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予測不能のトランプリスクが日本を戦争に巻き込むのか (C)朝日新聞社著者:古賀茂明(こが・しげあき)1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011...
古賀茂明「北朝鮮、シリア 日本の危機が安倍総理のチャンスになる不可思議」〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170409-00000029-sasahi-int
dot. 4/10(月) 7:00配信
北朝鮮と中東における緊張が急激に高まっているが、日本人が、戦後初めて戦争に巻き込まれる危機が、すぐそこまで迫っているということに、どれだけの人が気付いているだろうか。
北朝鮮が頻繁にミサイル発射実験を行い、「射程距離を延ばした」「一度に何発も同時発射した」「移動式発射装置が多用されている」「潜水艦からの発射技術が格段に向上した」「北朝鮮が在日米軍基地攻撃を明言した」「把握が難しい移動式発射装置や潜水艦から、一度に数発発射されては、日米の迎撃体制でも対応しきれない」という報道が続いている。
しかし、「危機」という言葉が報じられる一方で、国民に本当の「危機感」が広がっているようには見えない。その原因はどこにあるのだろうか。
昨年、米国大統領選で、ドナルド・トランプ氏が勝利すると、マスコミは、「トランプは日本の防衛に責任を持ってくれないかもしれない」「在日米軍経費をもっと負担しろと言ってくるに違いない」などと報道をして、国民の不安を煽った。官邸が流す情報をその注文通りに垂れ流したのだ。
大統領選が終わると、安倍総理は、ゴルフクラブをお土産にして、真っ先に「ご挨拶」に訪れ、年明けにも世界の嘲笑を浴びながら、トランプ氏へのおべっか外交で得点稼ぎを試みた。
トランプ氏の「日本を100%守る」という言葉を引き出し、安倍官邸は、「大成果」だと喧伝した。
こうした報道を繰り返し聞かされた国民は、次のように考えた。
――北朝鮮はいつ日本にミサイル攻撃を仕掛けるかわからない。もし、米国が日本を見放したらと思うと背筋が寒くなる。幸い、安倍さんがうまくやってくれた。何かあったら、トランプさんが守ってくれる。安倍さんは、トランプさんの親友になったのだから――
日本の国内には、このような奇妙な安心感が生まれたのだ。
さらに、この思考回路は、暗黙のうちに、次のような論理を肯定する。
――安倍さんとトランプさんが仲良くすることが何より大事。そのためには、多少譲歩しても仕方がない。トランプさんが望むことを、日本自ら進んでやることによって、向こうに恩を売り、さらに両国の絆を強いものにして欲しい――
こうした米国追従外交への暗黙の了解の醸成が進むのに合わせて、安倍官邸と自民党は呼吸を合わせて、一気に「朝鮮戦争」への参戦に備える体制整備に入った。
3月30日、自民党は、「日本も敵基地を攻撃する能力を持つべき」との提言をまとめ、安倍政権に提出した。
提言では、敵基地攻撃能力の整備のために、トマホークなどの「巡航ミサイル」の装備などの具体策まで掲げ、北朝鮮とのミサイル戦争に備えて、イージスアショア(陸上配備型イージスシステム)やTHAAD(終末段階高高度地域防衛)の導入にも触れている。国会での議論が全く行われないまま、話がどんどん進んでいるのである。
表向きは、敵基地「攻撃」能力ではなく、敵基地「反撃」能力という言葉を使って、あくまでも、敵が攻撃してきた時だけのための敵基地攻撃だと言っているが、それにとどまると考えるのは人が好過ぎるだろう。例えば、米国が、「北朝鮮が在日米軍基地を攻撃するという確実な情報を入手した」と称して、日本を守るために北朝鮮を攻撃してやるから、一緒に戦おうと言った場合、自衛のための戦争だとして、日本が北を攻撃することにつながるであろう。そうなれば、日本が事実上の先制攻撃を行うことにつながる。
これまで一貫して堅持してきた、日本の「専守防衛」という安全保障政策が完全に放棄されることになるわけだ。
もちろん、トマホークなどの整備には時間がかかる。「今そこにある危機」への対応とは別問題だ。しかし、こうした動きの根底には、日本が、積極的に米国とともに戦争に参加することが日本の安全のためになるという考え方、さらには、対北朝鮮では、先制攻撃でミサイル戦争に勝つことが良策であるという危険な考え方が存在する。
もちろん、米国が要請しても、自由に日本が断れるのであれば、その心配も少しは小さくなる。しかし、「世界中のメディアの前でここまですり寄ったのだから、安倍は、今後、トランプのどんな要求も断ることができなくなった」という米国共和党関係者の見方がある。確かに、あれだけ派手にすり寄って、固い握手を交わし、抱擁し合った姿を世界中に晒しておいて、トランプ氏の「一緒に戦おう」という誘いを断ることなど、誰にも想像できない。日本に選択の自由はないというのが実情だ。
