オバマ』(岩波書店)の著作がある尾形聡彦・朝日新聞オピニオン編集部次長兼機動特派員が今後のトランプVS金正恩の行方を語った。
――トランプ政権内で北朝鮮対応で意見が割れているのか。
尾形氏:「軍事力を使うべきではない」ということではティラーソン米国務長官もマティス米国防長官も一致していると思います。ただトランプ大統領が制御不能となって軍事オプションに走る恐れがある。だから米国内では「トランプ大統領に戦争を命令された時にどうやって回避する道があるのか」「国防長官を通じて命令が出されるわけだから、国防長官が抗議をするべきだ」という議論も行われています。「トランプ大統領は半分ぐらいしか制御が効かない」という危機感の裏返しでもありますが、トランプ大統領が軍事オプションの考え方を持っていて、なおかつ衝動的に決めるリスクがあることを政権に近い人たちはみな知っているのです。
――日本はどう対応すればいいのでしょうか。
尾形氏:トランプ政権は「自分たちに届く核ミサイルが配備されることは困る」という強い懸念を持っています。大統領に近い共和党の重鎮、グラム上院議員は「我々は、狂った北朝鮮の男に、米国本土を狙える能力を持たせることは許さない」と言い、最近は「我々が軍事オプションを使う可能性は10のうち3つ」、つまり30%もあると明言しています。「コントロール不能な北朝鮮が核を持つ、という安全保障上の危険に米国がさらされる前に、軍事的に攻撃をして止める」というのがトランプ政権内にある考えであり、米国の論理なのです。
その際に問題なのは、日韓で甚大な被害が出るおそれがあるということです。米国のジョンズ・ホプキンス大学の研究グループは、「38ノース」という北朝鮮問題などの分析サイトに詳細な被害想定を発表しています。通常の核ミサイルであれば、東京とソウルそれぞれで死者が最大で100万人規模、9月の水爆実験で使われたような弾頭が撃たれれば、死者は最大で200万人規模、という戦慄するような被害想定です。
しかしグラム上院議員は米メディアに対し、たとえ北朝鮮の核ミサイルで東京とソウルが犠牲になるにしても「トランプ大統領はリージョン(地域)よりもアメリカを選ぶ(The President is picking America over the region)」と断言しました。アメリカ大統領の最優先課題は「米国をどう守るのか」。北東アジア地域の被害よりも、アメリカ本土に届く核ミサイルがない段階で北朝鮮を叩かないと、米本土がICBMで反撃されるようになってしまうことを恐れているのです。
――北朝鮮問題で「日米は100%共にある」と繰り返す安倍首相は、日米首脳会談後の共同記者会見でトランプ大統領に「米国経済が一番で日本が二番。それでいいか」と迫られた時にも反論できませんでした。この点は、尾形さんがネット番組に出演された時に動画再生をしながら解説されていましたね。いまある北朝鮮問題でも安倍首相が、多大な犠牲が出る日本の立場を、トランプ大統領にきちんと伝えられるのかは疑問ですが。
尾形氏:共同記者会見でトランプ大統領に「米国経済が一番で日本は二番、それでいいか」と言われた時に、冗談でもいいから「私たちは一番を目指します」みたいなことを言わないといけないと思います。言い返せなかったのは、今の日米首脳の関係を象徴しているのかなと感じています。
――「北朝鮮への軍事オプションを決行する。それでいいか」と言われた時にも安倍首相は何も言い返せないのではないのでしょうか。
尾形氏:国会で徹底的に議論をすべきです。トランプ政権の論理を受け入れて「日本人が100万人規模で犠牲になるリスクが現実にあるが、そのリスクよりも北朝鮮がICBMを完成させてしまう方が日本にとってもリスクが大きいのだ」と同調する立場もありえますが、その論理をどうやって展開するのかは私には全く分かりません。
なお、日本人に100万人規模の多大な犠牲(死者)が出ることは私だけではなくて、1994年に北朝鮮危機に対応したウィリアム・ペリー元国防長官も同じことを言っています。安倍首相が「今は圧力をかける時だ」と言っていることについて聞かれて、こう答えています。「外交の不在や見境のない発言は、非常に壊滅的な核戦争に突入する条件を醸成してしまう。実行可能な軍事オプションがあるのなら私もそれを薦めるかもしれませんが、そんな解決策はない。私が驚くのは、実に多くの人が戦争がもたらす甚大な結果に目を向けていないことです。戦争は日本にも波及し、核になれば、その被害は(韓国にとって)朝鮮戦争の10倍に、(日本にとって)第二次世界大戦に匹敵する大きさになります」。
米国本土を守るために軍事オプションをトランプ大統領が検討し、日本に多大な犠牲が出るリスクがあることを前提にした議論が、米国内では実際になされているのです。
しかし日本の中で目立つ議論は「北朝鮮に圧力をかければ、最後は折れて来る」という楽観論でしかなく、どういう根拠に基づく論理構成なのか私にはさっぱり分かりません。圧力をかけ続けることはそれだけ、偶発的な衝突や戦争に陥る危機を高めていくことになり、悪い方向になるリスクを高めていることが無視されているように思います。安倍政権もメディアもシビアな議論をしていないのです。
――同じように甚大な犠牲が出る韓国の対応は日本と全く違います。安倍首相が「(北朝鮮問題で)アメリカと日本は100%共にある」と言っているのに比べ、文在寅大統領は「朝鮮半島で韓国の事前同意のない軍事的行動はありえない」とアメリカに釘を刺しています。
尾形氏:韓国の文大統領が言っているのは「戦争になれば、国民に甚大な被害が出る。だからアメリカの軍事的行動には我々の同意が必要だ」ということです。トランプ大統領に嫌われるのかもしれないが、そう主張することが韓国の国益に適っていると考えているのです。
