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「ソウルも米国も火の海に」そして北朝鮮が戦略計算する日本での策動 変わらない構図、これからの展望
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52497
2017.08.10 佐藤 丙午 拓殖大学教授 現代ビジネス
■ミサイル実験の衝撃
トランプ政権になって以降、北朝鮮問題が緊迫しつつある。2017年7月28日未明には、北朝鮮が再びロフテッド軌道でミサイル実験を行い、約45分間飛翔した後に日本海の日本のEEZ(排他的経済水域)内に着弾した。
これを受け、国連安全保障理事会は、8月5日に北朝鮮からの石炭や海産物などの輸出を禁ずる経済制裁決議を成立させた。
2017年に入ってからの北朝鮮のミサイル実験のペースは早まっており、国際社会の圧力に反発する金正恩政権の意思を示すものとなっている。
ロフテッド軌道によるミサイル発射は、北朝鮮のICBM開発を国際社会に示威するもので、直接的には米国に対する最小限抑止(戦略的抑止能力まで持たないにしても、最小限のミサイル投射能力を利用した抑止)に近づいていることを証明することになった。
核兵器の投射が可能かどうかは、ミサイルの能力に加え、核弾頭の小型化や、起爆装置の開発、再突入能力の開発(7月の実験は、この能力を試す目的もあったと推察される)、軌道計算などが重要な要素となる。
北朝鮮は今後も実験を繰り返し、核投射能力の完成を目指すであろう。
■米国も「火の海」になるリスク
北朝鮮が米国に到達する核能力の取得の可能性を証明したことで、北東アジア各国の戦略計算も変わることになる。
これまで米国は、圧倒的な打撃能力(核兵器及び通常兵器)を背景に、北朝鮮に対して軍事・政治的圧力をかけ、同盟国(既に北朝鮮のミサイルの射程内にある日本と韓国)からの支援要請に選択的に対応することが可能であった。
「ソウルを火の海にする」とは、94年の核危機の際に北朝鮮の朴英洙祖平統副局長が韓国側に語った言葉であるが、同盟国を「火の海」にすることを覚悟した上で北朝鮮を追い詰めるか(その場合は韓国と日本の前方展開拠点も犠牲にすることになる)、それとも「火の海」にならないよう、北朝鮮に対して融和的な政策を採用するかは、米国の判断に委ねられていた。
その際、いずれの選択をしても、米国本土は北朝鮮の脅威からは無関係であり、米国にとってこの問題はアジア太平洋の課題の一つに過ぎなかった。
北朝鮮のICBM能力が向上し、米国本土が射程内に入るということになると、それが米国の政治経済の中核を標的にしたものでは無いにせよ、米国内の警戒感は一気に高まる。
これに加え、米国の主要都市も「火の海」になる可能性が生じたことで、米国は北朝鮮に対して一方的な圧力を加えることが困難になってくる。さらに、日韓と北朝鮮との対立が激化した場合、米国が「巻き込まれる」リスクが高まる。
このため、米国は同盟国である日韓両国と三カ国の協力体制を強化し、安全保障上の関与を確証することでリスクを管理する必要が出てくる。
時間の経過と共に北朝鮮の核能力が向上し、米国が持ちうる政策的な自由度と柔軟性は失われていくため、その前に脅威を除去するか、それとも米国に対する北朝鮮の最小限抑止を(少なくとも当面は)許容し、その後に朝鮮半島問題の解決を図る必要性がある。
もし除去する道を選ぶのであれば、早い方が合理的である。もし北朝鮮の核兵器保有を容認するのであれば、これまでの北朝鮮問題におけるロジックを根本的に転換する必要がある。
■北朝鮮問題の解決方法
実は、北朝鮮をめぐる問題の構図は、冷戦後から大きく変化していない。
まず大きな軸として、朝鮮半島の将来の統治形態を巡る問題がある。
これは、半世紀以上続く朝鮮半島の分断状況を解決する上で、半島に二つの主権国家の設置によって分断状況を終息させるのか、それともどちらか(韓国と北朝鮮)に吸収統一させるのか、または両者の合意の下に「統一朝鮮」を作るのか、という問題である。
分断状況を解決する上で、朝鮮半島における米国の存在は重要な変数となる。
