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毎木曜掲載・第26回(2017/10/12)
●『政府は必ず嘘をつく 増補版』(堤未果、角川新書、864円)/評者=渡辺照子
http://www.labornetjp.org/news/2017/1012hon
日替わりで急展開する「政治」のパワーゲームを見せつけられて空しい気持ちになるのは私だけではないだろう。そこでは私たちの生活や行く末に必要な政策は権力のダッチロールに興じる政治屋の手段に過ぎないからだ。私の周辺で誰からとなく語られるフレーズが憤懣やるかたない多くの人の留飲をわずかだが下げた。「アベは息をするように嘘をつく」と。だが、為政者の言葉のほとんどが信ずるに値しないと知ってしまった今、本来問題が何であるのかを改めて検討する必要がある。そんな時、触れたいと思う言葉がこの本の中にあった。
著者は足で稼ぎ、第一次情報にあたり、様々な識者、当事者から言葉を引き出す。登場人物のコメントは警告であり、箴言そのものだ。「報道が本来の役割・機能を果たさないことで、国民の生命や財産に危機が及ぶ」「イラク戦争は政府とマスコミが始めた戦争だ。それを後押したのは私たちだ」「<グローバル化><国際競争力>という耳触りのいい言葉の下で、私たちは思考停止していた。安くモノが買えることに夢中になって気づいたときには失業率は跳ね上がり、賃金は海外労働者の出現で下がり、手に取るもの全てが海外産になっていた」「監視体制の強化は別の脅威によって国民の関心がそらされている間にこっそりと進められる」「ファシズムを生み育てるのは、いつだってマスコミに容易く煽られる大衆の無知と無関心だ」等々。
著者はジャーナリストの堤未果氏。これまで米国のとてつもない貧富の格差の実態をあますことなく伝えてきた。しかし、米国の惨状は対岸の火事ではないと訴える。「アメリカを見ろ。同じ過ちを犯すな」と、かの地での取材に何度も言われたという。想像を絶する資金力をつけた企業が政治と癒着する「コーポラティズム」が9.11以降、その力を増大させ、大幅な規制緩和とあらゆる分野の市場化を実施し、この10年で米国の貧困層を3倍増やしたのだという。3.11以降の日本はそれに酷似している。福島第一原発の事故発生から、真実が明らかにされない苛立ちを皆が覚えた。一方で東京電力らの責任が問われないまま、地震が相変わらず頻発しているにも係わらず再稼動する各地の原発、そしてそこで自らを犠牲にして原発労働者が働き、彼らの状況を見てみぬ振りをする人たちがいる。
そうした日本の状況に加え、TPPが経済植民地化を目論み、日本の医療、教育、メディアがグローバル企業により侵食される。米国は既に医療費で自己破産させられ、商業主義の学校教育で多様な教育の否定と生徒の切捨て、「成果」を挙げない教師の解雇、政府と企業に都合の良い情報しか流さないスピンコントロールで国民の飼いならしに成功している。次のターゲットは日本だ。
私は政治家のウソや企業のまやかしにだまされたり、慣れてはいけないのだと強く思った。簡単に絶望してもいけないのだとも思う。堤氏が取材で得た言葉を、より多くの者で共有することが生き延びる手立てになる。「国内のフリージャーナリストや体制内に組み込まれない学者を全力で支えることが彼らを孤立させず、自分らを守ることにつながる」「コーポラティズムにブレーキをかけるには情報リテラシーと政治への関心を高めるしかない」「腑に落ちないニュースがあったら、資本のピラミッド、金の流れをチェックせよ」「テレビは『リベラル』か『保守』かより株主を見よ」と。
敗戦後まもなく伊丹万作(写真)が戦争責任問題に触れ、国民の「だまされることの罪」を述べた。衆議院選挙を控え、その愚を再び犯してはならない。
*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。
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