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2017.02.28
<経済政策大全>第10回 緊急寄稿
小幡 績
「物価水準の財政理論」を悪用している経済学者に騙されている政治家たちに告ぐ
物価水準の財政理論自体は、学問上の理論として存在するのは構わない。理論的には整合性は保っているが、現実には例外的な場合を除いて当てはまらないだけのことだ。
問題は、これを悪用して、ポピュリズム政策の裏づけにしようとする人々だ。
政治家がポピュリズムなびくのはある程度仕方がない。しかし、それをあおる「有識者」や「学者」あるいは「ブレーン」は極めて罪深い。
彼らに騙されている政治家は不幸だ。
哀れなので、助言として事実を政治家の方々に伝えておきたい。
第一に、物価水準の財政理論では、財政赤字を拡大しても景気は良くならない。需要を増やすことは目的でないのみならず、経済を悪くする。期待物価が上昇し、結果として物価も上昇するから、実質所得は変わらない。減税(増税なし)がインフレによる負担増に置き換わるだけだ。誰でも知っているように、これをインフレ税(タックス)という。だから、長期政権、将来の政権にとっては、消費が前倒しになるだけで(物価が上がる前に消費しておく。しかし、むしろ、それなら株式などの実物資産を増やすだけで消費は増えない、むしろ減るかもしれない)、将来困難に直面する。
第二に、増税を回避する分、財政破綻の可能性は即座に高まる。これは脅しではなく、物価水準の財政理論によれば、財政赤字の拡大で、財政破綻が起きると見込まれず、順調に物価が上昇したとしても、財政破綻の可能性は高まる。
したがって、政府債務の実質的な目減りを狙って、この政策をとると、借金から逃れるどころか、財政の資金調達に行き詰ることが、前倒しで起こる。
これは直感に反するかもしれないが、現実は常にそうである。
つまり、企業の倒産、個人の破産、資金繰りの行き詰まりは、資産がプラスでも、黒字であっても起こる(黒字倒産)。それは資金が詰まる、ということだ。
資金が詰まるのはストックではない、フローだ。借金の総額の大きさよりも、今年の収入と返済額のバランスが崩れたときに資金は詰まり、倒産する。
国の財政であれば、今年、国債が発行できれば、国債を買ってくれる投資家がいれば、大丈夫なのであって、借金残高が1000兆円でも10兆円でも関係ない。ギリシャは借金累積額が大きかったわけではない。今年、誰も金を貸してくれなかっただけだ。
つまり、財政赤字を膨らませる、ということは、国債発行額は増える。インフレ率が上がるということは名目金利は上がる(名目金利=実質金利+インフレ率)。すると利払い費も増える。しかし、インフレによって税収が増えるのは、その後だ。そして、インフレが進むとなれば、国債は値下がりすることになり、値下がりが続く間は、国債を買うのは控える。物価がどこまで上がるか見極めるまで、名目金利がどこまで上がるか見極めるまで、国債を買うのを先送りする。
政府国債を買う投資家は一時的にいなくなる。
資金繰りは詰まるのだ。
1000兆円が実質900兆円になったところで、今年あるいは来年、資金に詰まれば、デフォルトだ。金利は少なくとも一時的に急騰するだろう。長期的には、それは収まったとしても、デフォルトが起きて、内閣が倒れないとは思えない。
したがって、将来返すべき借金額を目減りさせるために(将来の政権を楽にするために)、自分が倒産、倒閣されるリスクを高めるのは、ポピュリズムの反対であり、物価水準の財政理論を中途半端にしか理解していないブレーンに騙されないように忠告しておきたい。
実際、シムズは、自分の提言は、インフレになるから、政治的には不人気だから、政治的には難しいだろうが、それでもインフレにするためにはこれしかない、と講演で述べている。
また、インフレになった場合、中央銀行の損失が拡大するから、そのときにこれを政府が埋める必要があるから、実質的に財政支出がそこで起きてしまうから、中央銀行の国債買い入れは縮小するべきだ(ただし金利は引き上げず据え置きにするべきだと言っている)、ともシムズは言っている。
いわゆるブレーンたちが言っていることと、シムズの本意とは大分違うのである。
さらに、シムズの提言、理論自体も、米国では異端扱いで、誰も(この一派以外は)、実際の政策として取り入れようとはしていないし、その可能性は検討すらされていない。
悪い政策とは悪い政治家よりも理解不足のブレーンによって生み出されることが多いのだ。
前の記事:「物価水準の財政理論」がなぜ今盛り上がっているか(補足かつ重要な議論)
小幡績(おばた・せき)
1967年生まれ。慶應義塾大学ビジネススクール准教授。個人投資家としての経験も豊富な行動派経済学者。メディアなどでも積極的に発言。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。著書に『リフレはヤバい』(ディスカバートゥエンティワン)、『成長戦略のまやかし』(PHP研究所)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(東洋経済新報社)などがある。
http://www.gentosha.jp/articles/-/7340
「物価水準の財政理論」がなぜ今盛り上がっているか 「消費増税再延期」がデフレ退治の必須条件 日銀=手詰まり論は誤りYCC
http://www.asyura2.com/17/hasan119/msg/594.html
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