同賞の主催者であるNPJ(一般社団法人 News for the People in Japan)は、「メディアの問題点を考え、みずからも発信するメディアとなる」活動の一環としてインターネット新聞を発行するなど、メディア各社にとっては同業他社的な組織なのですね。 従って、たとえば朝日賞や毎日出版文化賞をそれぞれ他紙が報じないのと同じような意味合いがあるのではないでしょうかね。 それでも、石川発の活動「コッカイオンドク!」が今回の特別賞を受賞したことを、毎日新聞は地方版(石川県)で記事にしていますね。 https://mainichi.jp/articles/20171214/ddl/k17/040/250000c それから、話は変わりますが、今日の毎日新聞にはこういう記事も出ています。 高名な国語学者が安倍、小池(百)、小泉(進)をバッサバッサ 国語学者・金田一秀穂さんと振り返る、「政治の言葉」この1年 「国難」使い方に疑問 毎日新聞2017年12月18日 東京夕刊 https://mainichi.jp/articles/20171218/dde/012/010/004000c
「政治の言葉は上っ面になっている」と指摘する金田一秀穂さん=東京都武蔵野市で、西本勝撮影(映像省略) 言葉は政治家の命である。なのに、どうしてこんなに粗雑に扱われるのか。安倍晋三首相の論点そらしや感情的な発言も目立った。政治がらみの言葉が世間を騒がせたこの1年を、国語学者の金田一秀穂さん(64)と振り返った。【鈴木梢】 辞書編集に関わる家系ゆえ身構えてしまうが、寒風に肩をすぼめて現れた金田一さんには気さくさがにじむ。若者が電子メールなどで使う省略言葉など、時代に即した言葉の変化には寛容だが、最近の政治家の言葉には、どうにも我慢ならないらしい。取材の席に着くと、「なんで『国難』を候補に入れなかったんでしょうね」と切り出した。「国難」は、今年話題となった言葉を選ぶ「ユーキャン新語・流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)にノミネートもされなかった。 安倍首相は9月、北朝鮮のミサイル発射を「国難」と称して衆院を解散した。「国難という一言で表すのはあまりに大ざっぱで、どこが国難なのか全然分からなかった。本当にミサイルの脅威を感じているならば、被弾したら甚大な被害が想定される原発をまず止めるべきでしょう。仮に国難だと認めたとして、それを招いたのは誰ですか? 責任を取るのは安倍首相です。国難と表現したのは支離滅裂としか言いようがない」。やはり内心、穏やかではない。 もう一つ気になるのが、10月の衆院選の潮目を変えた「排除」。東京都の小池百合子知事は希望の党に、民進党候補の全員が合流することをこう表現して突っぱねた。「排除という言葉は使い方として正しいと思いました。小池さんは憲法を変えたいのだから、枝野幸男さんのように反対意見を持った人が入っては困る。日本人は協調性を重んじるから、この言葉に敏感になってしまう」と分析する。 新語・流行語の年間大賞に「忖度(そんたく)」が選ばれたのはご存じの通り。首相官邸の意向を役人がおもんぱかったとされる森友学園、加計(かけ)学園問題を象徴するキーワードとなった。「忖度というのは、言語化されていない目上の人の考え方を、下の人が推し量るということですよね。この問題では否定的に捉えられがちですが、私たちは昔から忖度で生きてきたんです」 言葉を専門にする金田一さんはいつの世も忖度は必要とし、時代をさかのぼって武将の逸話を例に挙げる。豊臣秀吉は冬になると、主人である織田信長の履物を懐で温めた。石田三成は秀吉に温度の違う3杯のお茶を出し、気が利くと認められた。「現代に生きる私たちは、少し前までは『空気を読む』という言葉を使っていましたよね。私たちは日常的に、社長や部長が漂わせる空気を何となく察している。言語はあいまいな部分が大きいからこそ、多様な価値観を折り合わせることができるんです。