これは、日本国民から見ると極めて心配な状況だが、安倍総理本人は、まったく気にしていないだろう。なぜなら、米国が潜在的に要求している、日本の自主防衛努力(防衛費の抜本的増額)、それによる米国製武器の大量購入、さらには、自衛隊の海外派遣による米軍への貢献は、米国の要求を待つまでもなく、安倍総理自らが進めたい政策だからだ。
つまり、日本国民にとっての危機が、むしろ、安倍総理にとっては、チャンスなのである。この「国民にとっての国益」と「安倍総理にとっての国益」のズレこそが、今日本が抱えている最大の危機なのかもしれない。
米中首脳会談を目前にした4月3日に、トランプ大統領は、「中国が解決しなければ、我々がやる」と、北朝鮮の核基地への「先制攻撃」を示唆する発言をした。さらに、6日の首脳会談中には、シリアのアサド政権への初めてのミサイル攻撃を実施して世界を驚かせた。これは、北朝鮮に対する威嚇でもある。
政権発足以来、選挙中の公約が次々と議会に拒否されるなど、さえない状況が続き、支持率も史上最低というトランプ大統領が、海外でのクライシスを演出することで米国民の関心を内政から外政へとそらしたいと考えても全く不思議はない。危機を演出して、「いまこそ団結を!」と訴え、求心力を取り戻す作戦だ。
トランプ政権が北朝鮮を攻撃すれば。金正恩委員長はすぐ対米報復に動く。しかし、米本土を攻撃する能力はないので、ターゲットの最有力候補は在韓あるいは在日米軍基地ということになる。
この時、トランプ大統領は、盟友安倍総理に、「一緒に戦おう」と声をかけるだろう。安倍総理は、日本は攻撃を受けていないという理由で、参戦を断れるだろうか。前述したとおり、首脳会談で、異常なまでのトランプ氏へのすり寄りを見せておいて、いまさら、「別行動」などとは口が裂けても言えないはずだ。何らかの理由を作って参戦するだろう。
その時、国民は、どう反応するのか。
私はマスコミが、「今は戦時。国民が一致団結することが大事。政権批判は、北朝鮮を利するだけだ」という論調を展開し、国民も漫然とそれに従うことを心配している。
しかし、ひとたび参戦すれば、日本は、まさに、米国と並び北朝鮮の敵となり、在日米軍基地だけでなく、日本全土の原発や東京などの大都会が攻撃されることになる。
先制攻撃でミサイル基地を全滅させればよいという主張もあるが、北朝鮮のミサイル技術は進歩している。一度に4発のミサイルを移動式発射台から同時に撃つ能力も誇示したし、潜水艦からのミサイル発射もできる。マレーシアで、白昼堂々金正男氏をVXガスで殺害したのは、戦争にVXを使用すると宣言したとも理解できる。VXガス搭載ミサイルが何十発も飛んでくることを覚悟するべきだろう。もし、何十発かのミサイルのうちの数発でも撃ち損じれば、国内の犠牲者数は数千人単位になるかもしれない。
日米韓が協力し、ロシア、中国が北朝鮮を支援しなければ、日米韓連合軍が北朝鮮に勝つことは確実かもしれない。しかし、数千の犠牲者を出して、「勝った、勝った」と喜べるのだろうか。
もちろん、北朝鮮を米国が攻撃するのは、そう簡単な決断ではない。中国やロシアが反対するのは確実だし、韓国も大きな被害を受ける。韓国や日本の米軍基地の被害も覚悟しなければならない。
そう考えれば、今すぐにもこうした事態が生じるとは考えにくい。しかしそれでも、予測不能なのが、トランプ氏である。最悪のシナリオは想定しておくべきだろう。
いずれにしても、日本人が、本当に安倍政権の対米追随路線の怖さに気づくのは、やはり、前述した北朝鮮とのミサイル戦争に巻き込まれて、日本の国土が戦場と化し、数千人の死傷者を出すときまで待たなければならないのかもしれない。
そういう事態になって、初めて日本の国民は気づく。
――あの時、日本は米国を止めるべきだった。中ロと協力してでも、北朝鮮との戦争を止めて欲しかった――と。
そして、私たちは、次のような疑問に突き当たるだろう。
日米安保条約と在日米軍基地があるから日本の安全が守られるというのは間違いだったのではないか。日米安保条約と在日米軍基地があったからこそ、日本が無用な戦争に巻き込まれることになったのではないか。
――政治の役割は二つある。一つは、国民を飢えさせないこと。もう一つは、これが最も大事です。絶対に戦争しないこと――
これは、菅原文太さんが亡くなる約4週間前に沖縄で行った最後のスピーチの有名な一節だ。
今、日本人は、この言葉をかみしめて、日本が進むべき道について、根本から考え直すべきではないだろうか。(文/古賀茂明)
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