アメリカでは「アップサイド(upside)」と「ダウンサイド(downside)」とよく言うのですが、アップサイドは上手く行った時、ダウンサイドは上手く行かない時にどうなるのか。日本の場合は「最後は折れて来る」というアップサイドの話はしているのですが、「暴発をしたらどうなるのか」というダウンサイドのことはちゃんと議論されていません。日本人の危機感のなさの現れだと思います。「そんなことは起こりえない」と、なぜか皆、頭の中で考えているのでしょう。
8月頃から安倍政権内でも「『もしかしたら軍事オプションがあり得る』という危機感が高まってきた」と聞いていますが、その時に言われていたのが「覚悟を持たないといけない」といけない、という言葉でした。その覚悟の中身は、「たとえ100万人が犠牲になっても」ということになります。であれば、Jアラートを鳴らすだけではなく、その悪いシナリオも、きちんと国民に伝えるべきです。
私はホワイトハウスを長年取材していますが、彼らは「最悪(ダウンサイド)の場合、どうなるか」を常に考えている。そこが日本の官邸と決定的に違います。日本版NSCの国家安全保障会議とアメリカのNSCは、似て非なるものだと思います。アメリカのNSCはインテリジェンス・コミュニティとそれを統轄するDNIという17の組織で、世界とアメリカ国内から機密情報を集めて来て、それを集約して戦略を立てるのです。日本は、アメリカをまねて国家安全保障会議を作ったが、その下にはわずかな人数の官僚がいるだけです。
――安倍首相や小池百合子前代表と面談した軍事アドバイザーのエドワード・ルトワック氏は、アメリカの論理を日本に押しつけようとしているとしか見えません。同氏は文春新書で「自衛隊が特殊部隊として核施設を破壊すれば、日本国民の1億2千万人が守られる」という具体的な提案までしている。
尾形氏:「いま北朝鮮と戦争をやらなければ、それ以上のリスクをICBM級核ミサイルの完成で抱える」というルトワック氏の主張は、「米国」を主語にした米国強硬派の論理であり、その主語を日本に置き換えるのは、私は違うと思います。自衛隊の特殊部隊の作戦についても、どうやって北朝鮮の全ての核施設に関する情報をどこから得るのか。米国も全ては分かっていないと思います。核施設攻撃を言うのは簡単ですが、どう情報を集めて、特殊部隊をどう組織をして、自衛隊が敵地攻撃能力の訓練をしていない部分をどうするのか。幾重にも非現実的な論拠を積み重ねているようしか見えません。オペレーション(作戦)自体が上手くいくということが具体的に説明できていないし、攻撃実行に移すことで、北朝鮮の報復を招いて全面戦争になり、日本や韓国で100万人規模の死者が出るダウンサイドリスクがその論理のなかには存在していると思います。
――先のルトワック氏は「北朝鮮が核を持ったら日本を脅してきて降伏する事態に陥る」「北朝鮮への降伏か先制攻撃か」という選択を迫っていますが。
尾形氏:単純に「降伏」を求められることではないと思いますし、だからこそ米国の拡大抑止がある。ただ、北朝鮮が核を背景に強い対応に出てくるのは十分に考えられます。だから米国の専門家の間では「北朝鮮との交渉で核の保有を事実上認めてしまった時に日本や韓国でどういう議論が起こる可能性があり、米国はそのときどう対応すべきなのか」についても議論されています。「日韓の抑止力を高めないといけないし、日本や韓国に戦術核を持ち込むべきだという議論が出てくるのではないか」とか、「日韓に『自らの核開発を認めて欲しい』と言われたら、米国はどうするのか」といった議論をしているのです。「北朝鮮が核を持っていて日本には核がないからお手上げになる」というのは物事を単純化しすぎていて、そうならないための議論がなされています。
――仮に北朝鮮が核保有をしても日本がどう対抗するのかという議論をしないと、「先制攻撃しかない」という単純化した選択肢になってしまうわけですね。
尾形氏:核武装した北朝鮮に対してはミサイル防衛の能力を高めて撃ち落せるようにするのも一つの選択肢でしょう。石破茂・元防衛大臣が「平時こそ、こういう議論が必要ではないか」と発言して核についての議論を促したのは、今後米朝が直接対話し、北朝鮮の核保有が当面は実質的に容認される状況になりうる、という可能性を見据えてのことだと思います。ただ、これは私個人の考えですが、私自身は、「相手が核を持っているから、自分たちも核を」という単純な議論には陥るべきではないと思っています。「広島と長崎であれだけの方々が犠牲になった、世界で唯一の戦争被曝国として、あの犠牲の意味は何だったのか」ということになります。その前に、ミサイル防衛の強化など日本独自でやれることがあると思うのです。
――北朝鮮の体制保証と引換えに、北朝鮮が核を放棄することは可能でしょうか。
尾形氏:米国の多くの専門家たちは、「北朝鮮は『自分たちが核を放棄してしまったら、いつ約束を反故にされて、米国の攻撃を受けるのか分からない』と考えて、核をそう簡単に放棄しないだろう」とみています。北朝鮮は、最終的にはアメリカと直接対話をしたいと思っているわけですし、中国と韓国と日本のいずれの国も、アメリカに対して、軍事オプションを使わずに北朝鮮と直接対話をするように働きかけていくのが重要だと思います。米国が軍事オプションを使えば、この地域には、壊滅的な被害で出るおそれがあるからです。公には「圧力強化」を掲げながらも、水面下で、米国と北朝鮮をどう対話へと持っていくかが、いま日米韓にとっての最大の課題だと、私は思います。
(聞き手/横田一)
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