南北国境にまたがる板門店〔PHOTO〕gettyimages
二国解決方式では、朝鮮戦争の休戦状況の解決と平和条約の締結が最終的な目標となる。北朝鮮は米朝平和条約を求めているが、条約締結後の朝鮮半島および日本における米軍の存在は、交渉の過程で重要な論点になるだろう。
北朝鮮は平和条約締結において、朝鮮半島からの米軍の撤退を求める可能性が高く、米国側が無条件にそれを受け入れることは、東アジアの将来の安全保障環境に重大な禍根を残す。
朝鮮戦争休戦協定の法的な当事者ではない韓国が、米国に何らかの安全保障上の措置を求めることは予想でき、米国もこれを無視することは無いだろう。
吸収統一か話し合いでの統一朝鮮の創設は、どちらかの軍事侵攻による占領と、対話による政治的解決の差となる。
しかし、どちらかの政治体制の崩壊(クーデターや、限定的な軍事攻撃による指導者殺害による体制崩壊)や混乱が発生した場合、地政学的な状況が大幅に変化することになる。
南北どちらかによる吸収統一は、米国と中国のいずれかを満足させず、統一朝鮮の創設は、プロセスの問題と統一後の不確定要素が多いことから、全ての関係国に積極的に歓迎されるものでは無い。
朝鮮半島問題では、これまで最終的に望ましい解決方法と、そこに至るプロセスの問題が争点となってきた。
もちろん、北朝鮮が周辺国に問題を及ぼさない限り、いかなる国も国連加盟国である主権国家の権利を脅かす必然性は低い。したがって、二国解決方式の中で、関係国が納得する解決方法を考慮すればいいということになる。
■北朝鮮は妥協する必要がない
北朝鮮が米国に対して最小限抑止を確保することは、朝鮮半島問題の解決に大きな波乱要素となる。
なによりも、オバマ政権の時代に検討され、トランプ政権においても時折浮上した、北朝鮮の核保有を承認し、今以上の核開発を禁止に関する合意を取り付け、対立状況を緩和した後に核放棄の交渉を行うという計画が現実性を失うということが大きい。
「保有容認論」をまとめると、以下の内容になる。
北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な核兵器の開発に成功したかどうかは別にして、日韓両国は既に1990年代には北朝鮮のミサイルの射程内にあり、その脅威が現実のものであった。
逆の視点から見ると、北朝鮮の核保有とそのミサイル能力は過去十数年にわたってそこにある現実であり、もし現時点で北朝鮮の核保有を承認したとしても、現状追認以上の意味は無いということである。
むしろ、北朝鮮に対してこれ以上の圧力をかけて暴発されるより、彼らに平和条約と「達成感」を与えて、相互に安定した状況で交渉を行う方が、(将来的には核兵器抜きの)二国間解決方式に近づくのではないか、ということである。もちろん、この前提には、北朝鮮の核保有が米国の直接的な脅威にならないという条件があったのである。
容認論の問題は、核保有を容認すると、容認から放棄合意に至るまでに生じる時間で、北朝鮮が核能力を大幅に向上させ、放棄交渉自体に参加してこない可能性が生じることである。
この容認―放棄合意は、北朝鮮に対して「核兵器容認」と「平和条約」の二つを与え、それが達成された後に北朝鮮が「核放棄」というカードを出す方式になる。
しかし、北朝鮮は合意の初期の段階で、少なくとも軍事・安全保障上の妥協をする必要がない。
もし、前者二つのカードと引き換えに北朝鮮が「核開発の凍結」か「ミサイル開発の凍結」の両方もしくは一方に合意したとしても、検証措置がない限り、過去の様に秘密裏の開発を続ける可能性は否定できない。
検証措置が必要なのは、「核放棄」においても同じである。核保有の容認に合意し、その後の検証措置の方法をめぐる交渉を行っている間にも、北朝鮮は核開発とミサイル開発を継続するだろう。
そうなると、北朝鮮が最小限抑止を獲得した後に、米国および国際社会がそれを容認した上で核放棄交渉の段階に入った場合、北朝鮮が核放棄交渉自体に関心を示さない可能性がある。国際社会は、北朝鮮のこの態度を六カ国協議や拉致問題をめぐる日朝交渉で十分に経験してきたはずである。
