「日銀当座預金」についての見方 日銀は、国債を288兆円も買っています(2015年6月2日)。 当座預金(金融機関の日銀への預金)には、213兆円が貯まっていて、預金は使われていないように見えます。 (1)一方で、安倍首相は、「輪転機をじゃんじゃん回して、お金を供給する」と言っています(国会答弁)。 (2)ところが、「日銀が国債を買った分、金融機関が、日銀にもつ当座預金額が増えているだけである。金融緩和とは言いながら、ゼロ金利という「流動性の罠(わな)」の日本では、何も、変わらない」という経済学者(池尾和人慶応大学教授がその代表)もいます。 (3)リフレ政策の実行のため、日銀の副総裁に就任している岩田紀久男氏は、 「日銀が国債を買って、ベース・マネーを70兆円/年で増やすと、2年後には、マネー・ストックは最低で80兆円増えるから、2〜3%のインフレにもって行ける」 と言っていました。 (注)ベース・マネー=紙幣(89兆円)+日銀当座預金(213兆円)=302兆円(15年6月2日) ◎以上の3つは、いずれも、言っていることの一部は正しい。 しかし、それぞれの全部は、正しくない。 今後の経済を見るために、一番肝心なことなので、普通は馴染みがない「日銀の当座預金の機能」について述べます。これを理解しておけば、上記3つに対し、正しく答えることができます。 (注)実は、書く過程で、私自身の書いたものにも、不注意で誤りが含まれていることに気が付きした。 ■4.銀行預金の機能
【(1)事例:「統合銀行」の機能】 わが国の全銀行を、1つの「統合銀行」とします。使った預金の送金は、以下のように、統合銀行(全体)の預金を減らすことはありません。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・統合銀行に預金口座を持つAさんが、B証券を通じ、株を1億円買ったとします。 Aさんの口座から1億円がなくなります。 ↓ ・同じ統合銀行に口座を持つB証券には、1億円が入ります。 結果は、統合銀行内のAさんの預金1億円が、B証券がもつ統合銀行の口座預金に移動しただけです。Aさんの口座からは1億円がなくなりますが、B証券の口座に1億円が増えるからです。口座間移動があっただけで、統合銀行の預金は、同じです。 このように、お金は使われても消える(なくなる)ことはなく、商取引と逆方向にめぐって行きます。 所有者A → 所有者B → 所有者C・・・ と、所有が移転しているだけです。 所有者の単位で言えば、Aさんの預金は、使えばなくなります。しかしマクロからの全体の視点で見ると、Aさんが使った分、Aさんに商品を売った人(会社)の預金が増えるため、Aさんの預金が減っても、預金全体は減りません。ミクロでの預金は減っても、その減少は同じ金額の移動であるため、マクロでは減らないのです。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ■5.日銀当座預金の機能
日銀(中央銀行)は、銀行の銀行と言われます。 日銀に当座預金の口座をもつのは、 ・国内の主な金融機関(銀行、信金、証券、保険、ゆうちょ銀行、年金基金等)、 ・海外の銀行や証券の支店、 ・海外の中央銀行(FRBやECB)、 ・そして日本政府です。 日銀の当座預金の口座は、準備預金と、金融機関の間の全部の決済に使われます。銀行間のマネーの動きは、現金を受け渡すときを除き、全部、日銀の当座預金を通ります。日銀当座預金のマネーの、口座間の振替こそが、金融機関の間の、資金決済です。 【(1)準備預金の機能】 日銀当座預金の機能は、まず、準備預金です。
銀行から急な預金引き出しがあったとき、不足しないように、日銀に積み立てておく預金がこれです。 準備率は、金融の超緩和の現在はとても低く、自行の預金額の0.1%〜最大でも1.3%程度です。銀行の全体でも、5兆円くらいでしょう。これ以上の当座預金(208兆円)は、金融機関が国債を日銀に売ったことによって増えた超過準備です。 【(2)金融機関の間の資金決済と送金に使うのが、日銀当座預金】
