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文科省の逆襲。「総理のご意向」文書流出の裏に天下り規制の恨み
http://www.mag2.com/p/news/250728
2017.05.26 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース
官邸サイドは「捏造された怪文書」とするものの、ここに来て前川前事務次官が「本物」と証言した、加計学園獣医学部新設を巡るいわゆる「総理の意向」文書。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、森友学園問題と当問題における関係省庁のガードの強弱の違いを比較。「邪推」と断りを入れつつ、文科省には年初に発覚したある問題に関して安倍政権へのわだかまりがあるのではとした上で、巷間「第三の森友学園問題」とも言われる国際医療福祉大学の医学部新設についても言及しています。
「総理のご意向」は岩盤規制突破かアベ友優遇か
やっぱり、と思った人は多いだろう。「アベ友」が経営する学校法人の大学獣医学部新設を急いだのは「総理のご意向」だった。これでは、国家戦略特区なるものが、安倍首相の思い通りにできる便利な装置と思われてもしょうがない。
森友学園は大阪府の審査基準緩和と安倍首相夫妻の威光で小学校をつくろうとした。加計学園は安倍首相肝入りの国家戦略特区による特例で大学の獣医学部設置を認められた。安倍首相の唱える岩盤規制の突破とやら。聞こえはいいが、誰のためにやっているのか。
朝日新聞が5月18日の朝刊で報じた加計学園に関する文科省作成の文書には、その会合に出席した四人の官僚の実名が記されている。日付は平成28年9月26日。出席者は内閣府から藤原豊審議官ら二人、文科省から高等教育局の浅野敦行専門教育課長ら二人。
この顔ぶれで話し合われた内容のうち、留意すべき点を文科省側がまとめた文書(下記はその一部)らしいが、いまだ文科省は「確認中」として、文書の存在を認めようとしない。
平成30年4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい。成田ほど時間はかけられない。これは官邸の最高レベルが言っていること(むしろもっと激しいことを言っている)。
朝日新聞が入手した別の文科省作成文書「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」には次のように書かれている。
今治市の区域指定時より「最短距離で規制改革」を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている。
これらの文書がオモテに出たことで、官邸の怒りをまともに受けた文科省がうろたえたことは想像に難くない。文書を誰が書いたかはすぐにわかるはずだ。「確認中でなんとも申し上げられない」と言って、とりあえず時間を稼いでいるが、菅官房長官が言うように捏造された怪文書なら、即座に「そんなものはない」と否定するだろう。
とはいえ、財務省のガードが固い森友疑惑とは違って、官僚の記録文書が朝日新聞にリークされたことは、文科省のなかに、安倍首相とその周辺に険しい視線を向ける人物が存在することを示している。
むろん文科省の名誉のために、内部資料を漏らした動機は、正義感とか良心とかいうたぐいのものであると信じたい。
だが、話のついでに邪推をしてみるなら、官邸、もしくは内閣府と文科省との間に、今年になって発覚した天下り問題への対処をめぐるわだかまりが生まれ、それがずっと尾をひいているせいかもしれない。
2015年8月に退官した高等教育局長、吉田大輔氏が早大教授におさまった件をきっかけに火がついた文科省の組織的天下り問題。有名無実に近い存在だった内閣府の「再就職等監視委員会」が厳しい姿勢で調査に乗り出し、今年1月、前川喜平事務次官をスピード辞任に追い込んだ。
● 文科省が隠蔽工作。早大「天下りあっせん」事件のあっけない幕切れ
再就職等監視委員会は中立・公正の第三者機関を謳っているが、首相の権限委任を受けて内閣府に設置されており、タテマエはともかく、官邸の支配下にある。
前川事務次官の首を切る判断をしたのは安倍首相に間違いない。通常国会の本格論戦が始まる前にトカゲのしっぽ切りをしておきたかったということもあっただろう。第一次政権で国家公務員法を改正し省庁の天下りあっせんを無くするという触れ込みで再就職等監視委員会をつくった安倍首相が、この不祥事を利用して、改革者のイメージを高めようとしたようにも見えた。
前川氏の息のかかった官僚は、安倍官邸に決して良い感情を抱いていないだろう。加えて、大学の新設をコントロールしてきた文科省の権限を岩盤規制突破の御旗のもとに総理のトップダウンで奪い取ろうというのだから、良し悪しは別として、反発する者がいても不思議はない。
加計学園について、簡単におさらいをしておこう。
安倍首相が「腹心の友」と呼ぶ加計孝太郎氏は、自らが率いる加計学園グループの岡山理科大学に獣医学部をつくるべく、今治市に計画を持ちこみ、遊休地利用による町おこしを考えていた同市はこれに乗った。
2007年から7年かけて計15回にわたり今治市が構造改革特区指定による獣医学部の新設を要望しても叶わなかったが、安倍政権が2014年、新たに国家戦略特区を設けたことから状況が好転し、2015年12月、「広島県と愛媛県今治市」が全国で10番目の国家戦略特区に指定された。獣医学部実現への第一歩だった。
指定から9日後の12月24日クリスマスイブ、加計氏と安倍首相らがワイングラスで祝杯をあげている写真が安倍首相夫人、昭恵氏のFacebookに投稿されている。