■関係国は恐怖に怯え続ける
北朝鮮が最小限抑止を獲得することで、事態の展開には二つの可能性が予想できる。
一つは、北朝鮮が「最小限抑止」を放棄する条件として、米国に対して更に大きな妥協を求めることである。この妥協は、米国の東アジア戦略の根幹にかかわるものになる可能性が高い。
それが「二国解決方式」における韓国の安全保障を揺るがすものになる場合、米国は大きな選択に迫られることになる。
もう一つは、最小限抑止を放棄せず、交渉自体が成立しない可能性である。北朝鮮は、これまで核開発に対する周辺国や国際社会の経済的圧力に屈することなく、自力で能力を開拓してきた(非合法貿易による技術等の取得を含む)。
たとえ当面の外交交渉が不調に終わったとしても、核とミサイルの開発を続ければ、後に更に有利な条件を提示される可能性が出てくる。
つまり、交渉する際に、「時間」と「アジェンダ」は北朝鮮側が管理するものになっており、日米韓側は時間の経過と共に北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威の高まりに直面する。
もし、7月のICBM実験が最小限抑止の獲得をアピールする、一種の「ブラフ」であったとしても、その獲得の完成もしくは不備であったとしても、その能力を正確に証明する手段はないため、米国を含めた関係国は北朝鮮の核兵器の恐怖に怯え続けることになる。
■北朝鮮政策のこれから
トランプ政権の北朝鮮政策を展望する上で、北朝鮮問題を分解し、米国にとってどの組み合わせが好ましいか、を考察してみよう。
仮に、問題を「核兵器」、「ミサイル」、「金正恩」、「国家としての北朝鮮」という因子に分解するとしよう。
実はトランプ政権は、ミサイル(米国本土に到達するICBMとする)以外の組み合わせは受け入れる可能性があるのではないかと思える。トランプ政権の内部から、北朝鮮との問題は、核兵器ではなく、大量破壊兵器だとする意見が聞こえてくるようになったのは、その一つの証明となる。
しかし、北朝鮮が最小限抑止を目的にミサイルに固執するのであれば、その原因となっている「金正恩」の存在が問題だと考えるであろう。
つまり、国家としての北朝鮮と金正恩は別に考える、ということを意味する。
金正恩と、国家としての北朝鮮は米国にとってイコールではない〔PHOTO〕gettyimages
グラム上院議員がトランプ大統領の意向として、北朝鮮との戦争も覚悟している、と発言したことを外部で紹介したが、トランプ大統領は国家としての北朝鮮が崩壊(金正恩政権も崩壊することになる)し、3000万人弱の人間の生活、約100万人の軍人の武装解除、核兵器及び関連施設の解体を、米国の責任で実施するのは困難と感じるであろう。
さらに、同盟国や極東の米軍基地をリスクにさらす可能性を考慮すると、北朝鮮との戦争は限定的なものになる。その際、核兵器やミサイルを一気に無効化できるのであれば、その方策を追求するであろうし、それが不可能であれば、政権のみを標的にした攻撃を行うのが合理的となろう。
■問われるトランプの手腕
では、トランプ大統領に合理的に判断し、米軍がそれを確実に実行する力があるのであろうか。
実は北朝鮮問題では、この点に焦点が当たっている。もしそれを保有していないのであれば、北朝鮮と交渉を続けるとしても、米国が妥協する覚悟がある何か、が何であるかが問題となるのである。
繰り返しになるが、日本は既に北朝鮮の核兵器(とミサイル)の射程内内にあり、北朝鮮のICBMの射程が米国を捉えるように延びたとしても、軍事的には大きな変化ない。
米国が北朝鮮の核兵器に怯えて軍事行動を早めると、反撃で日本が被害を受ける可能性があり、そうなると国内で反米運動が生じる可能性がある。
つまり、北朝鮮の日本に対する戦略計算は、日本国内で、この反米機運を高め、日米離間を図ることで米軍の極東での戦略拠点の基盤を崩すことにある。
日本は、北朝鮮側の戦略を理解し、短期的な機運に左右されない政治基盤を維持する必要があるのである。
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