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駐韓大使が一時帰国、それでも日本は慰安婦像増殖を止められない
http://diamond.jp/articles/-/114138
2017年1月14日 降旗 学 [ノンフィクションライター] ダイヤモンド・オンライン
今月六日、政府は駐韓日本大使及び釜山総領事両名を“一時帰国”させる旨を発表した。釜山の日本総領事館前に“慰安婦像”が設置されたことに関しての対抗措置として、である。
また、大使の一時帰国に併せ、釜山総領事館職員の現地行事への参加見合わせ+日韓通貨スワップ協定の中断+日韓ハイレベル経済協議の延期の措置がとられることも明らかにされた。
大使を赴任地から引き上げさせるなんてのは本来なら異常事態なのだが、五年前(当時の李明博大統領が竹島に上陸した際)にも駐韓大使が一時帰国した経緯があり、こと韓国においては起こりがちなことではある。が、今回の措置は異例と言っていいほど厳しいものだった。
そのため、「韓国には日本相手なら、合意の“ちゃぶ台返し”など『何をしても許される』という考えが根底にある」(産経新聞)そうだが、今回の措置には韓国に動揺が見られるという。
〈釜山の慰安婦像設置をめぐっては、昨年一二月二八日に市民団体によって一旦設置されたが、設置先の釜山市東区庁が撤去。東区庁に抗議が殺到したとして区側が一転して設置を容認、三〇日に再度設置され、三一日には除幕式が行なわれていた。これは外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約を無視する違法行為にあたる〉
経緯を説明する産経新聞は、こうも書く。
〈韓国外務省はソウルの像については「民間が行なっていることで、あれこれ言えない」と繰り返し、釜山の像については「自治体が判断する問題」と責任を放棄した〉
一昨年末、日韓両国は元慰安婦問題を“最終的かつ不可逆的に解決させる”とした合意を表明した。大事なことだから繰り返すが、慰安婦問題に関してあれこれ言うのはこれが最後で、もう二度と蒸し返さないと両国は約束したのである。
国内には、慰安婦問題や賠償責任は一九六五年の日韓基本条約で解決済みとの見地から合意すべきではないとの反対意見もあったが、両国は合意に踏み切り、日本は元慰安婦支援を目的に設立する財団に十億円を拠出し、韓国は大使館前に設置された慰安婦像撤去に向けた“努力をする”ことを確認しあった。
昨年七月に財団は設立され、その一ヵ月後に日本政府は十億円を拠出した。日本は合意に従ったが、韓国はどうか。
大使館前に設置された慰安婦像撤去に向けた韓国政府の“努力”はさっぱり伝わってこず、大使館前のみならず、今度は釜山の総領事館前にまで新たな慰安婦像が建てられることになった。さらに言えば、日韓合意からのわずか一年で、韓国国内には新たに六体の慰安婦像が建てられたのだという。
〈韓国外務省は、「外交公館の保護に関する国際儀礼や、慣行の面からも(設置場所を)考える必要がある」と表明し、日本の公館前に慰安婦像を置くことが国際儀礼に反していることは理解している。だが、強い反日世論を前に、像撤去にまで踏み切れていない〉(産経新聞)
その韓国外務省が「日本政府が釜山総領事館前の『少女像』に関して決定した措置に対し、非常に遺憾に思う」(朝日新聞デジタル)とコメントしたから大笑いだ。
ちなみに、産経新聞は戦時中の記録(政府調査「従軍慰安婦」関係資料集:日本人捕虜尋問報告第49号:米軍作成)をもとに、慰安婦の平均年齢が二十三歳を超え、十九歳が一人のみだったことから“慰安婦像”と表しているが、朝日新聞他は韓国政府及び市民団体が称する“少女像”を使っている。
韓国では七〇年前の二十三歳を“少女”と呼ぶらしいが、彼らが“少女”にこだわるのは、いたいけな乙女が日本軍人に蹂躙されたと思わせたほうが対外的にもアピールしやすいからだ。