問題となっている記録文書は、翌2016年の9月から10月にかけてのもので、この中身からうかがえる内閣府からの圧力によって、文科省は猛スピードで獣医学部設置認可に突き進んだ。
今年1月、内閣府と文科省は、この特区で2018年4月に開設する一校に限り獣医学部新設ができるという告示を出し、申請者を募集した。予定通り、加計学園だけが申請した。
事実上、他を閉め出す募集の仕方である。しかも加計学園の計画は、常識では考えられない行政の厚遇を前提としている。今治市は16.8ヘクタール、評価額36億7,500万円の土地を加計学園にタダで譲渡し、学校建設に県と市が最大96億円の補助金を支払うという。
獣医学部については、世界的にすぐれた研究で知られる鳥インフルエンザ研究センターを有する京都産業大学が長年にわたり、設置を国に求めていたが、農水省、文科省の方針で却下されていた。獣医師は足りているという認識があったからだ。
にもかかわらず、明らかに研究実績の劣る岡山理科大の獣医学部設置認可ありきでコトが進められていったのだ。京産大には「関西にはすでに獣医学部があるが、四国にはない」という理屈を押し通して断念させた。これが国家戦略特区の実態である。
こうなると、同じく国家戦略特区の特例で医学部新設が認められ、今年4月に開学した国際医療福祉大学医学部(千葉県成田市)に目を向けざるを得ない。
文科省は、1979年の琉球大学を最後に医学部の新設を認めていなかった。東日本大震災の後、復興支援として東北薬科大学医学部を新設(現・東北医科薬科大学)したが、これは特殊事情による例外だ。
国際医療福祉大学医学部については、文科省、厚労省とも新設に反対していたのを押し切り、安倍首相が旗を振る国家戦略特区の事業として進められたのである。
国際医療福祉大学(本部・栃木県大田原市)は、福岡県大川市の総合病院・高木病院をはじめ各地で病院、リハビリ施設、介護老人保健施設などを経営する高木邦格氏を理事長とする学校法人だ。
高木氏は経営が悪化した国立病院を安く買い、国や自治体から補助金をもらい、文科省、厚労省から天下りを受け入れて、積極的に事業を拡大。山王病院を再建したことでも知られる。「政商」と呼ばれるほど政界とのつながりも深いようだ。
安倍首相との個人的な関係があるかどうかはわからないが、一つの学校法人が行政から特別な待遇を受けているという点では、森友学園、加計学園と変わらない。
成田市は23億円といわれる医学部の建設用地を購入して高木グループへ無償貸与し、建設費160億円のうち80億円を補助するという。国家戦略特区指定というお墨付きを得た自治体の首長はよほど気が大きくなるらしい。
加計学園と同様、なぜ国際医療福祉大学なのか、という疑問も残る。「世界最高水準の国際医療拠点」を謳い、多数の外国人教員、外国人留学生を受け入れて英語による授業を行うというのだが、理学療法士や薬剤師を養成してきた大学が、いきなり国際的な医学研究教育施設を運営できるのだろうか。
かき集めた教授陣の顔ぶれについては、ホームページに記載されていないので何とも言えないが、4月5日の衆院文科委員会の質疑で牧義夫議員(民進党)が気になる感想を述べていた。
教員の名簿も取り寄せたりしましたけれども、いろいろな主観もあろうかと思いますけれども、私は、必ずしも英語で授業をやるだけの十分なスタッフだとは思いません。
そうはいっても、大学を誘致する自治体が地域振興の核として大きな期待を寄せているのは確かだろう。しかし、その分心配なのは事業の経済波及効果を高く見積もりすぎていないかということだ。
加計学園の大学獣医学部に関し今治市の委託で「いよぎん地域経済研究センター」がまとめた経済波及効果の算定では、開学6年目以降は教職員と学生の消費支出を16億円と見込んでいる。だが、これもあくまで予定通り学生が集まれば、の話だ。
ちなみに、加計学園グループの順正学園が経営する吉備国際大学の農学部は2013年4月、淡路島の南あわじ市に開校したが、初年度から定員割れし、年々、入学者が減少している。
南あわじ市が土地、建物を無償提供し、少ない税収の中から補助金を出しているというから、とんだ見込み違いといえないだろうか。
安倍首相は「大学を誘致すれば若い人も来て町が形成される」と強調する。だが、「地方創生」とはつまるところ自治体どうしの人口の奪い合い、という側面もある。人口減少が進むこの国で地方自治体は熾烈なアイデア合戦に巻き込まれ、あえいでいるのだ。そこに政治家の力を頼みにつけ込む人間がいる。
森友学園、加計学園、そして「AO義塾」「全国未来高校生会議」への支援など、安倍夫妻の私情がからむ教育プロジェクトには見境がない。
3月13日の参院予算委員会で、「加計学園の理事長が獣医学部をつくりたがっていることを知っていたか」と追及した福島瑞穂議員に対し、安倍首相は激昂して言った。
福島さんね、特定の人物の名前出している以上、その人物に対してきわめて失礼だ。まるで、私が友人であるからさまざまな手続きに政治的な力を加えたかのごとくいう質問、これあなた責任とれるんですか。
福島議員が「質問に対してなぜそんなに恫喝するんですか」と反発したのは当然だろう。「公」の精神が怪しくなった総理大臣を目の前にしているのである。
親しい人ならばこそ距離を置く。それが国の最高責任者としてのたしなみではないか。
「総理のご意向」が政治を歪めることもある。そのことを深く胸に刻んでもらいたい。野党批判で貴重な国会論戦の時間を潰しているゆとりはないのである。
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『国家権力&メディア一刀両断』
著者/新 恭(あらた きょう)(記事一覧/メルマガ)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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