A銀行に口座をもつ aさんが、B銀行に口座をもつ bさんに、100億円を送金したとき、日銀では、どんな処理が行われているのか? 日銀の当座預金の中で、A銀行からB銀行への口座間の振替が10億円分、行われます。現金のように、A銀行から、直接、B銀行に送るのではない。日銀の当座預金内で振り替えるのが送金です。 aさんから10億円の送金依頼を受けたA銀行は、A銀行がもつ日銀当座預金の10億円を、B銀行が日銀にもつ口座に、振り込みます。この送金依頼を受けた日銀は、A銀行の当座預金からB銀行の当座預金に10億円の振替処理をします。 A銀行の当座預金からは10億円がなくなります。しかし同じ日銀当座預金であるB銀行の口座には、10億円が入金します。このため、日銀当座預金の全体は、減りません。 (注)A銀行の当座預金は10億円減ります。 aさんが、100億円の株を買ったときもおなじです。 A銀行の日銀当座預金から、C証券の日銀当座預金に、100億円が振り替えられます。 送金は、日銀の当座預金内での口座振替なのです。このため日銀当座預金の総額は、同じです。 日銀当座預金(マネー)は、そ所有者である銀行によって使われても、日銀内の当座預金の口座を移動するだけなので、日銀の当座預金全体は減りません。 【ただし、銀行が紙幣で引き出した場合、当座預金が減る】
銀行が、その当座預金から10億円の1万円札を引き出したときは、日銀当座預金は10億円減って、一方では、1万円札10万枚の発行が増えます。 このとき、安倍首相が言うよう輪転機が回ります。しかし、大きな金額の現金での取引はごくわずかであり、多くは預金マネー(数字)の送金です。 銀行も、余分な1万円札は金利がゼロなので、日銀に預金して当座預金にするか(金利0.1%)、日銀からの借り入れの返済に充てます(公定歩合0.3%)。 このとき1万円札は、発行元の日銀が回収したことになり、市中の流通額が減少します。 このため、1万札は一定額(89兆円:15年6月2日)から増えることはありません。 (注)現金化が増えるのは、ユーロやスイスのように銀行が中央銀行に預ける当座預金がマイナスという特殊な時期です。スイスは、2015年4月に、10年もの国債の金利すら−0.055%になりました。 現在は3か月もの国債が−0.78%の金利です。ユーロやドルからの、スイス・フラン買いが多いためです。最強の通貨は、金利をマイナスにしても買われ続けるスイス・フランでしょう。 年初の 1フラン114円から現在は133円です。円が下げる中、19円(17%)上がっています。個人が、長期的に投資するなら、スイス・フランと見ています。しばらくすると、スイス・フランの価値の裏付けがゴールドだったと明らかになるでしょう。金のように下がっても持ち続ける長期投資です。 FX の短期投資ではダメです。念のために申し添えます。 【結論: 銀行が当座預金を使っても、日銀の当座預金全体は減らない】
以上のように、日銀の当座預金は、その預金を銀行が使っても、支払先が同じ中央銀行に当座預金の口座をもつ銀行や金融機関である限りは、減ることはありません。 (注)お金を使うことは、預金マネーを送金することです。 【日銀当座預金が減るのは、どんなときか】
日銀当座預金が減るのは、日銀が、保有していた国債を売って、日銀当座預金の口座をもつ銀行(または金融機関)が、それを買ったときです(売りオペと言う)。 このとき、日銀当座預金は、日銀が国債を売った分、減ります。 これは、日銀が、市場からマネーを吸収したことになります。 これが、金融引き締めです。 [増えるのは・・・]
日銀が、金融機関や証券会社から 2兆円の国債を買って、日銀当座預金に 2兆円を振りこむことがマネーの「量的緩和」です。 日銀当座預金という現金の量が増えるからです。 (注)預金も、預金マネーです。 ■6.日銀当座預金が減っていないから、そのマネーが、金融機関によって使われてないとは言えない。
もうお分かりでしょう。 ◎日銀の当座預金は、金融機関が、貸し付け、債券の購入、株の購入として使っても、総額では減りません。 使われたときは、 〔A銀行の当座預金→B銀行の当座預金→C銀行の当座預金・・・〕 と移動しているだけであり、日銀の当座預金内の、 預金振り替えだからです。 【銀行のB/S(貸借対照表)】
日銀当座預金を増やした銀行が、それを何に使っているか、それぞれの銀行のB/Sの資金運用表で見るしかありません。 銀行協会のサイトで調べると、銀行(116行:都銀:地銀:地銀2:信託銀)の総貸出は454兆円でした(15年6月)。前年比で12兆円(2.7%)増えています。 2%程度の増え方は、従来の傾向線上です。異次元緩和で狙われていた、貸し出しの増加という効果は、ほとんど生じていません。 一体何のための、異次元緩和だったのか、ということになります。 数年後には、政府と日銀の責任追及があるはずです。 http://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/stats/month1_01/yokashi02883.pdf
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