たとえば一九九二年、東亜日報は“日本軍が十一歳の韓国人少女を慰安婦にして弄んだ”といった記事を載せ、後に、それが故・吉田清治氏の証言(軍命を受け、済州島で朝鮮人女性を狩って慰安婦にしたという嘘:朝日新聞が報じる)をなぞっただけのでっちあげだったことが発覚した。だが、吉田証言や朝日新聞の大誤報同様、東亜日報の嘘も韓国民の反日感情を煽るのには十分だった。だから、慰安婦像は“少女像”でなければならないのである。
そして、韓国は、いつもゴールポストを動かしてきた。最終的かつ不可逆的と決めても、また裏切った。大使を一時帰国させる等の厳しい措置には、日本政府のそうした苛立ちが背景にあるのかもしれない。
だが、振り返れば、一九八七年、盧泰愚大統領時の民主化以降、日本は韓国の歴代大統領に裏切られ続けてきた。たとえば、盧泰愚大統領の跡を継いだ金泳三大統領(当時)は、慰安婦問題でこう表明した。
「物質的な補償を日本側に要求しない」
そして、慰安婦ら戦争被害者には韓国政府が支援すると言い、実際に五〇〇万ウォンの一時金と生活補助金、医療支援、永久賃貸住宅などの支援を行なっている。
雪解けは早い時期に訪れるはずだったが、それを阻んだ人物がいる。ほとんどの人は知らないだろうし、韓国人も知らないだろうが、その人物こそが村山富市総理(当時)だった。この人は、一九九五年の国会で“明治政府による韓国併合は合法である”と述べたのである。
二十世紀初頭の国際法に則れば村山氏の主張は誤りではないが、この発言は日本の植民地支配を“違法”と位置づける韓国民の感情を逆撫でした。結果、金泳三大統領は慰安婦問題に関し、日本政府への協力を拒否するようになる(慰安婦が“性奴隷”と訳され、クワラスワミ報告が国連人権委員会に提出されたのは翌九六年)。
次の金大中大統領(当時)は小渕恵三総理(当時)と「21世紀に向けた日韓パートナーシップ」を宣言するなど日本の謝罪も認め、一昨年の“日韓合意”同様に慰安婦問題は蒸し返さないと約束したが、盧武鉉大統領によってその約束は反故にされた。
退任した後、在職時の包括収賄を疑われ事情聴取を受けた直後に投身自殺をしたこの元大統領も、二〇〇三年の就任当初こそは「私たちはいつまでも過去の足かせに囚われているわけにはいかない」と前向きだった。
が、二年後の“三一節”(日本統治下で起きた韓国の独立運動を記念する祝日)には、豹変とも思えるこんな演説をした。ちょっと長いが、実に愉快なことを言っているので抜粋する。
「(前略)国の自主と独立の権利を明らかにした三・一精神は、現在も人類社会と国際秩序の普遍的原理として尊重されています。また、上海臨時政府から今日のわが政府に至る大韓民国正当性の根源となりました。このような三・一運動の偉大な精神を引き継ぎ、二度と一〇〇年前のような過ちを繰り返さないことが愛国先烈に対する道義であり、三・一節に新たにする我々の誓いであります(中略)
フランスは反国家的行為を犯した自国民に対しては峻厳たる審判を下しましたが、ドイツに対しては寛大に握手し、欧州連合の秩序を作ってきました。昨年、シラク大統領はノルマンディー上陸作戦六〇周年記念式典にドイツ首相を初めて招待し、『フランスの人々はあなたを友だちとして歓迎する』と友情を表明しました。
われわれ韓国民も、フランスのように寛大な隣人として日本と一緒にやっていきたいという願いを持っています。これまで、わが政府は国民の憤怒と憎悪を煽らないよう節制し、日本との和解・協力のために積極的な努力を払ってきました。実際、韓国国民はよく自制し、理性的に考え、分別を持って対応していると思います。
私はこれまでの両国関係の進展を尊重し、過去の歴史問題を外交的な争点にしないと公言したことがあります。そしていまもその考えは変わっていません。過去の歴史問題が提起されるたびに交流と協力の関係がまた止まって両国間の葛藤が高まることは、未来のために助けにならないと考えたからです。