成熟した社会にとって大切な言葉です。でも、政治の世界では言葉にせずに済ませるべきではありませんね」 ■「白か黒か」の単純化「小泉劇場」から 10月の衆院選。スピーチ力で名高い小泉進次郎衆院議員は、自民党の顔として応援演説に駆け回り、大勝に貢献した。言わずと知れた、小泉純一郎元首相のジュニア。街頭に立てば空気は一変、スマホを掲げた見物人は色めき立つ。だが、金田一さんの見方は冷めている。「進次郎さんは、人気ばかりが先行しているように思える。ポピュリズムの典型のような政治家ではないでしょうか」 衆院選前の応援演説では、「単純に構図を言えば、責任対無責任の戦いです。小池さん、(選挙に)出ても出なくても無責任」と断言し、拍手を誘った。 フラッシュバックするのは、小泉首相(当時)が2005年に踏み切った「郵政解散」だ。劇場型の選挙手法は国民の熱狂を生んだ。「純一郎さんの言葉は人気取り的で、とても分かりやすい。敵を作って、マルかバツかと言い放った。そのころから、政治の世界に白か黒かのデジタル的で単純な言葉が増えていったんです」 そして、金田一さんは安倍首相が発する言葉の単純さを指摘する。「『まさに』を多用しますよね。勇ましい言葉が多く、スパッスパッと言い切っていく。それは深く考えていないからできるんです。また、安倍首相の真意はくみ取りづらいから、周りの人が忖度するんじゃないのかな」。確かに、11月の所信表明演説でも「今、わが国は、まさに国難とも呼ぶべき課題に直面しています」と国民に呼び掛けていた。 現代の政治を憂える国語学者は、ウーロン茶で胃を温めた後、昭和の政治家を話題にした。「最近、田中角栄さんの映像を見たんですよ。田んぼの真ん中で、農家の女性10人ほどを集めて演説している。天下国家を語るわけでもなく、聴衆の悩みをたくさん聞いて、どうすべきかを一生懸命説いている」 その映像と対照的だと映ったのが、安倍首相の東京・秋葉原での演説という。7月の東京都議選で「安倍辞めろ」コールに激高し、「こんな人たち」と発言したことが自民党大敗を招いた一因とされる。 「田中さんならヤジから逃げずに、相手を尊重して話を聞こうとしたと思います。安倍首相の反応は単純で、謙虚さに欠ける」。その安倍首相の祖父、岸信介元首相は「声なき声が聞こえる」と話し、日米安保改定を強行した。「発言の評価は別として、岸さんは言葉に重みがありました」 ■実践なき「アウフヘーベン」 杏林大教授でもある金田一さんは、学生に「大切なのは言葉で考えること」と日々説いている。言葉で考えることをしない傾向は政治だけでなく、マスコミにも国民にも広がっていると嘆く。「安倍首相は、訳も分からず支持率が高い。だから強い。国民が『まあ、そうなのかね』と安倍首相を認めてしまうのが一番簡単な方法で、それで済ませてしまっている。考えることをしなくなっている証拠です」 だからこそ必要なのが「アウフヘーベン」なのだという。小池さんが登壇した希望の党の結党記者会見。若狭勝さんらが設立準備をしていた新党との関係を問われ、小池さんはこの言葉を用いた。 哲学用語で「止揚(しよう)」と訳される言葉について、金田一さんに解説を求めた。「政治家は、Aという意見とBという意見の対立がある時に、どちらが勝つのかだけしか考えていない。でも、両者が対立した時、発展的にCを導き出していくのがアウフヘーベンなんです。それには寛容性を持って相手の話を聞き、語り合うことが必要ですが、今の政治にはそれが見当たらない」 この哲学用語を一般に広めた小池さん自身も、アウフヘーベンの実践者ではないという。「言葉の響きは格好がいいけれど、小池さんの政治手法は落としどころを考えて、妥協するということでしかないですね」 政治には、国民それぞれの人生が懸かっている。言いっ放しの政治と決別できるか−−。国民が考えるべき時が来ている。
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