しかし、我々の一方的な努力だけで解決することではありません。二つの国の関係発展には、日本政府と国民の真摯な努力が必要です。過去の真実を究明して心から謝罪し、賠償することがあれば賠償し、そして和解しなければなりません。それが全世界が行なっている、過去の歴史清算の普遍的なやり方です(後略)」
まるで“お前が言うな”の見本みたいな演説でツッコミどころ満載だが、後略の部分で盧武鉉大統領は、一九六五年の日韓基本条約には“個人の請求権は含まれない”と仄めかした。するとその年の夏、慰安婦は日韓請求権の“対象外”とみなされたのである。
さらに、憲法裁判所は、韓国政府が元慰安婦らの個人補償を日本政府と交渉しないのは“憲法違反”にあたるとの裁定を下した。これにより、盧武鉉政権は、日本政府は慰安婦個々人への賠償責任があると決めつけてしまった。
韓国という国は、国家間の取り決めを裁判所の判断で無効にできる国なのである。
ついでながら記させてもらえば、この盧武鉉という元大統領は、ドイツを訪問した際、ドイツの常任理事国入りは支持するが日本の常任理事国入りは反対する、ナチスドイツを批判するように一緒に日本も批判しないかと持ちかけて一蹴されるのだが、こういう姑息なことをやる大統領だった。
次の李明博大統領に至っては説明するまでもないだろう。大統領就任が決まった直後、彼は“日本に謝罪、反省は求めない”と言っていた。
「謝罪、反省の問題では日本も形式的にやってきたのは事実で、そのため韓国国民にそれほど感動を与えることができなかった。しかし、自分としては成熟した両国関係のために謝罪や反省は求めない。日本も要求がなくてもそういう話ができるような成熟した外交をすると思う」(産経新聞)
さらに、野田佳彦総理(当時)との会談でもこんなことを言っている。
「歴代の韓国の大統領は任期後半になると、『反日』を使いながら支持率を上げようとする繰り返しだった。私はそういうことはしたくない」(読売新聞)
その舌の根も乾かぬうちに竹島に上陸したのは記憶に新しいところだ。
そしてさらに、私はあえて“この男”と呼ばせてもらうが、この男は天皇陛下の訪韓にも言及し、「韓国を訪問したいのなら、独立運動で亡くなった方々に対し心からの謝罪をする必要があると日本側に伝えた」と言い募った。
ばかりか、陛下を“日王”と呼称したりもした。日王とは、侮蔑的な呼称なのである(それ以前は“天皇”と表記していた韓国メディアも、まるで申し合わせをしたかのように、一九八九年からこぞって“日王”と記すようになっている)。
盧武鉉元大統領が姑息なら、この李明博という男は卑劣だった。日本には反省も謝罪も求めないと言ったこの男は、手のひら返しまで披露した。
「慰安婦問題について、韓国の求める誠意を示さない限り、同年に駐韓日本大使館正面に建立された十三歳の少女慰安婦と称する像の他にさらなる銅像の建立がなされる」(中央日報)
こう言って野田総理を恫喝した。
韓国は大統領が代わるにあわせてゴールポストも動かしてきたが、最終的かつ不可逆的と決めた合意もまた、弾劾訴追を受け職務執行権限が停止されているとはいえ、朴槿恵政権下でひっくり返された。
日本政府の“お人好し”にもほどがあるというものだ。
だが、慰安婦像をめぐる論争に、残念ながら日本は勝てないだろう。理由は、何度騙されても今度こそは韓国を信用してしまう日本政府はお人好しで、外務省が無能だからだ。
駐韓日本大使館の正面に慰安婦像が設立されたのは李明博政権時の二〇一一年一二月のことだ。一九九二年に始まった挺隊協主催の“水曜デモ”実施一〇〇〇回を記念して作られたのが慰安婦像である。
その間、一九九六年にはクワラスワミ報告が国連人権委員会に提出され、二〇〇七年にはアメリカ下院議会で対日決議案(慰安婦問題の対日謝罪要求決議)が採択された。二〇一四年にはフランスの国際漫画フェスティバルで慰安婦の悲惨さを描いた漫画が展示され、昨年はユネスコの記憶遺産に慰安婦関連資料が申請された。
外務省は、そのどれを制止、訂正させることができたのか――?
ひとつもないではないか。外務省HPのどこを見れば、世界に流布された慰安婦に関する情報は偽りで、実際はこうだった、という発信があるのか。本来なら、トップページのいちばん目立つところに慰安婦関連のコンテンツを置くべきだろう。
大使館正面での慰安婦像設置がウィーン条約に違反していることは韓国外務省も認めている。だから、慰安婦像は近いうちにもどかされるだろうが、それはあくまで“移設”であって、撤去ではない。違う場所に移されるだけだから、慰安婦像がなくなるわけではないのだ。
日韓合意からの一年で慰安婦像は六体も増設され、韓国国内だけで四〇体近くを数え、これに中国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ等々の国での設置を加えると七〇体ほどにもなるのだという。
世界中に慰安婦像を設置しようと躍起になる人たちの活動と思惑が、私には元慰安婦を癒すためにやっているのではなく、日本に対する嫌がらせをしているようにしか思えない。慰安婦像は、日本を悪者にするための手段ではないのか。
慰安婦像の設置が彼らの憂さ晴らしであったとしても、それを止めることのできない外務省も情けないの一語に尽きる。朝日新聞が誤報を認め過去の記事を取り消したことすら外務省は世界に向けて発信できていないのだから。
韓国は、国家間の条約を裁判所の判断で無効にできる国だ。見倣わなければならない。だから、韓国がしつこく踏襲するよう言い続け、韓国にイニシアチブと言質を与えてしまった村山・河野談話を取り消すことから始めてはどうか。政府閣僚が靖国神社を参拝するから慰安婦像が建つと韓国外交筋が言うのなら、それは内政干渉だと突っぱねるのもありだ。
三〇年後、五〇年後には元慰安婦はもちろん、私だって世を去っている。だが、世界各地に慰安婦像が建ち、新しい時代に生きる人たちがその像を見たとき、真実を知らなければ、彼らは韓国が主張する日本の愚行をそのままに信じ込んでしまうだろう。ナチスドイツの非道が永遠に語り継がれるように、日本軍は朝鮮人少女を蹂躙し弄んだという嘘が真実として歴史に刻まれる。外務省が無能で、この現状に指をくわえて見ているだけだったら、の話だが。
駐韓大使は一時帰国したが、任務を停止する“召還”ではない。召還には断交も辞さないとする強い意思表示が込められるが、一時帰国にはそれほどの効力はない。また、通貨スワップ協定の再締結協議も“中止”ではなく“中断”だ。政府は断固とした措置をとっているようで、実は弱い。
読売新聞によると、大使の一時帰国を含む四つの措置も、期間は“一週間程度”のものになるらしい。何というお人好しなのだ。
参考記事:時事通信1月6日付、産経新聞1月7日付/2015年2月19日付/2008年1月17日付/2012年8月14日付、朝日新聞1月6日付/2014年8月15日付、読売新聞2013年10月29日付、中央日報2012年8月24日付、月刊正論2014年12月号、文藝春秋スペシャル2015季刊秋号他
(ノンフィクションライター 降旗 学)
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